楓ちゃんに押し倒されました
俺はすっかり失念していた。俺の身体には発信器がついていることを。
複数の部屋のうちどの部屋に逃げたかわからないようにしたのは完全に無意味だった。何がどの部屋に逃げたかわかるかな? だよ。あまりにも哀れなバカだよ。
俺の居場所が楓ちゃんに完璧にバレてるのはまあいい。でもさ、部屋に入れないように頑張って塞いだんだよ。
それなのに天井裏から入ってくるのは反則だろう……マジで怖いって。
ぬ~っと、ゆっくりと楓ちゃんが逆さまで降りてくる。
怖い……超怖い……でも……可愛い……!!
逆さまでも楓ちゃんは凄まじい可愛さであった。逆さまで垂れ下がる長い金髪は、ゆるふわな美しさを際立たせていた。
いつもの楓ちゃんとは、逆。柔らかそうな唇が上で、パッチリとした美しい瞳が下になっている。逆でもとても艶かしくて、恐怖が最大になったはずのこのタイミングでも俺は楓ちゃんの整った顔に見惚れていた。
うん、逆さまの顔も可愛いし、それに……
逆さまになっている豊満な胸も、必ず視線を釘付けにさせるほどあまりにも艶かしい。
上から女の子がやってくるというホラーな展開だがビビるとか恐怖するとかそれどころではなくなってしまった。俺の脳内にはもうすでに楓ちゃんの胸しかなかった。
俺の視線の上に楓ちゃんの胸があるというのがとても貴重な絶景。
今日の楓ちゃんは上品で清楚な服装だったが、薄着なので胸の形がわかりやすくなっている。ブラジャーは着けているはずだがそれでも重力に従っていつもとは違う形に変わり、柔らかそうに表現していた。
いつもとは違う形でもボリューム感は健在。
少しずつ降りてくる度にたゆんっと揺れる。下乳、下乳をじっくりと眺めることができる。本当に絶景の中でも絶景。
……ハッ! 俺は今、追い詰められて大ピンチだということに今さら気づいた。楓ちゃんの乳房は俺の思考を鈍らせまくる。
というか、逆さまになってたら頭に血が上りそうだけど大丈夫なんか。
でも楓ちゃんは逆さまになりながらも余裕そうにクスッと微笑んでいるし全然平気そうな感じだ。
今は上半身だけが出ていて、下半身は天井裏にいる状態。
そこから楓ちゃんはさらにゆっくりと降りてこようとしている。
!
今の楓ちゃんはスカートであることを再確認した。それで下半身も逆さまになったりしたら……
いや、それはいけない。いけないと思いつつちょっとだけ期待してしまっている自分がいる。
ヒラリ
……!!
スカートの裾がわずかに揺れた瞬間、俺の緊張感は最大になる。
その最大になった瞬間とほとんど同時に楓ちゃんは妖艶に微笑み、天井からスッと飛び降りた。
「! あ、危なっ―――」
楓ちゃんが真っ逆さまに落ちる。俺は心配して大声を出しそうになったが、楓ちゃんはクルッと一回転して優雅に着地した。着地時にふわりと舞う長い金髪が美しかった。
天井から飛び降りて、回転して、安全に着地。
これらの動作をしながら、一瞬たりともスカートの中身が見えることはなかった。そんなに長いスカートではないというのに。
今回も楓ちゃんのスカートは鉄壁防御であった。
「涼く~ん……」
ハッ!
今の自分の立場を理解するのが遅いぞ俺。最後の砦になっていたはずのこの部屋に楓ちゃんの侵入を許したのだ。俺にもう逃げ場は残っていない。逃げ場がまだあったとしてももう逃げる体力も残っていない。
俺は大ピンチであることを再確認した。詰んだ。
「涼くん、キレイに拭き拭きしましょうね」
「うわああああああやめろおおおおおお……
…………
あれ?」
追い詰められた俺に迫ってくる楓ちゃんの手に持たれたそれは、タワシではなくタオルだった。タワシと同じ色だけどタオルだ。
「やだなぁ、さすがにタワシは冗談だよ。大慌てしちゃって、可愛いなぁ涼くん」
「……っ……ハァハァ、ゼェゼェ……」
いや……本気だった。さっき見た楓ちゃんの瞳は紛れもなく本気だった。
ギリギリのギリギリで優しさが勝ってくれたって感じだろう。楓ちゃんの慈悲で俺は命拾いした。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
「ぎゃああああああ」
でもタオルは、ふわふわ柔らかいヤツじゃなくてちょっとザラザラしてて固めのヤツだった……
さらに楓ちゃんのパワー系拭き拭きで、結局俺の皮膚は逝った。
「涼くん、ちょっと来て」
グイッ!
「うわああああああ」
タオルで丁寧に拭いてもらった直後、俺は楓ちゃんに引っ張られて連行された。
全力で走りまくったのでもう疲れちまってされるがまま……俺とあれだけ追いかけっこしてなんでそんなに元気なんだ楓ちゃん……
楓ちゃんに強引に引っ張り回されるのにも慣れてきたなぁ……ペラペラの紙になって風になりたい気分だった。
……いや、慣れてきたと思ってたけど今日はいつもより勢いも強くて速い……ペラペラの紙になったらちぎれるこれ。
―――で、楓ちゃんに連れてこられた場所は、楓ちゃんの部屋であった。
マッサージしてもらった時のことを思い出す。相変わらず広くて可愛い部屋だ。
ブンッ!
「わああああああ!」
俺の身体は雑にぶん投げられた。楓ちゃんより明らかにでかいはずの俺の身体は、楓ちゃんの右腕1本でいとも簡単に投げられた。
ボフッ!
投げられた俺は着弾した。柔らかく、いい匂いの場所に。
ここは、楓ちゃんのベッド……!
女の子のベッドを意識して、心臓の鼓動がドクンドクンと速くなっていく。さっき全力で走った時よりも心臓のリズムが激しくなっているかもしれない。
な……なぜだ……なぜ俺は、楓ちゃんのベッドの上に連れてこられたんだ?
ギシッ……
ドキッ!!!!!!
心臓がかつてない脈動をした。
ギシッとベッドを軋ませて、ベッドに上がってくる楓ちゃんの姿を捉えたからだ。
「ど……どうしたんだ、楓ちゃん……?」
「…………」
楓ちゃんは答えない。
返事をしない代わりに、楓ちゃんはゆっくりと俺に迫ってきた。
「え……ちょ……」
ギシッ、ギシッ……
「なんだ……?」
ギシッ……
ベッドが軋む音がする度に、強く速くなっていく脈拍。
仰向けになる俺の上に、楓ちゃんが……
俺は、楓ちゃんに押し倒される体勢になった。
こういうのは普通、男が上になるものだと思っていた。
しかし俺が下で、楓ちゃんが上になっていて、それはそのまま飼い主とペットの主従関係を表現していた。
「涼くん……」
「な……なに?」
いつになく真剣な楓ちゃんの瞳。吸い込まれそうなくらい惹きつけられる。
「涼くん……
私とエッチしようよ」
―――ッッッ!?!?!?




