ヤンデレ巨乳ちゃんと元カノが戦争しました ※楓視点
戦争といってももちろん物理的な戦闘をするわけではない。そんなことしたら中条家の面汚しである。
とにかく冷静に。カッとなったら負けだ。明らかに気に入らないし仲良くなれない相手だけど、そういう相手をいかに対応できるかがいい女になるためにとても大事なことである。
ここで正気を失うようでは涼くんのお嫁さんになる資格はないんだ。大丈夫、いつも通りにいけば私はこんな女に負けない。
「あの、どうして涼くんの居場所がわかったんですか?」
さっきはスルーされたけどもう一度聞いてみる。
戦争になるとは言ったけどできる限り早くさっさと終わらせたい。早く帰って涼くんに会いたいからね。戦争はよくない絶対。
私が聞きたいのはこれだけだ。これだけ知ってこの女をブラックリストに登録して徹底マークするだけだ。
「……ふふっ、あんた今日はバイオリンの試験でかなり上手かったらしいじゃない」
私の問いはまたしてもスルーされた。まあいい、どちらにせよ居場所がバレてることに変わりはないんだ。警戒を強めて涼くんを守るだけだ。
……ん? ちょっと待って。バイオリンの試験があったことまで知ってるの? あの試験は身分が高い人しか関われないはずなのに……
……もしかして、この女もいいところのお嬢様……?
いやでも涼くんはそんなこと言ってなかったし、私だってお坊ちゃまやお嬢様とはそこそこ親交があって人脈が広い。なのに高井という名前は見たことも聞いたこともないぞ。
まあこの女の言い方からして私の試験を直接見たわけではなく他の誰かから聞いたんだろう。今日の試験に参加してた人の中にこの女の知り合いがいたということか?
誰だ……? 受験者? 試験官? 審査員?
高井雲母は拍手するポーズをした。本当に拍手してるわけじゃなくてそれっぽいポーズをしているだけ。この女の手を見てみるとマニキュアもすごく真っ赤で派手だなぁって思った。
「でもね、涼馬は音楽とかよくわかってない男なの。バイオリンをいくら練習したところで涼馬を落とせるわけでもないのに、バッカみたい。無駄な努力ご苦労様」
「いやあのですね、好かれたくてやってるとかじゃなくて自分磨きのためにやってるんですよバイオリンは。涼くんに褒めてもらいたいみたいな下心がないわけではないですけど、誰の好みとかそういう話ではないです」
「チッ」
あっ、また舌打ちした。この調子だと1日100回は舌打ちするんじゃないかなこの女。
いい女になるためには、舌打ちされたぐらいで冷静さを失わないことが大事。
「はぁ~、中条グループのお嬢様と聞いてどんなにすごい女なのかとちょっとは期待したんだけど、ガッカリだわ。ただのクソガキって感じ」
「あなたにだけは言われたくないですね」
舌打ちの次はため息か。この女のことを一瞬でも大人っぽいと思った私がバカだった。確か涼くんと同い年だったよねこいつ。私より年上とは思えない言動と態度だ。
「涼馬ったらなんでこんなガキの家に住みついてるのかしら。乳がでかいだけじゃんこいつ。でかい乳なんてそのうち垂れるだけなのにね、バカみたいな無駄な駄肉ぶら下げちゃって哀れねぇ」
高井雲母は私の胸をチラッと見て吐き捨てるように言った。
乳がでかいだけ、ね。よく言われるよ。名家に生まれた者の宿命みたいな感じなのかな、チヤホヤされることが多い分敵を作ることも多かったから。いろんな人に悪口を言われた経験も少なくない。特に女に。堀之内さんにもデカパイ女って呼ばれるし。
人の身体的特徴を否定する人間……わかってたけどこの女はしょせんその程度の人間。涼くんには悪いけど、女を見る目が本当になかったみたいだね。
「なんで大きい人だけが垂れるって前提なんですかね。大きさ関係なくみんな垂れるのに。そっちの方がバカみたいです」
「ふん、でかい乳を揺らせば涼馬を悩殺できるとでも思ってたんでしょうけど、残念だったわね。涼馬は別に巨乳が好きなわけじゃないから。涼馬はあたしの胸が好きだから。でかい方がいいと決めつけてんの本当に浅ましいわ。あんたのその無駄に発育したデカパイは涼馬には無意味なのよ。惨めねぇ」
高井雲母は腕組みをしてフフンと勝ち誇るような表情をした。
勝ち誇ってるところ悪いけど、この女意外と涼くんのことわかってないんじゃないか? って思った。
「……うーん……そうでしょうか? 私のメモリーを振り返ってみると、涼くんは大きさとか関係なく女の子の胸にものすごく弱いような気がします。間違いなくおっぱい星人ですよ涼くんは。
元カノさん、あなた涼くんと7年も付き合ってたんですよね? なのにそんなことも知らなかったんですか?」
「あ……? ちょっと調子に乗りすぎよあんた」
―――ガシッ!
高井雲母は私の胸ぐらを強く掴んできた。
このくらい想定の範囲内。私は瞬時に高井雲母の手首を掴んでグイッと捻る。
「いたたたっ……! 何すんのよこのガキ!」
「何すんのよはこっちのセリフですけど。勝手に人の服掴まないでくれます?」
別にこの女を痛めつけたいわけではないのですぐに手を離す。離した瞬間に高井雲母は私から距離を取った。
「っ……なんなのよあんた、その馬鹿力は……!」
「おじい様が武道の達人なもので、私も教えてもらってます。私程度の力でそんなに怯んでいるようではダメですね、おじい様は私の100倍強いですよ」
「バケモノが……」
高井雲母は手首を抑えて涙目になっていた。
別にこいつを泣かせたいわけじゃないんだ。聞きたいことがいっぱいあったんだけど、話が通じないしもういいや。すごく時間の無駄だ。
「とにかく、あなたは涼くんとはもう別れたんですよね? ていうか捨てたんですよね? だったらもう二度と涼くんに近づかないでほしいんですけど。
今は、涼くんは私のものです。今後私の家に来ても無駄ですよ。警備を強化してあなたなんて弾き飛ばしてやりますから」
「……ふふっ……ふふふ……」
「今度はなんですか」
「涼馬って基本的にはヘタレで弱っちいわよねぇ……」
「何を言い出すかと思えば今度は涼くんの悪口ですか。殺しますよ」
「違うわよ。そうじゃなくて―――
涼馬は弱っちいくせに、セックスの時だけはすごく強いのよね……」
「―――!!!!!!」
高井雲母のその言葉は、私の心を引き裂く音がした。
「あたし、ベッドの上では涼馬にやられっぱなしですごく悔しかったわ……でも、すごく良かった……あたしたち、カラダの相性がすごく良かったのよ」
「な、なに、を、言ってん、ですかっ」
心が強くズキンズキンと痛む。うまく話せず、なんとかギリギリのところで言葉を絞り出した。
「あたしだって本当はこんなことあんたに言いたくないわ、恥ずかしいもの。
でも、これを言うのが一番あんたには効くでしょ?」
「……!!!!!! !! !!」
こいつの言う通り、あまりにも効いている。あまりにも胸が苦しい。呼吸が激しくなって、ガタガタと震えてくる。
「ねぇ楓ちゃん、あんたは涼馬とセックスはしたのかしら?」
「……ッ、!」
「まだシてないわよねぇ? まだ彼女じゃないものね、彼女じゃない女に手を出すほどヤリチンじゃないわ涼馬は」
「ッ……! !!」
「でもあたしは涼馬とセックスしたわ。数えきれないほど、何度も何度も、ね。
あんたはシてない、あたしはシてる。それだけの話」
言われるまでもない……何を今さら。そんなの当たり前のことだ。
涼くんとこの女は7年も付き合ってたんだ。病気でもない限り、エッチしてないわけがない。
わかってる……そのくらいわかってるよ。わかってるけど。
わかっていても、高井雲母本人の口からハッキリ言われると、頭が割れそうなほどの強いショックを受ける。
想像してしまった。涼くんとこの女が交わっている光景を。悪夢のような想像。
吐きそうになる。心の中にいる自分の身体をねじ切りたくなる。
イヤだ……イヤだイヤだ、そんなのイヤだ。涼くんとこの女がエッチしてるだなんてイヤだ。
イヤだなんて言ってももうシてしまったものはどうしようもないのはわかってる。
それでもイヤだ。イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ、イヤだ!!!!!!
「セックスの後、涼馬に抱きしめられて『雲母、愛してる』って何度も言われたわ」
やめろ……聞きたくないそんなの。
「あたしの無い胸に顔を埋めて甘えてきたりもしてたわね」
やめろ! やめろ!! それ以上言うな!!
「セックスの直前も、セックス中も、セックスの後も、涼馬は愛の言葉と愛のキスを欠かしたことはなかったわ」
「あ゛あ゛あ゛ああああああ―――ッッッ!!!!!!」
脳が破壊された。私は頭を抱えて座り込んで発狂した。断末魔の叫びのような声がパウダールームに響き渡る。
「うっさいわね。周りの迷惑も考えなさいよ」
高井雲母の嘲笑するような言葉に言い返す気力もなかった。
男と女の交わり、繋がり。
この女にはあって、私にはない。
この女との絶望的な差を突きつけられた。
絶対に負けてはいけない女の戦争。
私はこの女に完全敗北した。




