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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第17章…邂逅

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思いがけぬところで再び会いました ※楓視点

※楓視点



 知っていた。私は知っていた。

野田先輩が涼くんに恋をしていること、知っていた。


そして、堀之内さんも涼くんに惹かれつつあることも、私は知っている。


私はすべてを知っているはずだった。涼くんの周りにいる女のこと、すべてを。

徹底的にマークして、徹底的によく観察して、涼くんを女の目で見ている女は、ちゃんと私のデータに登録されているはずだった。



なのに……なのに。

涼くんに元カノがいたことを知らなかったなんて。


なんでそんなことも知らなかったんだろう。一番肝心なことじゃないか。なんでつい最近まで知らなかったんだ。すごく悔しかった。一生の不覚だった。

涼くんのことちゃんとわかっているつもりだったのが全然わかってなかったことが証明されてしまったのが、悔しいし歯がゆい。


高井雲母……覚えた。一度しか会ったことはないが、あの女の顔は二度と忘れない。

私が知らない涼くんがいる。その涼くんをあの女が知っている。その事実が私を狂わせる。身体を捩りたくなるくらい悶え苦しみたくなる。


その悔しさから、ここ最近の私は心が荒れ気味で涼くんにも八つ当たりしてしまった。反省している。

反省はしているが、この荒れ具合は自分でも止められない。どうすればこんな心を止められるのか自分でもわからない。

わからない……わからない。


こんなに不安定な状態でも時間は待ってくれない。習い事はちゃんとやらなくてはいけない。

休むなんて選択肢はない。あんな女のせいで休まされるなんて私の信念が許さない、耐えられない。



今日は習い事の大切な日。

バイオリンの最終試験。最終的な試験を合格できれば、バイオリンのコンサートに出場できる。

選ばれた者しか出場できない特別なコンサート。絶対にそのコンサートに出て、涼くんも連れてって観てもらいたい。


最終試験は、審査員が10人くらいいて、その人たちの前で演奏を行う。

私が通っているバイオリン教室はとても格式が高いもので、富裕層の人しか習えないし審査員の人たちも上流階級の人のみ。


身分の高い人だけが集まる、とても高貴な雰囲気が漂っている教室だ。

私もお嬢様なのでね、こういう雰囲気には慣れている。緊張はしない、問題ない。涼くんと一緒にいる時の方がよっぽど緊張するくらいだ。



私だって中条家のお嬢様だ。そして涼くんのお嫁さんになる女だ。

いつだって完璧を求められてきた。今だって完璧に、背負った肩書に恥じぬ演奏をしてみせる。


「ふぅー……」


中条家の看板を背負い、涼くんを思い浮かべながら、私は静かに演奏を始めた。




―――




 演奏が終わった。

私は最終試験に合格し、コンサートの出場が決まった。


中条家のお嬢様として、絶対に落ちるわけにはいかなかった。自信はあったし緊張もしなかったが、それでもプレッシャーは大きかったので結果を見て私はホッと胸を撫で下ろした。


とにかく受かった。よかったよかった。

試験終了直後なだけあって、プレッシャーから解放されて久しぶりに心のモヤモヤが少しだけ晴れたような気がした。

本当に少しだけね。完全に晴れたわけではないけど、少しずつでも晴らすことが大事なんだ。


今日のところはもう帰るだけ。今すぐ帰って涼くんに会いたい。今行くよ涼くん。

でも、その前に……



 私は帰る前にパウダールームに寄った。

そこで私はリップを塗り直す。


私は知っている。涼くんをよく見ていればわかる、涼くんは唇フェチだ。

だから涼くんに会う前にリップメイクをできる限り丁寧に行う。しっかり保湿して、涼くんの前では常に潤った質感の唇でいたい。


今すぐにでも涼くんのいる家に帰りたいところだが、そこはグッと我慢。これだけは絶対に手を抜いてはいけない。焦らずにじっくりと……

じっくり時間をかけて、大きな鏡の前で唇にリップを塗っている時のことだった。



―――……!



誰かが来る気配がする。ここはパウダールームなんで誰か来ても何もおかしくないけれど、私の女の勘でなんとなくイヤな予感がする。

コツコツと、足音がする。この音はたぶんハイヒール。


ガチャッとドアが開いた。

1人の女性がパウダールームに入ってくる。



「……!!!!!!」


……イヤな予感がドンピシャで的中した。

鏡の世界しか見ていない私は、鏡越しに入ってきた女性の姿を捉えた。



高井雲母だ。



私はまだ一度しか見ていないが、あの日の朝に突然現れて涼くんに抱きついた光景、ハッキリと脳裏に焼きついている。なんという忌々しい光景、しかし忌々しいからこそ鮮明に覚えている。

間違いない、涼くんの元カノ、高井雲母だ。


また会うことになるのではないかとは思っていたが、まさか今だとは。

試験が終わり、少しは気分が晴れてちょっとリラックスしていたタイミングで。再会するタイミングは最悪だった。せっかく晴れてきた気分がまた台無しになった。


まあいい、彼女とはまた会いたいと思っていた。会ってじっくりとお話を聞かせてもらいたいと思ってたんだ。探す手間が省けたよ。



鏡に映る高井雲母と目が合った。高井雲母も明らかに鏡に向かっている私を見ている。


彼女には聞きたいことがたくさんあるが、その前にメイクをちゃんと完了させたい。まだメイク中なんだ。メイクを途中で終わらせるなんて絶対に無理なんでどんなことが起きようともメイクを優先させる。



―――よし、メイク完了。

メイク道具をパタンと閉じて、高井雲母の方を振り向く。



「こんにちは」


相手の目を見てちゃんとあいさつをした。

まずはちゃんとあいさつするのが大事ってお父様に教わったからね。名家のお嬢様としてそこはちゃんとしないと。因縁がある相手でも例外ではない。火山のように湧き上がってくる激情をなんとか抑えながらあいさつをした。



「……フッ」


高井雲母の反応は、わずかにフッと笑っただけだった。そして私のとなりの鏡に行き、口紅を取り出して塗り始めた。


高井雲母もメイクをしに来たのか。まあそりゃそうか、ここは主に女性がメイクをする場所だし。

それにしても、赤い口紅だなぁ……ホントに赤い。こりゃ赤い。私が愛用しているリップとは色が全然違う。派手な色だ。唇だけで目立つ女だ。


唇フェチの涼くんにはイチコロなのかなこの派手な赤い唇……私も赤い口紅の方がいいのかな……



……いや、涼くんは『今のままでいい』って言ってくれた。

あれは髪型の話だったけど、()()()()()()が可愛いって言ってくれたんだ! 可愛いって言ってくれた以上、私は何も変えたくない。今のままで変わらない努力をしたい。


野田先輩みたいにイメチェンすることは男の子をドキッとさせるのに効果的だとは思うけど、私は変わらない。

涼くんは『変えてほしくない』とも言っていた。涼くんがそう言うなら絶対変わらない。涼くんの言葉を信じて従い、何があってもイメチェンはしない覚悟を決めたんだ。


そして何より、この女のマネをするなんて私の誇りが耐えられない!

こいつはこいつ、私は私だ!


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