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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第16章…髪型

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楓ちゃんは知っています

 楓ちゃんの登場で、俺もつばきちゃんも動きを止めた。

楓ちゃんがゆっくりと歩み寄ってきた。



「チッ、いいところだったのに……来るんじゃねぇよって感じです」


恐れを知らないつばきちゃんはわざと楓ちゃんに聞こえるように舌打ちした。ああ、なんてことを……くわばらくわばら。


楓ちゃんはつばきちゃんの舌打ちなど全く意に介さず、ニコッと笑顔を見せた。

その笑顔は()()()()()。この表情を前にも見たことがある。メチャクチャ怒っている時の楓ちゃんである。

楓ちゃんは今もまだまだ機嫌が悪い。もちろん俺のせいで。



「涼くんと野田先輩、仲が良さそうですね。

まあ()()ですからね。()()なら2人で仲良くお話するのもごく自然で何もおかしくないです。そう、()()なら当然です。

でも、いくら()()でももうすぐ授業が始まるんですからいつまでもお話してるわけにはいきませんよね。()()でもこれ以上は生徒会長として見過ごせません」



…………

めちゃくちゃ()()という言葉を強調しまくる楓ちゃん。

そう、俺とつばきちゃんの関係は友達だ。友達という条件で、俺の近くにつばきちゃんが存在することをギリギリのギリギリで許してくれている。


()()()()なんだ。それ以上は絶対に許さないと楓ちゃんは言っていた。

つばきちゃんは俺のことを好きと言ってくれた。そのことを楓ちゃんに知られたら非常にマズイ。今機嫌悪いからなおさらマズイ。

俺はどうでもいいけどつばきちゃんに危害が加わるようなことは絶対に回避したい。

つばきちゃんの気持ち、絶対にヒミツだ。トップシークレットだ……




「中条会長、私は涼馬さんのことが好きです」



!?!?!? つばきちゃーーーん!?!?!?


ちょっ、楓ちゃんにそれを言っちゃうのヤバイんだって! 殺されるぞ! 楓ちゃんは本当にやる女の子だぞ!!


なんでもハッキリと言うつばきちゃんは、楓ちゃんが登場しても臆することなくビシッと指さしてハッキリと言ってしまった。

なんとかごまかそうと思ったが、俺の矮小な脳みそでは思いつかない。言ってしまったものはもう取り返しがつかない。時を巻き戻さない限り何言ってももう遅い。



「知ってますよ」



!?


楓ちゃんは平然とした表情で冷静にそう言った。


え……知ってるのか……!?

俺はつばきちゃんの告白でひっくり返るほど衝撃を受けたのに、なんで楓ちゃんはそこまで落ち着いてるんだ。


つばきちゃんもピシッと止まった。楓ちゃんに向かってビシッとさした人差し指も、一瞬揺らいだ。

楓ちゃんは呆れたような表情をした。



「え、そんなに驚くことですか? この私を甘く見ないでくださいよ。

この学校で涼くんに近づく女子生徒は徹底的にマークしています。ちょっと観察すればすぐにわかりますよ。

私だって涼くんのこと大好きなんですから、恋する女の感情を敏感に察知できます」



堂々と言う楓ちゃんの言葉に、俺もつばきちゃんも赤面した。

つばきちゃんは一瞬動揺した素振りを見せたがすぐにキリッとした表情に切り替えた。強いな。



「……まあ、中条会長に私の気持ちが知られていたのは想定内ですよ、想定内。

せっかくなんでもう一度言います。私は涼馬さんのことが好きです」


「私も涼くんのことが好きです」


「私も涼馬さんが好きです!」


「私も涼くんが好きです」


「私も涼馬さんが大好きです!!」


「私も涼くんが大好きです」



いや、ちょっ……目の前に俺がいるんだけど。

2人の美少女が俺のことを好きだとハッキリ言っている。2人ともド直球の剛速球を投げ合っている。まるで雪合戦のように。その剛速球はすべて俺に直撃した。

楓ちゃんもかなり負けず嫌いのようで、つばきちゃんが言ったことを必ず言い返さないと気が済まないようだ。

そんなに何度も何度も好きって言われたら照れすぎてオーバーヒートして腰が抜けてしまった。2人ともすごく心が強いだけに俺の貧弱さが際立っている。



「涼くんに惚れる女子生徒が出現するのは最初から想定内ですよ、想定内。

最初からそれがわかってて、そのリスクを承知した上で私は涼くんをこの学校に連れてきました。

むしろ思ったより涼くんに惚れる生徒が少なくて驚きましたね。私の計算では最低でも10人くらいは涼くんに惚れるだろうと思ってたんですが」


いやそんなにいるわけねぇだろ。なぜ俺がそんなにモテると思ったのか。どんな計算してんだよ、過大評価にも程がある。

生徒に慕ってもらえても男として見られるわけがない。つばきちゃんと堀之内さんの2人だけでも好きになってもらえたのはとんでもない奇跡だぞ。



「まあ、野田先輩がどれだけ涼くんを好きだろうと関係ありません。

涼くんは私のものですから。これだけは死んでも譲れません、誰にも渡すものですか」


強固な岩のように、絶対に揺るがぬ意志を示してみせた楓ちゃん。胸は柔らかいのに意志は固い。絶対的な強い想いを瞳に宿している。

つばきちゃんも一歩も退かぬ強い意志を瞳に宿していた。



「でも、中条会長は涼馬さんと付き合ってるわけではないんですよね? 涼馬さんはそう言ってましたよ」


「……はい、いろいろあって誠に不本意ながらお付き合いする関係には至っておりません、()()()()()()です、()()

()()多少拗れておりますがこれも想定内の事態です。大丈夫です、私と涼くんの関係は今も順調の範囲内です。必ずうまくいきます、うまくいかせます」


「中条会長って涼馬さんを束縛してませんか? 自分の気持ちを一方的に押しつけていませんか? 涼馬さんを困らせていませんか?

私ならもっと優しく思いやることができます。私なら絶対涼馬さんを困らせるようなことはしない。私の方が涼馬さんを幸せにできるはずです」



つばきちゃんが楓ちゃんを挑発している……! やめとけって、死ぬぞマジで。

女の子の戦いが怖すぎて俺は震えて口を挟めない。修羅場だ修羅場。恐ろしい。


しかし楓ちゃんは挑発に乗らない。一切動じない。クスッと余裕の笑みを浮かべてみせた。



「束縛? 仮に束縛だとして、それであなたが優位に立てるわけではありません。

涼くんは私のことを好きだと言ってくれました。あなたは別に言われてないですよね? 束縛してたとしてもあなたに言われる筋合いはないです。

自分の方が涼くんを幸せにできるですって? それこそ自分の気持ちを一方的に押しつけているのではないのですか?」


「っ……!」


「あなたは涼くんを困らせるようなことはしないんですか? その根拠はどこに?

空気が読めずにデリカシーのない発言ばかりしてるのに? どの口が言ってるんですか」


「っ……」



女の子同士の戦いが勃発してしまったが、楓ちゃんの完全勝利に終わった。

なんというか、圧倒的なオーラと勢いで相手に有無を言わせない圧力が凄まじい。

黙って俯いてしまったつばきちゃんを見て、少しいたたまれない気持ちになった。



「行こっ、涼くん」


グイッ


「わっ!?」



腰を抜かしていた俺の腕を掴んで引っ張り上げて、強引に引っ張った。

やはり楓ちゃんはすごく力が強く、俺の方が大きい身体なのにいとも簡単に動かされた。楓ちゃんの方が俺の身体の使い方をわかっているみたいだった。



「ねぇ、涼くん」


「な、何?」


俺の前を歩きながらこっちを向かずに声だけかけてくる楓ちゃんの声はやっぱりまだ怒ってる感じだった。

とにかく雲母の登場のインパクトは大きかった。しばらくギスギスした雰囲気は続くであろう。



「野田先輩髪型変えてたね」


「そ、そうだな」


楓ちゃんも気づいてたか……つばきちゃんのイメチェンはパッと見ではよくわからないくらいの変化だったが、楓ちゃんがつばきちゃんを徹底的にマークしてよく観察しているのは本当のようだ。

まあつばきちゃんはライバル企業のお嬢様だしブラックリストにも登録してあるらしいからな。特に警戒しているんだろう。



「涼くんは私の髪型どう思う? ちょっと変えた方がいいかな?」


「えっ?」



楓ちゃんの髪型……金髪のロングでゆるふわな感じで、美しくていい匂いで、俺的には完璧に超可愛い髪型だと思ってるが……髪型を変えてほしいなんて一瞬たりとも思ったことない。


つばきちゃんのイメチェンを見て自分も対抗しようとしてるのだろうか。可愛いな楓ちゃんは。



「楓ちゃんは今のままでいいんじゃないか? 今の髪型すごく似合ってて可愛いと思うよ。俺としては変えてほしくない」


あまり深く考えず、ありのままの自分の本音を楓ちゃんに伝えた。

すると、楓ちゃんはこっちを振り向いた。長い金髪がふわりと揺れた。



「そっか。涼くんがそう言うなら絶対に変えない。ずっとこのままの髪型でいるから」



楓ちゃんは柔らかく微笑んだ。まだ怒ってる感じはあるが、少しだけ嬉しそうにしている。

ほんの少しでも機嫌を直してくれたならよかった。


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