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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第14章…元カノ

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楓ちゃんが怖すぎます

 ―――シーン……


無音。完全なる無音。静かすぎるのは恐怖でしかない。風が緩やかに吹いたり、木が揺れて葉が擦れる音くらいはしているはずなのだが、俺たちの世界に何も音は入ってこない。他の情報が入ってくる余地が一切ない。


雲母が去った後、俺と楓ちゃんの2人は、取り残されたようにその場に固まっていた。

空気が、地獄すぎる。俺たちの周りだけ、真っ暗で凍りついている。俺たちは自由なはずなのに何かで固定されているかのような感覚だった。



なんだよ……なんだったんだよ今のは。嵐か? 災害か?

何もかもついてこれない。なんでここに? なんでここがわかったんだ? 何もわからなかった。『ヨリを戻そう』と言われただけで終わった。

呆然とすることしかできない。雲母が突然現れて、すぐに去って、まるで特大な爆弾を置いていったみたいだ。


楓ちゃんは、依然として動かない。雲母が登場した瞬間から、ずっと不動と無言を貫いている。

真っ暗に染まった瞳でひたすら俺を見ているだけ。怖い、怖すぎる。俺が何か言える雰囲気じゃない。氷の視線に刺されて細胞すら動けない。

一言でも何か言おうものなら、殺される。そう確信させるほどの重い空気が続く。



ブロロロ……

雲母が運転していた車よりも静かな音をした車が来た。俺たちを学校に送る送迎車だ。俺たちが待っていた車がやっと来た。

しかし車が来ても、空気は何も変わらない。少しは変われよ。なんで何も変わらねぇんだよ。


楓ちゃんは何も言わないまま、車に乗り込む。俺も何も言えず、萎縮しまくりながら遠慮がちに車に乗る。


バンッ!!


楓ちゃんが車のドアを閉める音がいつもより荒々しくて、俺はビクッと震えた。



「申し訳ありません少し遅くなってしまいました。それでは出発しますね」


運転手さんの声が社内に響く。運転手さんはいつも通りな感じだった。

この地獄のような恐ろしい空気でなんで運転手さんは普通でいられるんだ。この空気をものともしない運転手さん、強い。



ブロロロ……


車が走り出す。いつも通りに走っている。渋滞などない、快適な走行。景色もいつも通りキレイなはず。なのに俺は、それらのことを何も認識できない。呼吸をするのもいっぱいいっぱいなレベルで余裕がない。


車に乗っても、車が発進しても、車が走行していても、楓ちゃんはずっと何も言ってこない。何も動かない。ピクリともしない。

車の座席に座っていても、真っ暗に染まった瞳でまっすぐこっちを見ているだけなのである。さっきからずっと、何も変わらないのである。


怖ええええええ。マジで怖い。何が怖いってこの怖い時間が永遠に続くのではないかと思わせるくらいの怖さなのが怖い。


車が走っているので車内が若干揺れる。楓ちゃんも揺れる。楓ちゃんのたわわな胸もたゆんって揺れる。エロい。でも、身体が揺れても軸が全く揺れないのだ。車内の揺れが楓ちゃんの動かなさをかえって強調する形になり、恐怖感が増す。

これはもう、ジェットコースターに乗っててもピクリとも動かないだろう。



「……………………」


「……………………」


「……………………」


「……………………」



沈黙……沈黙に沈黙が沈黙している。

俺の方から話せばいいだけの話なんだが完全に無理だこの空気。間合いに入ったらやられるみたいな空気なんだから。もはや戦争の空気だよ。


運転手さんは運転中はほとんどしゃべらない。普段もしゃべらないし今日もしゃべらない。文字通り平常運転である。

まあ今の空気だと下手にしゃべればさらに空気が悪化する可能性もあるし、運転手さんがしゃべらない人なのは幸運……かもしれない。


ああ、いつまで続くんだこの時間……さすがに学校に着いたらこのままってことはないよな。……ない、よな……? ないとは言い切れないのが楓ちゃんの恐ろしさだ。

少なくとも学校に着くまでずっとこのままなのか……!? 学校まで車で早くても15分くらい。15分も耐えられる気がしない。



―――スッ……


ビクゥッ!



たった今、微動だにしなかった楓ちゃんが、ついに動いた。雲母が現れてから10分も経ってないはずなんだが、体感時間でものすごく長く感じた。それだけ怖かったってことだ。


楓ちゃんは、スクールバッグに手を入れてゴソゴソと何かを取り出す。

取り出したのは、コンパクトな折りたたみ式の手鏡と、薄桃色のリップだった。



そして楓ちゃんは手鏡を見ながらリップメイクをし始めた。手慣れた感じで唇にリップを塗っていく。



「……っ……!」


やっぱり俺、唇フェチみたいだ。

女の子が唇にリップを塗る仕草がたまらなく好きだ。色っぽくて艶かしい。


柔らかそうな唇にリップが塗られて、ぷるんと艶やかになるところを見てると、股間にグッと来る。

楓ちゃんは怖くてエロい。こんなに怖くても性的興奮を伴うなんて不思議な感覚だ。この不思議さが気持ちいいと感じてしまった。


でもどうしてこのタイミングでリップメイクを? メイクし忘れてたのかな? いや楓ちゃんの唇はいつも通りナチュラルメイクがバッチリ決まってたと思うが……

いや、唇を保護したり保湿したりするために何度か塗ることだってあるだろう。俺にはよくわからんが女の子の唇のケアは大変だろうな。



リップメイクが終わると、楓ちゃんは手鏡を俺の方に突きつけてきた。


「え……なに? どうしたの楓ちゃん」


「鏡で自分の顔よく見てみなよ涼くん」


雲母が登場して以降、楓ちゃんが初めてしゃべった。相変わらず可愛い声だが、思った通りちょっと怒ってる感じが声に乗せられていた。



「……!」


そうだった、雲母登場のインパクトが強烈すぎて意識してなかったが、さっき雲母にキスされたんだった。

真っ赤なキスマークが俺の頬にクッキリと残されている。

この顔では学校には行けないよな、絶対に恥をかくことになる。



「ねぇ涼くん、キミに聞きたいことが山ほどあるんだけどさ、とりあえずまずはその不愉快なキスマーク、拭いてもいいかな?」



楓ちゃんは制服のポケットからハンカチを取り出し、ゆっくり、ゆっくりと俺に近づいてきた。

口は笑っているが、瞳は真っ暗なまま。


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