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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第14章…元カノ

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元カノに抱きしめられました

 これは、夢か? 幻か? 厳格か?

俺の目に映る光景があまりにも信じられなくて、自分の目を疑うことしかできない。


だって俺は、雲母に捨てられたんだぞ? 雲母は()()()なんだぞ。()だぞ。過去の女だぞ。別れようってハッキリ言われたんだぞ。今生の別れみたいになって確かに終わったんだぞ。

そんなに昔の話じゃないぞ? 心の中に明瞭に残っている苦い想い出だ。


なのになんで、雲母は俺の前に現れた。なんで俺に抱きついてきた。

なぜだ。あんなにバッサリと切り捨てたくせに、なんで? なんで今さら?


なんで()なんだ? たった今、ようやく雲母への想いに一区切りつけられそうだった矢先に。あまりにもタイミングが悪い。

運命のイタズラか? まるで、神様に『元カノを忘れるなんてさせないぞ』と言われているみたいだ。


雲母は今、俺の懐にいる。この香水の匂いも、耳につけているピアスも、すべて俺がよく知っているもの。


雲母、雲母だ。俺が7年愛した雲母だ。あの日、フラれた日から何も変わってない雲母だ。フラれてからそんなに時は経ってないので変わってないのは当然かもしれないが、もう二度と戻ってこないと思っていた雲母が今こんなに近くにいることに心を強く震わされた。


あれだけ好きだった元カノに抱きしめられている。

これだけ密着していては、控えめな大きさでも胸の感触がしっかり伝わってくる。あんなに好きだった女の子とこれだけ距離が近くて、スケベな俺が反応しないわけがない……



……はずだったが、今の俺は興奮より恐怖の方が明らかに上回っていた。

あんなに好きだった元カノが飛び込んできたというこの状況でも、それどころではない事態が起こっていた。


楓ちゃんは、()()()()()()()()。微動だにしない。

ただ、真っ暗な瞳でこっちをまっすぐ見ているだけ。楓ちゃんに何か言われるでもなく見られているだけなのが、余計に恐怖を煽った。


楓ちゃんがすぐそばにいる手前、元カノとの再会を素直に喜べない自分がいた。



「き……雲母……? どうして、ここに……?」


動揺を隠せず、小さな声で震えるように言葉を搾り出した俺。男らしさの欠片もなく情けない。


「涼馬、本当に会いたかったわ……」


俺は『どうしてここに?』って聞いたはずなんだが、ガン無視されたっぽい。

雲母はこういうところある。俺が言ったことをスルーして自分が言いたいことだけを一方的に言う。人の話を聞かないくせに自分の話を聞かないとすごくキレるところがある。自分勝手である。

そういうところも嫌いではなかった。大好きで大切な彼女だったんだからワガママの一つや二つ、余裕で受け入れられた。何度も怒らせたが大抵の場合はプリンで機嫌を直してくれたから可愛い愛しいと思っていた。



しかしそれも過去の話。()()雲母に関しては意味不明でしかない。


()()()()()()って何? マジで何なの? この言葉がマジで意味わからん。

()()()捨てたんだろ? 『あんたの顔は二度と見たくない』って言ってたじゃねぇかよ。なのになんで?


今さらなんだよ。どのツラ下げて会いたかった、なんて言ってんだ?

ふざけんな……ふざけんなよ。お前の言葉で俺がどれだけ絶望したと思ってんだよ。

楓ちゃんのおかげでなんとか生きてるけど、楓ちゃんに拾ってもらえなかったらたぶん死んでたぞ俺は。俺はそれくらい追い詰められた。


俺をあそこまで絶望の底に叩き落としたこの女に文句を言ってやりたかった。でも言えなかった。

あんだけ酷いフラれ方をしたのに、何もできないなんて。あんだけ完全否定されてもまだ好きだなんて、俺は本当に都合の良いダメ男だ。


とにかく何もかも意味がわからなくて頭の中がパンクしていっぱいいっぱいになっている俺にできることは、なんで? という疑問を抱くことだけだった。

なんでここにいるんだ。俺を捨てといてなんで今さらのこのこ来たんだ。なんで抱きついてきたんだ。それらのすべての意味を含んだなんで? だ。



錯乱した俺を見つめながら雲母はクスクスと笑う。俺のことをすべて知り尽くしてすべて攻略済みと言わんばかりの笑み。



「あたし、やっぱり涼馬がいい。あたしにはあんたしかいないわ。

だから、あたしとヨリを戻しましょ」



「―――……!?!?!?」



まっすぐ見つめ合ってハッキリとそう言った雲母。俺の中では何もかも大爆発するような衝撃が起こった。


え……マジで? 俺のところに戻ってきてくれるのか? 雲母と、やり直せるのか?


ずっと未練タラタラで忘れられなかった。雲母とヨリを戻したいと願う気持ちはずっと心に残っていた。

しかし、心のどこかで、その願いはもう二度と敵わないとわかっていた。

雲母は頑固で一度言い出したらテコでも聞かない女の子だった。絶対に自分の意志は曲げないのでいつも俺が折れるしかなかった。いつも俺が折れていたのでケンカにはならなかった。

そんな雲母が俺と別れると言った以上、たとえ天地がひっくり返っても復縁するのは絶対に無理とわかっていた。

無理だとわかっていたのに()()()()()()()()という選択肢は残し続けてきた。それだけ俺は弱くて女々しかった。


絶対に無理だとわかっていた願いが、叶った……?


いいのか? 本当にヨリを戻していいのか? 俺たち、またやり直せるのか?

俺の中には相変わらずなんで? という疑問ばかりだった。


絶対に曲げない雲母が、曲げた。俺のことを飽きた、無理だと言った雲母がやっぱり俺がいいと言った。フラれてから今日までそこまで時間は経ってないのに180°の手のひら返しを見せた。

違和感がある。何か変だなという違和感が俺の心を渦巻く。長く付き合ってきたからこそ、()()雲母に猜疑心が生じる。その猜疑心は水底に溜まる泥のようで、うまく言えない気味の悪さを感じた。



―――だが、それより、そんなことより、嬉しい気持ちの方が圧倒的に上回った。

雲母が戻ってきてくれた。嬉しい、嬉しい。つい涙腺が緩んでしまった。


心から望んでいたことを大好きだった人から告げられて、嬉しくないわけがない。多少の違和感など些細なこと。元カノと復縁できる可能性という希望の光の前には、水底の泥など無価値に等しかった。



しかし、光があるなら影もある。

楓ちゃんもいるんだこの場に。元カノと復縁できるかもしれない希望の光もかなり大きくかなり明るいはずだったのに。楓ちゃんの影はその光をいともたやすくかき消してみせた。

違和感を圧殺する光。その光をさらに圧殺する楓ちゃんの負のオーラ。楓ちゃん無双モードが強すぎる。俺じゃ逆立ちしてもこのオーラに対抗できない。

俺の中で楓ちゃんという存在は、それだけ巨大で強大なものとなっている。楓ちゃんの家に来てからまだそれほど日が経ってないにも関わらず、だ。その証明が今まさにされている。


そうだ、そうだよ……雲母が戻ってきてくれたのは嬉しいけど、今の俺には楓ちゃんが……


どうする? どうすんのこれ?

わからない。俺に対処できるわけがないだろ。よっぽど女慣れしているモテ男ならともかく、俺にどうにかできるわけねぇだろうが。

好きな女の子が2人いて、どっちの方が好きか選べなくて、2人とも俺の目の前にいて、それをどうにかする方法なんて教科書には載っていない。知ってる人いたら教えてくれ。



雲母はチラッと楓ちゃんの方を見る。それは一瞬だけですぐにまた俺を見た。


「……まあ、今はちょっとお取込み中みたいね。じゃあまた日を改めて会いに来るわ、涼馬」



―――チュッ


「!!!!!!」



俺の頬に雲母の赤い唇の感触が。一瞬だけだが雲母にソフトなキスをされた。

交際中ですら、雲母の方からキスしてくるなんてめずらしかったというのに。



「またね、涼馬」


俺に手を振って、ウインクまでしてきた。雲母が俺にウインクするのなんて、初めてじゃないか。

付き合っていた頃とはまるで違う雲母の振る舞いに、俺はさらに混乱と錯乱を重ねた。


雲母はまた楓ちゃんをチラッと見た。楓ちゃんに視線を当てる雲母は、とても余裕そうな笑みを浮かべていた。

楓ちゃんは何も反応しない。雲母の方を見ることすらしない。ただまっすぐ、俺しか見つめてなかった。真っ暗な瞳のまま、雲母登場の瞬間から微動だにせず。



そして雲母は車に乗って、ブロロロと激しい音を立てながら走り去っていった。


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