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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第28章…ラブ

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元カノは完全敗北しました




―――




 楓ちゃんと過ごす日々を毎日毎日大切に噛みしめながら、時間は緩やかに流れていく。

今日はクリスマスイブだ。今日は楓ちゃんにとってとても大切な日だ。



今日はバイオリンのコンサートが開催される日でもある。過酷な試験を勝ち抜いた実力者しか出場できない、特別なコンサートだ。

バイオリンの習い事を一生懸命頑張ってきた楓ちゃんは、当然出場する。


当然俺もコンサートを観に行く。

『絶対に観に来て!』って楓ちゃんに上目遣いでお願いされて心臓を撃ち抜かれた。死んでも行くに決まってんだろ。たとえ足がちぎれても観に行く。



コンサートホールがとにかく広い。一般人でも入れる大規模なコンサート。

俺はその会場の最前列の真ん中の座席に座った。一番近くで楓ちゃんの演奏を聴くことができる席。この特等席のチケットを取るのはかなり大変だった。でも頑張って手に入れた。



ついにコンサートが始まった。

楓ちゃんの演奏は6番目のようだ。


6番目、楓ちゃんの番が来た。

胸元に花を拵えた清楚な服装で可愛すぎる。ペコッとお辞儀をして、バイオリンを構える。構えた瞬間、会場全体が静寂に包まれる。


豪華客船の時も楓ちゃんのバイオリンの生演奏を聴くことができたが、貝塚のバカアホのせいで演奏が中断されてしまい最後まで聴くことができなかった。


今度こそ最後までゆっくりじっくりと聴ける。聴覚はもちろん全感覚を極限まで研ぎ澄ませた。



『~~~♪ ~~~……♪』



楓ちゃんのバイオリンの生演奏が開始された。

美しい音色が俺の鼓膜を震わせ、天界まで導かれる。


ああ、やっぱり神だ。




 楓ちゃんの演奏が終了し、楓ちゃんは一礼した。

最後まで聴けた生演奏。俺は感激しすぎて魂が震えて、ピクリとも動かずに余韻に浸っていた。

コンサートが終了し、お客さんが次々と帰り始めても、俺はしばらく席を立てなかった。


俺がハッとして正気を取り戻した時には、もう会場にいる人間は俺だけだった。ステージ上の証明も消えかかっており、会場は薄暗かった。

楓ちゃんの演奏に夢中になりすぎて天界から戻ってくるのに時間を要してしまった。早く楓ちゃんに会いに行きたくて立ち上がり、急いで出口に向かった。



会場から出るとそこには、ホワイエの光と。



「涼馬!」



「…………」



元カノ、高井雲母がいた。


真っ赤な口紅の口角を上げて、顔を赤くしながら熱い視線をまっすぐ俺に投げつけてくる。


……()()()をした女を目障りだと思ったのは初めてだ。楓ちゃんの演奏で幸せな気分だったのに水を差された。

俺は顔をしかめた。



「中条楓が出るコンサートに必ず来ると思ってたわ。あんたに会うために高い入場料を払って来たのよ」


「…………」



出口で待ち伏せしてたのか。ストーカーか? ストーカーにしては堂々としすぎているが。

文化祭の時は背後から声をかけてガン無視されたから、今度は真正面から来たってか。


雲母は逃がさないと言わんばかりに出口を塞ぐように立ちはだかっている。あまりにも邪魔すぎる。

正面から来ようが同じことだ。俺は無視して横を通り過ぎようとする。



「ねぇ、涼馬……」


雲母は俺の前に移動してきてディフェンスしやがる。マジで邪魔。

俺を通さないつもりか? ナメんな。



―――スッ


「あっ、ちょっ……涼馬っ!」



修業で鍛えた瞬発力と脚力で、容易く雲母のディフェンスをかいくぐる。

一瞥もくれずにそのまま通り過ぎていく。



「待ってよ、涼馬!」


ハイヒールの音を激しく鳴らしながらまだついてくる。



「ねぇ、こっち向いてよ涼馬」


「…………」


「なんでこっち向いてくれないのよ~」


「…………」


「もしかして、照れてるの? 1年ぶりにあたしと顔合わせるの恥ずかしいの? うふふっ、可愛いわね」


「…………」


「恥ずかしくて気まずいのかしら? 大丈夫よ、あたしは気にしないわ」


「…………」


「だからこっち向いてよ」


「…………」



「もう、返事くらいしてよ、涼馬ってば!」


ガシッと、手を掴まれた。



「触んな!!!!!!」



雲母に掴まれた手を思いきり振り解いた。

嫌悪感が凄まじくて、つい大きな声を出してしまった。

ホワイエにいる人たちから注目を浴びてしまった。周りが静まり返ってしまった。


冷静になれ俺。こんな女、感情を荒立てる価値もないだろう。



「りょ……涼馬……?」


「…………」


こいつと会話をすることすら無理。顔をしかめて蔑む目でこの女を見ることしかしたくない。


「な、何よ……もしかして、去年のこと怒ってんの? し、仕方ないじゃない……あの時はメノウと付き合ってたんだから……! メノウがあんなに使えないクズだとは思わなかったのよ! あたしはメノウに騙されたのよ!」


「…………」



最初から何も期待していなかったが、やっぱりこいつは謝らない。

別に謝ってほしいわけじゃないけど。謝らなくていいから今すぐ消えてほしい。



「大丈夫よ涼馬。今はもう、あたしの心にメノウなんか一切いない。あたしが好きなのは涼馬だけだから! 他の男じゃ無理なの! 涼馬じゃなきゃイヤなの!!

ね、だからあたしとヨリを戻して? あんなデカパイ女なんか捨てて、今すぐあたしのところに戻ってきてよ」


雲母は人差し指を頬に添えて、アヒル口と上目遣いで下から覗き込むように見つめてきた。

誘惑してるつもり……なんだろうか。この女の仕草は、びっくりするくらい何とも思わなかった。



「金だってなくても大丈夫。金なんてなくてもあんたさえいてくれれば、あたし我慢するから。

エッチだって昔よりもっとさせてあげるわ。それにいっぱい舐めてあげる。だから、ねっ? ヨリを戻しましょうよ」


雲母は身体をくねらせながら俺に詰め寄ってきた。俺はこいつから一歩二歩と離れた。


『我慢する』とか言ってる時点でこいつは自分の立場を全く理解していない。

いちいち説明してやる義理もない。バカバカしい、マジで時間の無駄だ。



「ごめん、無理」



「―――えっ……」



「無理だって言ったんだ。俺は楓ちゃんが好きだ。お前とヨリを戻すことはできない。絶対に。

誠にごめんなさい」



丁重にお断りした。丁寧に頭も下げた。

以上。これで終わり。



「―――……!? ……っ……!?!?!? ~~~……ッ!?!?!?」



雲母の表情がみるみるうちに歪んでいく。大量の涙が浮かんでいる。

今まで積み重ねてきた自信とプライドが一瞬で崩れ落ちたような、そんな顔をしていた。



「な……なんで……なんでそんなこと言うのよ」


「…………」


「おかしいじゃない。あたしたち、7年も長く続いてたのに。セックスだってあんなに相性良かったのに」


「…………」


「ウソでしょ……? ウソよね!? ねぇ、ウソって言ってよ……!!」


「…………」


「っ……どうして……どうしてよ……!? ねぇ、考え直してよ! 今ならまだ間に合うわ!」


雲母はガクッと膝をついて、両手を床につけて、懇願するように言ってきた。


「お願い、撤回して! あたしを選んでよ!! あんな乳がでかいだけの女なんかより、あたしの方がいいわよ絶対!

巨乳の女なんて傲慢よ。あんたのことだって見下してるに決まってるわ! 乳に惑わされちゃダメよ涼馬、目を覚ましなさい!!」



「楓ちゃんを悪く言うな。殺すぞ」



「―――ひっ……!?」


雲母を鋭く冷たく睨みつけた。お前に楓ちゃんの何がわかる。それ以上言ったら本当に蹴り潰す。



「……なんでよ……なんでそんな目で見るのよ……昔のあんたはそんな冷たい目をするような男じゃなかったのに……!

やめてよ!! 昔の涼馬に戻ってよ!! 昔みたいにあたしに愛してる、って言ってよぉ!!!!!!」


涙でグシャグシャの顔をした雲母は俺にすがりつこうとしてくる。俺はこいつから二歩三歩と離れた。



「さようなら。二度とそのツラ見せんな」



俺はそれだけ告げて、背を向けて立ち去る。

刹那でも早くこいつが存在する世界から脱出したくて、スタスタと速く歩く。



「―――っ……うぅっ……!! ああああああっ……!!」



雲母の慟哭がコンサートホールのホワイエにこだましていた。

クリスマスイブの夜。今この瞬間を以って、元カノの高井雲母と決別した。


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