文化祭に元カノが来ました
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夏休みは楽しすぎてあっという間に終わった。
学校が再開し、星光院学園生徒会長の楓ちゃんと職員の俺は学校でもたくさんイチャイチャラブラブしまくっている。
全校生徒公認の関係となれた俺たちは生徒の前でも構わずイチャイチャしまくっている。生徒たちも微笑ましそうな目で見てくれている。
秋は、文化祭の季節だ。
星光院学園でももちろん文化祭がある。お嬢様学校らしくものすごい大規模な文化祭だ。
去年は修業でボロボロであまり楽しめなかったが今年はベストコンディションで臨めるぞ。
「涼くん、明日はいよいよ文化祭だね」
「楽しみだな楓ちゃん」
「私は今回が最後の文化祭だからさ、すごくテンション上がってるよ」
「ああ、最高の文化祭にしよう」
「うんっ!」
楓ちゃんは3年生。今年が最後の文化祭。
……俺にとっても最後になると思われる。
楓ちゃんが2年生の時に学校に来た俺であるが、すごくあっという間だった。
星光院学園ではいろいろなことがありすぎたが、何もかも大切な想い出だ。
自宅の中庭で、楓ちゃんと二人きりで美しい夜空を眺めながら、気持ちをグッと引き締めた。
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―――で、やってきた文化祭当日。
文化祭は今日と明日の2日間ある。お客さんは初日の方が入ると思う。
大前提として、この学校は女子校。俺は楓ちゃんの権力で特例になっているだけで、本来なら絶対男子禁制の地である。
文化祭とて例外ではない、お客さんも女性限定だ。男は誰も入れない。
なので男の俺がこの文化祭で出しゃばるわけにはいかないのだ。
男が1人いることを知らないお客さんも多いだろうし、できるだけお客さんの前に出るのは避けた方がいい。
だから俺は基本的には裏方の仕事となる。俺は影に徹して文化祭を支える。
楓ちゃんは生徒会長。文化祭を運営する最高責任者。当然ものすごく忙しい。
楓ちゃんと二人で文化祭を回る時間は少ないだろう。それでも必ず文化祭デートも堪能する。
文化祭の成功も、楓ちゃんとの想い出作りも、両方やり遂げるんだ!
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そして、無事に文化祭は終了した。
楓ちゃん率いる生徒会が超優秀で、トラブルとは無縁の最高の文化祭となった。
俺も裏方としての仕事をしっかりこなし、楓ちゃんと二人きりで文化祭を回るデートもしっかり楽しんで、俺たち的にも大満足の文化祭となった。
終わった後は後片付けの時間。明日からまた通常の授業だし、テキパキと片付けを済ませよう。
楓ちゃんは生徒会で大忙し。俺は一人で働く。
男は俺しかいないので大きなものや重いものはできるだけ俺が運ぶ。
「えっほ、えっほ」
長さ2メートルくらいの柱を倉庫まで運ぶ。その運んでいる途中のことだった。
「涼馬」
…………
背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえたな。
しかも、よーく知ってる声だ。
その声は、俺の脳裏に忌々しい記憶を蘇らせて、少し頭が痛くなった。
「涼馬」
また名前を呼ばれた。
俺は振り返らない。振り返る必要はない。
「久しぶりね涼馬。このあたしが遊びに来てあげたわよ」
「…………」
呼んだ覚えはないが、文化祭は女性であれば誰でもお客さんとして来れるからな。
うん、お客さんなら邪魔とは言えない。
俺の元カノ、高井雲母。
去年の山奥事件以来、1年以上ぶりに現れた。
まさか学校にまで来るとは思わなかったが、別に驚きはしない。
去年あれだけのことをしておいて、普通にノコノコやってきて普通に声をかけてくるようなとんでもない神経をしている。
こいつはそういう女だ。謝らない女だし、自分が悪いとは微塵も思ってない女だ。
「ニュース見たわよ、びっくりしちゃったわ。あんた豪華客船を救ったんですって?
それからひったくり犯も捕まえたんですってね。やるじゃない涼馬、褒めてあげるわ」
「…………」
そうか、ニュース見たのか。新聞にも載ったしネットニュースにもなったからな。
んー……こいつにだけは見てほしくなかったが、まあ仕方ないか。
記事になるということはそういうことだ。良からぬ奴に目をつけられるリスクもある。それは最初からわかってたことだ。
……で、褒めてあげるって何? なんでそんなに上からなんだ?
「しばらく見ないうちにずいぶんといい男になったじゃない。見違えたわ」
「…………」
「あんたが活躍してるニュースを見て、どうしてもあんたに会いたくなって、来ちゃった」
「…………」
「今日の文化祭も、あんたが頑張ってる姿を見させてもらったわ。すごくかっこよかったわよ」
「…………」
「ねぇ、涼馬……あたし、やっぱりあんたのことが好き。
一度は冷めた、あんたへの気持ち……あんたの活躍を見て再燃したの。この気持ちはもう二度と止まらない! 好きよ、涼馬……」
「…………」
「安心して、今度は金目当てなんかじゃない。ホントのホントにあんたが好き。
メノウなんてどうでもいい、あたしは涼馬がいい。涼馬が好きなの! あたし、あんたとやり直したい!」
「…………」
「ねぇ涼馬、聞いてる?」
「…………」
「涼馬、こっち向いてよ」
「…………」
「ねー涼馬? 涼馬ってば!」
「…………」
なんかすごいしゃべってるみたいだけど全然頭に入ってこない。俺、文化祭の後片付けで忙しいんだけど。見てわかんねぇのかな。
ていうかなんでついてくんの? もう文化祭は終わったぞ、早く帰れば?
俺は、お前と話すことなんて何もない。
本当に、何もない。お前に何も感じない。怒りや呆れすらも感じない。
あー、早く片付けを終えて楓ちゃんに会いたい。
その後もしばらくこの女につきまとわれたが、俺は後片付けだけに集中した。
ふぅ、やっと片付け終わった。
すごくしつこかった雲母もようやくいなくなったし、あとは楓ちゃんと合流して帰るだけだな。
「涼くん!」
「楓ちゃん!」
すぐに会えた。まあ、発信器ついてるもんな。探すのに時間がかかるなんてことはないよな。
「涼くん、お疲れ様」
「楓ちゃんもお疲れ」
「じゃあ、帰ろっか」
二人は並んで歩き出す。中山さんが運転する送迎車が停めてある場所まで。
「そういえば涼くん。今日の文化祭、高井雲母が来てたみたいだよ」
「ああ、さっき話しかけられた。無視したけど。楓ちゃんも知ってたのか」
「名簿に名前を書かないと入場できないシステムだからね、名簿を見ればすぐにわかるよ。
出禁にすることもできたけど、その必要はないって判断したんだ」
「……それはなぜだ?」
「涼くんなら何も心配はいらないから!」
「……!」
楓ちゃんは俺をまっすぐ見つめて最高の笑顔を見せた。
今までは近くに他の女の子がいたら徹底的に突っかかってきた楓ちゃんが、今はこんなにも落ち着いた余裕を見せている。
俺のことを信頼してくれているってことだよな。
お父様が命を狙われていた時もお父様の強さを信頼して慌てなかった。それと同じような信頼を、俺に向けてきてくれている。
そのまっすぐな信頼が何よりも嬉しかった。泣きたいくらいだ。
確かに、楓ちゃんの言う通りだ。
たとえ雲母に誘惑されたとしても、貝塚みたいな男がまた出てきたとしても、今の俺なら何も問題はない自信がある。鋼よりも硬い自信が。
自信はあっても驕りはない。楓ちゃんを幸せにするために、俺はまだまだ強くなって男を磨き続ける。
愛おしい気持ちがあふれ出して、俺と楓ちゃんは恋人繋ぎをした。鋼よりも硬い結びつきを表現するように絡め合った。
帰りの車の中でもずっと手を繋いだままでいた。




