二人三脚でひったくり犯を捕まえました
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楓ちゃんにシモのお世話をしてもらってしまった……
冷静に考えると恥ずかしさの暴風雨の中でグルグル回されているような気分になるが、飼い主がペットのシモのお世話をするのは当たり前なのであまり気にしないようにしよう。割り切ろう。
楓ちゃんの献身的なご奉仕のおかげで膀胱だけじゃなく精巣までスッキリした。
一日署長なのに何をやってるんだ……と自己嫌悪の気持ちも出てくるが、警察官の格好をしているからこそすごく興奮したのは否定できない。
「涼くん、どうだった? 痛くなかった……?」
小さなお口に手を当てて頬を赤らめながら上目遣いで俺を見る楓ちゃんが可愛すぎる。お口でするの初めてだからうまくできたか不安なのかな。あんなに良かったのに自信なさそうにしてるのがさらに可愛い。
「全然痛くないし最高に気持ちよかった。ありがとう」
「これはお詫びなんだからお礼はいいよ」
「いや、お礼を言わずにはいられない。マジでありがとう」
楓ちゃんのご奉仕は初心者でゆっくりでぎこちない感じだったが、それが良いと俺は思った。
俺的にはAVであるような音がしまくって激しいのより楓ちゃんのゆっくり丁寧な奉仕の方が好みなのでよかった。
家に帰ったら楓ちゃんもいっぱい気持ちよくさせてあげようと固く誓った。お礼はしっかりしたい。
とにかく今は巡回のお仕事だ。また街中をうろつくのを再開する。
制服の乱れもしっかり直して仕切り直した。俺もスッキリしたので仕事に支障はない、手錠はつけたままだが。今日の仕事が終わるまでは手錠はこのままだと思う。俺は一向に構わない。
「……涼くん」
「なんだ?」
「……手錠、足にもつけよっか」
「なんで!?」
「せっかくだから……」
何がせっかくだからなんだ……!?
楓ちゃんの頬はずっと赤く火照っていた。その理由は暑さだけではない。
「さっきのトイレからずっと、ドキドキが止まらなくて……」
手錠はもう一つあるみたいで、二つ目の手錠を持ちながら女の表情で俺をまっすぐ見つめる楓ちゃんの姿に、俺もドキドキが激しく加速した。
「さっきのトイレ、俺だけが気持ちよくなっちゃって申し訳ない。家に帰ったらたっぷり埋め合わせはするから……」
「うん、埋め合わせはしてもらう。でも手錠ももっとつけたい。もっと涼くんと繋がりたい」
「わかった」
楓ちゃんが望むなら全部OKだ。迷いはない、ペットだから。
俺の右足首と楓ちゃんの左足首が手錠で繋がれた。
楓ちゃんと二人三脚ならどんな困難でも乗り越えられると確信はしているが、本当に物理的に二人三脚になっちまったよ。なんでこうなった。いや、同意した俺も同罪だが。
まあでも、楓ちゃんとの繋がりが増えるほど幸せです。
手足を繋いだまま楓ちゃんと街中を歩く。
二人三脚だから歩調や歩幅を合わせて歩くスピードも合わせて同じ歩き方をしなければならない。
でも大丈夫。楓ちゃんとは息がピッタリ合ってるから何の問題もなく歩けている。
足が引っかかったり転びそうになったりなんてことは一切ない。歩き方を指示したり確認したりなんてことも一切ない。特別なことは何もせずに、俺たちはごく自然にいつも通りに歩ける。
マジで何の支障もない。楓ちゃんとバッチリ通じ合っている。
周りの人たちの視線は痛いけどな。真面目にやれよ、と思われてると思う。そう思われても仕方ないと思う。
だがこれでも俺たちはずっと大真面目だ。
「イヤーッ‼︎」
⁉︎
巡回を続けていた時、おばあさんの大きな悲鳴が街中を切り裂いた。
「ひ、ひったくりよーッ‼︎」
何だって、ひったくり⁉︎
悲鳴がした方向を見ると、膝をついて叫んでいるおばあさんと、自転車を爆速で走らせているヘルメットつけた奴。
ヘルメットの奴はカバンを奪っていた。間違いなくあいつがひったくり犯だ。
「楓ちゃんっ!」
「うんっ!」
俺と楓ちゃんは同時に地面を蹴って駆け出した。
バカが、現行犯逮捕だ‼︎
俺たちは二人三脚、ひったくり犯は自転車。だがそんなの関係ない。
俺たちの追跡能力を甘く見るな。
全力で前の自転車を追いかける。二人三脚でも何も問題なく歩ける俺たちは、全開の走りでも同様だ。手錠で足を拘束してようと何も影響はなくいつも通りに走れる。
手錠が引っ張られて手首や足首に食い込んで痛んだりすることも一切なく、足の出し方、腕の振り方、すべて完璧に合わせられている。
そして俺たちのスピードも甘く見るな。楓ちゃんの方が足が速いが、俺の速度に完璧に合わせてくれている。
それじゃ俺が足引っ張ってるみたいな言い方だが、俺だって山の修業で鍛え上げた体力と脚力がある。
その修業は大きく役に立った。全開速度の自転車にも負けない。
自転車との差をみるみるうちにどんどん縮めていく。
ひったくり犯は自転車を必死に漕ぎながら後ろを見た。
追いかけてくる俺たちを見てメチャクチャびっくりしていた。ヘルメットをつけててもわかるくらい目玉を飛び出させていた。
まあ、そりゃ驚くか。MAXスピードの自転車を手錠拘束プレイした二人組が追いつこうとしてるんだから。
普通に走っても普通は自転車より速く走ることはできないが、俺たちは普通じゃないので二人三脚でも自転車より速く走れるのだ。
「なっ、なんだてめぇら!? く、来るなバケモノ!」
ひったくり犯は恐怖の声を上げた。妖怪に食われる寸前みたいな顔をしている。
誰がバケモノだ失礼な。俺たちは人間だ。ちょっと愛が異常なだけだ。
「ふざけんじゃねぇ! 二人三脚で自転車より速く走れる人間がいてたまるか‼︎」
まあ、それはそう。そうだけれども。
お婆さんの荷物を奪って逃げるような奴がごもっともなこと言ってんじゃねぇよ。
よし、ひったくり犯が射程距離内に入った。一気に仕留めるぞ。
合図もかけ声も必要ない。俺と楓ちゃんは同時に踏み切り、走り幅跳びのように同時に飛び上がった。
そのまま一直線にひったくり犯へ。
「うわああああああ⁉︎」
ひったくり犯の断末魔の叫び。
手錠をかけてない方の足、俺の左足と楓ちゃんの右足が、同時にキックを放つ!
―――ドガッ!!!!!!
楓ちゃんとの合体技キックがひったくり犯の背中を直撃する。
自転車がガシャーンと倒れ、ひったくり犯も吹っ飛んでゴロゴロと転がった。
あっ、手錠がもうない。手錠プレイに使っちまって肝心の犯人確保に使えないマヌケを晒してしまった。
それでも俺はひったくり犯の上に乗ってしっかりと押さえつけ、捕まえた。
「やったね、涼くん!」
「やったな、楓ちゃん!」
俺と楓ちゃんはハイタッチを交わした。
一日署長、いろいろトラブルが起きた……というか自ら起こして自業自得だったんだが。
こうしてひったくり犯を捕まえて挽回できた。修業の日々が、町の平和を守るために役に立ってよかった。
その後、署長に通報してひったくり犯はパトカーで連行されていった。
ひったくり犯を捕まえた俺たちは警察のみなさんに讃えられた。
それはそれとして、手錠で遊んでたことは署長にメチャクチャ怒られた。
俺と楓ちゃんはしばらく正座で反省した。
楓ちゃんに何度も謝られたが、俺だって責任はある。俺たちは二人で一つだから良いことも悪いこともすべてを二人で背負っていくんだ。
―――
翌日。
ひったくり犯を捕まえた件で、またニュースになっていた。
俺の名前が記事になっていたことに、楓ちゃんは大喜びしていた。
新聞記事のタイトルは、『中条グループ社員の安村涼馬さん、またまたお手柄! ひったくり犯を確保』となっていた。
いやでも、あれは俺と楓ちゃんの二人三脚で捕まえたんだ。俺だけの手柄ではない、今回は絶対に楓ちゃんの功績でもあるはずだ。いや今回はではなく今回もだ。
楓ちゃんはいつだって俺を助けて支えてくれるヒロインなんだ。
「りょ、涼くん! これ見て!!」
「ん?」
楓ちゃんのスマホの画面を見る。
そこにはネットニュースの記事。これも昨日のひったくり犯の件。そのタイトルは……
『中条グループのアツアツカップル、ひったくり犯を捕まえる!』
と書いてあった。
…………
え、カップル!?
『安村涼馬』と『中条楓』の名前もちゃんと記載されている。俺と楓ちゃんがカップルなのが記者にバレてる。
……冷静に考えたらバレて当たり前か。
昨日、警察官の格好で二人でピッタリと寄り添って街中を歩き回っていたからな。どこからどう見てもカップルにしか見えなかっただろう。
楓ちゃんと付き合ってることが世間に公表されている……! まあ学校ではすでに公表しているし、付き合ってることは別に記事になっても構わないだろう。
……ペットでもあるということは秘密にさせていただきたいけどな。
「ふふふっ、もう、カップルだなんて……その通りだけど! なんだか照れちゃうなぁ」
楓ちゃんは赤くなった頬に手を添えてすごく嬉しそうにしていた。可愛い。
俺も自然と頬が緩む。カップルということは楓ちゃんの活躍もちゃんと記事になったということだ。俺はそれが一番嬉しい。
その後、楓ちゃんはこの前と同じように新聞記事を丁寧に切り抜いて幸せそうに持っていった。
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※楓視点
その日の夜、今回も涼くんの記事を拡大して自分の部屋の壁に貼りつけた。
「……カップル……
カップル……
カップル……!!
ふふふっ……」
特にカップルの文字を超拡大して印刷して貼りつけた。
その巨大文字をじっくりと眺めて、私は悶えるくらい幸せに浸った。




