一日署長になりました
※涼馬視点
ここは、楓ちゃんの家がある町。俺たちが住んでる町の、警察署の前である。
中条家だけではなく金持ちが多く住んでいる町なのですごく大きくて強そうな警察署だ。
そこで、俺は警察官の格好をしている。楓ちゃんはミニスカ婦警の制服に身を包んでいる。
これはコスプレではない。正真正銘、警察としての制服だ。
なぜ俺たちが警察官になっているかというと。
「今日一日署長をやっていただく、中条楓さんです!」
「よろしくお願いします!」
署長さんに紹介してもらった楓ちゃんは深く頭を下げた。
集まった警察官の人たちから大きな拍手で迎えられた。
そう、楓ちゃんはなんとこの町の一日署長に任命されたのだ。
『一日警察署長』と書かれたタスキが楓ちゃんの肩にかけられている。
…………大きな胸にタスキがかけられていて、パイスラッシュみたいになっている。素晴らしすぎる。
大きな胸で『一日警察署長』の文字が押し上げられて強調されていてエロい。眼福すぎる。
中条グループのお嬢様がとんでもなくすごいのはよーく存じているが、まさか一日だけとはいえ警察署の署長になれるとは。中条グループのパワーの恐ろしさをまた思い知った。
一日署長ってアイドルとか女優とかがやってるイメージだったけど、俺の彼女がやることになるとは夢にも思わなかった。
まあ、楓ちゃんは女優顔負けのルックスとグラビアアイドル顔負けの抜群スタイルをお持ちだから一日署長に選ばれるのは納得ではある。
あと、俺も一日警察官になった。まあ俺は完全についでだ。署長の楓ちゃんをサポートする役として、楓ちゃんからご指名を受けた。
すごく緊張してるけど楓ちゃんのとなりに立ててとても嬉しい。
警察署長とはいっても警察の重要な仕事とかはやることはない。まあ当たり前か。
交通安全パレードに参加して、いろんな人と少し交流して、街中を巡回するくらいだ。
警察の格好をした人が街中をうろつくだけでも犯罪抑止の効果はある、と思う。よし、楓ちゃんと一緒に頑張るぞ。楓ちゃんとイチャイチャしながら少しでも町の平和に貢献するんだ。
街中を楓ちゃんと二人で歩く。二人きりだ。
真夏ですごく暑い。制服は夏服で半袖とはいえ、それでも暑すぎる。
とにかく暑い……が、楓ちゃんの婦警の制服姿が可愛すぎて尊すぎて、暑さも忘れるほど見惚れる。
環境自体は地獄といってもいいのだが、楓ちゃんと並んで歩くというだけで俺的には極楽天国だ。
「……さて」
楓ちゃんは歩きながら『一日警察署長』のタスキを外した。外したことでキレイな金髪がふわりと揺れる。
なんで外したんだろうか。仕事が終わるまではずっと着けておいた方がいいと思うが。
スッ……
!?
外したタスキを、なぜか俺の肩にかけた。
「え、なんで? なんで俺にかけるの?」
「涼くんが一日署長になるんだよ」
「なんで!? なんで俺が署長なの!? 楓ちゃんが一日署長だろ!? さっき任命式やったじゃないか!」
「私は最初から涼くんにやってもらうつもりだったよ。一日署長って特別な人しかなれないから表向きには私がやることになってるだけで。
ちゃんと署長さんに話はしてあるから大丈夫。『涼くんを一日署長にしてもいいですか?』って聞いたら『うん、別にいいよ』って言ってくれたから」
いいんかい。わりとテキトーなのか一日署長って。
「俺はついででサポート役だと思ってたから、いきなり署長って言われると緊張するな……」
「大丈夫だよ涼くん、私がついてるから。私と一緒に頑張ろ」
「ああ、頑張る!」
楓ちゃんがいてくれるならものすごく安心だ。楓ちゃんと二人三脚ならどんな困難も乗り越えられると確信している。
「一度やってみたかったんだ、私と涼くんの立場逆転! みたいなプレイ。涼くんが上司で、私は新米婦警さんだよ。よろしくお願いします、署長!」
「よ、よろしく……」
プレイとか言っちゃったよこの子。今巡回の仕事中だろう。
でもビシッ! と敬礼する楓ちゃんが可愛すぎて俺はこのプレイにノリノリにならざるを得ない。可愛い波には乗るのが男だ。
楓ちゃんが新米婦警さんとか……あまりにも響きがエロい。手錠をクルクル回しながら『逮捕しちゃうぞ(ハートマーク)』みたいなのが王道だよな。
正直に言うと俺は、新米婦警の楓ちゃんに逮捕されたいとか考えてしまった。
「んー……でも婦警さんやるなら、私は犯人じゃなくて涼くんを逮捕したいなぁ」
俺が考えていたことと同じこと言ってる。心が通じ合ってるのか? シンクロしてるのか? ガチで嬉しい。
「え、俺一応署長になったのに……主従関係逆転プレイしたいんじゃなかったのか? 逮捕するんじゃ結局楓ちゃんが上で俺が下じゃないか」
「えー、でも涼くんは私に逮捕されたくないの?」
「されたい」
そこは何の迷いもなく即答した。今は署長でも飼い主様に訓練された結果である。
「へぇー、されたいんだ?」
カチャリとした金属音が聞こえる。腰についてる手錠ケースから、楓ちゃんが手錠を取り出した音だ。
人差し指と中指で手錠を挟みながら、妖艶な微笑みを見せる楓ちゃんが可愛すぎて悶え死しそうになった。
俺は顔を背けて、手で顔を隠して赤くなってるのを隠そうとする。
カシャン
!
顔を背けていたからすぐには気づけなかった。
俺の右手首に手錠をかけられた。
そして、楓ちゃんは自らの手首にも手錠をかけた。
俺の右手首と楓ちゃんの左手首が手錠で繋がれた。
「涼くんと繋がっちゃった……ふふふっ……」
おい、エロい言い方すんな。署長の仕事中なのに情欲が刺激されちまうだろうが。
「これでずっと一緒だね……一生、絶対に離れられないね……」
あっ、彼女の美しい瞳が闇に染まった。光がなくても美しい病みモードの楓ちゃんだ。
まあ病みモードにも慣れたけどやっぱり怖いな。でもその怖さも中毒になるくらいたまらなく良き。
「手錠なんてなくてもずっとそばにいるから大丈夫だよ」
「ふふっ、さすが涼くん。私が欲しい言葉をよくわかってるね」
「わかるよ、俺だってキミと全く同じ気持ちだから」
「涼くん……」
「楓ちゃん……」
お互い顔を赤くして見つめ合ったところでハッとした。
今仕事中なのでイチャイチャの続きは家に帰ってからのお楽しみということで。
俺たちは手錠プレイをしたまま街中の巡回を続けた。
「こうして手錠で繋いでおけばはぐれずに済むね!」
「そ、そうだな」
別に人混みとかじゃないし警察官の格好をしてて目立つしはぐれることはたぶんないと思うが、『はぐれないようにするため』という言い訳を用意して俺たちは人がいるところで堂々と変態プレイを堪能する。
「涼くんの右手封じちゃってごめんね……私が涼くんの右手になるから安心してね」
楓ちゃんがそう言うとサイコホラーみたいなニュアンスを感じる……怖いけど俺も共感する。
俺も楓ちゃんの右手になりたい……いや、今は左手にならなくては。
「私、このまま一生涼くんと手錠で繋がっていたいかも……」
このまま一生、楓ちゃんと手錠で繋がれた人生か……
……悪くないなって本気で思った。
「……ああ、俺も……正直に言うと俺も楓ちゃんと手錠で繋がるの気に入っているよ」
「ホント? ありがとう涼くん」
ちょっと視線を逸らしてポッと頬を赤らめる楓ちゃんが可愛すぎて、こんなに可愛い楓ちゃんが見れるなら手錠かけられてよかったって本気で思った。
手錠プレイ……気持ち的には大歓迎だし、仕事的にも何も支障はない。
楓ちゃんのためなら両手両足だって脳だって心臓だって余裕で捧げられるからな。手錠とかもはや枷ではない。このくらい何も問題はない。
…………
……
いや、やっぱり問題あったわ。数十分後に問題を自覚した。
好きな女の子の前では常にいいところを見せたい、だから好きな女の子の前でするわけにはいかないことがあった。
「……楓ちゃん」
「なーに?」
「その……トイレに行きたいから一旦手錠を外してくれないか?」
楓ちゃんと繋がっていたいのは山々なんだが、さすがにトイレはそういうわけにはいかない。
今いいところなのに、こういう時に限って膀胱がいい仕事するんだよな……尿意ってタイミング悪い時に突然強く発生したりするの何なんだろうな。
「あ、うん、わかった。ちょっと待っててね。えーっと、手錠の鍵は……」
……鍵……もしかしてまた胸の谷間から出すのかな……ちょっと期待してしまう。
そんな俺の期待とは裏腹に、楓ちゃんはピタリと立ち止まった。手錠で繋がれているので俺も止まらざるを得ない。
「…………あ」
楓ちゃんは大変なことを察したような表情をした。イヤな予感しかしない。
「……どうした、楓ちゃん」
「……ごめんなさい、涼くん。署長さんから手錠の鍵を貸してもらうのを忘れてて……」
「……ということは……つまり」
「…………鍵がありません……」
「…………」
鍵がない。今、手錠を外すことはできない。
……お約束の展開かな。




