貝塚グループ社長と戦いました
俺は貝塚父と対峙する。
「凉くん、頑張ってー!」
「ああ、頑張るぞ!」
楓ちゃんは少し後ろで応援してくれている。
楓ちゃんの可愛い応援は100万人の応援にも勝る。
貝塚父は俺を見て顔をしかめる。
「……は? 貴様が戦うのか? 中条楓じゃなくて?」
「そうだ、俺があんたと戦う」
「ほう……貴様がか……ぷぷぷっ……くくく……ハーッハッハッハッ‼︎」
貝塚父は高笑いした。汚い笑い声が機関室に無駄に響く。
戦う相手が俺なのがそんなにおかしいか。楓ちゃんが出てくるかと思って身構えてたら俺が出てきて拍子抜けしたって感じか。
俺が笑われるような男だったのは事実だし、受け流すけどな。
「貴様が私を止めるというのか? 笑わせるなよ!
貴様、安村凉馬だろ? 去年メノウにボコボコにされてメソメソしてた雑魚だろう?」
「去年までの俺と同じだと思うなよ」
「ハハハッ! 身の程知らずのバカに教えてやる!
メノウに格闘技を教えたのはこの私だ! 私の強さはメノウとはワケが違うぞ‼︎ メノウに手も足も出なかった貴様に何ができるというのだ‼︎」
「だから去年までの俺と同じだと思うなって言ってるだろ、バカはあんただ」
メノウより強い? それがどうした。
こっちは最強無敵の賢三さんに指導してもらったんだぞ。ひれ伏してのたうち回るほどの地獄の指導をな。
「ハハハッ、これはラッキーだ。貴様をボコボコにして泣かせて人質にしてしまえば、中条楓も抵抗できまい」
楓ちゃんの足枷になるくらいなら死んだ方がマシだ。覚悟を決めてるのはお前だけじゃないんだ。
「やってみろよカス。楓ちゃんのお手を煩わすまでもねぇ、あんたなんか俺で十分だ!」
正直に言うと、感謝したい気持ちがある。
去年、貝塚にボコボコにされた。大好きな女の子に守ってもらうことしかできなくて、泣くくらい悔しかった。
その屈辱を晴らすチャンスをくれてマジでありがたい。貝塚メノウより強いこいつを倒して、過去の弱い自分に別れを告げる!!
「……小僧……! よかろう。どのみち皆死ぬんだが、貴様だけはこの私が直接殺してやる。
邪魔する者は皆殺しにして、この船を沈めて必ず中条社長を殺してやる!!」
「そんなことさせるか!」
「死ねぇ!」
貝塚父との戦闘開始。
貝塚父が俺に襲いかかってくる。
ドカッ‼︎
貝塚父の鉄拳を、俺は腕でガードする。
ガードしたはずなのに、腕にズキッと痛みが走った。
この野郎、いつの間にかメリケンサックを装備してやがる。
ケガをしないと決めてたはずなのにさっそく少しダメージを負ってしまった。
このくらい大したことないが、貝塚メノウよりも強い攻撃力だ。まともに喰らったらヤバイ。口だけの男ではないな。
喰らったらヤバイなら、喰らわなければいいだけの話だ。もっと集中しろ。防御ではなく回避するんだ。
「おらぁ!」
雄叫びを上げながら貝塚父はパンチを打ってくる。
俺はヒュッと躱した。大丈夫、かすりもしていない。
「ハッ、一発避けたくらいでいい気になるなよ! オラオラァ!!」
貝塚父のパンチの連打が襲ってくる。
しっかりと見極めて、すべて躱す。
すごいパンチだ。速度も威力も貝塚メノウより明らかに上。だが当たらなければどうということはない。
去年は貝塚メノウのパンチを顔面にまともに喰らって無様に転がされたな。だが今は、さらに上のパンチを見切って避けることができている。
見える……見えるぞ。貝塚父の攻撃の動き。これもあれも、ちゃんと見切れる。マグレじゃない。
「……! バカな……なぜこの私が、貴様のような雑魚に苦戦する! なぜ当たらない!」
去年と違うところ、一番は視力だ。動体視力がかなり上がっているからこいつの速い攻撃がよく見える。
去年からずっと楓ちゃんの裸をたっぷりと拝み続けてきたことにより、視力が大幅に進化したんだ。
目の保養って本当に大事なのだと実感した。楓ちゃんの揺れる胸や白い素肌の火照りを刹那も見逃さないために本能的にどんどん視力のステータスが上がったんだ。
なんていうなんともかっこつかない理由だが、とにかく目が良くなったから相手の動きが手に取るようにわかる。
ただの下心でも役に立つことはある。俺の下心で船に乗っているみんなを救えるんだ!
もちろん目が良くなっただけじゃダメだけどな。いくら見えても身体がついてこなければ意味がない。
地獄の修業で鍛えてきた肉体の瞬発力。賢三さんとの鬼ごっこの修業や紙ヒコーキを落とさないようにする修業も今この瞬間、確実に役に立っている。
「フン! 逃げ足の速さだけは一人前のようだが、避けているだけでは私に勝つなど不可能だぞ!!」
それはごもっともだ。俺の心にはまだ臆病な部分が残っている。慎重になりすぎになっているところがある。
もっと大胆に攻めないとな。
ドンッ
「あ」
この機関室はかなり広いけど当然壁がある。避けまくってきた結果壁に背中が当たった。
これ以上は逃げられない。
「はははっ、これで逃げ場はないぞ! 死ねぇっ!!」
貝塚父は俺をうまく壁に追い詰めたと思っているようだ。勝利を確信しニヤリと笑っている。
今までの最速最強のパンチが俺を襲ってくる。確かに絶体絶命のように見える状況だ。
でも、俺の戦いを見守ってくれている楓ちゃんは心配そうな表情をしていない。俺を信じてくれている。
大好きな彼女の信頼を裏切るくらいなら、腹切った方がマシだよな。
―――パシッ!
「―――なっ……!?」
俺の鳩尾を貫こうとしていた貝塚父の拳を、俺は手で掴んで受け止めた。
去年、鳩尾を殴られて動けないくらい悶絶させられて誘拐された。同じ轍は二度と踏まない。
「バ、バカな……!」
「避けるしか能がないとでも思ったか?」
お返しだ!
俺は貝塚父の腹に右の拳をズドンと叩き込む。
「ぐっ……!! き、貴様ァ……!!」
貝塚父は腹を抱えて表情を歪めるが、倒れない。賢三さんや楓ちゃんのようにワンパンで倒すことはできなかったか。
だが、スキだらけだ!
「オラオラオラオラァ!!!!!!」
一撃でダメなら当然、連撃だ!!
ズドドドドドド
「ぐあああああ!!!!!!」
オラオラで拳の連打ラッシュを貝塚父のボディにぶち込んでいく。
貝塚父もぶ厚い筋肉で硬い装甲してやがるが、俺だって楓ちゃんに褒めてもらえた筋肉がある!
少しずつでも確実に貝塚父にダメージを蓄積させていく。
よし、トドメだ!
―――ガンッ!!!!!!
貝塚父の顎にアッパーをクリーンヒットさせる。
貝塚父はドサッと倒れた。
倒した! 倒したぞ!!
俺の勝ちだ!! 貝塚メノウより強い貝塚父に勝った!!
いや、まだ油断すんな。倒したと思った敵が復活とかよくある流れだぞ。
倒した直後にすかさず貝塚父をしっかりと拘束した。貝塚父が破り捨てた上着で手首や足首をしっかりと縛った。
よし、これで大丈夫だ。
「ふぅ~……」
戦いが終わって緊張の糸が切れた俺はその場でぺたんと座り込んだ。
「凉くんっ!」
むぎゅっ
「わっ!」
「やったね凉くん! 凉くんなら絶対に勝ってくれるって信じてた! すごいよ涼くんっ!!」
楓ちゃんに抱きつかれた。
いつも通り柔らかい胸がむぎゅっと当たる。
あ……幸せ……今までの緊張感をすべて吹き飛ばす楓ちゃんの乳のパワーだ。
疲れたと思ってたけどすぐに元気がチャージされた。
「ああ、俺も……楓ちゃんに託してもらったのだから死んでも負けられなかったから、勝ててよかった」
「うん、すっごくかっこよかったよ……凉くん」
チュッ
「~~~ッ……!!!!!!」
頬に当たる、柔らかい唇の感触。楓ちゃんのキスで俺は元気出すぎてオーバーヒートした。
ああ、大好きな女の子にかっこいいって言われたくて生きてるんだよ男は。幸せの極限……




