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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第26章…豪華客船

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船上パーティーを邪魔する者は許しません

 ついに船上パーティーが始まった。

俺だけが一般人の庶民で浮いてる感は否めなかったが、楓ちゃんと一緒に参加するパーティーが楽しくないわけがなかった。


近くにいるお父様もお母様と一緒に楽しそうにしている。俺たちは楽しみながらも警戒を怠らず、今のところは特に異常はない。



パーティー開始してから30分後、バイオリンの演奏会が行われると発表された。



「この演奏会、私も出るんだよ」


「そうなのか!」


「私の演奏、涼くんに聴いてほしいな」


「もちろん! できる限り近くで聴くよ!!」



楓ちゃんはいつもバイオリンの習い事を頑張っているからな。

そういえば俺、楓ちゃんのバイオリンの演奏をまだ聴いたことがない。聴くのは今日が初めてになる。耳がでっかくなるくらいものすごく聴きたい。これは楽しみだ。


楓ちゃんはステージに上がり、俺は最前列に移動した。

拍手に迎えられながらバイオリンの演奏会がスタートした。



楓ちゃんはバイオリンを弾き始める。



『~~~♪ ~~~……♪』



初めて聴いた、楓ちゃんの演奏。

楓ちゃんが奏でる音色が会場中に響き渡る。今この瞬間、この船……この世界は、楓ちゃんが支配している。


うん、神だ。

音楽には詳しくないからうまく言えないが、彼女の演奏がキレイで美しい神ということだけは間違いないと断言できる。


俺の耳に入った音色は魂を震わせる。いつまでも聴いてられる、いつまでも聴きたい。

今まで習い事で頑張ってきたその努力の結晶が音色に乗って流れていた。



―――フッ




楓ちゃんの演奏が始まってから1分くらいした時。会場が暗闇に包まれた。

停電が発生した。楓ちゃんも演奏をピタリと止める。


会場がザワザワし始める。まさかこの停電、お父様に殺害予告した犯人の仕業だろうか。確定はしてないが可能性は高いな。


ふざけんなよ、いいところだったのに。よりによって楓ちゃんのバイオリン演奏中という最悪のタイミングじゃねぇか! 神の演奏に酔いしれていたところだったのに邪魔しやがって、絶対に許せん。

おっと、イライラしても仕方ないな。落ち着け、停電は想定内だ。俺は慌てずに冷静に努めた。


冷静になったのはいいものの、真っ暗で何も見えない。

夜の学校の経験を思い出すが、あの時よりも見えない。夜の学校は月の光があったが今回は船の中で光がなく、完全なる闇だ。



「楓ちゃん!」


「凉くん!」



愛しい彼女の名前を呼ぶ。俺の頭には楓ちゃんのことしかなかった。すぐに返事が返ってきて安堵した。


暗闇で下手に動くのは危険だが、楓ちゃんが心配でジッとしていられない俺は可愛い声がした方へ駆け出す。



ガッ!


うわっ⁉︎



楓ちゃんはステージ上にいる。ステージに上がる階段があってそこの段差に躓いて転びそうになった。



なんの!

躓かなかった方の足でダンッと力強く踏ん張って体勢を持ち直した。


山の修業で泥だらけ枝だらけの道を走り込んできたんだ。そう簡単にはバランスを崩さないぞ。

俺は何も見えない闇でもステージに上がることに成功した。



―――むにゅんっ


!!!!!!



何も見えない状況でステージ上を移動していると、俺の腹部に感触があった。

柔らかい感触。見えなくてもすぐにわかる。この柔らかさ、この大きさ。俺がよく知っている感触で俺が大好きな感触。

楓ちゃんの胸だ。


そしてふわりと漂ういい匂い。これも見えなくてもすぐにわかる。いついかなる時でも俺を溶かす、俺が大好きな匂い。

楓ちゃんの匂いだ。


暗闇で何も見えなくても一切関係ない。手に取るようにわかる。

わからないわけがない、楓ちゃんがそこにいる。



「楓ちゃん!」


「涼くん!」



闇の中でも無事に接触できた俺たちはしっかりと抱きしめ合う。

とてつもない安心感。不安や心配といった気持ちを一瞬でかき消した。



「ふふっ、この筋肉の感触、この匂い……間違いなく涼くんだ……」


「ああ、俺だ」


「暗くて見えなくても関係ないよね。大好きな人を見分けるのは余裕すぎるよ」


「ああ、余裕すぎる」


「私たちの愛の力だね」


「そうだな」



魂の共鳴みたいな感じで俺たちは繋がっている。

目には見えない繋がりがあるから物理的に見えなくても何の問題もないんだ。



「それで、お父様は大丈夫だろうか……」


楓ちゃんのことしか頭になかったけど狙われているのはお父様だ。この暗闇に乗じてお父様を狙うということは十分に考えられる。

申し訳ないがハッキリ言って楓ちゃんが最優先だ。でもお父様ももちろん心配だ。


「お父様なら大丈夫だよ、私より余裕で強いし。まあおじい様よりは弱いけどね」


楓ちゃんより余裕で強いというのが安心感の説得力ハンパじゃないな。そして賢三さんはさらに上だと断言できるとか、バケモノすぎる。

単純に修業にかけてきた時間が長ければ長いほど強いということだな。修業期間が1年の俺はまだまだだ。もっと精進しないと。



「じゃあ、下手に動かずに電気が復旧するのを待った方がいいか」


「うん、そうだね」



会場の電気が戻るまで、俺たちは抱きしめ合う体勢のままジッとすることにした。

こうしてくっついていることで暗闇でも安心できる。



…………


視覚が封じられてる分他の五感が研ぎ澄まされているせいか、楓ちゃんの胸の感触やいい匂いをより強く意識してしまうな。

今は非常事態なんだから欲情してる場合ではないんだが、そういう時だからこそどうしても下半身が反応を……いついかなる時でも俺のアレは空気を読まなかった。


本当はこんなこと考えるのはよくないのはわかってるが、停電するのも悪くないな……なんてちょっとだけ思ってしまった。



「ぎゃあああ!」


「うわあああ!」



暗闇のどこかで男の悲鳴のような声が……!

お父様の声ではない。お父様がやられたわけではないようだが、何があったんだ。

本当に真っ暗だから楓ちゃんのこと以外は何もわからん。



パッ


あっ、電気がついた。

ザワザワしていた会場に光が戻り、ホッとしている方も多くいた。


電気が戻った以上、楓ちゃんとくっついている必要はなくなった。

名残惜しい気持ちもあるが、非常事態の今はそんなこと言ってる場合ではない。



ザワザワ


会場がザワザワしている。

会場の人たちが一つの場所に注目していた。そこにはお父様が立っていた。


お父様の周りには、男が3人倒れている。3人ともガラの悪そうな男で、ナイフや鉄パイプを所持していた。


やはり暗闇に乗じてお父様を襲撃したのか。そしてお父様に返り討ちにされた……そういう状況に見える。



「ふん、この私を殺そうなどとは身の程知らずが」


お父様はポンポンと埃を払いながら、倒れている男たちに吐き捨てるようにそう言った。やっぱりお父様は襲われて返り討ちにしたのか。さすがお父様、暗闇で武器を持った男たちを無傷で倒すとはとんでもなくすごい。


お父様は倒れている男の一人の胸ぐらを掴んで立ち上がらせた。



「私に殺害予告の紙を貼ったのは貴様らか?」


「お……俺たちは命令されただけだ……停電中に中条グループの社長を殺せと……金で雇われて……」


「誰に命令された?」


「そ、それは言えねぇ……」


「そうか」


ズンッ!


「ぐはぁっ!」


お父様は男の腹を容赦なく踏みつけた。


こいつらは命令されただけ……殺害予告をした犯人は別にいる。まだ解決していない。

犯人はどこのどいつだ。この会場にいるのか?


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