お父様が殺害予告されました
さ、殺害予告……!?
楓ちゃんのお父様が!? 中条グループの社長様が!?
最強クラス大企業の社長……とてつもなく大きな権力を持ち、莫大な金を動かせる存在。誰かに恨まれててもおかしくは……ない。
でも豪華客船乗船中でこれからパーティが始まるという時にいきなり出てきた殺害予告という言葉に、俺は動揺を隠せなかった。
「殺害予告って……いつされたんですか!?」
「ついさっきだ」
「ついさっき!?!?!?」
ついさっきってことは……この豪華客船で!?
殺害予告してくるような危険人物が、この船に乗っている……!?
「お父様、その時のことを詳しく説明していただけますか」
俺はオロオロしてるが楓ちゃんは凛としてて冷静だった。さすが楓ちゃん、くぐり抜けてきた修羅場の数が違うので殺害予告にも動じない。
「私の背中に紙が貼られていたんだよ、殺害予告のメッセージが書かれた紙をね。妻に指摘されるまで気づかなかった」
メッセージを書いた紙をお父様の背中に貼った……?
そんな小学生のイタズラみたいな方法で殺害予告したのかよ。
「これがその紙だ」
お父様は俺たちに紙を見せてくれた。
お父様の背中くらいある大きな紙だった。
その紙には、血のような真っ赤な文字で殴り書きが……
『祝い殺してやる』
と書いてあった。
「…………」
「…………」
…………ん?
え? 祝い……?
呪いじゃなくて?
呪うんじゃなくて祝うんか?
楓ちゃんも真顔でその文字を見ていた。
俺たち3人の間に流れていた緊張感が急激に薄くなっていった。
「……うん、まあ……『呪い殺してやる』って書きたかったんだと思うが……字を間違えて『祝い殺してやる』になってるね」
お父様も冷静にそう言った。殺害予告を受けた本人であるがそこまで恐れや焦りみたいなものは感じられなかった。
まあ、そうだよな。こんな盛大に誤字った紙を貼りつけられたら恐怖より困惑が勝るわな。
真っ赤な文字で恨みが籠もったおどろおどろしい書体で書いてあるのにたった一文字誤字っただけで怖い雰囲気が台無しになってしまっている。
「漢字を間違えているとなると……子どものイタズラという可能性もあると思います」
俺は子どものイタズラなのではないかと推理した。紙を背中に貼るとかいうガキみたいなことしてるし子どものイタズラと考えるのが一番しっくりくる。
……が、俺の推理に対して楓ちゃんもお父様も首を傾げた。
「涼くん、この船に子どもは乗ってないよ。選ばれた上流階級の大人しか出席できない船上パーティーだから。参加者で一番若いのは私だと思う」
「そうなのか……」
楓ちゃんが一番若いとなると子どものイタズラという可能性はほぼなくなったか。
じゃあこの紙書いたの大人なのかよ、なおさらタチが悪いだろうが。いい年した大人がこんなガキみたいなことしてガキみたいな漢字ミスするのかよ。しかも上流階級の大人がかよ。世も末じゃねぇか。
「涼くんの言うように子どものイタズラであってほしかったですけどね。こんなバカな紙書くような人が船上パーティーに参加するとか考えたくもありません。ハッキリ言ってこれ書いた人相当頭悪いですよ」
本当にめっちゃハッキリ言ってるよ楓ちゃん。確かに俺もそう思うけれども。
呪うと祝うの違いもわからないアホか超うっかりさんかのどっちかだ。まあ字を間違えること自体は別にいいんだ。誰にでもミスくらいはある、人間だもの。
ただし、殺害予告したことは絶対に許せない。こんなの冗談では済まされない。
しかも楓ちゃんのお父様に殺害予告するとか、俺の心にも大蛇のような怒りが渦巻いた。
犯人は十中八九この船に乗っている。船旅が終わるまでに捕まえたい。
「……私はもともと敵が多いし、中条グループの社長として命を狙われる覚悟くらいはしている。
こんなバカに殺害予告されたくらいで船上パーティーを中止してたまるか。船上パーティーは予定通り行う。
私のことは心配するな、自分の身は自分で守れる。こう見えても武術には長けている。紙貼られた時は気が抜けてたがこれからはガチ警戒するから大丈夫だ。そして念のために単独行動も控える。パーティー会場には人がたくさんいるから極力そこにいるようにするよ」
楓ちゃんも賢三さんも鬼強いし、お父様もすごく強いのは納得だ。
大企業の社長となるとボディーガードを複数つけていることも多いだろうがお父様にはついていない。ボディーガードをつける必要もないくらい強いんだろう。
「そういうわけで、この船には危険人物がいる可能性があるからキミたちも十分に気をつけてくれ。
私からは以上だ。これ以上キミたち2人の邪魔をするつもりはないから安心してくれ。それでは失礼する」
お父様はパーティー会場に戻っていった。
俺と楓ちゃんの2人は、その場でしばらく動かずにいた。
おそらく犯人はアホだと思われるが、油断は厳禁だ。警戒心を最大まで高める。
俺たち2人は、周りに強固な結界を張るようなイメージで集中した。
中条グループの社長が、命を狙われている……それはつまり、お嬢様である楓ちゃんも狙われる可能性があるということだ。
それだけは絶対に許さない!!!!!!
楓ちゃんに危害が及ぶ可能性なんて、0.000000000000000000001%たりとも存在してはいけないんだ。楓ちゃんだけは絶対に安心安全じゃないと気が済まないんだ。
どこの誰だか知らんが、楓ちゃんには指一本触れさせないぞ。
「凉くん、私たちも行こう」
「楓ちゃん!」
ガシッと楓ちゃんの肩を持つ。
楓ちゃんとまっすぐ向かい合って見つめ合う。
「凉くん……?」
「楓ちゃん、何があってもキミのことは必ず俺が守るから!」
「―――……!」
言った直後、俺はハッとした。
いやいや、何を言ってんだよ俺……! 俺より楓ちゃんの方がはるかに強いだろうが!
守るって何を守るんだよ。俺に守ってもらう必要なんて一切ないじゃねぇか、バカか俺は。
キリッとキメ顔を作ってかっこつけて言っちまって、これは恥ずかしい。
俺は頭を冷やした後カーッと赤くなった。マジで恥ずかしい。
楓ちゃんは澄んだ瞳を大きく開いた後、ニコッと満開の笑顔を見せた。
「うん、ありがとう! 涼くん頼もしい!」
楓ちゃんはぎゅっと俺を抱きしめた。
柔らかい乳房の感触がむにゅんと俺を刺激する。
集中して気を引き締めないといけないのに、楓ちゃんの胸に勝てるわけがなく、俺はだらしなく緩んでしまう。警戒の結界がいとも簡単に破壊されて緩みきってしまう。
全身がゆるゆるになっている中、股間だけが強固なものへと変貌していた。




