映画の名シーンを楓ちゃんとやりました
―――ボォー……
大きな音を立てて、船が出航した。
3時間くらいかけて目的地の港に行くようだ。この3時間で船上パーティーが行われる。
俺たちはパーティー用の衣装に着替えた。
「涼くん、お待たせ」
「おぉうぅ……!」
部屋で着替えて出てきた楓ちゃんは真っ赤なドレス姿であった。スリットが入ったロングドレス。
ドレス姿の楓ちゃんに一瞬で目を奪われ、見惚れすぎて『おぉうぅ……』なんてマヌケな声を出してしまった。
豪華な船内をさらに凌駕する楓ちゃんの美しさ。これは一国のお姫様だ。
ゴールドのネックレスに大きく開いた胸元。谷間が少しだけチラッと覗いている。楓ちゃんいつも谷間がちょっとだけ見えるくらいの服よく着てるよな。俺がチラッとだけ谷間が見える状態が好きなのをわかってくれているのだろうか。
スリットから覗く魅惑の生足も反則級に艶かしい。清楚と色気が共存しているすばらしいドレスだ。
「楓ちゃん、すごく可愛いよ」
「ありがとう。涼くんもすごくかっこいいよ」
「そ、そうか?」
「うん、かっこいい!」
天使の笑顔でそう言ってくれた楓ちゃん。
俺も人生で一番いい服を着ているが、楓ちゃんに褒めてもらえると照れる。
「じゃあパーティー会場に行こうか」
「パーティー始まるまでもうちょっと時間あるからさ、会場に行く前に甲板行ってみない?」
「そうだな、行ってみようか」
俺たちは船の甲板に行くことにした。
―――ゴオオオォ……
「おぉー……」
「すごいね涼くん!」
「ああ、すごい」
豪華客船の船首の近く、甲板に立つ俺と楓ちゃんは大海原の絶景を眺めていた。
海も空もキレイな青。青、青、青だ。プライベートビーチで見た海とはまた違った魅力の海を教えてくれる。
そしてすげぇ風だ。船の進行に逆らうように強い風が吹き抜けていく。
楓ちゃんのスカートもヒラヒラと揺れる。今回は長いスカートだからこの前みたいに捲れたりはしないだろうが、スカートが揺れてるだけでもとてもドキドキする。
風で揺れるふわふわな長い髪を耳にかけながら妖艶に微笑する楓ちゃんの姿は俺の心をメロメロに焼き尽くした。
ああ、ロマンチックだ。このロマンチックな時間、永遠に続いてほしい。
「ねぇ涼くん、お願いがあるんだけど」
「なんでも言ってくれ」
こんなに可愛いお姫様のお願いとか、どんなお願いでも聞かないわけないだろ。
本当だぞ? 楓ちゃんの言うことなら本当にどんなお願いでも聞くぞ俺は。彼氏だしペットだからな。海に身を投げろって言われても言う通りにしてしまいそうだ。
「私、涼くんとタイタニ◯クごっこがしたい」
「おうっ?」
タイタ◯ックごっこって……アレか。映画タイ◯ニックのあの名シーンをマネするヤツか。
女の子が船首の端に立って両腕を広げて風を受け、それを後ろから男の子が支えてあげるアレだ。
タイタニッ◯ごっこで何が得られるかというと、女の子は風になれるんだ。飛べるんだ。ロマンチックだ。
確かにロマンチックだが、まあ、縁起は悪いかもな。
あの映画は船が沈むヤツだからな。誰かに見られたら『沈んだらどうすんだよ!』とか言われるかもしれん。
…………この船、沈まない、よな……?
いや、沈ませない、絶対に。
「どうかな?」
「わかった、やろう」
縁起は悪いかもしれんが、楓ちゃんのお願いを断る選択肢なんて俺には存在しなかった。
俺もやりたい。俺も映画の主人公になりたい。俺も楓ちゃんを風にしたい。
「あ、そこまで危険な場所ではやらないから安心してね」
「お心遣い感謝しますお姫様」
「お姫様ってもう一回言って、涼くん」
「ステキですお姫様」
「ふふっ」
楓ちゃんは照れくさそうに笑った。可愛い。
可愛いしお心遣いもありがたい。船首の端っこ超怖いからな。あそこに立ったら足がガクガクしてくるからな。楓ちゃんの優しさがマジでありがたい。
メチャクチャなこともたくさんするけど優しい時はすごく優しい、そんな楓ちゃんが大好きだ。
俺たちは船首の甲板の上に立ち、前方の海から吹き抜ける風を受け止める。あまり端っこに寄らず、仮に転んだとしても海に落ちる心配はない場所。
そこで楓ちゃんは両腕を広げて、俺は後ろからそっと支えて、あの名シーンを再現した。
えっと……俺のポーズはこんな感じでいいのかな? 映画を観た記憶を頼りに再現しようとしているけどこんな感じだったと思う。
「楓ちゃん、これで大丈夫?」
「うん、大丈夫!! 見て見て涼くん! 私、空を飛んでるよ!!」
「ああ、飛んでるな! 楓ちゃん可愛い!!」
楓ちゃんはとても楽しそうに笑顔を見せてくれている。
無邪気で純真無垢な楓ちゃんも可愛すぎる。11年前に一緒に遊んだ記憶も脳裏に再生されて、俺も心が躍ってとても楽しくなってきた。
タ◯タニックの名シーン再現中に邪なことを考えるべきではないが、風で揺れて流れる楓ちゃんの髪、やっぱりすごくいい匂いだと意識せずにはいられなかった。
気持ちが最高潮に昂ったところで俺たちは唇を交わす。船の上でのキスは極上の甘さで蕩けた。
「そろそろ会場に行こっか、涼くん」
「ああ、行こう」
タイタニッ◯ごっこをしてキスもして、しばらくしてすごく恥ずかしくなってきた。
火照った顔をごまかすように、俺たちは船の中に入ろうとする。
「あ、ここにいたのかね、キミたち」
「!」
お父様が甲板にやってきた。
お父様公認の関係になれたとはいえ、キスをした直後にお父様に会うというのは……悪いことはしてないと思うがちょっと後ろめたいような気持ちが出てしまう。
何よりまだ顔に熱が帯びているからそれをお父様に見られるのが気まずい。でも、そんな熱い顔を見てもお父様は微笑ましそうにしていた。
「2人きりで仲良くしているところにすまないね。ちょっと楓と安村君に報告したいことがあるんだ」
「報告……ですか?」
俺が聞き返すと、お父様は深刻そうな表情をしていた。
俺と楓ちゃんとお父様の3人の間に流れる空気がピシッと引き締まった。
「実はな……あまり大きな声で言えないんだが……」
ゴクリ。
「父さんな、殺害予告をされたんだ」
!?!?!?




