豪華客船に乗りました
―――
本格的に夏休みが始まった。
猛暑でも関係なく修業を続けながら楓ちゃんを愛する日々を続けている。
「涼くん、海に行こうよ!」
!!!!!!
夕食後すぐに、天使の笑顔の楓ちゃんにそう言われた。
おや? デジャヴ……
いや、デジャヴというか確実につい最近も言われた言葉であった。
「え? 海ならこの前も行ったじゃないか。また行くというのならもちろん大歓迎だけど……」
最近行ったプライベートビーチ。灼熱の太陽、絶景の海、火傷しそうな砂浜、ひんやりとした木陰、滴る汗、そしてビキニな楓ちゃん、艶かしい肢体……思い出すだけで股間が熱くなってくる。
結局ほとんどセックスで終わったあの日。脳が溶けるほど興奮して大切な想い出だ。
あんなに幸せな想い出……行けるのなら何度でも行きたいと願う。
「うん、海水浴もまた行きたいけどね。今回はこれだよ!」
楓ちゃんは俺の顔面にスマホを見せつける。近いな。
その画面には、船の画像が映し出されていた。
もちろんただの船ではない。画像でもわかるくらいのとんでもなくでかい船だ。
これは、豪華客船だ。なんてリッチな響きなんだ。選ばれた人だけが乗れる船、俺には一生縁がないと思っている存在だ。
しかしなぜ豪華客船の画像を……?
「今回はこれに乗ろう!」
「なに!? こんなでっかい船に乗るのか!?」
「うん、ホラ!」
次に楓ちゃんが見せてくれたのは招待状だ。
豪華客船船上パーティーの招待状。『中条楓』の名前がハッキリと記されている。
「へぇ、こんなにすごそうなパーティーに招待されたんだな。さすが楓ちゃん」
「よく見て、涼くんも招待されてるんだよ」
「え、俺も!?」
よく見たら招待状は2枚あった。
もう1枚の招待状にはハッキリと『安村涼馬』の名前が書いてあった。もちろん俺の名前だ。
「な、なんで俺が……!?」
楓ちゃんが招待されたのはわかる。中条グループのお嬢様なんだからな。むしろ招待されない方がウソだろって思うくらいだ。
しかし俺が招待されたのはわからない。俺は楓ちゃんの彼氏であるが、そのことを知っている人は限られている。知ってるのは中条家の人や学校の生徒くらいか。
俺は庶民で一般人だ。普通に考えて豪華客船に招待されるわけがない。
「涼くんが招待された理由はね、私の権力でなんとかしたんだよ」
そうか、納得した。楓ちゃんの権力があればだいたいのことはなんとかなりそうだもんな。
「楓ちゃんが俺を招待したということか」
「うん、涼くんがいないと私寂しいから。ていうか豪華客船だろうと涼くんがいないところとか興味ないんだよね、私。招待というより強制だから。いいよね、涼くん」
「―――……っ! も、もちろん喜んで行かせていただきます!」
またしても楓ちゃんは俺の心臓にクリティカルヒットするようなことを言った。
ハートマークがついた矢が心臓ど真ん中に突き刺さって貫通している。1本じゃなく今まで刺さった分も何本も。
この矢、楓ちゃんは一体何本持っているのだろうか。いや、きっと無限に持ってるよな。いくらでも無限に直接刺してくるよな。
「あ、それからね」
「うん」
「おじい様は他の用事があって来れないけど、お父様とお母様は来るよ」
「そ、そうなのか……! 楓ちゃんとお付き合いさせていただいておりますってちゃんと挨拶しなくては……今から緊張してきた……」
「大丈夫だよ涼くん。涼くんはお父様とお母様に会ったことあるでしょ? あの頃とほとんど変わってないから」
11年前、楓ちゃんと初めて出会ったあの日。確かにお父様とお母様に会った。あの時はまさか大企業の社長だとは思わなかったが、ステキなご両親だなということはちゃんと覚えている。
あの1週間、ずっと楓ちゃんと遊んでいてご両親とはほとんど話していないのでどんな人なのかはよく知らない。
「お父様はずっと忙しくて日本中を飛び回ってて私も最近はほとんど会えてないけど、たまに連絡は取り合っているんだ。これはお父様の最新の写真だよ」
楓ちゃんはそう言ってスマホの画像を見せてくれた。
中条グループの社長であるお父様の姿が映されていた。
昔会った記憶を思い出す。俺の記憶とお父様の画像はほぼ合致した。少しお年を召されてはいるが確かに変わってない。
11年ぶりにご両親と会うことになった。緊張や不安もあるが楽しみだ。
―――
そして豪華客船船上パーティーが行われる当日がやってきた。
午前9時、天気は快晴。俺と楓ちゃんは港で豪華客船の目の前にいた。
でっかいなぁ。遠くから見てもでっかいし近くで見るとさらにでっかい。海の上にホテルが乗っている。顔面を真上に向けても船のてっぺんが見えない。船には詳しくないからでかいとすごいしか感想が出てこなかった。
「すごくおっきいでしょ? 涼くん」
「あ、ああ。すごく大きい……な……」
となりにいる楓ちゃんもおっきいと言っていた。俺は大きいという言葉とともに楓ちゃんのでっかい胸に視線が吸い寄せられてしまった。
これからご両親に挨拶するんだぞ……今は邪な気持ちを捨てないと……
ドキドキしながら楓ちゃんと並んで船に乗り込んだ。
船の中も高級ホテルのようにすごかった。
楓ちゃんがスマホで合図を送ると、すぐにお父様とお母様がやってきた。
11年ぶりの再会。お父様は賢三さんにそっくりで威厳やオーラがやばかった。さすが社長。
お母様は楓ちゃんにそっくりでとんでもない美人さん。さすが社長夫人。
さあ、挨拶して、楓ちゃんと真剣にお付き合いしていることを報告しなくては……!
「あの! 僕は、楓さんと……!」
限界まで頭を下げて勇気を振り絞る。
すると、頭上から穏やかな声が聞こえてきた。
「ははは、大丈夫だよ安村君。ちゃんとわかっているから。キミが楓を大切にしていること、楓がキミを大切にしていることをね」
お父様はとても優しい目をしていた。
「そ……そうなのですか?」
「ああ、楓からちゃんと聞いているよ。
連絡を取り合っている時、楓はいつも嬉しそうに安村君の話ばかりしているんだ。自分の話はほとんどせず、涼くんが、涼くんがってね」
「お、お父様! 恥ずかしいですからそれは言わないでください……!」
楓ちゃんは顔を真っ赤にしてあわあわとしていた。
可愛すぎる。ご両親の前だけどすごく抱きしめたいと思った。




