プライベートビーチに行きました
今日は学校の終業式。今日から夏休みだ。
楓ちゃんにとっては高校生として最後の夏。俺も楓ちゃんが卒業したら学校の仕事は退職になると思うので、今年の夏は特別だ。
去年の夏は修業漬けで体力なくてロクに動けなかったが、今年は違う。修業にも慣れてきて体力も増強した。今年は楓ちゃんと一緒に最高の夏にしたい。
夏休みのスタートにふさわしい快晴だ。雲は一つもない。俺と楓ちゃんは夏の空気に包まれながら学校の校門を出た。
「涼くん、海に行こうよ!」
!!!!!!
校門をくぐった瞬間、楓ちゃんが言った言葉で俺は心臓がドキッと跳ねた。
海……海か……
ということは、水着……!
ほとんど修業に費やしたこの1年間を経て、海というワードはこの上なく魅力的に感じた。
正直に言うと、飢えている。楓ちゃんと青春を楽しむ的なことに。
「いいな、海! 俺もぜひ行きたい! で、いつ行こうか」
「今行こう! 今すぐ!!」
「え、今?」
「うんっ!」
楓ちゃんは瞳をキラキラと輝かせ、俺は吸い込まれそうになる。
終業式が終わった直後に海に行くとは。さすが楓ちゃん、行動力がハンパじゃない。
送迎の車が迎えに来てくれた。運転手の中山さんが頭を軽く下げる。
俺たちも車に乗り込んだ。
「では中山さん、お願いします」
「かしこまりましたお嬢様」
車が発進した。いつもと違う道を走る。このまま海に行くのだろうか。海に行こう! からの海へ出発までの流れが早すぎる。
『お願いします』の一言だけで中山さんはすべてをわかってくれている様子だった。事前に海に行く予定を伝えてあるようだ。
時間は有限、夏は長いようで短い。1秒でも無駄にしたくないという楓ちゃんの気持ちが伝わってくる。俺もその気持ちを強く持とうと誓った。
車で1時間くらい走ったかな。
ついに海に到着した。
中山さんは他に仕事があるとのことですぐに帰った。俺と楓ちゃんは2人きりになった。
海に来たんだからまずはじっくりと海を観賞したい。
なんて絶景な海なんだ。広い、どこまでも広い。右を見ても左を見ても、180°グルンと首を回してもどこまでもキラキラの砂浜じゃないか。どこまでも続いてるんじゃないかと思わせる砂浜だ。
そして見事なマリンブルーの海。うるさすぎず静かすぎずなちょうどいい心地良い波の音が押し寄せてきている。
想像をはるかに超えた海の光景に、俺は感動して震えるほどだった。
でも、この海を見て気になることが一つ。
誰もいない。
この広い広い砂浜に、俺と楓ちゃん2人っきり。俺たち以外に誰もいない。
これだけの見事な海で快晴なんだからビーチパラソルやビーチボールやサーフィンなどなどがたくさん見られてもおかしくないはず。
なのに人の気配が一切ない。海鳥が飛んでいて、ちょっと鳴き声が聞こえてくるくらいか。完全に自然しかない。人工的な要素が何も見当たらない。
「どう? 涼くん」
「す、すごいな……!」
「ふふっ、涼くんのその驚いてる顔が見たくてここに連れてきたんだよ。私の期待以上の反応をしてくれて嬉しいな」
楓ちゃんは満足そうにクスクスと微笑んだ。俺も楓ちゃんの満足そうな顔が見れて嬉しいよ。
「でも、俺たち以外誰もいないんだな」
「うん、当然いないよ? だってこの海は、中条グループのプライベートビーチなんだから」
「プライベートビーチ!?」
「うん、私たちだけの海だよ」
「え、マジで!? だって本当に広いぞここ! ま、まさかあそこから、あそこまで……!?」
目で追い切れないほどに先の先まで砂浜が続いてるんだぞ。俺は右を指さし、腕をグルンと動かして左も指さしながら楓ちゃんに尋ねた。
「うん、ぜ~んぶ、私たちのものだよ」
楓ちゃんは至極当然と言わんばかりの笑顔で答えた。
俺は絶句する……この浜全体を所有する中条グループの恐るべき権力……!!
本当にすごいな……俺にはピンとこなくて語彙力が死んですごくすごいとしか言えないくらいすごい。
「さあ、涼くん。せっかく海に来たんだから見るだけじゃなくて感じてみようよ!」
楓ちゃんはローファーもソックスも脱いで裸足になり、海に向かって走り出した。砂浜を駆けるピチピチの白い生足に蕩けて悩殺される。
楓ちゃんのスピードならあっという間に波打ち際までたどり着く。
「キャッ、冷た~い!」
ザザーンと押し寄せる波が楓ちゃんの艶かしい素足をくすぐり、楓ちゃんはキャッキャッとはしゃいだ。
可愛い。あまりにも可愛い。制服姿の美少女が海で楽しそうにはしゃぐ姿、あまりにも美しく尊い。見てるだけで視力が上がっていくのを感じる。けっこう遠いけどよく見える。視神経が増強されて目にしっかりと焼きつけていく。
海風で揺れる、長い金髪。ふわりと舞う美しい髪は絶対にいい匂いがする。いい匂いが風に乗って俺のいる場所まで届く気がする。風で乱れた髪を指でかき上げて耳にかける仕草が、絵に描きたくなる景色だ。
「涼くんもおいでよ~! 水が冷たくて気持ちいいよー!」
「あ、ああ、今行く!」
可愛すぎて見惚れていた俺は指先すら動けないくらい魅了された。ハッとした俺は急いで駆け出す。
俺が走ってくるのを見て妖艶な笑みを浮かべた楓ちゃんは、クルッと俺に背中を向けて走り出した。
「ふふふっ、涼くんっ! 私を捕まえてごらん!」
えっ、海で追いかけっこか!? 受けて立つぞ。
「ま、待ってくれ楓ちゃん!」
波打ち際で楓ちゃんは逃げる。俺は追いかける。
バシャバシャと可愛い水しぶきを上げながら楓ちゃんは走る。どこを切り取っても息を忘れるくらい可愛い。
楓ちゃんが作る水しぶきの一粒一粒が、俺の目にはキラキラ輝く宝石のように映った。
「楓ちゃん、そんなに走ったら制服が濡れちゃうぞ!」
「平気平気! 濡れないもん!」
それ濡れるフラグなんじゃないか!?
でも楓ちゃんの身のこなしなら確かに全然濡れる気がしないな。夏服の半袖制服は全然濡れていない。もしかしたらブラジャーが透けるかもといった俺の期待は儚くも打ち砕かれている。
そして、やっぱり全然追いつけない。去年までの俺ならとっくに膝をついて降参してるところだが、修業で挫けない精神力を鍛えた俺はあきらめずにひたすら追いかけ続ける。
これだけ駆け抜けてもどこまでも砂浜続いてるよ。やっぱり広いなこのプライベートビーチは。
―――ビュウッ
その時、海風が吹いた。
強めの風が、前から吹いてきて俺たちを吹き抜ける。
彼女の制服のミニスカートがヒラヒラと揺れた。大きく揺れたスカートは、ふわりと捲れ上がる。
「!!!!!!」
スカートの中身は、男子禁制の禁断の領域。
楓ちゃんのパンツがチラリと覗いた。み、見ちゃった……見えてしまった。




