楓ちゃんとラブホテルに行きました
いつも俺を癒してくれる天使の楓ちゃん。
いつも俺を狂わせる小悪魔の楓ちゃん。
どっちも俺が愛してやまない楓ちゃんだ。今日のデート、どっちの楓ちゃんもたくさん見ることができた。
カフェでスイーツ食べたのも、ショッピングで焦らされたのも大切な想い出だ。
そろそろ日が暮れてきた時間。
ついに俺たちは、ラブホテルの前に来ていた。
ここもかつてのトラウマの場所。貝塚メノウに殴られ、拉致された場所。
しかし怖いとか辛いなどという感情はもうどこにも存在しない。楓ちゃんがいてくれるからだ。
今の俺にあるのは、性的な欲求だけだった。それ以外のものを入れる余地などどこにもない。
「行こう、楓ちゃん」
「うんっ!」
楓ちゃんと手を繋ぎながらラブホテルに入った。
今日の上書きデートはついにクライマックスに突入した。
「楓ちゃん、ホテル代は全部俺が出すから」
「いいの?」
「楓ちゃんには世話になりっぱなしだ。これくらいはさせてくれ」
「わかった、ありがとう涼くん」
笑顔の楓ちゃんにギュッと抱きつかれる。むにゅっと形を変える、豊満な乳房の柔らかい感触。
ラブホテルの中で味わう楓ちゃんの胸の感触は、より一層股間に強烈な電撃を突き刺した。
まだ部屋にも入ってないのにすでに爆発しそうになっている心臓と股間。これからが本番だからな、本番前から暴発だけはするなよ頼むから今は耐えろ。ペットは待てをするのが鉄則、解放するその時まで待て。
えーっと、まずは受付でパネルを操作して、部屋のキーを受け取るんだな。前は腹パンされて連れ込まれただけだからこのホテルの利用は実質初めてなんだよ。
「前に俺が連れ込まれた部屋と同じ部屋でいいんだよな?」
「うん、そうだよ」
楓ちゃんはハッキリと言い切った。上書きデートだからな、同じホテルかつ同じ部屋であることが最重要だよな、楓ちゃんなら。
まあ部屋くらいは覚えているからその部屋で受付しようとする。
―――が。
「……楓ちゃん、前に俺が行ってた部屋、すでに先客がいるようだ」
「えっ、マジ……?」
「マジだよ、ホラ」
ラブホの部屋の状況を確認できるパネル。空室なら青、使用中なら赤で表示されるようだが、以前俺が連れ込まれた部屋は赤になっていた。
現在、他のカップルがよろしくやっているのだろう。当然出ていけと言うわけにはいかない。これは早いもの勝ちだから順番は守るべきだ。
そのカップルが終わって出てくるまで待つという選択肢もなくはないが、いつ終わるのかがわからないし宿泊するという可能性も十分にあるので空くまで待つってのはちょっと賢い選択ではない。
そもそも事前に予約しとけよという話だが、デートが楽しすぎて忘れていた。中条グループの権力ならさっきのアパレルショップみたいにこのホテル自体を貸切にすることも可能だっただろうが、今それを考えてももう遅い。
「そんな……同じ部屋で上書きしたかったのに……」
楓ちゃんはガックリと肩を落とした。
「でも楓ちゃん、満室というわけではなくて空室もいくつかあるから! 仕方ないから他の部屋に入ろう!」
「うん……ごめんね涼くん、やっぱり昼間に行っとけばよかったかな。昼間なら空いてたかもしれないし」
「昼間行けばよかったっていう後悔は今してもどうにもならないからやめよう。ていうか俺は別にどの部屋でもいいし謝る必要はないぞ」
「うん、わかってるけど……やっぱり同じ部屋がよかった。どうしてもその場所で上書きしたかった」
徹底的に上書き保存しないと気が済まない楓ちゃんはやっぱり残念そうであった。俺とのデートで楓ちゃんをガッカリさせるようなことなどあってはならないと考えている俺はここは男として奮闘しなければならない。
「楓ちゃん! 一番良い部屋が空いてるぞ! このホテルで一番高くて広い部屋!! そこにしよう!」
「一番良い部屋……? こんなに高い部屋でいいの?」
「いいに決まってるだろ! 上書きするなら同じ部屋よりもっとランクが上の部屋でした方がいいんじゃないか? 俺的にはその方が満足できる!」
「……それもそうだね! ありがとう涼くん!!」
楓ちゃんは笑顔に戻ってくれた。よかったよかった。
本当に高い部屋だが、俺が払うって言っちゃったし男に二言はない。楓ちゃんを笑顔にできるんならこのくらい安いもんだ!
受付を済ませてカードキーを受け取り、いざ部屋へ。
このホテルの最上階にある部屋みたいなので、楓ちゃんと手を繋ぎながらエレベーターに乗って上がっていく。
エレベーターの上昇と比例して心臓の脈動も上昇していく。
「楽しみだね、涼くん」
「ああ、すごく楽しみだ」
「ドキドキしちゃうね」
「ああ、すごくドキドキする」
なんて会話をしているうちにチーンと到着した音がして、エレベーターの扉が開いた。
このホテルの最上階は、他の階よりも明らかにゴージャスでリッチだった。天井も床も気合い入ってるな。
エレベーターから降りてすぐのところに部屋があったので、カードキーで開ける。
やはりすごく広い部屋だ。
楓ちゃんの部屋の方が広いけど、ここも広い。高級ホテルのようだ。
そして、夜景を一望できる大きな窓があった。
楓ちゃんと並んで夜景を眺める。ちょうど夜になって、地上には小さな光がたくさん広がっていた。
「夜景、すごくキレイだな楓ちゃん」
「キレイだね涼くん」
「俺、こんなに高いところからこんなにキレイな夜景見るの初めてかもしれん」
「私はこれくらいの夜景なら何度でも見てるけどね」
「まあ、楓ちゃんはそうだろうな」
大金持ちのお嬢様だからな。高級ホテルの絶景くらいいくらでも眺める機会はあるだろう。外国の大都会だってその美しい瞳でたくさん拝んでいるのだろう。
「……でも、今まで見たどの夜景よりも、今夜の夜景が一番ステキだなって思う」
「そうなのか?」
「うん。どの夜景が一番キレイかというより、涼くんと一緒に見れるっていうことが一番大切なんだよ」
「楓ちゃん……」
どんどん光が増えていく町並み、雲一つないキレイな夜空。楓ちゃんの美しい姿は、その背景にバッチリ似合っていた。
「……じゃ、じゃあ、私、シャワー浴びてくるね……」
ドキッ!!
「あ、ああ」
楓ちゃんの艶のある唇から発せられたシャワーというワードに必要以上に反応してしまった。
心臓の鼓動も今が最高潮。心臓の太鼓が壊れる。
もう何度も経験してるのにこのザマ。今からこんなんで俺大丈夫なのか。
深呼吸して、精神統一を頑張った。
「わあ、涼くん! 来て来て! すごいよこれ!!」
シャワーを浴びにバスルームに行った楓ちゃんに呼ばれて俺はまた心臓が跳ねた。
反射的にすぐに呼ばれた方向へ行く。
「ホラ涼くん、見て見て」
「おおうっ……!?」
バスルームが、透明だった。
ガラス張りになっていて、中が丸見えだった。浴槽もシャワーヘッドもすべて見えている。高級感がすごいピカピカでゴージャスなバスルームだ。
マ、マジか……この部屋、バスルームがスケスケじゃないか。
スッケスケだ。




