第2話 転生する俺
かなり長い間寝ていた。
俺は相変わらずの状況にうんざりしていた。
寝てみて気づいたことがある。
俺は自分の名前を思い出せなくなっていることに気づいた。
「マジにやばい状況らしいな」
俺は今更焦ってきた。
黒ゲルから抜け出す手立ては未だ見つからない。
何となくわかってきた。
これは、異世界転生の類だ。
そうでもないと説明がつかない。
まず、現実的に急にこのような状況になることは無い。
そして、名前だけを忘れることはありません。
というわけだ。
『やっと気づきましたね』
幻聴が聞こえてくる。
『そろそろあなたの転生先を決めましょうか』
幻聴が聞こえてきた。
『どうです?希望とかあります?ダンジョンに生まれることは確定してますけど』
幻聴と会話しよう。
「うーん」
『うーんだけでは分かりません。私はあなたの心が読める訳ではありません』
幻聴がしつこい。
「レベルアップしたいです」
『大体の生き物がそれをできる世界に行く予定ですけど』
幻聴に注文をつけよう。
「じゃあ、レベルアップ効率を上げたいです。あと、スキルみたいなのもいっぱい使ってみたいです」
『ほうほう、いいですね。他には?』
幻聴がさらに聞いてくるので、答えてあげよう。
「人のものを盗ませてください」
『悪いですね。いいですよ』
幻聴が少し黙った。
♪ミョウミョウミョウミョウミョウ
バカ音楽が流れてくる⋯。
俺は正気に戻った。
「あれ?」
どうやら俺は、寝ぼけて幻聴と会話していたようだ。
だが、無駄な会話でもなかった。
さっきまで俺はかなり慎重に行動していたが、ちょっと大胆な行動を取ってみることにする。
「大胆!」
俺はエビの如く振動して黒ゲルを掻き分ける。
「ウオオオオオオオオ!」
どんどん黒ゲルの中を移動している気がする!
『やめてください!』
うわ、つまりこれまでの会話は幻聴ではなかったというわけか。
あれ?でも、あのバカ音楽は何だったんだろうか。
あれのおかげで幻聴から覚めたと思っていたのだが。
「あの音楽は何だったんだ?」
『あれはよくある電話中席を外す時に流れる音楽です。大体要望を聞いたと思ったので離席してました』
誰があの曲を選んだのか。
『それで、あまり動かないで欲しいんですけど』
「何でだよ、理由を説明せよ」
『今あなたは転生してる途中なんです。あんまり動くと処理が遅れるだけなので』
「分かりましたけど」
俺はかなり疲れていたので早く終わらせて欲しくなり、素直に従うことにする。
『暇なら会話ぐらいは付き合ってあげますけど』
仕方ないので人生の振り返りをすることにした。
どこまで話したか⋯⋯。
「俺が中学の時からの話でもしようかな」
『何で中学からなんですか⋯⋯?』
無視して話をする。
「中学では部活動に熱中していた気がする」
『何部だったんですか?』
「演劇部。演劇部に入ってからは一日二時間ウサギ飛びで家の近所の神社まで通って、御神木の裏でタイヤ引きずりながらボイトレしてた」
その時の名残でその後の人生めちゃくちゃ脚太いエビ好き男として人に認識されるようになってしまったし、そもそもそのトレーニング期間に噂になっていた神社に住み着く奇声をあげる妖怪が自分のことであると気付いたのが遅く、1年間ずっとその都市伝説を放置していたのは俺の人生最大の後悔であった。
『それ意味あったんですか?』
幻覚が嫌なことを言ってくる。
「ボイトレはだいぶ効果あったな」
別に全て答える義務もないだろう。
『⋯⋯そろそろ転生するので私は席を外します。寝といてください』
その言葉を聞くとなぜか自然と眠くなってきた。
「あ、最後に一つだけ注文していいか?」
『⋯⋯なんですか、注文って。転生先のことなら先に言っといてくださいよ』
よかった、まだ聞いていてくれたようだ。
「お前と意思疎通を取れるスキルが欲しい。異世界で1人で知り合いを作るのは流石にハードルが、高い!」
『⋯⋯⋯』
微妙にバカにする感じの幻聴は伝わってきたが、聞いてくれたのだろうか⋯⋯。
そんなことを考えながら、俺は深い眠りに落ちていった。
二話 終わり__________
以下作者補足
こんにちは。
注意としては、『謎』の声は別に心を読める訳ではない。
穴ガタガタには無意味な話だそうですが。
人の心を読める人とはなかなか友達にはなれないとは思う。