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ep91 三度目の世界での再会③後編 もうひとりの兄

最後に次回以降の投稿『フォーレ視察編①~⑥、まとめ』に関する投稿日時のお知らせがあります。

少し変則的な一日複数投稿となりますので、どうぞよろしくお願いします。

◇◇◇ ガーディア辺境伯居館 シェリエ 九歳


私は一生分の驚きを、今日で二回も体験した気分でした。しかもはしたなく、大声まで上げてしまって……。


まさかあの綺麗な女の子がリュミエールさまだったなんて……。

もの凄いショックでした。


まるで今まで抱いていた恋心が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちるような気持になり、ただ呆然となるしかありませんでした。


確かに王都の上流階級の方々には、そのような奇特な趣味をお持ちの方もいると聞いたこがありますが……、今の私には全く別の世界のお話です。


そのあと、酷く慌てた様子のリュミエールさまが、お手紙の件をお話しされていた気もします。

きっと『特殊なご趣味』に関して、私が驚かないように事前に仰っていたに違いないわ。

わ、私も……、貴族の端くれとして心を広く持たなければ……。


ところが今度は、見たこともない大きさと輝きを持つ魔石を、どこからともなく取り出され……。

でも、どうやって出されたのかしら? 手には何も持っていらっしゃらなかった気がするのだけど……。


じっくり見ると魔石はとても厳かで、もの凄い力を秘めているような気がして、思わず目が引き寄せられてしまいました。


え? リュミエールさま、何か仰いました? 

『シンエンシュ』の魔石ですか? そんな名前の魔物って聞いたことが……。


「!!!」


違うわ! 『深淵種』の魔石ですって!

そんなものが手に入るなんてありえないわ!


決して倒すことができない伝説級の魔物を倒すことでしか得られないものを、どうして?

そんな物、王国中探してもある訳がないわよ!


ここで私はまた、はしたなく大声を上げてしまいました。


「今日は貴方に、俺の真実をお見せしたいと思って、多少の無理(女装)をして此方に伺いました。

どうか俺の話すことを、冷静に聞いてほしい」


「は、はいっ、たとえどのような真実(それが女装趣味)でも、もう驚きませんわ」


「シェリエさん? もう一度言いますが、この姿は貴方に会うために不本意ながらしているものですよ。

俺に女装趣味はありませんからね」


「!!!」


そうなんですか?

でも私も見かけも年齢も子供ですが、心だけはもう子供ではないつもりです。

きっと特殊な趣味も受け入れることができる思うのですが……。

何よりもこんなに奇麗なのに……、もったいないですわ。


「以前に俺は三属性ドライエッグとお伝えしましたが、実は違います。

もうちょと多くの属性を使えるんです」


「そ、そうなんですの? まさか五属性ペンタグラムとか、ですか?」


上の空でそう言ってみたものの、王国の歴史の中でも五属性ペンタグラムなんて伝説上のもので、通常ならあり得ない話だと言うことは重々承知しています。

唯一の例外、大嫌いなあの男を除いては……。


『何であんな男に五属性ペンタグラムが……』と思う僻みが、一層あの男を毛嫌いしている理由の一つだと、悔しいけど私にも自覚はあるもの。


なのでせめて同格でいてくだされば……、それは私の願望に過ぎません。

そんなことあるはずが……。


「あ……、もうちょと上かな?」


「ですよね……、え? ええええええっ!」


正直言ってもう訳がわかりません。

そんな所持者の話は伝承ですらなく、あくまでも魔石が八属性あるため、学術上の仮定として六属性ヘキサグラム七属性アルカンシエルが唱えられているだけですわ。


「俺は属性で言えば六属性ヘキサグラム、魔法の種類で言えば七種類アルカンシエルなんだ」


「……」


そんな……、あり得ない話ですわっ!


「この力のお陰で、到達不可能と言われている魔の森深部まで行けるんだ。

そこで魔物と戦い、今のところ六属性ほど深淵種の魔石を手にするまでに至った。このことは誰も信じてくれない話だけど、その証拠として今日はこれを持って来たから」


そう言われると、更に神々しいまでの輝きを放つ魔石が三個追加された。


こんな可愛いお姿なのに、深淵種と戦って?

そんなこと、あるはずがない!

だけど、であればこの魔石どう説明するの?


テーブルに並べられた六個は全て異なる属性を示す神秘的な輝きを放ち、もう目が離せなくなると同時に、少しだけ心が落ち着いてきた気がする。



◇◇◇ ガーディア辺境伯居館 リーム 十二歳



一心不乱に深淵種の魔石を見つめるシェリエを見て、少しは本来の彼女が『戻ってきた』と思った俺は、目的としていた話題に移ることにした。


「シェリエさん、今日は驚かせてばかりで申し訳ない。でも俺が貴方に会いに来た本当の理由、それはここからなんだ」


「……」


そう言うと彼女は顔を上げ、理性に満ちた瞳で俺を見つめてきた。

うん、多分だけど『戻っている』かな?


「今日は貴方に、俺が一体何者であるか、そして俺が何をしようとしているかを伝えに来ました。

そしてこの先、貴方が巻き込まれるであろう危険を告げ、望んでいただけるなら仲間として迎えたいと思っています」


「ふふふ、それで先ずは手の内を見せられた、そういう訳ですね?」


ははは、これはもう本来の彼女の口調だな。

さて、勝負はここからだ。


「当たって遠からず、といったところかな?

もうひとつ手の内をお見せしたいけど、無属性魔法の空間収納はご存じですよね?」


「もちろんですわ! そのレベルによって収納できる容量も異なり、とても稀有な魔法と理解しています」


「ははは、流石だね。ただ俺の空間収納魔法は特殊でね。特殊な点その一として、収納される空間の中に入ることができるんだ」


そう言った瞬間、彼女は目を丸くして驚いていた。


「えっ? そんな話、聞いたことがありませんが……」


だよね、俺も聞いたことがないし。

ただ彼女は、聞いたことが無いと言いつつ……、興味のあまり無意識に身を乗り出している。


これなら冷静に見てもらえるだろうな。


「じゃあ見てもらうのが一番だね。今からここに入り口を展開するので、そこから入れば中が見えるよ」


「はい……、あっ!」


先ずは彼女の目の前に並ぶ六個の魔石を四畳半に再度収納したため、思わず彼女声を上げた。

続けざまに俺はゲートを開き、四畳半の中に移動した。


すると……。

なんと彼女は、何ら躊躇ためらうことなく俺に続いて中に入って来た!


さすがだな……、これまでなら誰もが、最初は躊躇して入ることに戸惑うのに、彼女には全く迷いがない。


「此処が……、あっ、本当ですわ! 先ほどの魔石がここに。ほ、本当に中に、これは凄いわっ!」


彼女は中に入ると早速ふわふわと宙に漂う魔石を確認し、歓喜の声を上げていた。

探求心モード全開の顔で。


「そして特殊な点その二、この空間は収納するだけでなく、ある地点ともう一つの地点を結ぶ結節点ゲートでもあるんだ。なので一方通行だけど、俺がこの空間を開いた場所から、もう一つの場所に移動できる」


「???」


彼女は一瞬だけ不思議な顔で沈黙したが、次の瞬間には驚きと喜びに満ちた顔に変化していた。


「凄いっ、凄いっ、凄いっ! そんなことを示した論文や文献を、私は……、今まで見たことがありませんわ!」


「うん、だから俺は、自身の命を預けられる仲間にしか、この話をしていない」


そう言った瞬間、彼女は含みのある笑みを浮かべた。


「そこまで仰るからには、私に何をお求めですか?

たとえ文通相手とはいえ、それなりの代償なくここまでのお話をしていただけるとは思いませんが?」


ははは、やっぱり見かけは子供でも、彼女の思考は大人と変わらない。

しかも極めて優秀かつ油断のならないレベルの……。


「そうだね……、これから俺の話すことを、偏見や感情を取り払って真っすぐに受け止めてほしい。

そして話した内容を冷静に判断してほしい。これぐらいかな?」


そう言うと彼女は、年相応とも言える可愛い、きょとんとした顔になった。


「それだけ……、ですか? 『言ったことを信じろ』とは仰らないのですか?」


「貴方は聡明な人だからね。外見や年齢だけで判断を誤る者は多いだろうけど。

たとえ俺から言われた言葉でも内容に『理』がないと判断すれば、きっと貴方は信じないよね?」


そう言うと彼女は一瞬驚いたあと、何かを納得したかのようにクスリと笑った。


「ふふふっ、アイヤールさまの仰っていた通りですね。リュミエールさまこそ『外見や年齢だけで判断すると痛い目に遭う』お方ですよね? 

私たちは似た者同士ということですわね?」 


ちっ、商会長……、そんなことまで彼女に。

ただ俺は優秀なのではなく転生による経験があるだけ、言わば答えを知っているだけなのだが、この話はまぁいいか。


「以前に商会長が伝えた俺の出自に間違いはないよ。ただ重要な一点が抜けているだけで。

今現在、俺は王国から辺境伯の子弟として騎士爵を賜り、七種類アルカンシエルの力で開拓した魔の森深部の領有を認められている」


そこまで言うとシェリエは大きく目を見開いた。

そのあと俺を見つめ、目まぐるしく表情を変えたあと、大きなため息を吐いた。


「そういうことなのですね……、お兄さま……」


「!!!」


このヒントでそこに辿り着いたのか!

驚くべきことだな。


「私だって分かります。この国で辺境伯に任じられているのは四家のみ、その中でも魔の森に領域を接しているのはガーディア辺境伯家だけです」


ここまで言うと、彼女は少し口元を歪めた。


「そして……、お父さまが『恋多き方だった』お話は私も聞き及んでおりますもの」


ですよね〜。

父の噂を知っていれば、どこに子供が居てもおかしくないと理解できる。

俺自身、今知っている以外にも兄弟姉妹がいることは、バイデルから聞かされたことがある。


「それにあの男(ルセル)の元を去ったバイデルが、わざわざ私にアスラール商会長を通じてリュミエールさまを紹介してくれたのも、そう仮定すれば筋が通ります」


そして今度は、俺を見つめて悪戯っぽく笑った。

まるで謎解きを楽しんでいるかのごとく。


「四点目の理由として、赤の他人である私に対し、ここまで秘密を明かした上で助けたいと仰ることも、考えてみれば色々と不自然過ぎますわ」


「……」


すいません、あまりにも見事な推測に、もはや……、ぐぅの音も出ません。

彼女の頭の回転の速さを、誰よりも知っているはずの俺ですら、彼女を『まだ九歳』と見くびっていたのかもしれない。


「でも……、すっごく悔しいですわ」


ころころと表情を変えていたシェリエは、いつの間にか今にも泣きそうな顔になっている。

やばいな、何か不味いことをしたかな?

ここは何とかフォローしないと……。


「いや、騙すつもりはなかったし、真実を小出しにして少しずつ信頼を得たいと……」


「そう言う意味ではありません!」


そう言うとシェリエは、突然俺に抱き着いてきた。


「えっ? あ、その……」


「ここを出れば……、『優しいお兄さま』を、敬愛する……、妹として……、努力します。でも、今は……」


切れ切れにそういうと、突然一気に泣き始めた。


「とても悔しくて……、悲しいですっ。

どうしてっ! どうして、お兄さまやあの男にはそんな力があって、私は無力なのですか?

どうしてっ! どうして、初めて本当に好きになった方が、お兄さまなんですか?

どうしてっ! どうして、未来のない私に対して運命はこのように残酷なのですか?

どうしてっ! どうして、お兄さまはそんなに優しいんですか? それじゃあ好きになっちゃいます!」


妹の心の叫びに……、ただ俺はまだ華奢な彼女を優しく抱きとめ、そっと背中をさすることしかできなかった。


「ごめん……、本当にごめん……。

だけどこれだけは言えるよ。俺はシェリエを大事に思っている。心から守ってあげたいと」


そう、俺にはあの頃(二度目)の妹の姿が、俺を支え続けてくれた彼女の笑顔が、今も心の中には明確に焼き付いている。


この場合、ごめんと言うのは正しくないだろう。

ただ俺は、彼女と接点を持つために『知っている』過去の未来を利用した。

これは非難されても仕方のないことで、俺が背負ってゆくべき業でしかない。


「ただこれだけは言えるよ。

シェリエもまた凄い魔法士になる、これは絶対だ。そのために俺は深淵種の魔石だって用意するし、シェリエの未来に期待し、この先は俺を助けてほしいと心から願っている」


そう言って優しく頭を撫でた。

それが嬉しかったのか、俺の言葉が嬉しかったのか、シェリエはいつしか泣き止み顔を上げた。


「ふふふ、お兄さまは鑑定魔法もお持ちなんですか? 私、信じちゃいますよ?」


まぁ……、鑑定魔法は持っているけど劣化版で人の鑑定はできないし、断言したのは歴史チートからですけどね。


ただ目に一杯の涙を溢れさせながら、それでも笑顔を見せる妹に対し、強く抱きしめて応えるしかできなかった。


「この先、ガーディア辺境伯家では大変な騒動が起きるだろう。賢明なシェリエなら気付いているよね?

ただ、その時になっても決して諦めないでほしい。俺が必ず助けに行くから……」


「信じてみます。お兄さまが私を助けてくれることを、そして私が、夢を叶えることができる未来を」


「うん、不穏な気配を感じたら、まず身を隠すこと。そしてアスラール商会を頼ってほしい。

先ずは自分を大事に、これは絶対だよ。そしたら新しい世界に迎えに行くからね」


そのあと、落ち着きを取り戻したシェリエにはドア越しにフォーレを見せ、いや少しの間だけ彼女は向こうに出て景色を堪能してもらい、俺のしようとしていることや理想を語った。

その実現にはシェリエの力が必要だとも……。


「お兄さま、私は今日、お兄さまから未来と希望をいただきました。

魔法学の研究に没頭して、未来のない自分の心を誤魔化す必要もなくなり、今日からは新しい未来を叶えるために好きな魔法学をもっと学びたい、心からそう思えるようになりました。なので……、待っています」



そう言って満面の笑みを浮かべた妹とは、近いうちに再会を期して俺は園遊会の会場を後にした。

これからは真っすぐに妹と向き合えることに、何か胸の支えが取れたような晴れやかな気持ちで。


そして……、遠くない未来に再会の日は訪れる。

動乱の戦火のなかで……。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回以降お届けする『間話5 フォーレ視察』、当初は一話で済ます予定でしたが、いつの間にか八話相当のボリュームになってしまいました。

そのため変則的ですが三日間に渡ってお届けしたいと思います。


<投稿スケジュール>

次回 (8/23) フォーレ視察①~③ 三話時間差投稿(8時台、12時台、19時台)

次々回(8/26) フォーレ視察④~⑥ 三話時間差投稿(8時台、12時台、19時台)

最後 (8/29) フォーレ視察まとめ 二話時間差投稿(8時台、12時台)


このフォーレ視察編は、がっつり内政パートになります。

この先に絡む内容もありますので、どうぞよろしくお願いします。

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