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ep81 巡礼者の訪問

この日俺は、リームとしては初めて魔の森の里に住まう獣人たちと対面した。

最初は疑心暗鬼、いや、敵愾心を剝き出しにしていた彼らも、いつしか大きく態度を変化させていた。

神獣という最強のカードによって……。


「実際に神獣様にお目に掛かるなんて、数百年振りの話じゃねぇのか?」


「だがよ、本当に神獣様なんだろうな?」


「そうだ! もし俺たちを騙したなら、今後は絶対にヒト種を信用しねぇからな!」


まぁ……、言いたい放題なのは仕方ない。

俺だって未だに信じがたいけど、客観的に見ても事実だと思えるんだから。


「先ず言っておく、俺はかつてお前たちの同胞からから神獣を描いた絵を見せてもらったことがある。

もし違っていたら、俺もお前たちの同胞に騙されたことになるな」


これは事実だ。

ただ……、今の俺ではなくルセルとしての俺だけどね。


「そしてもうひとつ、俺は偶然にも魔の森深部で、深淵種と戦う神獣に出会った。

神獣以外で深淵種と渡り合える存在に心当たりがあるのか?」


「「「それは違う!」」」


何が違うんだ?

全員揃って否定して来たが……、俺の言葉に何か間違いがあるとでも?


「「「神獣様だ!」」」


あ……、そういうことね。

最初は気を付けていたけど、つい忘れてた。

この分だと『飼っている』なんて表現したら激昂げきこうされるだろうな。


気を付けないと……。


「そして最後に、フォーレではお前たちの同胞は、『神獣様』といって崇めているが、それが間違いだと言うなら俺も彼らに騙されたことになるな」


そう、最初は目立たぬように飼っていたんだけど、フェリスは何故かよく俺の後ろを付いて回る。

そのせいで一時は大騒ぎになったからね。


今となっては落ち着いたけど、毎日決まった時間に『礼拝』できるようにして、それ以外は神獣様の迷惑になるからと強引に礼拝を禁じたからに過ぎない。


獣人たちは何かにつけて、それぞれが捧げ物を持参してくるしさ……。



その後は、なんとか『早く合わせろ!』と逸る彼らをトゥーレからの『定期便』の時間まで押しとどめ、移動する者たちや物資の搬入出を終えたのち、最後に彼らを引き連れてフォーレまで移動した。


そして……。


「なっ! ここはまさか……」

「バカな……、そんなことが……」

「あり得ない! だがこの景色は、確かに……」


彼らはゲートを抜けた先に広がる光景に、まず唖然となって立ちすくんだ。

自身が魔の森に住まう者たちだ。だからこそフォーレが、通常なら立ち入りることのできない深部だと即座に理解したのだろう。


「凄いな……、リーム殿はたった半年でここまで」


「そうだよガルフ、これもウルスやレパル、そして初期から働いてくれた獣人たちのお陰だ。

今や獣人だけでも七百名が住まう町になっているからな」


「「「七百名だと!」」」


「そうだ、うち二百名は外で働いており今日のように定期的に戻って来ているが、五百名は定住している。

そのうち百名は獣人戦士団として、フォーレを守るために日々鍛錬を行い戦いに備えているからな」


「獣人が……、ヒト種の住まう街を守る……、だと?」


「それは違う、ヒト種と共存できる自分たちの街を守る、が正解だ。あとで時間を作るから、直接同胞と話して俺の言っていたことが本当か聞くといいさ」


まぁフォーレでは、この世界で非常識とされることが常識としてまかり通っているからね。

混乱するのは無理ない話だと思うけどね。


そして岩塩洞窟の出口から移動を始めたころ、何か白い光が俺に飛び込んで来た気がした。


「おおっ! ……、ってかフェリス、急に飛び込んで来ちゃダメだろう」


受け止めきれず俺は仰向けに倒れたが、胸の上には嬉しそうにじゃれつくフェリスがいた。


「「「「!!!」」」」


三人の獣人に加えガルフもまた、言葉を無くし呆然となって俺とフェリスを眺めていた。

そして向こうからは必死に駆け寄るアリスの姿が……。


「フェリスってば、リームが戻ったのが分かるみたいで……、急に、飛び出しちゃったの」


息も絶え絶えに追いついたアリスは、やっとそう呟いた。


「アリス、今日は魔の森の里から三名、あとガルフが客人としてお越しだ。

歓迎の準備と、バイデルを始めウルスとレパルにも連絡しておいてもらえるかな?」


「分かったわ。じゃあ、フェリスのことは任せるわね」


そう言ってアリスはもと来た道を戻っていったが……。

四人の客人は固まったままだ。

未だに俺にじゃれつくフェリスを見つめて、ポカンと口を開いたまま……。


「突然の登場になったけど神獣のフェリス様だ」


そう言いながら、鼻を鳴らしてじゃれつくフェリスの毛並みを優しく撫でてやった。


「旦那は……、神獣様に認められているのか?」


「認められているかは知らないけど、此方に居るときはほぼ一緒に居るし、狩りも一緒に出るぞ。

ガルフ、これって問題か?」


「も、問題な訳じゃない、訳じゃないんだが……」


「「「失礼しましたぁっ!」」」


ガルフの言葉もそこそこに、客人の三人は土下座して大地に平伏した。


「神獣様が守護者と認められたお方に対し、大変失礼いたしました」


「これまで働いた無礼の数々、伏して、伏してお詫び申し上げます!」


「罰として里を滅ぼすことだけは、どうか、どうかご容赦いただきたく……」


は? 神獣の守護者って誰だよ!

それに俺は里を滅ぼすなんて物騒なこと、一言も言ってないぞ。


「ガルフ……、どういうこと?」


「いやその……、神獣様は本来なら孤高の存在です。我らとの関りもほぼありません。

ですが稀に、神獣様と心を通わせる存在が現れ、その方は神獣様の守護者として、獣人たちの未来を導くといった伝承が残されておりまして……」


ん? なんかどこかで聞いたことのあるような話だな。

この世界ではなく彼方にほんで読んだファンタジーとかで……。


「これまでのお話、よくよく考えれば貴方様は同胞を保護され、安寧の地を与えられました。

ガルフからも、同胞たちに生きる目的と誇りを与えられたとも聞いておりましたが、これこそ正に我らを未来へと導かれていると……、やっと今気付いた次第で……」


「「「申し訳ありませんでしたぁぁっ!」」」


「……」


俺にとっては、いささか都合の良すぎる展開だけど、今はこの波に乗るしかない。

どこの世界にも似たような神と使徒との伝承や逸話はあるものだし……。


「取り合えず『神獣の守護者』という看板は不要だ。単純に里と盟約を結んだ街の代表者、そんな扱いで構わない。先ずは街を案内してから先々の話を進めたい。

ウルス、レパル、急な依頼だけど客人を案内してもらえるかな?」


アリスから聞いたのか、慌てて駆けつけた二人に告げた。


「「はい、領主さまの仰せのままに」」


いや……、もうすっかり領主様が定着してしまっているし……。

今は公式に領主となったから……、仕方ないか。



その後、一通り案内が終わった彼らと共に、今後を協議する会合を開いた。

ウチからの参加者は俺の他にバイデル、アリス、マリー、獣人側からウルスとレパルだ。

対する相手側は三つの里の代表者である三名、中立な立場でガルフとなった。


「まず第一の方針だが、トゥーレの領主ルセルの申し出に対し、里はどうする意向なんだい?」


「我ら餓狼の里は徹底抗戦いたします。獣人の誇りにかけても……。幸い神獣様と出会えたことで、もう思い残すこともありません」


真っ先にそう答えたのは、前回もガルフに焚きつけられた結果、行き違いから人質のヒト種を殺害してしまい、最終的には俺に滅ぼされた餓狼の里出身の獣人だった。


「勇ましい話だが、それでは里の者たち全てが滅んでしまうぞ?」


「いえ、意地を通すのは一部の凝り固まった頭の硬い者たちのみ。実はこれにも頭を悩ませておりました。

大半の者はフォーレに移住させていただきたく思います。ここに来るまでは全滅を覚悟しておりましたが、これで心置きなく戦えまする」


「そうか……、意地を通すか……」


俺はもう何も言えなかった。

おそらくあの時も、彼らが最後まで抵抗したのは、ただ意地を通すためだけだったのかもしれない。

他の里を含め大半の獣人と里は、ルセルの側に付いていたしね……。


「我ら銀狐の里は……、このまま唯々諾々(いいだくだく)と従うつもりもありませんが、ただ無闇に戦うつもりもありませんでした。

そう言う意味で里は分裂し、崩壊の危機と心を痛めておりましたが、これで全てが解決いたしました。

里を捨てて新たな新天地を目指すこと、これに関して正当な理由が今日見つかりましたので」


それって……、ココの話だよね?

ありがたい話だけど、なぜ最初から素直にそう言わない。


「我らの虎狼の里は……、それぞれの者の意思に任せようと考えています。餓狼の里に集い共に戦う者、銀狐の里の者と等しく新天地に移住するもの……、どちらも良しとしたいのですが、ただそれが……」


ん? 何か煮え切らない感じだな。

何か他に事情でもあるのか?


「分かった。俺は無理強いするつもりはない。

なのでそれぞれの里に持ち帰り好きに決めてくれ。

ただ無闇に死なれても寝覚めが悪い。俺自身も敵軍の命に関わらない程度に妨害はするし、いざとなれば俺が餓狼の里に入り、フォーレへの退路を開く」


「「「おおっ!」」」


「ただ戦うと決した者たちに二つだけ願いがある。

一つ目はたとえ敵側とはいえ、戦闘に参加している者以外は誰も殺さないでくれ。

関係のない領民や人質、降伏した捕虜も含めてだ。これだけは絶対の条件で譲れないからな」


「承知しました!」


「二つ目は決して無理な戦はしないでくれ。

できれば一戦して意地を通したら、後退してフォーレに引いてほしい。全滅したと見せ掛けるのは良いが、全滅してもらっては困るし、先々に禍根を残してしまうからな。死んでいった者も、残された者たちが怨嗟を引き継ぐことは不本意だろう?」


「は……、はい」


こうすれば、せめて二度目の最後に俺を刺したフェルナも、心に闇を巣食わせることもないだろう。

闇に落ち、操られることも……。


俺はルセルとして最後に見た光景、そこで感じた心残りに決着を付けたかった。


たとえそれが間接的にルセルを助けることになっても、ああなってしまったフェルナの気持ちだけは救ってやりたい。


ん? そう言えばまだ彼女は今どうしているんだ?

今はまだ……、三才か?

なら彼女も、餓狼の里からフォーレに移住して来るのか?


「話は急いだほうが良いだろう。明日には定期便を開くためトゥーレに戻るが、その翌日にはそれぞれの里に立ち寄ってお前たちの帰路を用意する。

戻ってから十日間で移住の準備は可能か?」


「「「はいっ!」」」


「なら十日後にはトゥーレに近い里から順に一日ずつ回る。荷物の輸送には獣人戦士団も手を貸してくれるか?」


「「仰せのままに」」


レパルとウルスは勢いよく返事をし、ガルフは少し不思議な顔で口を開いた。


「あの……、旦那? お話に水を差して申し訳ないんですが、里の場所はご存じなんで?」


「うん、知っているけど?

俺は深部フォーレにさえ足を延ばしているんだよ、トーゥレに近い魔の森なら知っていて当然と思うけど?」


もちろんこれは、俺が勝手に考えた言い訳だ。

真実を言う訳にはいかないからね。


「ホント、リームの旦那は……、何もかもが……」


そう言ってガルフは呆れていたが、これで準備は整うだろう。


もちろん俺は、餓狼の里も無駄死にさせる気はさらさらない。

最悪の事態に備えたうえで、残った石頭を説得する時間ができればと考えているだけだ。


ルセルも簡単には侵攻できないはずだ。

奴はまだ準備不足、兵力も攻撃の要となる魔法士も、全てが十分ではないだろうし。


これで色々とうまく進む、そのように俺は予測していた。

それが甘い見極めだったとも知らずに……。

いつも応援ありがとうございます。

次回は7/26に『虎狼の里の怪異』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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