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ep80 里からの来訪者

二度目の人生ではとことん俺に反発し、最後まで手を焼かせた獣人ガルフが、三度目では俺の味方となってくれた。

と言ってもまぁ……、領主の奴(ルセル)ではなく、孤児のリュミエールに対して、だけどね。


そんな彼が俺の依頼を受けてフォーレやトゥーレから姿を消してから半年以上が経過していた。



そしてある日、遂に彼から連絡が入った。


この日も俺は十日に一度設けている定期便、トゥーレとフォーレ結び人と物資移動させるためのゲートを開くため、トゥーレの裏町にあるアスラール商会の倉庫を訪れていた。


そして到着するやいなや、商会の駐在員から報告を受けた。


「町の入り口にある大木の枝に、新たに布が巻かれております! 色は緑です」


「緑だって? 獣人となると……、ガルフかな?」


それ以外にも連絡方法を知る獣人は何人かいるが、彼らなら敢えて連絡を掲げなくても、今日の定期便で俺に伝えれば済む話だ。


「申し訳ありません、そこまでは……。これから確認のため貧民街へ遣いを走らせようと思いますが、先ずはご報告と思い……」


「あ、なら大丈夫。どうせ俺も『定期便』のため、この後で向こうに行く予定だからね。

今日の搬入出作業は終わったし、ちょっと早いけど向こうに行って確認してみるよ」


「では商会からも何人か護衛を……、って不要でしたね」


そう言ってから彼は苦笑した。

護衛対象が護衛より強いんじゃ護衛の意味がないし、いざとなれば下手に護衛が居るよりも俺一人の方が動きやすい。

周りに遠慮なくぶっ放せるしね。


「今日は『送りの日』だから、用事が済めばまた裏町に戻って来る予定だけど、そのまま向こうに行く場合もあるので、俺が戻らなくても気にしないでほしい」


そう言い残して俺は貧民街の拠点へと向かった。



そして、行ってみると……。


物陰から姿を表したのは、予想通り俺のよく知る人物だった。


「ガルフ! やっぱり布を掲げたのはガルフだったんだね。久しぶりだよね、元気だったかい?」


「はい旦那。ご無沙汰しております。

旦那もお元気そうなご様子で何よりです。皆は……、元気でやっていますか?」


「今日は向こうと此方を繋ぐ日だから、折角だから皆の様子と進化したフォーレを見ていきなよ」


そう言うとガルフは一瞬だけ嬉しそうな表情をしたのち、改めて畏まった表情をした。


「旦那……、今日は旦那に紹介したい者たちを連れてきております」


そう言ってガルフが右手を上げると、物陰から三人の獣人たちが姿を現した。

だが彼らは、俺を警戒しているのか一定の距離を保ち、ずっと黙って此方を見ている。


「いや……、彼らはまだヒト種を信用していないんです。以前の俺みたいに……」


「と言うことは……、もしかして魔の森にある里の?」


そう言ったところで、彼らは一気に殺気立った。

本来なら今の時点で彼らの里の存在を、ヒト種である俺が知る由もない。


だからか?


「だからっ! 何度も言ってるじゃねぇか。旦那は俺たちの味方だってことは、お前らも一度フォーレに行けば分かる。頼むから少しは俺の言葉も信用してくれよ」


そう言ってあのガルフが困り果てていた。


あれだけ頑固だった男が……、二度目では散々俺に反抗して脚を引っ張った男が……、だよ?

今は俺を庇って頑固な仲間の獣人に困惑する様子なんてさ、思わず笑いそうになったけどね。


「皆さん初めまして。獣人とヒト種が共存できる場所として、フォーレの町を開拓しているリームと申します。

先ずはここまでご足労いただいたことに感謝します」


「!」

「えっ!」

「そんな……」


俺から丁重な挨拶をしたことで、少し彼らも戸惑っているようだった。

まぁ……、そんなヒト種の領主なんて、まず居ないだろうからね。


「かく言うガルフも、最初は皆さんと同じだったので俺も気にしていませんよ。

今は不安でしょうが、今日は皆さんの同胞がフォーレに里帰りする日です。先ずは彼らの様子を見てから、フォーレに行くかどうか決断してもらって構わないですよ」


「それについてですが、移動の前に少しお話があるんです。彼らも今、困った立場にあって弱みをみせられないことを、リームの旦那にも知っていただきたくて……」


ん? どういうことだ?

彼らに何か問題でもあるのか?


「実は……、旦那以外に里のことを知っていた人間がもう一人います。先日のことですが、その者から里に使者が来ました」


「まさか……、領主ルセルか?」


「どうしてそれを!」


しまった。思わず言っちゃった。

俺と同じく『知っているから』という理由は通用しないだろうな。


ガルフだけでなく、三人の獣人たちも怪訝けげんな顔をしているし。


「……。消去法さ。魔の森を抜けて使いを出すには、それなりの兵が動く必要があるだろう。

この町で兵を動かせるのは領主しかいないからね。それで使いは何と?」


「それは、その通りですね」


彼らが語ったルセルからの申し入れは、俺ですら驚く内容だった。


---------------------------------------------------


ひとつ、魔の森に里を構える獣人たちは、里を開きヒト種との交易を始めることを要求する。

ひとつ、我々は交易にて属性を持つ魔石を買い上げ、相応の対価を支払う用意がある。

ひとつ、交易事業に加え、今後我らが推進する魔の森の開拓事業や魔物討伐に参加することを要請する。

ひとつ、我らは既に一部の獣人たちと協力しており、里の者たちにも相応の仕事と対価を用意している。

ひとつ、これらの要請は一帯を治める領主として発したものであり、協力には対価を、非協力には相応の報いを以って応じることを予め理解してもらいたい。


『なお我々は里の協力が得られなくとも、長年に渡る魔物の脅威を排除することや生存権の拡大は、崇高すうこうな責務として覚悟を以って執り行う。

遠くない日に魔の森は、神威魔法による業火に沈むことになるが、それに諸君らの里が含まれることは我らの本意ではない』


---------------------------------------------------


ちっ! 何たる言い草だ。

これでは里に喧嘩売って脅しているに他ならないじゃないか!


それにしても奴は、既に獣人の里に対の攻略にも着手しているのか? 

一体何年前倒しで進めているんだよ!


いや……、もしかして上位レベルの魔石が必要となり業を煮やして焦っているのか?


「俺たちはヒト種の言葉を信用しない! 奴らは既に二つの里を滅ぼしているんだぞ!」


いや、それは違う。


結果的には滅ぼした形になるかもしれないが、先代辺境伯の時代に魔の森の最前線は、トゥーレから先に広がる森林地帯へと押し上げられた。


それにあたり、トゥーレに獣人たちが安全に暮らせる居場所を用意し、彼らに職を与えることを条件に、平和的に里は開かれたとバイデルからは聞いている。


もちろんこの対応は俺にとって前回と今回の母、二人が当時の辺境伯を説得した結果であったとも。


そのため獣人たちは里を捨て、トゥーレ一帯に移り住んでいたが、当時は母たちの尽力によりある程度穏便にことは運んだはずだ。


それでもまぁこれは、ヒト種側の理屈だけどね。


「俺たちは脅迫に屈しない。奴らの甘言に騙されるものか!」


「従わねば里を焼くとは脅迫ではないか! 何より森は俺たちに恵みをもたらしてくれるんだぞ!」


「俺たちはヒト種と対等の立場ではない! トゥーレでの同胞の窮状を見れば、それは明らかではないか!」


ガルフの話したルセルの言葉に再び思いが爆発したのか、獣人たちは口々に怒りの声を上げ始めた。


「だから、旦那は違うんだって! お前たちは怒りの声を向ける相手を間違っているんだぞ!」


ははは、同じように前回、間違った方向に怒りをぶつけて俺を困らせたガルフが、今や必死になって抑えに回っているのも可笑しな話だよな。


思わず俺は苦笑してしまった。


「「「何が可笑しいんだよ!」」」


そんな俺の様子が癇に障ったのか、獣人たちは再び怒りの矛先を俺に向けて来た。


やはり……、彼らと話す方向性を変えないとダメか?


「誤解させて悪いな。ただ、お前たちの言葉が、あまりにも俺の考えと同じなので、嬉しくて思わず笑ってしまっただけだ」


「……」


ははは、意外な言葉で困惑しているのだろうな。


俺も敢えて口調を変えた。彼らと対峙するには、へりくだるのは悪手だ。

彼らにとっては力こそ正義なのだ。

堂々と、時には対決しても構わないぐらいの気概を持って自己の主張を述べる方が、逆に信用される。


「皆の気持ちは分かる。俺も領主は信用していないし、信用してないからこそ新しい街を作った。

そして今、その街を拠点として領主に対抗しようとしているからな。里を守ろうとする気持ちは、お前たちと同じだ」


「何だと……」


「だが領主の言っていることも本当だ。奴は神威魔法の威力を持つ、五属性魔法使い(ペンタグラム)だからな。造作もなく魔の森を業火に沈め灰燼とするだろうな」


「神威魔法……、だと?」

「そんなヒト種がいるのかよ……」

「そんな領主に対抗できるとでも言うのかよ!」


俺はその問いかけに対し、ただ黙って笑って見せた。


「旦那は強いぞ、魔の森の深部を自由に行き来し、そこを開拓地にしたぐらいだからな。

当然ながら上位種の魔物ですら旦那一人に敵わないほどの強さだからな。ここに居る全員で掛かっても一瞬で勝負がつく。もちろん俺たちが惨めにやられて、な」


「そ、そんな……」

「バカな……」

「上位種だと、その話は本当かっ!」


ガルフが勝手に解説してくれるのはありがたいな。

俺が言うよりよっぽど説得力があるしな。

だけど一人は反応がちょっと違う気がするが……。


「俺は力でお前たちを従えるつもりは毛頭ない。ただ対等な関係で同盟を結びたいだけだ。

領主と戦いたければ勝手にすればいいさ、俺は止めないからな。ただ俺は、お前たちが逃げられる先を用意し、助けを求める者たちは勝手に救わせてもらうけどな」


「「「……」」」


「言っておくが、今の領主なら多分だけど戦っても俺が勝つぞ。物理でも魔法でもな。

ただ獣人のお前たちと同様に、ヒト種の兵たちも無駄死にさせたくないだけだ」


「本当なの……、か? 五属性神威魔法の使い手を相手に、お前が勝てると言うのは」


ひとりの獣人は妙に食いついてくるな?

何か事情があるのか?


「ああ、実際に戦ってないから分からないけど、深淵種の魔物もこれまで三体ほど倒しているからな」


ごめん、これはちょっとだけ盛ってます。

まともに倒したのは一体、後は不意打ちだからね。


「「「し、深淵種だとっ!」」」


まぁ……、驚くよね。

それに関しては、魔の森に住まう獣人のほうが、その恐ろしさも十分に理解しているだろうし。


「フォーレに来れば、証拠として魔石を見せることもできるぞ。

あ……、それに今は神獣様も俺の元にいるからな」


「「「「ま……、マジか!」」」」


これにはガルフも交じって絶句していた。

そうだよな、彼らにとってはフェリスが最強のカードなんだよな。


この時点までうっかり忘れてた……。


「神獣様に会いたければ、俺に付いてくるんだな。フォーレで会わせてやるよ」


「「「「行きますっ!」」」」


いや……、三人とも今並んでも早いぞ。

それにガルフ、お前が無理やり先頭に並んでどうするんだ?


俺の想像以上に、神獣とは彼らにとって大きな存在だったようだ。

この日俺は、新たな客人三名と久々の再来訪者をフォーレに迎えることとなった。


だが、詳しく話を聞くにつれ、彼らの抱えていた課題が何もルセルだけではなく、それぞれが別に課題を抱えていることを知ることになる。

いつも応援ありがとうございます。

次回は7/23に『巡礼者の訪問』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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