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ep76 未来への布石①

魔の森深部で出会った神獣だが、実はあの後も俺と共にフォーレに居る。

助けたことを理解してくれたのか、あの後から妙に懐かれてしまったようで、常に俺の傍に付いて回るようになったが、正直言って最初はフォーレに連れ帰ることをかなり迷った。


だけど……、結局連れ帰ったんだけどね。

人目につかないよう密かに抱きかかえ、フォーレでまだ建設中の仮居館にこっそり連れて帰った。


実はこの住まいも『仰々しい居館など不要だし、皆と同じように建付けの長屋で構わない』と言い張ったのだけど、『あり得ません!』と全員に却下されて今に至っている。


まだ建設中だが、それなりに体裁も整ったものになるらしく、外観は整い完成している部屋も幾つかあった。

そのため今のところ俺とバイデルが住み、何故か身の回りの世話係としてアリスとマリーも同居している。


今の時点でも完成している空き部屋は他にもあるし、ここなら広さも十分だし内緒で連れ込んでも大丈夫だろう……、そんな考えの俺が甘かった。


「リーム、なにーその子、森の中から拾って来たの? 凄く可愛いねー」


「ホント、それに大人しいね? ねぇリーム、私も触っていいかな?」


ってか連れ帰ったその日、いきなりアリスとマリーに見つかってしまった……。


というかキミタチ……、自分の部屋があるのに何故毎度、暇があったら俺の部屋に居るんだ?

もちろん寝るときはそれぞれの部屋に帰っていくし、食事は食堂で皆と一緒に摂っているけどね。


「……」


アリスにマリー、俺の返事も待たず、勝手に初めて見た神獣と大はしゃぎで戯れ始めているけどさ……。


そこいらの魔物の上位種より余裕で強いんだよ?

見た目はちょっと小さめの中型犬程度だし、実際の強さを知らない彼女たちは怖いもの知らずだった。


「えっと……、一応だけど……、魔物の中でも最上位の存在で、神獣と呼ばれている伝説的な魔物だよ?

なのであまり近寄らない方がいいよ。って……、もう遅いけどね」


そう、既に美しい毛並みを夢中で触り戯れている二人には言っても無駄な話だった。


「でもさ……、この子は凄く可愛いし大人しいよ」


「そうよね、リームも安全だから連れてきたんでしょう? それに可愛いから大丈夫じゃない?」


「……」


ってか、彼女たちのなかでは『可愛いは正義』のようだった。


確かに魔物は獣型のものでも、人を見れば直ちに牙を剥いて敵意丸出しで襲ってくる。

そしてどこか禍々しい雰囲気を漂わせているが、この神獣には何故かそういった雰囲気が一切なく、どこか神々しい雰囲気さえあった。


「ねぇリーム、この子の名前は?」


「名前?」


「うん、だって飼うんでしょ?」


いや……、飼うなんて獣人が聞いたらブチ切れるぞ。

そもそも神獣は彼らが神として崇めている存在なんだから。


「アリスの言う通り、名前を付けてあげなきゃ可哀そうよ。神獣なんて余所余所しい感じだし。

可愛いし女の子だよね?」


「だよねー。見た目は狼にも似てるし……、女の子ならフェリスはどうかな?」


「あっ、それっ! いいんじゃない?」


あの……、アリスさん? マリーさん?

なんか勝手に話がどんどん進んでいますが?


ただ俺も性別は確認していなかったな。

そもそも神獣に性別なんてあるのかな?


そう考えると俺はおもむろに神獣を後ろから抱き抱え、腹側を露わにするようにして覗き込んだ。


「うん? 確かに雌のようだ……、いっ、痛ぇっ!」


何故か俺は、大人しいはずの神獣に思いっきり噛みつかれていた。

なんで……。


「リーム、エッチ……」


「リーム、強引はだめですよ。女の子なんだから」


「え……、何で? 俺は何か間違ったことをした?」 


「「だって怒ってるじゃん」」


なぜ俺が怒られる?


「リームって、そういうところは無神経だからさ、お姉ちゃんは悲しいよ」


「だよね、女の子の気持ちを分かってないよね。思わせ振りなことも多いし……」


「……」


アリスさん、マリーさん、二人はジト目で散々言ってくれますが……、これって俺が悪いのか?


二人いわく、どうやら俺は平素からデリカシーに欠けた男らしい。

知らんけど……。


まぁ名前はフェリスで良いか。三度目の人生で俺の母だった人の名に似ているので、ちょっとだけ複雑な部分はあるけど……。

確かに外見は上位種の魔物であるフェンリルのような感じだし、そこから取ったんだろうな?


こうして……、いつの間にか『フェリス』は正式に俺たちの仲間として周囲に認定されることになった。


◇◇◇


そのあと俺は、今日の成果を確認するためにガモラとゴモラの店へと向かった。

何故か付いて来たアリスとマリー、そしてフェリスを伴って……。


「ガモラ、ゴモラ、今日も頼めるかい?」


「もちろんでさぁ!」

「今日はどんな珍しい魔物ですかい?」


例のごとく、二人は作業中だったが期待に満ちた顔で振り返った。


ここ最近、クルトの残していた課題である『上位種』の魔石を得るため、彼らにとっても見慣れない魔物を持ち込むことが多かったしね。


「今日は見慣れた上位種の魔物が一体、初見の魔物が二体かな。実は俺も初めて見たもので、多分『深淵種』だと思うんだ」


「「「「深淵種っ!」」」」


その言葉に四人が一斉にドン引きしていた。

実際のところ深淵種は上位種よりも遥かに上の存在として語られる伝説上の魔物で、人の手では絶対に討伐不可能とまで言われていたものだし。


でもガモラにゴモラ、黙っていたけど君たちは既に深淵種を解体したことはあるんだよ。

以前に依頼したアビスクアールもそうだからね……。


そんな事を思いながら、俺は作業台の上に新たに三体の魔物を並べた。


「凄いね……、じゃあ魔石も凄いっていうことかしら?」


そう言うとマリーは目を輝かせていた。


「そうだね、こちらの一体は最上位の魔法、多分だけど神威魔法レベルの風属性と地属性の魔法を使っていたし、もう一方はおそらく無属性と闇属性の魔法を使っていたと思う。もしかするともう一つあるかも?」


俺の見たところケルベロスは、それぞれの二つの頭から異なった魔法を発現させていた。

なのでおそらく、あの時は魔法を使っていなかったもう一つの頭も何らかの属性を持ち、三属性持ち(ドライエッグ)なのは間違いないだろう。


「リームってば……、また危ない真似をして……」


心配したのかアリスは一気に涙目になった。

最上位の魔法と言ったから、以前に俺から魔法の解説を受けていたアリスは、俺が神威魔法レベルを行使する魔物と戦ったことを理解したのだろう。


確かに死にそうになったのは事実だけど……、これは言わないほうがいいな。


「なら……、クルト兄さんの課題をリームはほぼやり遂げちゃったってことよね?

この短期間で凄くない?」


マリーの言葉通り、魔法士を誕生させるために俺の方で用意するのは、『天威魔法』レベルを引き出すための魔石、即ち上位種の魔物より得た八属性分の魔石が必要とされていた。


以前に討伐したアビスクアールも深淵種だから、最上位である『神威魔法』に対応した雷属性魔石を得ているし、今回は同様に少なくとも四属性分、既に有り得ないレベルの魔石を五属性分は確保できたことになる。


「高位レベルの魔石に限っていえば、まだ八属性の全てが揃った訳じゃないよ。ただ今回で……。

深淵種なら残りはあと火と水と光、上位種で獲得済の魔石も含めた場合なら残りは水と光かな」


「ねぇリーム、それはそれで凄いことを言っているような気がするのだけど……」


確かにそうか。

あの後でクルトに確認したところ、トゥーレでは有っても中位種の魔物から得られた『地威魔法』レベルに対応した魔石らしく、それも全属性分はないらしい。


「旦那っ! この魔石ってまさか……」


俺たちの会話をよそに、黙々とケルベロスの解体を進めていたガモラとゴモラだったが、驚きの声を上げた。


ガモラが手にしていたのは……、白っぽい色のえも知れない輝きを放つ大きな魔石、ゴモラは同サイズの薄紫(無属性)と漆黒(闇属性)の魔石を手にしていた。


ははは、やっぱりケルベロスは三属性ドライエッグだったか。それも不明だった最後のひとつは、白色に輝く魔石、即ち光属性の魔石に他ならない。


「凄いねリーム、これであとひとつだね!」


確かにこれで残りはひとつ。しかも……。


『深淵種』 雷、風、地、無、闇、光、X、X

『上位種』 雷、風、地、無、X、X、火、X


が揃ったことになった。

実際に儀式で神威魔法の使い手が出てくる事なんてまずない。なので相当オーバースペックだけどね。


「まぁ……、一番の問題が水属性なんだけどね」


そう、全ての魔物が属性のある核(魔石)を持っている訳ではない。

殆どの魔物から取れる魔石は無色透明、ただの綺麗な宝石のような石だ。

魔物自体が魔法を使用するものだけ、その属性を持った魔石が取れる。


「水属性の魔石を持つ魔物って……、何かしら?」


「小物なら色々いるけどね、上位種なら俺の知る限り『漆黒の悪魔』と恐れられている……、ブラックポロサスかな」


そう、体長10メートルを超える巨大なワニに似た魔物だ。

やつらの縄張りは水中、なので殆どの攻撃手段が絶たれてしまうだけでなく、水中から水魔法を自在に操ってくる。


俺自身、ただでさえ制約があって不利な水中で、あんな化け物と戦うのは遠慮したい。

他にも深淵種がいるだろうけど、どんな魔物がいるかは知りたくもないし、戦うことは輪をかけて遠慮したい。


「まぁ……、水属性は当面の間は中位の魔石(地威魔法相当)で我慢するしかないよ。それなら幾つか入手できる手はあるしね」


俺がそう言うと、全員がげんなりとした表情になった。


「あれ……、よね?」


アリスが代表して言ったのは、俺が解体のため確保することすら忌避して捨てていた、巨大な毒カエルのジャイアントトードだ。


他にも水属性で中位の魔物は何種が居るが、得てして『毒』を持つものが多く、水魔法で毒を散布してくるから極めてタチが悪い。


しかも下手に解体したら毒が飛び散るだけでなく、皮膚に触っただけで毒に侵されてしまう場合もあるし……。

なのでいつも討伐後は有無を言わさず焼き払っており、解体屋に持ち込むなんて飛んでもない話だし。


「まぁ……、あとはボチボチ……」


そう言いかけた時だった。


「フェリスちゃんっ! ダメよっ、そんな物を食べちゃ!」


マリーの絶叫と共に俺が見た光景は……。


解体されてトレーに取り分けられていた、深淵種二体の心臓と見慣れたもう一種の上位種から取り出された心臓、そして上位種風属性の魔石をフェリスがボリボリと貪っている姿だった。


いや……、これって……。

もしかして神獣の食べ物って……、魔石や魔物の心臓だったりする?

俺が見た戦いも、それを得るために深淵種と戦っていたとか?


固まる俺たちをよそに嬉しそうに貪り食らうフェリスを見て、そう確信せざるを得なかった。


そして……。

俺は手元に取り分けていた深淵種の魔石五個を、慌てて四畳半に隠しこんだ。



その日から俺たちは、使い勝手のない魔石や魔物の心臓、これらの処分に困らなくなった。

だが……、フェリスが食べる真の理由を後日になって知ることになる。

今はまだ……。

いつも応援ありがとうございます。

次回は7/11に『未来への布石②』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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