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ep69 三度目の世界での再会①(真実の愛?)

アモールの元締めと対面し、成り行き上で実力行使となったときも俺の心は落ち着いていた。

むしろ実のところ俺は楽しんでいるのか?

そうだとすると改めて落ち込まざるを得ないんだけどな。


そんな事を考えながら俺は、襲い掛かってくる男たちの顔をゆっくりと見回していた。


あれ? 何処かで見たことがある顔だな……。

そうか、あの時の!


「二年ぶりか? 確かお前は『あろあろ』君だったよな。今回もまた盛大に空を舞ってみるか?」


そう、彼は俺が初めて解体屋に行ったとき、子供の俺を強請ゆすってきた結果、盛大に独楽のように回転しながら『あろあろあろあろ……』と変わった悲鳴を上げた男だ。


「ひいっ!」


奴もあの時の記憶が蘇ったのだろう、尻もちををついて後ずさりし、周りの数人もじりじりと後退し始めた。


「どうだ元締め、まどろっこしいことは止めて俺とお前、二人で『もてなし』あうのはどうだ?

それとも散々ガキと罵っておいて、まさか怖いとか言わないよな?」


うん、俺は悪くない。俺は決して武闘派ではない。

これも成り行き、先方から挑発を受けた結果、流れでこうなっているだけだ。

そう、ガモラやゴモラの期待……、いや、アドバイスに従っただけだ。と、思うことにしよう。


「リュミエールさま……」


その声に一瞬だけ振り替えると、バイデルだけは心配顔で俺を見ていた。

だが……、商会長、ガモラにゴモラ! 

なんで薄ら笑い浮かべて、何かを期待するような顔で見ているんですかっ!


俺は大きくため息を吐くと向きを変え、ザガートに向かって一歩ずつ、ゆっくり歩いていった。

一歩踏み出すごとに言葉を吐きながら……。


「義賊としてお前が、阿漕あこぎな商売で儲けている者や権力者の荷駄を襲い、それを生活に困っている者たちに分配する行為を、俺はとやかく言わないし、此方から関与する気もさらさらない」


そう、奴の行為は褒められたものではない。だけど最終目的は同じなんだよね。

ただし、気になることも……。


商売で儲けている点だけを見れば、相手は貴族だけど『ぼったくり』で利益を上げているアスラール商会も、奴らの立場なら標的にされる可能性がある。


そしてもう一つ、ザガートの手足となって動いているゴロツキ共は別だ。奴らは弱者を食い物にして生きている。


悪いけど『あろあろ君』とかは典型的な事例だし、他にも似たような奴はゴロゴロいるだろうしさ。

それが義賊とはタチの悪い冗談にしか聞こえない。


「だが、配下のしつけはなってないぞ。それでは単なるゴロツキや盗賊と軽蔑されるだけだし、俺自身も非道な行為を見過ごすすことはできない」


そう言って敢えて再び、『あろあろ』君たちを射るように見据えた。

お前らのことだからな!


「同じ目的で動いている俺の行動を邪魔するなら、俺なりのやり方でお前たちを処罰するが……、構わないよな?」


そう言うと同時に、俺の言葉に激昂げきこうし飛びかかろうとしてきた新手を風圧の塊で吹き飛ばした。

その攻撃で四~五人が吹き飛び、背後の壁に激突してうめき声を上げた。


「お前たち、言っておくが今は敢えて手加減して、お前たちを殺さないように気をつけていることが分かるか? 

でないとお前たちは一撃で細切れになってしまうからな」


「ヒっ!」


そう言いながら、俺自身は気持ちのたかぶりを感じていた。ゆっくりと、そして奴の配下の顔を一人一人確認しながら前に進んだ。

ザガートが首領であれば、その一派の中に必ず前回の俺がよく知る、もう一人の男がいるはずだ!


「俺は筋を通すために挨拶に来た。もちろん多少の手土産きんかを持参してな。だがこの歓迎はどうだ? 

これが義賊をかたるお前たちの流儀なのか?」


そして最後の一人になったとき、俺はその男の傍で立ち止った。

彼はここまでの状況を理解しているのか、膝を付いてこうべを垂れてじっとしていた。


そう、彼だけはちゃんと周りが見えている。

そして、非礼を侘びつつも俺がザガートに何かすれば、彼を庇うために飛び掛かるつもりだろう。


勇敢だがただの猪武者ではない男、ゴロツキ共をまとめ上げ命知らずの戦士に仕立てた男、筋を通し義理堅い男、前回の俺にそんな印象を抱かせて男だ。


「俺からの提案を言わせてもらおう。俺は今、新しい町を作っている。そこは裏町も貧民街もない。

身分や獣人であることの差別もない。誰もが胸を張って生きることができる町にしたい」


俺は敢えて、跪く男の背に向かって語り掛けた。

その男が夢見ていた世界、それは俺が成そうとしていた世界と同じだと、俺は知っている(・・・・・・)からだ。


「協力してもらえればお前たちにも十分な利益を還元できるし、力のあり余っている奴には仕事も紹介する。

義賊として日陰で生きるより、日の本で胸を張って誇りを持ちながら生きたくはないか?」


アーガス、お前は以前に(・・・・・)そう言って俺の仲間になってくれたんだよな?

語り掛けながら俺は心の中で、『頼むアーガス、俺の呼びかけに応えてくれ!』と願っていた。


彼こそが前回、ルセル配下の四傑として名を馳せた男、命知らずの男たちからなる軽装兵隊を率い、神出鬼没の活躍をしてみせた将なのだから。


「それは……、お前の愛、なのか?」


いやザガート、今はお前に話しているんじゃない。

頼むから黙っていてくれ!


「ひとたび仲間となれば俺は全力で守っていく。更生を願う者なら支援を惜しまないつもりだ。

真っ当に生きるには、裏町は厳しい場所だったのだろう?」


「それこそが……、愛だな」


「愛かもしれない。だがそれは、人が人として生きていくために必要な愛だ」


ザガート、これで気が済んだだろう?

頼むから俺の話を邪魔しないでくれ。


「どうだ? 顔を上げてくれ。遠慮せずにお前たちの言葉を聞かせてくれないか?

こんな生き方で、お前たちは満足なのか? お前たちの言う『愛』とは、そんな小さなものなのか?」


ここでやっとアーガスはゆっくりと顔を上げた。

間違いない! 俺の知る彼よりは少し若いが、間違いなくアーガスだ。


「良かったら思ったことを話してくれ」


「俺たちにもそんな……、誇りを持った生き方ができるんですか?」


俺が促すと、彼はゆっくり口を開いた。

その間も彼の目は、俺を真っ直ぐ見据えている。


「お前たち次第だけどね。ただ俺は機会と力を振るえる場を与えるだけだ」


そう言うとアーガスは再び頭を下げた。

そしてそのまま話し始めた。


「まずは旦那への非礼をお詫びします。俺たちは町のあぶれ者です。子供の頃に親を亡くした俺には、そんな生き方しかできませんでした。

ですが今の旦那の言葉は、俺の望んでいたことでもあります」


そうだ、アーガスはいつも俺を旦那と呼んでいた。

ブルグとなっても頑なに、親しみを込めてそう呼ばせてほしいと頼んできたんだよな?


彼との再会に思わず俺の目尻は熱くなった。


「ああ、もちろんだ。だが最初に言っておく。『奪う』生き方から『守る』生き方に変わることは、時として命懸けになる。仲間や愛する者たちを『守る』ため、矢面に立って戦うこともあるだろう。

その覚悟はあるか?」


「あります!」


「それこそ正に愛だ!」


いや、ザガート……。頼むから黙っていてくれ。

今は大事なところなんだから。


「ザガード、俺からの要求は三点だけだ。

ひとつ、俺たちがそんな理想の町を築くことを邪魔しないでほしい。そしてできれば協力してほしい。

ひとつ、裏町から移住を希望する者は快く送り出してほしい。何も俺は裏町の全てを奪うつもりはない。

ひとつ、これから先は法を犯す行為は戒めてほしい。救いを求めている人には俺が手を差し伸べるし、力のあり余っている奴には活躍の場も与える」


「そんなこと……、本当にできるとでも?」


「できるさ、そのために俺は領主ルセルの、いや、この国の誰もが干渉できない場所に、新しい街を作っている。それを実現するだけの資金を確保しており、同じ理想のもとで共に働く仲間がいる」


そう言って振り返り、ガモラやゴモラ、そして商会長やバイデルに視線を移すと、彼らもまた大きく頷いてくれた。


「俺の願い聞いてくれるなら、もちろんお前たちにも利益を共有したいと思っている。

ひとつ目は、新しい町の建設や運営に当たって、商売上や商取引などで便宜を図ることができる」


「我がアスラール商会も、商会長である私がリーム殿の言葉に同意していると保証しよう」


「「「「おおっ」」」」


最近評判になっているアスラール商会の会長自身が発した言葉に、誰もが驚きの声を上げていた。

そりゃあ……、商会長の言葉のほうが説得力あるよね。


「商会長は俺の仲間であり同じ理想の元に力を貸してくれる盟友だ。その言葉に嘘偽りはない。

ふたつ目は、今回の挨拶料として、当面の『愛』を行う活動費として、金貨一千枚を『アモール』に支払おう」


「「「「おおっ」」」」


ってか、現金の反応は殊更おおきいな。

ザガートを含めて。


「みっつ目は、もし俺に協力してくれる者がいれば、正当な対価を支払って役務に就いてもらう。

対価は差し当たり人足より少しマシな程度だが、働きぶりや役職を得たものは数倍になることもある」


「因みにリーム殿に雇用されている者たちは、そこいらの人足よりよほど待遇がいいからな。

俺たちも実際に見てきたが、誰もが望んでもっと雇ってくれと言っているぐらいだぜ」


「「「「おおっ」」」」


そうだね。俺が言うより同じ裏町のガモラが言うほうが、格段に説得力があるか。

さて……、そろそろクロージングかな。


「ザガート、俺の手土産はどうだ? 

お前は『俺に対価を支払わせることで裏町での活動に目を瞑り、アモールに有利な商取引を結んだ』。

そのように裏町で喧伝してもらって構わないぞ」


「俺の顔を立てて……、ということか?」


「代わりにアーガスを派遣してもらいたい。

当面は監視役といった形でも構わない。

他にも『人々を救いたい』と思う者があれば、人手として有償で派遣してもらえないか?」


「それでお前は何をする気だ?」


「俺は領主の施す、偽善に満ちた『愛』が気に入らない。なので時には正当な方法で奴の前に立ちふさがるつもりだ。そのために一人でも多く仲間がほしい。そんな気概と誇りを持つ仲間が、な」


「真実の……、愛、なのか……」


「ああ、そうだ」

(ちょっと違う気がするが、この際どうでもいい)


というか、頼むからもうこれで納得してくれ。

それに……、今の言葉は色んな意味で拙いぞ。


そもそもだが、お前のような厳つい悪党側のオッサンが言って良い言葉ではないからな。

『真実の愛』という言葉は、おとぎの国の美しいお姫様やヒロインたちが、夢見る子供たちに向かって語るべき言葉だ。


「元締め、私からも是非!」


ここで意を決したかのように、アーガスが手を上げてくれた。

そして、何人かの男たちが彼に続いた。


「お前たちもまた……、愛に応え、愛の戦士たちとなるのか……」


「……」


その言葉に俺は反応しなかった。

どうでもいい表現だけど、使っちゃいけない気がする表現でもある。

確かに俺も……、塩城守人も子供の頃から好きで、あのシリーズはずっと見ていたけどさ。


その後も彼らの中で少しやり取りはあったものの、なんとかザガートは納得してくれたようだった。


まぁ何かを拗らせた奴の言葉は、都度俺を辟易とさせていた部分は多々あったが……。

ザガートは変な方向にこじれているものの、なんか面白い奴に見えてきた。


何より嬉しいのは、四傑のひとりであるアーガスを仲間に加えることができたことだ!

彼が仲間になれば、俺たちの『戦う力』は大きく跳ね上がる。


帰路の俺の足取りは軽く、更に望む新しい未来へと思いを馳せていた。

ここでやっと! プロローグに登場した人物の一人が本編に登場しました。

今後はアーガス以外も順次、登場してくる予定です。


どうぞよろしくお願いします。

次回は6/20に『集団脱走計画』をお届けします。

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