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ep52 いざ! フォーレへ

宿屋に一泊したのち、俺たちは朝から全員が一階の食堂で顔を合わせた。


一瞬だけマリーは少しはにかんだ様子で舌を出したが、昨日のことは覚えている、いや、確信犯だったりするのか?

まさかね……、俺はまだ十歳のお子様だし。


アリスには朝一番で会ったときに、ちゃんとフォロー済みだ。


『おはようアリス、これからはずっと一緒だね。俺も凄く嬉しいし、これからも頼りにしてるからね』


そう言って挨拶すると、彼女のご機嫌メーターはMAXになったので問題ない。


「会長……」


朝食を食べているとき、アスラール商会に雇われていると思われる女性が宿を訪ねてきた。

そして彼女は、俺も見覚えのある銀髪の少女を伴っていた。


「サラか?」


「うん! 優しいお兄ちゃん、助けてくれてありがとう」


彼女も俺を覚えていてくれていたようだった。

あの時とは全く違う、子供らしい溢れんばかりの笑顔で応じた彼女を見て、救われた気持ちだった。


「話は聞いたかな? お兄ちゃんのウルスは必死にサラを探していたぞ。そしてもうすぐお兄ちゃんにも会えるからな」


「う、うん……」


あれ? 何かあったか?

そう思えるほどにサラの表情は冴えず、どこか浮かない様子だった。


「リームさま、会長、少しだけご報告が……」


商会の女性が意味深な表情で声を掛けてきたので、俺たちは席を外した。

何かを察したアリスは、すぐにサラの相手をしながら朝食を二名分追加していた。



俺は彼女の話を聞いて、改めて現実の厳しさを知った。

サラは兄のもとには帰りたいと考えているが、あのひもじく辛い生活には戻りたくないと言っているそうだ。


今は引き取られた子供たちと一緒に保護されており、何不自由なくお腹一杯食べることができる。

差別で嫌な思いをすることも、虐められることもない。

同じ奴隷であったヒト種の子供たちとも仲良くなり、友達もたくさんできた。

商会の手配で勉強まで教えてもらって、夢のようだと日々感謝しているらしい。


だが……、貧民街に戻ればどうだ?


兄と暮らすことはできるが、代わりに日々ひもじい暮らしに逆戻りして、怯えながら虐げられる生活が待っている。そのため彼女は、『お兄ちゃんには会いたいけど、できれば帰りたくない』とまで漏らしているようだ。


「商会長、サラの件は一旦保留にしよう。俺はまだ問題の根深さを理解していなかったようだ。

ウルスにはサラが見つかったこと、今は保護して安全な場所で不自由のない生活をしており、今回の任務が終われば会える。ことだけを伝えようと思う。

それでどうかな?」


「良いと思います。いずれフォーレで、仲良く暮らせる日がくるのですから」


俺はトゥーレが抱える闇について、まだ理解が足らなかったことを思い知らされた。



◇◇◇ 



朝食後、俺たちは五人で打ち合わせを行い、各自の分担を決めて行動に移った。


ここ数か月、アスラール商会は足が付かないよう多方面から物資を買い付けており、目立たぬよう小規模な商隊に分散して資材を輸送し、この町に借り上げた巨大な倉庫に蓄積していた。


そのため、後で帳簿を突き合せれば正確な物量が分かるが、今もなお輸送中や輸送待ちの資材もあり、実は倉庫にどれだけの物資があるか、正確には分からないそうだ。


そこでマリーとアリスが倉庫内の物資を確認して在庫表を作る作業を担当し、その間に俺とカールは資材をトンネルに運び込む。

そういった分担を決めて作業を開始した。


俺とカールは手配してもらった馬に跨り、替え馬と一緒にトンネルに向かった。

天威レベルの地魔法のお陰で、トンネル内の空間を拡張し強化することも簡単だった。


そして俺たちはひたすら往復した。

替え馬のお陰で移動速度は格段に上がったが、それでも片道20キロ近くの往復は時間を要した。

結局もう一日作業に従事し、三日目にやっとトンネル内の偽装に取り掛かれた。


俺はトンネルの奥に地魔法で壁と天井を設けた部屋を作り、偽装するため部屋の入口側にだけ板とドアを付ける作業は三人に依頼した。


その作業の間に俺は一人でトゥーレに出かけ、商会長をガルフやウルス、レパルたちに引き合わせ、七日後の出発に関する打ち合わせを行った。


あとウルスには、サラが見つかり今は商会で保護していること、いずれ引き合わすことを伝えた。


彼は涙を流して喜び感謝してくれたが、俺はちょと心が痛かった……。



そして四日目からは死のロードだ。

自分自身も覚悟はしていたが相当キツかった。


①まだ町に集積されている物資を持てるだけ収納し、ゲートを開きフォーレに転移する 

※最初だけはアリスたちも一緒に移動

①-1初回のみ俺がフォーレ側の偽装したトンネル出口を作り、三人はドアや壁板を張って偽装作業を行う

②フォーレの建設予定地にて、三人はバイデルの図面に書かれた町割りに合わせて縄を張り巡らせる

③-1三人が縄張りを行っている間、俺は地魔法を駆使して設計図に合わせて上下水道の水路を作る

③-2街の道路となる部分を掘り下げ、下水道に繋がる排水路を作り、近くの川で集めた砂利で道を覆う

③-3砂利を固めた後、川砂を敷き詰めて固め、最後に一番上に土を敷き詰めなおす

③-4まず必要な水飲み場と炊事場、トイレの基礎を作り水を引く

③-5縄張りに応じ、建物を建設するに必要な基礎部分を地魔法で作り固める

④三人は水飲み場や炊事場、トイレの体裁を整える

⑤日没前に森の家に戻りゲートを繋ぎ、三人を移動させる

⑥翌日、日の出とともに森の家からゲートを繋ぎ三人をフォーレに送る

⑦俺一人で森の家から町の集積場まで密かに高速移動し①に戻る


いやーキツかった。

本当にキツかった。

②と④以外は全部俺の担当だったし……。


毎日森の家では泥のように眠った気がする。

日々森の家に戻っていたのは、残った孤児たちの採集班をフォローするためだ。

採集時は彼らが日中にやって来るため、必要な薬草や食糧はこちらで用意した。

そして彼らもフォーレに転移させて簡単な組み立て作業や食事を用意してもらい、昼食はアリスやカールと共に皆で食事を楽しんだ。


そんな努力もあって、フォーレの町の部分は各所で建設予定地の基礎が建てられ、土台が剥き出しの、さながらどこかの古代遺跡のように姿を変えていった。


そして九日目が終わった。

俺は少し早めにトンネルに戻り、夕暮れから一気に街道の手前まで整地すると、暗闇の中あの町に戻った。

この日だけはあの町でゲートを繋ぎ、全員を迎えて宿屋の食事を食べて湯を浴び、ゆっくりと眠った。



◇◇◇ 十日目



そして遂に十日目が来た!

日の出前から町の中では物資を積んだ荷馬車が並び、職人たちを乗せた荷馬車、アスラール商会の面々が勢ぞろいしていた。


「なんか……、本当に私たち、出発するのね。いつも行っている場所なのに、今日はドキドキするわ」


「まぁね、アリスをはじめ俺たちはこの日のために頑張ったしね」


「孤児院の子たちも喜んでたわね。いずれフォーレに住めるって、みんな張り切っていたし」


「そうだねマリー、手伝ってもらって良かったと思う。彼らが残った孤児たちを取りまとめてくれるだろうからね」


「うん、今回の第一陣で街の概要が整えば、もう一度呼んであげたいわ」


「それもいいね。ところでマリーとアリスは、職人さんたちの荷馬車でしょ?

それぞれ商会の人が説明を担当してくれるけど、二人のほうが詳しいんだからちゃんとフォローしてあげてよ」


「「はーい」」


二人が駆け出していく姿を見て、俺はカールに引っ張ってもらい馬に乗った。

俺たちは最初に町を出て、街道の脇道まで先行する。

最後の二百メートルを繋ぎ脇道を完成させるためだ。


荷馬車が到着した後はカール一人で先導してトンネルへ。


俺は少しの時間差で到着予定のトゥーレから来る荷馬車を待ち、最後尾に進むアスラール商会の荷馬車に乗り、移動しながら道を消す。



そして……。

本来ならば日の出と共に開く門が、今日に限り空が白み始めて視界が確保されたと同時に開いた。


町側には、一斉に出発するので街道の往来を妨害しないため、という大義名分で必要経費を払っており、それにより俺たちのためだけに城門が早く開いた。


今や物資集積でこの小さな町を拠点としたアスラール商会は、町に大きな利益を落としてくれる貴重な存在となっている。

必要経費を払えば、俺たちだけ予定時間より先に出してくれるという特例えこひいきも対応してくれるまでになっていた。


おそらくトゥーレも同様だ。

こちらはバイデルがうまく手を回してくれることになっている。


これらの結果、どちら側からも街道を一番乗りで俺たちが進み、他の商人や通行する人々より先に、目的地に到着することができる。



そして今、俺とカールは先頭を切って城門を抜けた!

ここからが第二のスタートだ!

いつも応援ありがとうございます。

次回は5/2に『予想もしなかった参加者』をお届けします。


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