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ep51 着々と進む準備

俺は呆気に取られていた二人に対し、必死でごまかした。

すきっ腹だったので胸が少し熱くなった気もするが、今の俺にとっても初めての酒ではないことは内緒だ。


一度目も二度目も、習慣として適度な飲酒をたしなんでいた俺は、時折裏町の解体屋でお裾分けとして二人から酒をもらっていた。

ガモラとゴモラは俺を大人として接していたので、その辺は彼らも気にしていなかった。


本当はイケナイことだけど、体はともかく心は既に中高年……。

解体を見学する間、燻製肉をツマミにちょっとだけ、ね。


「まぁ……、今日は三人が無事に卒業できた祝いでもあるしね。

ただ、ここから先はこちらを飲むことにするよ」


そう言ってアリスが飲み残した果実水を手元に引き寄せ、道中に頭の中で取りまとめていた内容を一気に話すことにした。


「フォーレの本格的な開発は、十日後より人手を募って開始します。それにあたり依頼事項と確認事項が何点かあります」



・獣人の人足を三十日間ほど確保に成功したこと(指揮者二名、人足は二十名から三十名)

・それに伴い、十日後に最大三十二名をトゥーレから輸送できる荷馬車の手配を依頼したいこと

・商会が当たっていた孤児院の卒業生の状況を確認し、可能な者は第一陣で連れていくこと

・商会を通じて集めていた建築関係者の状況を聞き、第一陣として派遣できるか確認すること

・商会を通じて集めていた物資の状況を確認し、輸送手段を協議すること

・今回の人員搬送は、今後の安全を留意して全て偽装して行うが、他に何か課題がないか協議すること



「事前に概要は商会長にも伝えていたと思うけど、最新の状況を確認したい。動ける者は十日後を期してフォーレに送り込みたいと考えています。あと商店については今後何件か候補が上がってくる予定です」


「ほう、流石リーム殿ですな。獣人の人足と商店については、前回の打ち合わせでは白紙だったというのに……、おみそれしました。私からの最新情報はこちらの通りです」



・接触中の卒業生は七十名、そのうち反応の良い者は半数で二十名程度なら時期に合わせて身請け可能

・ルセル統治地域以外で建設に必要な職人を募っており、三十日間の約束で三十名程度は確保している

・建築資材や食料などの物資は、第一陣として十分な量を確保済

・大半の物資はこの町に集積拠点となる倉庫を借りており、そこから搬出可能

・獣人をトゥーレから輸送する荷馬車は十日以内に確保可能(見込みが付いている)



「ただ問題がない訳でもありません。まず物資だけでも膨大な量です。なんせ木材などの建設資材も含んでいますので……。それをあの場所まで運ぶこともそれなりに手間が掛かりますからね」


確かにそうだ。


まず大前提として、ルセルの目の届かない場所で全てを行う。

なのでトゥーレはもちろん、ルセルが統治している領域では一切動かないようにしている。

これだけの物資が動けば、否応なく目に付くからね。


次にゲートを使用してフォーレに移動するのも偽装する。

適当な洞窟が見つからなかったので、この町からトゥーレに伸びる街道を外れた先にある山の一角、地元の人も通らない場所を選定し、俺は密かにトンネルを掘っていた。

もちろん入口は毎回塞いでいるので万が一発覚することもない。


ただ……、人の通らない=道がないのだ。

徒歩で移動するならまだしも、物資を満載した馬車がそこを通ることなど不可能だった。


「そうだね……。先ずあの空間(・・・・・・)に収容できるものは、トンネルまで何度か往復して運んでおく。そこからは事前にフォーレに運びきれない大部分は、ゲートを通過する際に人足たちに輸送してもらおうと思う」


「ありがとうございます。それで八割方解決ですな」


「そして俺が収容できないもの、それは柱などの建材だと思うだけど……、合ってる?」


四畳半はそういう意味ではかなり狭い。

重ねて置くことのできない、長さのある物は収納しきれない難点があるからだ。


「はい、仰る通りです。当面の柱材は現地調達できませんからね……」


そう、フォーレの周辺は木材の宝庫でもあるが、木は伐りだして直ぐには使えない。

それなりの時間をかけて、事前に乾燥させておく必要があるからだ。

防壁に囲われた中にも使える木々はそれなりにあるが、伐採はできても輸送ができない。


「移動の前日の夜、密かに街道から脇道を作るよ。整地するだけなら簡単だし、移動の際に最後尾で俺が元の荒れ地に戻せばいいかなと思う」


「そんなこともできるんですか!」


俺は黙って頷いた。商会長には多くを語る必要はない。可能不可能だけで十分だ。

道路となる部分の表面を整えて固めるだけなら、実際に馬で移動しながらでもできる。

脇道に分岐する部分だけ偽装しておけば、誰も気付かないだろう。


「そのためにも明日は一日、トンネルの拡張とこの町から何度も往復するため馬を貸してほしい」


「はい、それは問題ありませんが……、乗れますか?」


ん? ルセルだった俺は乗馬も経験あるし、実は結構得意だぞ?

何か問題でもあるか?


商会長の視線が俺の足元から頭の先までゆっくりと動いた。


あ! 身長か? 忘れていた!

今の俺は同年代と比較すると成長している方で風貌も大人びている方だが、それでもまだ小学六年生から中学一年生程度の体格でしかない。つまり……、普通の馬には乗れない。

現代日本のように、ちゃんとした子供向け鞍やあぶみなど乗馬器具がある訳でもないし……。

この世界の馬はサラブレッド並みに体格も良い。


「そんなに上手い訳ではないけど、僕がリームを後ろに乗せてあげるよ」


ここでカールが初めて会話に加わって来た。

彼は教会専属の兵となるべく訓練を受けて来た。そのなかで当然ながら乗馬も教えられている。


「これで課題はほぼ解決ですね。あとはフォーレ側からの人員輸送は、一旦徒歩で分散して街を出て、街道にて荷馬車に乗せます。幌を掛けて中が見えないようにしておけば、外からは何を乗せているか、中の者はどこに向かっているか分からないでしょうからね」


「なるほど! それはいいな。では明日から準備に動くとして、商会長はトゥーレ側の指揮をお願いしたいのだけど、それでいいかな?」


「ええ、もちろんです。この町に残って居る者もおりますし、こちらはお任せします」


「では十日後は、日の出の時間に商会長はトゥーレから、俺はこの町から出発して途中で合流……、あっ、忘れてた!

以前に奴隷として買った子たちを預かってもらっていたと思うけど、今はどうしてるのかな?」


そう、商会長に依頼しなくてはならないことはもう一つあった。

ウルスの妹は、おそらく俺が前回買った子供たちの中にいるはずだ。そしてその事実を奴隷商に伝え、それをネタに今後の交渉を更に有利に進めてもらおう。


「最初は俺たちの拠点に移して保護しようと考えたんですが、向こうに行くと獣人の扱いは酷いですからね。幼い子供がいることも考慮して、この町で保護していますよ」


ナイス! なら話は早いな。


「その中に八歳のサラという銀髪で狼族の少女がいるはずだ。彼女は誘拐されて奴隷になった。

その子を兄のウルスから頼まれたと言ってトゥーレに連れて行ってくれないか?

ウルスに引き渡す際に、商会長を紹介する」


「承知いたしました。明日戻る際に連れていきましょう。リームさまはいつ?」


「三日後の午後に宿屋で、それまでにこちらで行うことは片づける」


「ではお待ちしております。その間に奴隷商には少し言い含めておきましょう」


うん商会長、ちゃんと分かっているね。

しっかりオシオキをお願いします。


「では当日トゥーレ側は商会長にお任せします。俺たちは街道で待っていますので」


「それともうひとつ、荷馬車は全て中古品で買い取ったものにしたく思います。

引馬も同じく買取品とします。そうすれば、そのままフォーレに持ち込めますので……」


あ! そうか……、俺が往路で脇道を消したら戻れなくなるか?

迂闊だったな。帰りまで待っていれば脇道が発見される恐れもあるし……。


「馬はあちらでも必要となりましょう。なので敢えてそれなりの数を用意しておきます。

中古品の荷馬車も、何かと役に立つかと……」


「ありがとう。そこまで気が回らなかったよ。でも三十日後に帰る人たちはどうする?」


「街道の途中に別の荷馬車を回し、その中からゲートを繋いでしまえばいいんです。

そのまま馬車ごとトンネルと抜け、いつのまにか街道に出ていたことにすれば問題ないでしょう」


「あれ? じゃあ行きもそうすれば?」


「行きは物資がありますからね。あと、万が一情報が漏れた際には証拠がいります。

フォーレを探そうする奴には、せいぜいありもしないトンネルの奥を探してもらいましょう」


そう言うと商会長は不敵に笑った。


「ははは、奥が深いね」


「いえいえ、商いは私の本業です。こればっかりはリームさまに負けるわけにはいきませんからね」


「じゃあ明日から動きだすとしましょう。上の二人も(マリーとアリス)明日なら動けるでしょう。

今夜はゆっくり英気を養うとしましょうか」


「仰せの通りに」

「了解だよ」


これで大丈夫だよね?

俺の抜け漏れは商会長が補足してくれているし。


明日からは忙しくなりそうだな。

その後、俺とカールはそれぞれの部屋へ、商会長は町の酒場へと消えていった。

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