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ep50 動き出した建設計画

貧民街から戻る際、俺はガモラとゴモラに改めて丁重なお礼と感謝の言葉を伝えた。

商会長との対談もそうだったが、結局彼ら無しだと俺は交渉の場にすら上がれなかったからだ。


「今回も二人には物凄く感謝しています。本当にありがとう。できる範囲なら何でもお礼をさせてほしいのだけど……」


「ははは、礼など無用ですよ。これまで散々お世話になったのは俺たちの方ですからね。

正直言うと解体料としていただいた素材だけで、この先の数年程度は遊んでくらせるぐらいですし、今は店も半分俺たちの趣味でやっているようなもんです」


「そうですね。兄貴の言う通りです。既に俺たちはリームの旦那から返しきれない程の恩をいただいているんですぜ。それに今回は……、面白いものもたくさん見れましたしね」


そう言うとゴモラは大いに笑った。

面白い? 人間コマのことか?


「そうだな、ガルフに向かって旦那が言われた見事な啖呵たんか、あれを聞いて俺も痺れましたよ!

奴もあれで牙を抜かれたようにしおらしくなりましたからね」


いやガモラ……、改めてそう言われると少し恥ずかしいぞ。

まぁ言ったことに噓偽りはないけどね。


「それで俺も兄貴と相談したんですが……」


ん、どうした? 何が言いたい?

強面の巨漢がモジモジしているなんて、見る人が見たら困惑するぞ?


「旦那はさっき『できる範囲なら何でも』って仰いましたよね? 俺たちが旦那の作る新しい街に移住させてもらうってのは、その……、できる範囲ですかね?」


「!!!」


いや、ガモラ、その発言はナイス過ぎて思わず言葉を失ってしまったよ!

むしろ俺がそう望んでいるのだから……。


「いいのかい? トゥーレには簡単に戻れなくなるけど大丈夫?」


そう、彼らには既にしっかりとした生活基盤がある。

今は商売も繁盛して固定客も多いし、まして裏町の顔役という立場もある。


「はい、全然・全く・完全に問題ありません! それに毎日の楽しみもありますしね」


「兄貴の言う通りですぜ。旦那の傍に居れば珍しい魔物が次々と解体できるんだ。

そんな楽しい暮らし、俺たちが見逃すはずがないじゃないですか」


「……」


ガモラ、ゴモラ……、解体が生き甲斐って、聞く人が聞けばアブナイ人認定されてしまいますよ。

まぁ理由はどうあれ、彼らが来てくれるのはとても嬉しい話ではあるけど。


「ありがとう。お店の規模とかご希望が有れば事前に言ってもらえたら、出来る限り叶えたいと思う。

内密に話を進めるのが大前提だけど、独立したり店を立ち上げたいと希望している方が居れば、併せて紹介してくれるかな?」


「旦那、もちろんでさぁ。なぁゴモラ」

「俺も兄貴も何軒か心当たりがありますぜ」


「本当に助かるよ。ただ……、いい場所だけど、めちゃくちゃ遠いし行き来は不便だからね。他の国の僻地に行くぐらいと言っておいてほしいかな」


「ははは、今日の話を聞いていれば裏町で生活するよりはマシ、皆もそう思うと思いますよ。

まして旦那が作る街なら何の心配もねぇでしょうし」


フォーレを豊かな街にするには、様々な店舗を誘致することも欠かせない要素だ。

だけど立地の問題もあって諦めていたんだけど、これは何とかなるかもしれないな。


俺はこのあと二人と別れ、城門を出ると領境を目指し、街道を離れて魔法による高速移動を開始した。

アリスたちと落ち合うために……。



◇◇◇ トゥーレから半日の距離を進んだ街道にて



最辺境からガーディア辺境伯領の中心部に向けて伸びる街道上には、一台の馬車と周囲を固める五騎の護衛がゆっくりと進んでいた。


本来なら積荷を満載した馬車が数台続き、護衛の人数も数倍以上となるはずだが、今載せているの四人の人間だけだった。


「因みにアイヤールさま、教えてください。私たちはどこまで移動するのですか?」


「ははは、それは私もお答えできない質問ですな。強いて言えばリーム殿次第でね。

ひと仕事終えられたのち、我々を追い馬車に合流される予定になっているのだが、予定よりかなり遅れているようだしね」


「そうですか……」


孤児院という鳥籠から放たれ、念願だった自由の身になったアリスは、流行る気持ちを抑えられない様子だった。


『あの強欲なババアの下で暮らしていたのなら無理もなかろう』


そう思ってアイヤールは、小さく息を吐いた。

それでも彼女たちは、自分たちが自由となった瞬間から他の子供たちを救うため、次の手立てを議論し始めていた。


『こんな年から過酷な運命を乗り越えるため、彼女たちは日々戦ってきたのか……』


そう考えるとアイヤールは、感嘆せずにはいられなかった。

そのため優し気な眼差しで彼らの議論を見守り続けたが、取り急ぎ予定を共有することにした。


「今日はもうこんな時間なので、トゥーレの領主が統治する範囲外まで出て、今夜はそこで一泊する。

そこで必ずリーム殿に合流できるよ。今からでは森の家に間に合わないからね」


「アイヤール様、何故私たちは反対の方向に向かわなかったのでしょうか?

あちら側なら、僕たちだけでも移動できたし、森の家にも簡単に行けましたが……」


「だめよカール、あっちに行けば怪しまれるわ。私たちは商人見習いとしてアイヤール様に引き取っていただいたのですから」


「あ……、そっか。マリーの言う通りだね。あそこを出れた嬉しさと、動き出したい気持ちが逸ってつい失念していたよ。僕たちは今日から表立って姿を見せてはならないことを」


『ほう……、このあと三人にはじっくり言い聞かせるつもりだったが、既にそれも理解しているのか。

リームの旦那が即戦力と言っていたのも、まんざらではないな』


そう思いアイヤールは再び感心するとともに、引き続き道中で行われている彼らの議論を見守った。

そして当のリームは追いつくことなく、彼らは日没前にトゥーレの行政区域を超えた先にある、小さな町に入った。



◇◇◇ トゥーレ行政区域外の町



俺が最終的に集合場所としていた町に入った時にはすっかり日が暮れていた。

もちろん入口の門は日没と共に閉ざされていたが、俺にとっては何の問題もない。

風魔法で大きくジャンプして乗り越えれば良いだけだ。


町の外壁を一度巡り、人気のない場所を確認して俺は外壁を超えた。


ここは小さな町だから宿屋も少ない。おそらく商会長は安全を考え、一番良い宿に泊まっているはず。

そう考えて入った宿の食堂で、早速奥のほうで食卓を囲む四人の姿を発見した。


「遅くなって申し訳ないです。商会長、彼らの引き取りをありがとうございます。

俺のほうでも色々と成果もあるので、早速……」


そこまで言いかけた時だった……。


「リーム、リーム! ありがとう。本当に迎えに来てくれて嬉しいっ!」


横からいきなり抱き着いてきたマリーを受け止めそこねて、また……、押し倒されてしまった。

その瞬間、マリーの吐息を感じるぐらいに彼女の顔が接近した。

あれ? この匂いはまさか……。


「商会長、マリーに酒を飲ませましたね?」


確かにマリーはもう十五歳、この世界では成人だし酒を飲んでも誰から咎められることもない。

だが……、孤児院暮らしでは酒なんて飲む機会は皆無だ。

なので彼女らは全く免疫がなくて当然だ。


「リームは私との約束を守ってくれた。なので私も……。

アリスはお姉ちゃん、私はお……、嫁……」


言葉の途中でマリーはすやすやと寝息を立てて眠ってしまった。

なんか凄く危険な言葉を言い掛けていたいた気がするけど……。


「あ、いや……、これはですね……」


「僕が悪いんです! アイヤールさんに商人としての心得を教えてもらっているとき、『重要な商談は酒の席で行う』と言う話を聞いて、僕らも飲めるようになりたいと無理にお願いしたから……」


焦る商会長をカールが必死で庇っていた。

そう言えばカールも若干顔が赤い。だって彼も全く免疫がないんだからね。


その瞬間、ドンっという酒の入ったジョッキをテーブルに叩きつける音が聞こえた。

恐る恐るその方向を見ると……。


先ほどマリーが座っていた場所に置いてあったジョッキが八割がた減っており、アリスがそれをテーブルに叩きつけた音だと分かった。


「リーム、私も報告したいことがいっぱいあって、ずっと待っていたのに……、遅い。

そして……、ズルイっ! お姉ちゃんである私が一番なのに!」


「あ、アリス……、ただいま。ってか、まさかアリスも?」


「いや、俺たちもアリスだけは飲ませていない! これまでは……、だが」


これまでは……、ね。

そして今、マリーの様子を見て彼女の酒を一気に飲んじゃったという訳ですか、商会長。


「お帰りなさいっ!」


アリスはそう言うと同時にダイブしてきた。

ま、待てっ! 危ないから!

俺はマリーに抱き着かれたまま、必死にアリスを受け止めた。


「よー兄ちゃん、両手に華とは羨ましい限りだな。俺もあやかりたいぜ」


「ははは、その歳で末恐ろしいもんだぜ。ただ……、部屋で盛るときはなるべく静かに頼むぞ。

明日は朝早くから移動だから、ちゃんと眠らせてくれよ」


俺たちの様子を見て、周囲のテーブルからは一斉にヤジが飛んだ。

勘弁してくれ……。

今の俺が彼女たちに手を出したら、それこそ何重もの意味でも犯罪だ。


酔ったマリーと、成り行き上酔ってしまったアリスを皆で部屋に運び込んで寝かし付けると、俺たちは再びテーブルに戻った。


「……」


席に着くと俺はテーブルの上を確認した。

あらかた食べ終えられていた大皿には、一人分だけ取り分けられた食材が残っており、アリスの席には半分の見かけの果実水、マリーの席には八割がた飲まれたジョッキ、クルトの席には三分の一だけ飲まれたジョッキ、商会長の席には何本かの酒瓶が丸ごと置かれていた。


「申し訳ありません。俺もせがまれてつい……」


「いいですよ、今日はみんなにとって祝いの日でもありますし、おおかた一杯だけの約束だったんでしょう?」


「僕が無理にお願いしたので、アイヤールさまは悪くありません」


「うん、咎めるつもりはないよ。カールはもう成人だし、これからは酒に飲まれないようたしなんでいく必要もあると思うしね。それで……、話には付いて行けるかい?」


大きく何度も頷くカールを見て、俺は話を先に進めることにした。

早速商会長に依頼しないといけないことも沢山あるからだ。


「ではここから、『酒の席』で大事な依頼を行いたいと思います。早速ですがアスラール商会は明日から多方面で動いてもらいたいと考えています」


「もちろんです。今回はある程度の荷も揃えて来ましたし、ウチの人間も各所から引っ張って来ましたからね」


「助かります。ではこれから差し当たり当面の予定を共有したいと思います」


そう、今日話したいことは盛りだくさんだ。

商会長には色々と進捗を確認したいこともある。


走り詰めだった俺は喉を潤したくなったので、マリーの席に残されていたジョッキをあおり、残った酒を一気に流し込んだ。


「あっ!」

「リーム殿っ、それはっ!」


二人が驚いた声を上げたので、俺はここで気付いた。

あ……、やっちまった。

ついこの場の雰囲気に飲まれて、昔の自分に戻った気になっていた。


今の俺はまだ十歳でしかないことをすっかり失念していたのだ。

ここは……、間違えたと笑って誤魔化すか?


相変わらず俺自身も、詰めの甘さを自覚させられることになった。

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