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ep45 視察……、再び

商会長とバイデルを連れてフォーレに視察に行った翌日、俺は門が開く前から城壁を飛び越えてトゥーレを出ると、郊外にある森の家に向かった。


到着後は森の中を歩き回り、薬草や食料となる木の実や雑穀類を集めて回り、採集班の到着を待った。

なぜなら今日は孤児たちが野外採集に出る日だったからだ。


そして……。

想定していたより早く森の家にやって来たアリスは、俺を見るなり抱き着いてきた。


「リーム! 会えてよかったぁ」


いやいや……、まだ孤児院を出て五日しかたってないじゃん。

思わず面食らっていると、カールを始め他の皆も涙ぐんでいた。


「心配ないよ、俺はいつもここで皆を待っているし。でもカール、今日は真っ先にここに来てくれて助かったよ」


「何となく、さ。特にアリスとマリーが『リームがきっと待ってるから』って言ってたしね」


俺は今日、彼らに会うだけが目的ではなかった。

そのために事前に色々と準備もしている。


「今日はちょっと用事があるから、アリスとカール、そしてマリーを借りたい。

必要な採集量は既に集め終わっているので、皆はここでいつも通り食事と勉強や訓練に励んでほしい」


そういうと三人の除く採集班の子供たちは歓声を上げ、逆に指名された三人は真剣な眼差しで俺を見た。

何かあると察知したからだ。


「早速だけど付いて来てくれるかい?」


子供たちが食事の準備のため、一斉に家の中に入ったのを確認すると、俺は(真)四畳半ゲート+を展開し、現れた空間の揺らめきの中に消えた。


「あっ!」

「えっ?」


初めて見るカールとマリーは驚きの声を上げたが、一度見ているアリスは躊躇なく俺の後に続き、続いて意を決したマリーが、最後にカールが四畳半の中に入ってきた。


「「???」」


二人は四畳半の中で戸惑っていたが、平然としているアリスを見て敢えて疑問を口にしないようだった。


「今日は俺たちの計画にある移住先、俺が魔の森の奥地に作った町(予定地)に案内しようと思ってね。

今は何もない場所だけど、これから俺たちで他のみんなを迎える準備を行う場所だ」


「私たち? 今日は私も扉の向こう側に行けるの?」


「うん、アリスも行って帰ってくることができる方法を見つけたからさ。

そして大事なこと、もうすぐ卒業するカールとマリーは俺やアリスと共に、一足先に移り住んでもらおうと思っている。当面の間、夜は森の家で寝泊まりする形になるけどね」


「私も? 本当に……、いいの? 本当に、娼館に行かなくて済むの?」


俺の言葉にマリーが突然涙ぐんだ。

ってか、マリーが娼館に行かされるってどういうことだよ! 


まさかあのばばあ……。

アリスだけでなくマリーも娼館に送るべく、裏で密かに動いていたのか?


マリーも仲間として迎えた頃は十三だったが、今はもう十五歳。

既に大人の女性として成長しつつある美少女だし、あのばばあなら当然そう動くか……。


「ああ大丈夫だ。卒業前には必ず三人を迎えに行く。大人たちの食い物には絶対にさせない!

今はそのために動いているから、少しだけ我慢してほしい」


「リーム……、俺もいいのか?」


「ああ、カールも今や立派にクルトの後を継いだリーダーだよ。そして戦いもこなせる。

これからもリーダーとして子供たちを守ってやってほしい」


「ありがとう……。本当にありがとう」


「ちなみに、マリーの他に今年の卒業で娼館送られる子はいるのかな?」


「いないわ……。女の子で今年卒業するのは私だけ。ずっと前には同じ年の女の子が他にも二人いたんだけど、彼女たちは十歳になる前に……」


くそっ! そう言うことか。

クルトや俺が色々と動き回っていたが、その効果が表れるまでには時間がかかった。

五歳年上のマリーが十歳になる前の話なら、俺はまだ野外採集にすら出ていないころの話だ。


「カール、マリー……。今の時点では今年卒業する者で救えるのは二人だけだ。

だけど信頼できる者には伝えてほしい。悲観することなく少しだけ耐え忍んでほしいと。

いずれアスラール商会の者たちが接触するから、それが残酷な運命から抜ける機会だと」


「「わかった(わ)」」


「じゃあ扉の先に行こう! 俺たちの新天地、フォーレに!」


先頭を進むアリスに続きマリーとカールが外に出るのを確認すると、俺も外に出た。

その瞬間、ゲートは消えて空間の揺らぎも消えた。


「……、改めて外に出ると実感するわ。本当に違う場所に来たんだなぁって」


「ああ、アリスたちには先ず、俺のとっておきの場所を見せるよ。それから順番に中を案内する」


そう言って俺は、昨日と同様に三人を岩場の上まで連れて行った。

まず最初は見える景色に圧倒されて呆然としていた三人だったが、一気にはしゃぎだした。


「凄い! 凄い! 凄い! あんなに遠くまでずっと緑の森が広がっている」


「本当にすごい眺めね。緑に圧倒されそうで少し怖くなるぐらいだわ」


「リーム……、今さらだけど僕はリームの凄さを改めて感じ、少し怖くなったよ」


「「え? こんなに可愛いのに?」」


そこの二人! 可愛いでハモらないでください。

俺はそもそもいい年したオッサンなんですから……。


その後各所を案内した俺は、一番最後にまた最初に訪れた岩塩洞窟の前に戻って来た。


「ここなら誰に遠慮することもなく密談ができるからね。今日は今後の話も三人としておきたい。

フォーレは明日より更に手を加えていく。だけど俺一人では限界があるため、これからは仲間を徐々に増やしていこうと思う」


そこから俺は、自身の計画について彼らにも話した。



『一の矢として、奴隷商人たちから亜人を買い上げて救済し、仲間に加える』


「これについては不完全ながら既に動いている。

先日もトゥーレの奴隷商を訪問し、獣人の子供八人と借金奴隷だった子供たち四人を買った。だけどこれで終わりではない。

俺は自分の資金が続く限り、奴隷を買い続けて解放し仲間に加えるつもりだ」



『二の矢として、卒業して売られた孤児たちを買い戻し、仲間に加える』


「さっき説明したことだけど、既に卒業した者たちにはアスラール商会が声掛けを始めているからね。

特に職人として経験を積んだ者たちは、この街を整備するカギとなると思う。

彼らが活躍できるよう、必要な物資はさっきの方法でどんどん運び込むつもりだ」



『三の矢として、孤児院から信用の置ける仲間を買い上げて作業を進める』


「これは言うまでもないよね。カールとマリーとアリス、三人は今年の卒業までに大手を振って孤児院を出れるようにする。そこでひとつ大事なお願いがあるんだ。

そうなると信頼できるリーダー格が孤児院に居なくなってしまうから、カールは次の採集班のリーダーを、アリスとマリーは二人の後を受けて要となる人物を育て、それぞれを『仲間』に加えてほしい。

いつか俺たちが、一気に全員を迎えに行く日に備えて、ね」


「え? 次は一気なの?」


「そうだアリス、来年の卒業前には全員を一気に脱走させる。そのためにも受け入れ場所となるこの場所を、急いで整備しなきゃいけないんだ」


「それなら大丈夫と思うわ。今の特別採集班はカールとアリス、そして私が抜けても十七人は残るし。

彼らならその役目も担ってくれると思うわ」


「そうね、マリーの言う通りみんなはリームの凄さを薄々知っているし、何より森の家で恩恵も受けているもの」


「そっか……、そうだよね。ここ数年は俺も一人で動いていることが多くて、俺にとって特別な三人以外は、みんなの気持ちにも疎くなっていて……」


「ふふふ、私も特別な一人なんだー」


そう言うとマリーは妙に嬉しそうな表情を浮かべてたが、それを見たアリスは幼いころからの癖で可愛く頬を膨らませた。


「ぶぅっ、マリー、お姉ちゃんのあたしが一番特別だからね!」


「うん、アリスはお姉ちゃんとして特別、でも私は……」


ん? 何か変な方向に話が行きそうだから話題を戻そう。

矢の話はまだまだ続きがあるしね。



『四の矢として貧民街に向けて密かに支援を行い、彼らを見守る』


「これについては今のところ様子見かな?

まだ何も動いてないしね」


「えっと、見守るだけで彼らを仲間には加えないのかい?」


「そうだよカール。貧民街は既に領主の手が入っているし、何よりも彼らは今、領主を崇拝している。

だが俺の考えは違う」


そこまで言うと、改めて三人に向き直った。


「俺は領主のことを信じてはいない。表向きは善政を行っているけど、彼には冷酷な何かを感じるんだ。

いずれ俺たちの敵になるかもしれない存在として、常に心に留め置いてほしい」


「じゃあ貧民街には何もしないってこと?」


「それも違うよアリス。助けが必要な者たちには手を差し伸べる。だけど一気に取り込むことは難しいかな。なので一線を引いて様子を見つつ、対応を進めようと思っている」



『五の矢として、信頼できる亜人(獣人)たちへアプローチする』


「これはさっきの話と矛盾するけど、貧民街に暮らす獣人たちは今、領主の恩恵を受けていない。

そして彼らの力は建設作業に向いている。なので仕事として街づくりへの協力を依頼する」


「でも……、それじゃあ信頼すると同じになるんじゃないかしら? ここで作業をするにはリームの力を明かすことになってしまうんじゃない?」


「うん、マリーの言う通りだよ。だからさっき移動したゲートを偽装するんだ。

例えばどこかの洞窟の途中にわざとらしく扉を作り、そこに入口を繋げる。そうすれば彼らは洞窟の先が此処に繋がっていると思うだろ?」


「確かにそうね。常識で考えても、あんな方法で移動できるとは誰も思わないわ」


「そして帰り道も、ここに同じような扉と通路を作れば、この洞窟が向こう側の洞窟に見えるよね?

その扉から送り返せば、きっと誤解してくれると思うんだ」


そう、人手として雇う場合はそれぐらいの用心はしないといけない。


まして今の彼らはヒト種を信じていない。

前回の歴史で彼らがルセルを信じてくれたのは、領主として領内で彼らの人権を認め、それを違わず実行していたからだ。



さて、六の矢以降の話もあるが先ずはここまでだ。

先ずはフォーレを街として成立させる。今はそれに向かって突っ走るだけだ。


うん、もうそろそろいい時間だし、戻りの準備をするか? 俺があっちに行くまでの所要時間もあるしね。


「ちなみにだけど……、ここからトゥーレに向かうにしても、普通なら戻れない距離にあるからね。

魔の森のなかを真っ直ぐ抜けても多分……、十日以上歩いた先にある」


「「「えええっ」」」


あれ? 二人はともかく、アリスにもそれを言ってなかったっけ?


そのあと俺は彼らに帰り方を説明し、森の家に戻って再びゲートを開くこと、それまでは安全な岩塩洞窟で岩塩を採取して待っていて欲しいと伝え、再び風になった。

彼らの帰り道を開くために……。



ここからが新しい街づくりであり、今日俺たちはその第一歩を踏み出したことになる。


先ずはこの三人を自由な立場に解放し、並行して働き手(獣人)の確保だ。


既に商会長には、職人の手配と建設資材の手配は進めてもらっている。

そして今、俺たちは『時』をまっている。

だがそれも、遠い先の話ではない。

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