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ep3 過酷な運命② 適当な加護

何度も悪戦苦闘を繰り返した末に、自身に備わった魔力の流れを制御し、正しく発音した言霊(呪文)の補助を受け、やっと自分のステータスを表示させることができたのは、努力を始めて三か月の時が過ぎた後だった。


『我が血と魔力をにえとし、与えられし加護と魔力の根源を示せ! その大いなる力を示し、己の導きとなさん……』


孤児たちが深い眠りに付いた深夜、この日何度目かの挑戦でやっと自身のステータスを確認することができた。


だが……。


「なっ、何だよこれは! くそっ……。

適当野郎に駄女神め! やってくれたな」


これが思わず発した俺の言葉だった。

目の前に表示されたものは、自分の目の疑うほど残念な結果でしかなかったからだ。


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◆固有魔法スキル


固有名:四畳半ゲート+

属性 :無属性時空魔法

レベル:人威魔法 ☆

説明 :過酷な運命を経た転生で魂に刻まれた空間収納スキル 最大で四畳半程度の物質収納が可能


◆加護による魔法


魔法名:鑑定魔法(劣化版)

属性 :無属性

レベル:地威魔法 ☆

説明 :劣化版のため、ヒト種、亜人種、魔物などの鑑定は不可 常時発動不可で使用限界あり

    劣化版のため、鑑定は視界のなかでひとつの物体しか鑑定することはできない

 

魔法名:空き枠(転写魔法)

属性 :なし(無属性)

レベル:なし(天威魔法)

説明 :現段階では空き枠。今後自身が見た魔法士が持つ魔法スキルの劣化版を一度に限りコピー可能

    コピーに当たっては対象の魔法を正確に理解し、対象に触れていることが条件となる

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「いや、これって……、二度目のルセルに比べたら遥かに見劣りするんですけど?

あの適当爺ジジイめ! 本当に適当な残り物だけ渡してきやがったな」


説明を見て思わずそう毒付くと、心の奥底から大きな怒りが湧き上がるのを感じていた。


本来ならルセルが加護を受けた魔法は、火・水・地・風・雷の五属性を併せ持つ五芒星ペンタグラムと呼ばれた魔法スキルで、しかもそのレベルは全て最上級の神威魔法だった。


この世界の魔法レベルは、下から人威魔法、地威魔法、天威魔法、神威魔法と四段階あり、上のクラスになるほど効果や威力は下位レベルと隔絶した差となっていく。


人威魔法……、これはよく言われる『生活魔法』とさして変わりない程度の威力でしかない。


・かまどに火をおこ

・明かりを灯す

・クワで大地を耕す


こういった『人』が為せる程度の『威力』しかないレベルとは、初めて聞いた時は言い得て妙だとも思ったぐらいだ。

違いは人手により時間を掛けてやるか、それとも魔法の力で一瞬でできるか、そんな程度でしかない。


そしてもうひとつ、このレベルは上の階位に上がることはない。習熟度(経験値)が上がれば、同じ階位の中でも少しだけ行使できる魔法の威力が上がる。

そんな程度だ。


そのため下から二つ、人威魔法や地威魔法とは、魔法を使える者ならごく一般的なレベルに過ぎない。


だが天威魔法となれば、ごく一部の高位魔法士と呼ばれる者たちだけが持つ加護であり、神威魔法はその名の通り神の領域とも言われ、人智を超えた伝説級のものとさえ言われた代物だ。


実際に過去の俺も、余りにもチート過ぎてそのレベルについては秘匿していた。

五芒星ペンタグラムを持つだけでも、あり得ないほど飛びぬけたチートだったのだから……。



前回はルセルも、それらに加えて『四畳半ゲート』という訳の分からない固有魔法を手にしていた。

がしかし、これが思ったよりも使えなかった。


名前は四畳半と言いつつ、面積はほぼ一畳、高さ二メートル弱の立方体程度の収容能力しかないし、その程度であれば通常なら荷駄に積み込める量にすら劣る。

これはまさに人威魔法の典型だ。


一人で荷物を持って行動することのない前回の俺(ルセル)は、即座にゴミ魔法と認定し使用することが全くなかったいわくつきの代物だ。


あのとき俺は、本来なら5種+1種で、五芒星ペンタグラムではなく、六芒星ヘキサグラムの使い手を名乗れるとはずだったが、四畳半ゲートがあまりにショボ過ぎて数として切り捨てていた。


そんなゴミ箱行きスキルを再び手にした俺は、途方に暮れるしかなかった。


前回との違いは(プラス)が付いていることだったが、説明文を読んでなんとなく察しがついた。


『過酷な運命を経た転生で魂に刻まれた』……、確かに二度目でも悲惨な最期を迎え、三度目も生まれる前から過酷な運命を刻まれましたからね。

そりゃその分がプラスになっているのでしょうけど、はっきり言って全然嬉しくない。

レベルが最下級の人威魔法であることから、それも期待できないことだけは明確に理解できた。



そして次に鑑定魔法……、人や亜人(獣人)、魔物の鑑定ができないなんてあんまりだ。

これではもうひとつの恩恵、転写魔法も写し取る中身が分からないから実行するしかできない。

自身の魔法レベルは誰もが秘匿すべき最重要項目であり、それを公にする阿呆などまず居ない。


そのため誰かをコピーした結果、それが人威魔法や地威魔法レベルだったら目も当てられない。

なんせ説明には、『劣化版をコピー可能』としっかり書いてあるからだ……。

しかも条件に書いてある『対象の魔法を正確に理解』って、鑑定魔法なしにどうやってやるんだよ!


結局のところコピーできる空き枠も、今の状態では宝の持ち腐れに過ぎない。


いや……、詰んだ。

あのテキトー主神に期待した俺が悪かったのか?

数日間落ち込んだ後、俺は魔法に頼らず孤児院内の格差社会をのし上がる努力を始めることにした。


先ずは金と力だ!

余計なしがらみは捨て、自分勝手に生きると決めたものの、この世界は隠棲いんせいしてスローライフを送れるほど優しい世界ではない。


先立つものとしての資金、そして資金や命を奪われないように身を守る術、勝手気ままに生きるには、最低限この二つが必要になってくる。


俺は三歳になるまで、真剣に今後の指針と具体的作戦を検討し始めた。



◇◇◇ リーム(三歳) 孤児院にて



俺は一歳前後でそれなりの言葉を話せるように装い、二歳ではある程度の日常会話なら問題なく話せるように振舞った。

もちろん、わざとたどたどしさを残しながら。


ある程度段階を踏まえたつもりだったが、周囲の大人たちは俺の言語習得の速さに驚き、いつしか孤児院のなかでリームは神童では? とささやかれるようにまでなっていた。



ここまで三度目を生きる過程で、今の世界は確かに俺が二度目に生きた世界と同じものであり、全く同じ時系列を辿っていることが分かった。

俺の存在以外は……。


今の俺は三才、そしてベルファスト王国暦は303年だったから、時系列の確認は簡単だった。

見慣れた孤児院や教会の外観から、孤児院に送られて早々、ここがトゥーレだとも理解できた。


その前提なら、スタートは大きくマイナス、チートもゴミレベルのダブルパンチでも、俺は三度目の人生を何とかする方法はある! 

これから何が起こるか、ある程度分かった上で先回りできるからだ。


ただし、以下の二つが絶対条件になる。


ひとつ、卒業まで格差社会で無事生き残ること。

ひとつ、先立つもの(資金)を集めること。


それに備えるためには、幼少期から入念に準備が必要だし、今後の立ち回りかたも大切だが、俺には幾つかの対策案があった。


それを駆使し、やり直しではなく全く別の位置から攻略してやる。今度はただ、自分が利己的に生き抜くためだけに……。



今の俺が居るベルファスト王国、ガーディア辺境伯領の最果ての町トゥーレは、少なくともあと七年以上はろくでもない町のままだ。


本来の俺であるルセルが十歳で教会の儀式を受けた際、五芒星の魔法士と発覚する。

碌に顔すら覚えていない父親が没したのち、跡を継いだ長兄から稀有な五芒星の魔法の資質を恐れられ、厄介払いも兼ねて追放に近い形で最辺境の町トゥーレに追いやられる。


もちろん長兄側の意図は見え透いていた。


中央から俺を遠ざけて影響力を削ぐこと

ろくでもないこの町を与え、統治に失敗させること

五芒星の力で魔物や獣人との戦う番犬にすること


こんなことを期待して送り込まれた訳だが……。

それが今から七年後だ。


その後に領主として俺が行った様々な改革が功を奏し、トゥーレが真っ当な町になるのには更に後だ。

もちろんその中には教会や孤児院が改善されることも含まれていたが、それは今の俺が卒業する先の話だった。


つまり他人(本来の自分)により今の環境が改善されることは期待できない。

自力で生き抜く必要があるということになる。



その決心のもと動いていた俺は、二歳までのぬるま湯扱いの期間が終わると、苦痛に満ちた一年を過ごした。


そして、わずか三才で異例の抜擢を受けて孤児院内で中級待遇となっていた。

他の孤児たち、特に年上の勤労待遇の子供たちからは疎まれたが、これで取り合えず生き残るための第一段階はクリアしたことになる。


予想通り食事は大幅に改善され、空腹の度合いもかなりマシになったおかげで、幼児期に餓死する可能性は回避された。

だがこれも、『生き残るため』にはまだ最初の一歩にしか過ぎなかった。

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