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ep43 未来への証明

これまでに俺が話したことは、言ってみればあくまでも願望、悪く言えば絵空事に過ぎない。

実施できる手段が伴って初めて、願望は目的になりえるのだから。


「では過去の話はこれぐらいにして、ここからは俺が未来を語るに足る者か、そこに話を移します。

商会長、現状で俺たちが保有している資金について共有してもらえますか?」


「はい、今日新たにお預かりした商品はあくまでも販売できた想定での概算値になります。

それでよろしいですか?」


頷いた俺に対し商会長は一部だけを伏せて報告してくれた。


○収入

・鉱物(砂金)金貨40,000枚相当(追加分1樽を含む)

・魔物素材  金貨 5,000枚相当(本日追加分を含む)

・岩塩売却  金貨 1,000枚相当(本日追加分を含む)

・他(砂白金)金貨50,000枚相当(現金化には時間がかかる)

-----------------------------------------------

 合計    金貨96,000枚相当


▲支出    金貨約 1,400枚(孤児院+教会+奴隷商+必要経費)


「まぁ……、現金化には時間が掛かるものを含め、全てが売れた想定での皮算用ですが、目処が付くものだけで金貨十万枚程度、これでもリーム殿は全ての商品を出されている訳ではないので、結果的に軽く十万枚は越えるでしょうね」


「じゅ、十万枚ですとっ!」


「あと岩塩が単価の割に金額が高いのは、単に売りやすいからですね。他のものは個別に卸す形になりますが、岩塩だけは同業者でもこぞって買ってくれますからね」


「いや、アスラール殿、魔物素材の額も相当なのでは……」


「ええ、ここはまぁ俺たち商人の腕の見せ所ですね。王都では飛びつかれる価値の素材も多々あります。ただし一気に捌くと値が落ちたり変に勘繰られますので、売り捌くのに一年ぐらいは必要になるかと」


「じゃあ商会長、差し当たりすぐに動かせるのは金貨はどれぐらいかな?」


「金貨で四千枚弱、当面の資金としてはそれに加えボンドが金貨二万枚分ですかね」


「……」


涼し気に話す商会長とは対照的に、バイデルは口を大きく開けたまま固まっていた。


まぁ……、無理もない話だろうな。

これはルセルの抱えている年間予算すら遥かに越えているのだから。


「俺には商材を集める手段がある。ここから先は一気に金貨数万枚とは行かないまでも、毎年数千枚の金貨は継続して増やせると思うよ」


そう、フォーレに行けば岩塩はまだ無尽蔵といえるくらいあるし、五芒星ペンタグラムの恩恵で魔の森深部にしか棲息しない魔物も狩れる。


「リュミエールさま……、貴方は一体……」


絶句したバイデルを見て、商会長も同情したような視線を投げかけていた。

そう、かつては自分自身がそうだったのだから……。



さて、ここからはもう一つの話だ。

幾ら金貨をたくさん持っていても、それだけでは理想は語れない。


「商会長、かつて俺がこの場で、いずれ理想の住処を建設するつもりであり、手持ちの資金はそのためのものだと語ったとき、指摘した言葉を覚えていますか?」


「もちろんです。

どこに建設しようと、それは王国や貴族の所有する土地であり、理想の町なんて土台無理があると。

仮にそれらの影響が及ばないほど遠く、未開の土地だったとしても、行く手段や輸送に事欠くだろうと……」


「そうです。そして俺の答えをバイデルさんにも改めて共有したいと思います。

ひとつ、俺にはどの国も所有していない土地と、そこに辿り着ける手段があります。

ひとつ、俺たちは手間なく一瞬でその地に、どの場所からでも物資を輸送できる手段があります。

ひとつ、俺には新しく作る村で働いてくれる仲間たちがいます。差し当たり孤児院の仲間ですが……」


「そんなことが可能だと……」


「バイデルさんが疑問に思うのはもっともなことだと思います。商会長にも話の流れだけで、これまで実際に証明してはいなかったので、ここで二人にはお見せしたいと思います」


そういうと俺は、二人の前で(真)四畳半ゲート+を展開した。

そうすると、商談用の個室の一角に空間の揺らぎが出現した。


「これは俺が所持する魔法のひとつです。

この揺らぎの中に俺の秘密がありますので、俺に続いて中に入ってください」


そう言うと、俺はその空間の中に消えた。

俺が振り返ると、四畳半の空間に設けられていたドア越しに、立ちすくんでいる二人が見えた。

まぁ……、そりゃあ躊躇うよな。

だが一瞬の躊躇のあと、バイデルが中へと入り商会長も続いた。


「リュミエールさま、こ……、ここはっ?」

「何だこれは? まさか……、空間収納の中なのか?」


二人は驚きながら四畳半の中を見回し、薄暗く光る白い壁を触っていた。

俺は二人に対し、二つのドアを指さした。


「こちらの開け放たれているドアの先が先ほどの個室に繋がっています。そしてもう一つのドア、この先に俺が言っていたことの答えがあります」


「いや……、俺も商人ですから空間収納魔法については聞いたことがありますが……、中に入れるなんて聞いたこともありませんよ」


「私も同じです。このような話は聞いたことがありません」


うん確かに、俺がルセルだったころにも聞いたことはないからね。

魔法としてはかなり特殊なものなのだと思う。


「ここは収納スペース兼、時空と時空を繋ぐゲートでもあるんです。

もう一つのドアの先には、俺が町を建設しようと考えている場所に繋がっていいます。

このゲートを使えば人でも物資でも、どこからでもその場所に一瞬で移動できるからね」


二人はちょっと唖然としていた。

多分だけど話の次元が違いすぎていて、困惑しているのかもしれないな。


「因みにですが……、聞いていいことか分かりませんが、どの辺りに繋がっているんですか?」


商会長が口元を引きつらせて質問してきたので、俺はもうひとつのドアを開けた。

まずは見てもらうのが一番だろう。


「「!!!」」


開かれたドア越しに彼らの目の前に現れた光景、それは三日月型に広がる荒涼とした岩場と、その出口を塞ぐよう俺が作った防壁、そして……、その先に広がる濃密な緑の大海だった。


「ここはトゥーレの先にある魔の森を、直進できても人の足なら十日以上を掛けて進んだ先にある、魔の森の深部だよ」


「「はぁぁぁっ?」」


「あ、でも大丈夫。この岩場が防壁となって魔物の侵入を防いでくれるし、岩場のない開口部には堀と防壁を巡らせていて、囲いの中にいた魔物は掃討してあるからさ」


「あ、いや……、そういう問題ではないんです」


「確かに……、アイヤール殿の仰る通り、そういう問題ではないと私も思う」


「え、どういうこと?」


「「お話が桁違い過ぎるんですっ!」」


二人にハモられてしまった。

少なくとも商会長はもう慣れっこだと思っていたんだけどな……。


「俺はこの安全圏に町と畑を作り、人々が虐げられることなく暮らしていけるようにしたい。

ゆくゆくは防壁を伸ばして生活エリアを広げて行こうかと……。ただ一つ難点もあるんだけどね……」


「ふうっ、リーム殿の成さろうとしていることに驚くのは、もう慣れたと思っていましたが、俺の思い上がりでしたよ。ちなみに難点とは何ですか?」


いやいや商会長、そんな呆れた顔で俺を見なくてもいいじゃん。

でもこのスキル、ひとつだけ悩みどころがあるのですよ。


「一旦ドアの先に進み、向こう側に出てしまえば戻ってくることができないんです。

行くのはいいですけど、送った人は現状であの町から二度と戻って来れないことです。

広大な魔の森の危険地帯を走り抜け、あの場所から無事に戻って来れるのは俺ぐらいですし……。

今みたいに両側のドアが開いているのは、俺がこの中に居る時だけですから……」


「はっはっはっ、いや、失礼。おそらくですが、そんなことは難点にもならないと思いますよ」


え? どういうこと?

俺はずっとこれに悩んでいたんだけど……。


「そのお話の前にリーム殿はこの先の町、魔の森の深部から何日で戻ることが可能なんですか?」


「まぁ、辺境伯領の端から端までより長いからね。風魔法を最大限に身にまとって、負担の少ない方法で飛ぶように戻るのなら半日の更に半分、ぐらいかな? 

急げばもう少し早く……」


「……」


あれ? 何で黙ってるんだ?

いや、商会長! 俺を何か恐ろしいイキモノでも見るような目で見てるじゃん!


「いや、ここで俺は笑うべきなんでしょうか?

リーム殿は風魔法すら使えるお方だったとは……、貴方は一体どれだけ規格外なんですか?」


「いや、それは……。ところで商会長、答えは?」


「ああ……、そうでした。でも答えは既にリーム殿がご自身で仰っていますよ。

リーム殿がここに居て空間を繋いでいる限り、両方の扉は開くんですよね?」


「そうだけど……」


「なら繋いでいる間はどちらからでも行き来できるんじゃないですか? 唯一の難点はリーム殿ご自身が空間を繋ぐため、自力で戻っていただく必要があると考えていたんですが……」


「あっ……」


「聡明なリーム殿でも、時には我らの考えの及ぶ範囲でつまずくこともあるんですね。

少しだけ安心しましたよ」


そんな方法があったか! 

確かに俺がトゥーレからゲートを開けば、双方向で移動できる。

思ってもみなかった。


「ハハハ、こいつは凄いや! 俺たち商人の概念が根底から覆ってしまいますよ」


え? ……。

ちょっと待って!


俺が考えを巡らせている間に、商会長はいつの間にか扉の向こう側へと転移して、フォーレの大地に立って両手を広げ、愉快げに笑い声を上げているし……。


俺が唖然としている中、商会長はしばらくフォーレの景色を堪能すると、こともな気にフォーレ側の扉から再び四畳半の中に戻って来た。


「ははは、これで双方向の移動は確認できましたね。

次はじっくり向こう側を見てみたいものですな」


「いや……、万が一戻って来れないとは考えなかったの?」


「俺は一度リーム殿を信じると決めたんですよ。俺たち商人にとって、大事な商売のためなら命をカタに危険を冒すことなんてよくある話です。

それに……、話を聞いて内側から眺めるだけじゃ収まりがつかなくなりましたからね」


確かにこの転移が使えれば、フォーレを起点に流通の概念を一気に変えることすら可能だ。

フォーレを三角貿易の起点とすれば、大きな商いが流通を考えずに可能となるだろう。


「リーム殿、先ほども言った通り、今度は日を改めてじっくり向こう側に連れてってください。

その頃にはバイデル殿も落ち着かれているでしょうし」


え? バイデル?

そう言えば途中から会話に参加していなかったな?



改めて見ると……、彼は四畳半の空間の中で口を大きく開けたまま……、灰になって固まっていた。


ごめん、一気にやりすぎたかな?

俺たちは商会長の提案通り日を改め、今度はじっくりフォーレを訪れることになった。

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