表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/125

ep32 新たな誓い

解体依頼を終えて奥の部屋に入ると、俺は強引に本題に入ることにした。

先ずはいきなり二人に(真)四畳半ゲート+を見せること、それが一番手っ取り早い。


「あとから説明するけど、先ずは俺の力と俺たちが移住可能な場所を見てくれ。

もっとも、今は出口付近の風景を中から眺めるだけだけどね」


四畳半の外にさえ出なければ、クルトもアリスも部屋からドアの外を見るがごとくフォーレの一部を見てもらえるだろう。

そう思った俺は、強引に二人の手を引き空間の中に引き込んだ。


「まず一つ目。

この空間は俺の時空収納のなかだ。そしてもう一つの能力である転移先に繋がる場所でもある」


「ここが? 時空収納の中だって? そんなことができるなんて……」

「凄いっ! 色んな物がふわふわ浮いてるわ」


同じ空間収納魔法を持つクルトは、驚きに震えて茫然としていたが、アリスは目の前に広がる不思議な光景にはしゃいでいた。


「次に二つ目。

入った場所と異なる、もうひとつのドアはここと全く違う場所、魔の森の奥地に繋がっている。

ただし決してドアから先に出ないようにね。片道だけの移動しかできないから、俺以外は戻ってこれなくなる」


「なるほど! これを使えば子供たちを連れて、誰の手も届かない新天地に行ける。そういうことだね、リーム。これは……、本当に凄いことだよ!」


それを聞いたクルトは、少年だった頃のように目を輝かせながら息をはずませていた。

一方アリスは、最初こそはしゃいでいたが、なぜか急に大人しくなって黙っていた。


「この前提を踏まえて次の説明だ。

俺は砂金の販売先、必要な物資の仕入れ先ともなる商会と手を結ぶことに成功した。

なので今後は、その商会が俺たちの後ろ盾となる」


「リームは本当に凄いのね。僕の知らない間に独りでそこまで……」


「これはクルトの卒業後も、アリスやみんなの協力があったからだよ。俺が自由に動き回ることができなければ、ここまで上手くいかなかった」


(あとは五芒星ペンタグラムの力とね)


あれ? ここでもアリスならきっとドヤ顔すると思ったんだけど……。

下を向いて表情を曇らせているのは何故だ?


「これで俺は、事前の計画に従って洗礼の儀式を受ける前に孤児院を出る。そのために手を結んだ商会の看板を使い、手始めに自分の資金で俺を孤児院から買い取る」


「それじゃあリームはやっぱり……」


ここでアリスはとても悲しそうな顔をした。

おそらく『出て行っちゃうの?』と言いかけて、言葉を抑えたのだろう。

言いたいことを必死に我慢しているのは分かるが、これは必要なことなんだ。


「最初に移動手段と移住可能な場所を見せたのは、計画を前倒しするためだ。できれば今年中に準備を完了し、段階を踏んで決行したいと考えているんだけど、先ずは二人の意見を聞きたい」


「僕は賛成だね。孤児院の子供達の食料事情はリームのお陰で劇的に改善された。

だけど毎年、卒業と同時に売られていく子供たちの連鎖を、少しでも早く止めたい。

収入源の一つを失った教会は、より多くの子供たちを売るべく、今も密かに画策しているからね」


「私は……、先ずは嬉しいの。私たちの夢や希望、それが叶う道が整ったことに。

でも改めて分かったの。これまでリームは独りで大きなものを背負って、ずっと苦労していたんだと……。

話が余りに凄すぎて、リームがとても遠い存在になったかのように思えて、寂しさと不安を感じたの。

同時にリームの苦労を知らず、我儘で『お姉ちゃん』面していた自分を、今はとても情けなく思っているわ」


そう言ったアリスの頬には、嬉しいのか悲しいのかわからない涙が、幾筋も流れ落ちていた。

それでさっきから急に様子が変だったのか?


「いやアリス、俺はこれまでも十分すぎるほど助けてもらっていると思うよ。

アリスがいたから安心して前に進めた。クルトがいたから仲間に頼ることができた」


「ふふふ、リームはいつもそう言っていつも私に気を遣ってくれるね。複雑な気持ちはまだ整理できないけど、これだけは言えるわ。

少しでも早く私も孤児院を出て、頑張っているリームを助ける一人になりたい」


「アリスは子供たちをまとめる役目も担ってくれていた。だから俺は安心して好き勝手できた。

これは事実だよ。そして今やアリスは孤児院で一番人望があるからね」


これは事実だ。今やアリスが言えば皆は必ず付いてくる。

彼女の存在があるからこそ、孤児たちの思いは一枚岩になっている。


「僕もリームの役に立つため、教会の不正について教えてもらった内容を調べてきた。

それも大方目途がついたことを共有しておきたい」


これまで黙って成り行きを見ていたクルトも、ここ数年の成果を報告してくれるようだ。

目途が付いたということは、それなりに成果があったということか?


「では奴らを陥れる証拠も?」


「断罪を願い訴え出るに十分といえる証拠は集まったと思う。事前にリームが調べるポイントを教えてくれていたので、非常に効率よく不正を発見できたよ。

差し当たり原本はまだ教会内にあるけど、これが不正の情報とその一覧だよ」


いやそれは……、前回のクルトが独自に調べ上げたことなんだ。

なので俺の助力ではないんだよね。


そう思いつつ俺は、クルトから差し出された情報に目を通した。

うん、まだ前回より早い時点だから情報の厚みには劣るが、それでも十分な内容に思えた。


「ただ唯一の懸念は、教会が今もなおガーディア辺境伯に庇護ひごされていることなんだ。

彼らが動けば不正の事実は握りつぶされ、闇に葬られてしまう……」


「この短期間でそこまで調べ上げたクルトも凄いと思う。ただ今はそれで大丈夫だ。

告発に関しては俺も考えがあるからね」


二回目の俺(ルセル)が行った改革を知り、それを再現しているやつがいる限り、きっと乗ってくるはずだ。

教会に手を入れる改革を断行し、代表神父となるクルトの存在がなければ、きっと奴も目指すであろう強兵施策は成り立たなくなる。


なのでルセルは、機会があれば餌に飛びつくだろう。あくまでも自分自身が力を得るために……。


「それでクルト、洗礼の儀式の秘密について何か分かったことはあるかな?」


「そこはまだ手が出せないんだ。僕はまだそれに関わらせてもらってないからね。

これにはもう少し時間が掛かると思う」


それはもっともな話だ。

二度目の俺がルセルとしてクルトに会ったのは俺が十八歳の時、それはすなわちクルトが二十六の時だ。

今と比べれば教会の中での役割や立ち位置も大きく異なる。


「そこは焦らず引き続きじっくりで構わない。教会や孤児院を牛耳る上層部が追放されれば、クルトの権限も拡大される。今は辛抱して偽りの精進を続けるしかないよ」


「そうだね……」


寂しそうに答えたクルト自身は、俺たちの決起に応じて共に行動したいという思いがあるのだろう。

ただそれは、俺たちの未来にとっては得策ではない。

未来の俺たちがルセルに対抗できる鍵、それをクルトが握っているのだから……。


「ただ僕はまだ動けないけど、この先リームの役に立てると思われる人たちなら数多くいるよ。

卒業と同時に孤児院に売られ、おそらく日々奴隷のような暮らしをしている仲間たちが……。

できる限りで調べた情報だけど、どうかこれを受け取ってほしい」


そう言ってクルトは、びっちりと書き込みのされた何枚もの書類を手渡してくれた。


そこには!


これまでに養育費をカタに売られた孤児たちの名前、売り先、そして売られた金額が記載されており、彼が知る人物については為人ひととなりなどの注釈も書き添えられていた。


「不正を調べる過程で得られた情報だけど、どうか救える限り彼らも……。

僕は彼らに対して、何もできなかったから……」


そうか……、クルトはずっと悩んでいたのだろう。

自分の力及ばず、先に孤児院を卒業していった先輩たちの行く末を。

意に添わずとも目的のため見過ごすしかなかった、自身の卒業以降に売られていった仲間たちのことを……。


「もちろんだよ! 手の及ぶ限り救い出して見せる。

アスラール商会に動いてもらい、もっともな理由を付けて彼らを買い戻す。ただ……、本人たちの意思が大前提となるけどね」


「ありがとう、これでやっと僕も少しだけ救われる。リームには頼ってばかりだけど僕は僕に与えられた仕事をやり遂げてみせるよ」


「私ももっと頑張る! 孤児院の子たちは私が取りまとめるわ!」


これまでのやり取りで、アリスもまた今まで見えていなかったクルトの苦悩を知ったのだろう。

今の彼女は、自身が抱えていた寂しさや感傷を捨てる決意をしたかのような晴れやかな顔で、これまでの迷いが吹っ切れた様子だった。



ここに至り盟約を結んだ俺たち三人が、ここ数年に渡って進めてきた計画の準備段階は終わった。

あとは実行に入り壮大な計画を推し進めるだけだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ