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ep26 迫りくる期限

最後に更新のお知らせがございます。

よかったら是非そちらもご覧ください。

新たに特別採集班が結成されて以降、俺たちは何度も採集に出掛けていた。

数回の採集後、アリスは俺の意を受けて特別採集班のまま孤児院に残留している。

他にも新しく加わった数人の子供たちとともに。


彼女らは孤児院の中庭で採集された穂の天日干しや脱穀など、手間の掛かる事後作業に従事していた。

ここで俺が院長からとった言質、『集めて来た食材を他のみんなにあげること』が功を奏した。

多くの子供たちが手の空いた時間に、進んで作業を手伝い始めたからだ。


彼らには既に、俺たちが分け与えた食材の恩恵を十分に受けていた。なので幼い子供までが、自発的に手伝うようになっていたのだ。


当初は懐疑的に俺たちの取り組みを見ていた大人たちも、目を見張るほどに……。


いつしか孤児院が支出する食費は大きく節約され、反比例して子供たちの食べる食事の栄養価と量は向上していった。



◇◇◇ いつもの集合場所 上流の河原にて



秋も深まり、特別採集班の活動は二日に一回となっていた。

だが問題はない。

毎回俺は、抱えきれない量の収穫を(真)四畳半ゲート+に収納し、残って作業するアリスに目立たぬように渡していた。

なので実際には、手で持ち帰った量を遥かに超える収穫がアリスの管理下で処理され、それがらは再びこっそり俺の元に戻る。


これにより雑穀などの収穫量は大人たちが知る表向きの量と、実際の収穫量で大きな差異があった。

もちろん実際の収穫量の方が遥かに多い。


そうやって食事に必要な量は小出しにして、陰で俺が調整するようにしていた。

このような形で俺たちの食料確保は進んでいった。


「リーム、これから冬にかけてどうする?

実りはあらかた刈りつくしたし、これからは段々と採れなくなるが」


「ふふふ、カール、俺にも対策はあるよ。次からは徐々にこれを持ち帰ろうと思う」


そういって差し出したのは、俺が予めフォーレで育てていた芋類だ。

(真)四畳半ゲート+の転移でフォーレに行けるようになったころ、俺は裏町の買い取り商に対し岩塩と引き換えに大量の種芋を調達するよう依頼をしていた。


そしてフォーレの一角にて、地魔法を使い囲いを作り天地返しで耕した場所を畑にして、それらを一面に植えていた。

育成は完全に放置プレイの芋任せだったが、魔の森の豊かな大地は育成に十分な場所だった。

まして畑を荒らす獣は囲いに阻まれ侵入できない。


今後の採取では、山からそういった野生化した芋類を採取して、持ち帰ったテイにすればいい。


因みに密かにアリスに渡していた雑穀米の余剰も、脱穀処理などが終わったものを再び俺が収納して隠しているので当面は安泰だ。

砂白金の収集に目途を付けた俺は、今は日々フォーレへの往復を繰り返すようになっていた。


「そっか……、なら空いた時間に僕たちは何をすればいい?」


「勉強と……、体力作りかな?

カールはもともと、上級待遇でも武術を学んでいたよね?」


そう、彼は勉学では劣っていたものの身体能力に優れ、将来は教会の関係機関で働く兵士となれるよう、日々肉体の鍛錬を課されていた。


彼がクルトの卒業後、次代のリーダーとして大人たちが認めた理由も、彼が並みの大人以上に戦える武術の才があったからだ。


「それはいいけど……、道具はどうする?」


「木剣や盾ならあるよ。森の家にそれらは隠してあるからさ。それに勉強をしてもらう人に対し、読んでもらいたい本もね。勉強は……、マリーが教師役になってくれる?」


「はいっ!」


勤労待遇から一気に上級待遇まで上り詰めたマリーなら、アリスに次いで適任だ。


この森の家とは、俺が雨天や荒天時の避難所として、万が一魔物に遭遇した際に逃げ込む場所として、オーロ川の上流から森に入った場所に作った秘密の家だ。

地魔法で強化された外壁を持ち、周囲からは分からないよう岩山に偽装した隠れ家となっている。


最近では少しずつ川の上流への往来も増え、肉を焼く時も人目を避けてもっぱら森の家で行っている。

まだ竈と雨水を貯める壺、そして大きなテーブルとイス、錠前の付いた大きな木箱しかないが、徐々に中身は充実させているところだ。


鍵が掛かった木箱には、俺が裏町の武器屋で調達した訓練用の武具や、以前に買い取り商に頼み調達していた書籍類を入れている。


この日以降特別採集班は、最低限の採集が終われば森の家に集い、食事と研鑽を積むことになった。

そんなことえを繰り返すうち、年は明けて俺も九歳になった。



◇◇◇ リーム九歳 トゥーレの裏町



頻度こそ減ったが、時折俺は裏町を訪れていた。

ただ、岩塩の一件があって以来、俺が買い取り商を訪れることはなかったが、今居る解体屋は別だ。


初めて彼らの店に訪れて以降、俺は魔物を狩っては都度この解体屋に持ち込んでいた。

因みにこれまで彼らにより解体された素材となる部位は、洞窟の中に地魔法で作った俺にしか開けられない保管庫に収納している。


「所で旦那、例の噂は聞いたかい?」


「噂?」


作業を続ける傍ら、顔に似ず噂好きのガモラが話し掛けて来た。

まだ俺の知らない何かが、密かに進行しているのか?


「俺が酒場で聞いた話なんですがね、……」

「兄貴、またあの与太話か?」


ゴモラの言葉がガモラを遮ったが、俺はその内容が気になった。


「すまないが是非聞かせてほしい」


俺がそう言うと、解体する作業の手は休めずに嬉しそうにガモラが話し出した。

ってか包丁を扱いながら器用なもんだな……。


「俺も酒場で聞いた話なんですけどね、砂金にご執心な領主様は、今度はとうとう川の大元で魔の森に繋がるあの山にも手を出し始めたそうですぜ。

調査の人員とそれを護衛する兵たちが川の上流に向かって頻繁に行き来しているらしく……」


なるほど……。今度はそっちを攻めにきた訳か。

道理である時期から上流の集合場所にも、人の行き来が増えた訳だ。


砂金は本来、山にある金鉱脈が水流に削られて流れ着くもの。そう言う意味で奴の推論は正しい。

俺も同様のことを考えていたが、さすがに俺の劣化版鑑定魔法では地中深くに眠る金を発見することはできなかった。


「ふふふ、ご苦労なことだな。でも金が発見されれば、町も一層潤うから悪い話じゃないとも思うが。

無事に発見されれば……、だけどね」


「そうなんでさぁ。山は魔の森にありますからね。まだまだ危険な場所なので、町の皆は奴らが下手を売って魔物を引っ張ってこないか、それを心配してるんでさぁ」


「そうだね。調査隊ならまだ少人数だけど、仮に金が発見されて本格的に人が入り込むと……、それは心配だよね」


「人を襲った魔物は必ず逃げる獲物の後を付ける。それはこの辺りの者なら誰もが知る常識でさぁ。

ただ他所から来た領主様だから、それを知らないんじゃないかって話でね……」


いや、奴は知った上で敢えてそうしているのだろう。

あれ以降も砂金の採集が全く進んでいないらしいし、とうとう業を煮やして危険も厭わず大元に手を出してきたということか?


となると……、魔物が出れば今の採集も危険だな。

俺もあと一年で十歳、ここいらで野外採集も引き際を見極めないといけないかな?


「ところで……、あの商会の噂はまだないかな?」


「ええ、俺もゴモラも酒場でもそれなりに調べていますが、まだ……」


「分かった。引き続きよろしく頼む。これは今月の依頼料だ」


そう言って俺は彼らの傍らに、解体の報酬とは別に金貨を一枚ずつ置いた。

俺がこの先に進むために必要な最後のピース、アスラール商会との繋がりを得るため、彼らには商会が町に来れば知らせてもらうように依頼していた。


常に孤児院という外界から切り離された場所か、採集で町を出ていることが多い俺にとって、仮に商会が町を訪れていても知る手段がない。

まして……、まだ九歳の俺が夜の社交場(娼館)に行くなどもっての他だ。

なので信頼に値し、噂好きで多くの情報源を持つ彼らに頼ることにしていた。


九歳になった俺は、日々焦りながら時を過ごしているだけだった。



◇◇◇ リーム十歳 トゥーレの裏町



あっという間に時は流れ、とうとう俺も十歳になってしまった。

この年の晩秋、俺は教会によって洗礼の儀式を受けさせられる。


五芒星ペンタグラムの他に時空魔法と鑑定魔法が使える俺は、虹色アルカンシエルと呼ばれるとんでもない神話級の魔法士として認定されてしまう。

そうなるともう後には引けない。


クルトが言っていた悪手、孤児院を脱走するしか手段が無くなってしまう。


目の前に刻限が迫り、強い焦りを感じていたある日のことだった。

俺が採集から戻ると、何故かゴモラが城門に立って俺を待っていた。


「旦那ぁぁっ!」

「「「ひぃっっ!」」」


俺を見つけて喜びながら大声を上げて駆け寄るゴモラを見て、周りの孤児たちは一斉に悲鳴を上げた。

そりゃぁ……、ね。

筋肉隆々で強面の巨漢が、叫び声を上げて自分たちに走り寄ってきたんだから。


「ゴモラ、もしかして?」


「はい旦那、確かな情報を手に入れましたぜ。今は兄貴がヤサ(宿屋)を調べています」


「旦那? リームが?」


隣に居て顔を引きつらせていたアリスが、素に戻って怪訝な顔をした。

そりゃそうだ。

こんな強面の巨漢が、僅か十歳の俺を旦那と呼び明らかに敬意を払っているから、いぶかしく思って当然だ。


「分かった! 今すぐ行くから案内してくれ。

アリュシェス(・・・・・・・)、俺は少し遅くなるから取り繕っていてくれ」

(それにしても毎回思うが、この符丁は便利だな。いちいち説明しないで済む)


「もう、いつもそれなんだから……。分かったわリュミエール」


アリスの返事を聞くまでもなく、俺はゴモラに付いて走り出していた。



唐突な話だが、これまでも散々交渉の方法は検討を重ねてきた。

そして今を逃せば次はいつになるか分からない。

この機会に俺は、あの商会長の首を縦に振らせなきゃいけない。たとえどんな手を使っても、だ!


俺は最も難関だと思っていた試練に、このあと対峙する覚悟を決めながら裏町へと走っていた。

いよいよ明日は前半の山場ともなる展開が始まります。

特に力を入れて書いた部分になり、本来は一話の予定でしたが、あまりにも長くなるので三話分割でお送りします。

ただ、話のテンポが悪くなるので、一日で三話公開(その①はAM08:10、その②はAM10:00、その③はPM0:10)といたします。


より長く、より創意工夫して書き続けるために、明日の三話をお読みいただいたのち、良かったら評価もいただけると励みになります。

なお既に評価くださった方には、深く御礼申し上げます。

これからもどうぞ応援をよろしくお願いします。

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