ep23 真の力の解放
魔物を解体に出してから二十日間、俺は自分に定めたルーティンを飽きることなく懸命に繰り返していた。
マリーの方も巧妙に砂金をバラまき、採算の取れない不毛な採集も続いていた。
俺にとっては毎日外に出られるこの機会こそ貴重だったので、日々鬼気迫る勢いでフォーレへと出かけ、最低限安全が確保された拠点とすべく準備を整えていった。
先ずは岩塩の洞窟の安全確保、次に内側と外側を仕切る防壁と堀の設置、外周の岩山を天然の防壁となるよう補修した。
この過程で俺が魔物ホイホイと呼んだ堀の罠から、そして狩(魔法行使)の修行も併せて、毎日数頭の魔物を討伐していた。
そのため俺は、毎日帰路に特別採集班と再合流するが、そこから再び先行して裏町に向かい、例の解体屋に討伐した魔物を持ち込んでいた。
あまりの頻度で訪れる俺に対し、最初はガモラとゴモラも唖然としていたが、すぐに彼らの上客として遇されるようになり、今や彼らからは上にも下にも置けない扱いを受けるようになっていた。
次に三日月状に広がる岩場の内側を封鎖する段取りだが、敢えて一気に封じ、その後に段階的に防壁の高さを上げるのではなく、片側からそれなりの高さを備えた強固な防壁を、徐々に反対側に伸ばしていった。
完全に両端を塞ぐまで、岩塩の洞窟前に設けた魔物ホイホイ(堀)に魔物や獣が掛かるのを期待していたからだ。
そして二十日後、天威魔法のレベルを持つ地魔法の威力のお陰で、フォーレの封印は完成し安全圏が確保された。
最初の二日間を含め、移動や造成に天威魔法を限界まで使用する日々が続き、四畳半ゲート+にはそれなりにレベルの高い魔物を収納して運ぶことも続いた。
そしてある日、遂に俺は四畳半ゲート+の真価を知ることになった。
その日はただ何となく、意図することもなく自分のステータスを確認した時だった。
----------------------------------------------------------------------------------------------
◆固有魔法スキル
固有名:(真)四畳半ゲート+
属性 :無属性時空魔法&転移魔法(NEW)
レベル:天威魔法(NEW)★★★☆☆
説明 :過酷な運命を経た転生で魂に刻まれた空間収納スキル 最大で四畳半程度の物質収納が可能
ゲート機能の一段階目が新たに解放され、空間転移が可能なった。
◆加護による魔法
魔法名:鑑定魔法(劣化版)
属性 :無属性
レベル:地威魔法 ★★
説明 :劣化版のため、ヒト種、亜人種、魔物などの鑑定は不可 常時発動不可で使用限界あり
劣化版のため、鑑定は視界のなかでひとつの物体しか鑑定することはできない
魔法名:五芒星魔法-
属性 :五属性
レベル:天威魔法+(NEW)★★★★★
説明 :転写魔法によって得られた五芒星魔法の劣化版。火・水・地・風・雷の魔法を行使可能
最大行使を繰り返し経験値の上昇により、天威魔法レベル最大値まで解放済
----------------------------------------------------------------------------------------------
「いや……、これは……」
しばらくの間、俺は驚きのあまり言葉を失っていた。
五芒星のレベルが+に進化していたのも驚きだったが、(真)四畳半ゲート+の空間転移て……、何だ?
確かによくよく考えてみれば、ただの空間収納のスキルにゲートという名称もおかしい。
ゲートとは本来、出入り口を意味しており、ある領域と次の領域を繋ぐ場所という意味だ。
転移魔法と記されていること自体、それを示唆している気がした。
試しに(真)四畳半ゲート+を発動してみると、今までなかった扉のような時空の揺らぎが出現した。
恐る恐る手を差し伸べると、揺らぎの先に入れた手の部分が見えなくなった。
一瞬の躊躇いのあと、俺は思い切ってその中に入った。
そうすると……。
ぼんやりと壁が発光しているような空間は、本当に四畳半程度の広しかなかった。
そこには俺が収納していた砂金やエンゲル草、その他の物がまるで重力を無視したかのようにふわふわと漂い、四隅を構成する壁には二つの扉が存在していた。
もうここまで来たらいちいち迷っていっれなかった。
既に開いている一つ目扉、その先には先ほど俺が揺らぎに入った場所の風景が広がっていた。
そして残るもう一方、そちらを開けると……
「???」
フォーレにある岩塩洞窟の前だった。
うん? どういうことだ?
こんな短距離を繋ぐものでしかないのか?
いや……、多分違うな?
もしかすると!
俺は自分の考えた仮説を証明するため、一気に走り出した。
アリスたちとの集合場所に定めているあの川の上流に向かって。
◇◇◇ 川の上流 集合場所
初めてフォーレに行った往路と同様に、俺は無我夢中で駆け抜けた。
もし俺が立てた仮説が正しければ、最近思い悩み始めた俺の行動の矛盾点も、一気に解決するからだ。
そして……、視界の中にオーロ川の上流である峻険な山が見えると一気に速度を落としながら、ゆっくりと目標地点へ着地した。
「あれっ、リーム? びっくりしたわ。
何故かリームが凄い勢いで飛んできたように見えたけど……」
「あ、ああ……。こめんアリス」
(いや、俺は一体何を謝っているんだ?)
「今日はもう終わりなの?」
「いや……、もう一度出掛けてくるけど、他のみんなは?」
「今は手分けして近くを調べにに行ってるわ。私たちも今日はそれなりに採集が進んだから」
そう言ったアリスの前には、採集が済んだ薬草を入れる袋が幾つも置かれていた。
なるほど……、アリスは荷物の見張り番か。
「ならちょうどいい。アリスはしばらくの間だけ周囲を警戒していてほしい。
俺の姿が見えなくなっても、誰か他に人がいる場合は右手を胸に当て続けてほしい」
「わかったわ。って……、あれ? リーム?
どこに行ったの?」
俺はアリスの返事を聞くと同時に、(真)四畳半ゲート+を発動して揺らぎの中に飛び込んでいた。
そして恐る恐るもう一方のドアを開いた。
「!!!」
そこには先刻まで居た、フォーレの洞窟前の景色が広がっていた!
「やったぁっ! 凄いぞこれはっ!」
俺は自身の仮説が立証されて、四畳半の空間の中で何度も飛び上がっていた。
『このゲートはフォーレに繋がる門であり、どこに居てもフォーレに繋がっている』
このことが証明されたからだ。
ここ最近俺が悩んでいた矛盾、それはいくらフォーレを住める場所に整備したとしても、そこは俺以外は誰も辿り着ける場所ではなく、個人用の拠点とする以外は利用価値がないと悟ったからだ。
今の時点で魔の森の深部まで移動することは、トゥーレに駐留する全軍をもってしても不可能だ。
それでも俺は、いずれ奴に利用されるのが悔しく、侵攻を阻む拠点と考えて自己満足で整備していたに過ぎない。
だがこれからは違う!
俺たちの拠点になりえる道が開いた。
アリスにも俺の町フォーレを見せることができる。
ただ難点は片道通行でしかないことだが、それでも大きな前進と言える。
この時点で俺は、アリスの卒業までにすべきこと、これの最終段階まで近づいたことの喜びを噛みしめていた。
だが最後の難題こそ、もっとも大きなものだ。
その壁の頂は、今の俺にとってはまだ遥かに高い。
明日の公開は7:40です。よろしくお願いします。




