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ep21 悪辣な罠

砂金採取が始まって二日目、採集現場の雰囲気は前日と比べ大きく一変していた。

重苦しく、そして精彩を欠いた方向に……。


新たに領主となったルセルが指導役として招いていた山師は昨日の夕刻、依頼主ルセルに報告と所感を伝えていた。


『この川には砂金がないか、有っても採算が取れる量ではないかもしれません』


そう伝えた瞬間、依頼主ルセルは突然怒り出すとトゥーレに帰ってしまった。


「やれやれ、俺もやっかいな仕事を引き受けちまったもんだぜ。『確実に砂金はある、探し方が悪い』だと? 素人に何が分かるってんだ」


彼自身、これまでも王国内外で砂金収集に従事していた。そして破格の褒章を約束された結果、こんな辺境まで出向いてきて現在に至る。


「俺自身も、さっさと見切りをつけるべきかな?」


彼は今日の採取開始早々、川の方を見ながら大きなため息を吐いて呟いた。

そのときだった。

川の中州あたりで、何か騒ぎが起こり始めていた。


「これが……、砂金か?」

「砂金だ! きっと砂金に違いねぇ」

「あったぞー」

「砂金があったぞ! 早く確認してくれっ!」


そんな騒ぎ声が沸き起こり彼も夢中で走り出すと、人の輪ができている中心に駆け寄った。

そこには一人の少女が困惑した顔で砂金を選別するためのザルを持ち、周りにいた大勢の男たちは彼女が手に持ったザルの中を凝視していた。


「みんな、どいてくれ! 砂金かどうか確認したい」


そう言って前に進んだ男は、少女の持つザルの中を確認した。

そこには……、確かに金色の光を放つ砂粒が幾つか入っていた。


「嬢ちゃん、でかしたぞ。間違いなくこれは砂金だ!

すぐに領主さまに報告を!」


彼の言葉と同時に、周囲にいた男たちは一斉に少女が探っていた周辺の川砂を集め、ザルに入れて水流に沈め始めていた。

これまでとは打って変わった、まさに目の色を変えた様子で。


それからというもの、彼女の周囲では次々と歓声が沸き起こった。


「俺も……、採ったぞー!」

「俺のもみてくれっ!」

「砂金だ、砂金だぁっ」


この日、量としてはまだまだ少ないものの、確かに砂金が出ることが確認された。

その報告を受けた領主ルセルは大いに喜び、第一発見者となった少女には特別な褒章が与えられた。


この栄誉に預かった少女は、マリーという名の孤児院から派遣された勤労奉仕の人足だった。



◇◇◇ 魔の森 フォーレ



俺は今日もまた昨日と同じように動き、特別採集班と別れたあと魔の森の深部、フォーレと名付けた場所まで来ていた。

採掘現場の細工はマリーに昨日依頼したので、おそらく今頃は砂金発見の報に沸き、ルセルもほくそ笑んでいることだろう。

これが俺の仕掛けたアリ地獄の始まりとも知らずに……。


「早々に砂金採集は打ち切らせない。少量の餌に踊らされ、採算の合わない採集を続けるといいさ」


俺はマリーに、自分がこれまで集めた砂金のうち、ごく一部を小ビンに入れて渡していた。

そして彼女は指示通り、ビンに入った砂金を川にまいてから、あたかも砂金を採ったかのように振舞ってもらうだけだ。

俺が仕組んだ自作自演、マッチポンプを遂行してもらうために。


「さて、ルセルが最終的に気付く前に、俺はこちらを構築して安全な拠点として確保しなくてはな」


そう言うと、移動で精神的に疲れた自分自身を鼓舞していた。

今日は薬草の他にお土産も持って帰る必要があるので、あまりゆっくり休む時間はない。


先ずは地魔法を行使して、昨日洞窟の入り口に施した封印を解除し、それを使用して入口には魔物の侵入を拒む防壁を巡らせた。もちろんそれだけでは足らないので、手前には堀を掘ってそこから出た土砂も防壁に再利用した。


次に風魔法により洞窟内に大量の新鮮な空気を送り込んだ。

念のためその後、少し中に入って穴から外側に向かい強い風魔法を発生させると、洞窟深部からの空気が一斉に外に向かい流れはじめ、内部の気圧は低くなった。

その後魔法の行使をやめると、今度は気圧差で一気に風が洞窟内に吹き込んだ。


「これで空気は完全に入れ替わったと思うけど……、念のため」


俺は予め用意していた小さなランプを手に、洞窟内へと足を進めた。

この洞窟は、入り口から暫くは普通の岩石洞窟のように見えるが、奥に進むと岩塩が露出した岩塩洞窟に変化する。


そして……。


複雑に入り組んだ洞窟の至る所に横たわる魔物の死骸を発見した。

全てが、一酸化炭素中毒で眠るように死んだのか、外見上は全く損傷のない死骸ばかりだった。


「これは予想以上に多いな……。まず先に中を綺麗にしないと……」


大きなため息を吐きながら、俺は魔物の死骸を四畳半ゲート+に収納し、外に運び出す作業を繰り返した。

これらの作業、更に後に継続した収納が俺に思わぬ幸をもたらすとは、この時点では全く気付いていなかったが……。


何回か洞窟内部を往復して、やっと出口前への運び出しは完了した。

塩を舐めに来た獣やそれを狙った魔物だけでなく、虫や毒蛇などよ死骸も散見され、中には空間収納することを躊躇う死骸もあったが……、なんとか目を逸らしながらも対応した。


清掃作業の最後は、素材として価値があり持ち帰るべきと思われる魔物以外を捨てることだ。

フォーレの近くにそんな物を放置すれば、餌として近辺の魔物を更に呼び寄せてしまうため、少し離れた場所を何度か往復し、そこに捨てた。

中には素材として有用かもしれない、そう思える物もあり少し勿体ない気もしたが、俺には四畳半分の収容能力しかない。

ここは思い切って断捨離に徹した。


そして……、両手に抱えられないほどの量の薄いピンク色をした岩塩と、素材として有用な魔物の死骸を収納すると帰路についた。


「次に来たときは……、今日作った洞窟の周りの防壁を更に強化して……、そして三日月状な岩場の内側と外側を仕切る防壁の設置か。まだまだやることは盛り沢山だな……」


そう言って大きなため息を吐きながら。



◇◇◇ 採掘現場



予定より少し早くアリスたちと再合流した俺は、採掘現場の様子を確認すべく川沿いを下流に向けて移動し、仲間たちが作業している場所までやって来た。


そうすると……。

採掘現場は昨日とはうって変わった活況を呈しており、俺は思わず笑ってしまった。


「ははは、薬(砂金)の効果は絶大だな」


「そうね、マリーはうまくやってくれたみたいね」


この裏事情を知っているのは、俺とアリスにマリー、この三人だけだ。


「でもリュミエール(・・・・・・・)、大事な薬(砂金)を使って大丈夫なの?」


「もちろん、渡した薬(砂金)と比べ物にならない量があるからね。必要経費ってやつさ」


「ヒツヨウケイヒ? それって何」


「目的を達成するため、必要なお金ってこと。さて、俺たちも今日の功労者をねぎらわなきゃ」



この日俺は、第一発見者として奉られ、少しだけ困惑顔だったマリーに感謝の言葉を伝え、翌日に使用するための新たな小ビンを一つ渡した。

その後はアリスとマリーが、周りに聞こえないように何か作戦を検討しているようだった。


さて俺も、今日はちょっと新たな駆け引きを成功させなくてはならない。

カールに一言告げてから、俺は一足先にトゥーレに戻れるよう走り出した。

明日の公開は9:10です。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
うーん、なんて自分勝手でゴミのような性格の主人公なんだコイツまた刺されるだろ
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