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プロローグ② 取り違えられた運命(さだめ)

2025/7/9 展開はそのままに、構成と文言を一部修正しております

そうだ、結局俺はあの時に死んだんだよな?

『あの男』がフェルナに剣を振り下ろした瞬間、俺の視界は完全に光を失って暗転した。

そして次に気が付くと……、意識だけの俺がこの暗闇を漂っていたのだ。


それはすなわち、ルセルとして生きた人生は終焉を迎えたはずだ……。

そこで映像は終わり、再び俺の意識は永遠に続く暗闇と、そこを流れる光の大河の畔へと戻っていた。


(結局……、俺の二十四年ってさ……、一体何のためだったんだろうか?)


悲しすぎた人生の結末を改めて見せられ、ただ虚しさだけが募っていた。

そして……、考えることが嫌になっていた。


(もう、どうだっていいや……、もう……、あんな思いをするのは嫌だ!)


そうやって考えるのを止めてから、どれぐらい時間が過ぎたのだろうか? 

何かに呼び起された気がして再び意識が戻った俺は、何も変わっていない景色を見て大きなため息を吐いた。


(ここは初めて来た時と何も変わってないな。景色だけは神々しく壮大な眺めだけど、今の俺にとってはただ寒々しく感じる場所でしかないや)


心の中でそう言葉を吐き捨てたとき、俺はある違和感に気づいた。


あれ……、おかしいな?


(俺はさっき何て言った? 『初めて来た時と変わらない』とはどういうことだ?)


何気なく言った言葉が引っ掛かり、頭の中で分解されて無に帰りつつあった記憶の断片を拾い集めるよう努力した。

そうすると消えかけた記憶も、しっかり意識を保つことにより徐々に戻ってきた。


そして……、しばらく考えたのち俺はその答えを見つけた。


(ああ……、そうか! 俺は死んで再びこの場所に戻ってきたのか?)


そう、俺にとってここは初めて訪れた場所ではない。

以前にもここに来ていたことを、今はっきりと思い出していた。


一度目の人生を終えた『塩城守人』として、俺は以前にもこの場所に来ていた。

そしていつの間にか光の大河に吸い込まれ、一度目に生きた記憶を持ったまま『ルセル・ブルグ・ガーディア』として生まれ変わり、二度目の人生を終えて再びここに舞い戻っていたのだ!


もっとも……、名前に辺境伯を示す『ブルグ』の敬称が付いたのは死ぬ二年前からで、それまではずっと貴族の敬称を表す『フォン』が入った『ルセル・フォン・ガーディア』だったけど。


(二度目は俺も、知識チートを駆使して結構頑張ったつもりなんだけどなぁ。それに加え、困難は色々とあったけど、恵まれていた環境だったのに……)



そうやって俺がぼやくぐらい、ルセルとして転生した俺はチートの塊だった。


ひとつ、現代日本人としての記憶を持つ知識チート

ひとつ、加護として与えられた魔法は、世界に類を見ない五属性魔法の五芒星ペンタグラム

ひとつ、行使できた魔法の階位レベルは、世界の常識を遥かに超えた最上級の神威魔法

ひとつ、庶子で継承権こそなかったが、上級貴族である辺境伯家に生まれたこと

そして、最終的には何故か、王国に四名しかいない辺境伯を継承するまでに至っていたこと



ただその結果は……、とても残念な限りだけどさ。


(結局どう足掻いても俺は無駄な努力をしていただけか? もはや笑うしかないな)


そう呟いたあと、悔し紛れに思いっきり笑ったが、笑い声が響くことはなかった。

なぜなら声を出そうにも、意識だけで漂う俺には声を発することができなかったからだ。


(やっぱりこの場所では、俺は物体として存在していないのか?)


ここに居ると自分自身の姿は認識できないし、自身の身体の感覚すらない。

今の俺は宙を漂うだけの透明な霞のようなもの、生命とは呼べない存在だったからだ。


それにしても俺は、二回も生きる機会が与えられたのに……、二回とも人生を全うすることができず、ろくな死に方ではなかったな。


一度目は……、夢を叶えるため必死に頑張ったが、最後は住所不定の野垂れ死にだ。

二度目は……、前回の反省もあって慎重かつ懸命に生きたつもりだったが、裏切りによって奈落の底に落ちた。


(もうたくさんだ! 今度は思う存分好き勝手に振る舞い、怠惰に我儘に生きてやる。もっとも……、次があれば、の話だけどさ)


そんな決意をした時だった。

再び何かに呼ばれているような感覚を自覚した。


「…………」

「…………」


最初はどこか遠くの話し声が、微かに聞こえるような感じだった。

だが……、意識を集中すると声はだんだんと大きく、すぐ隣で交わされている会話のように聞こえ始めたた。


それは声が伝わるというよりは頭の中に直接響いてくるような不思議な感覚だった。


「……、なので……、どう考えてもおかしく、そう考えるしかないのです」


「それはおかしな話じゃろう? 魂魄を戻すべき器が失われたなど、普通ならあり得ない話ではないか?」


「でも……、無いものは無いのです。魂魄だけが余っていて」


「余るとは異なことを……、そんなはずがなかろう」


「それだけじゃありません。他にも幾つかの歪みが確認されております」


「何故今更そのような話をしてくるのじゃ! 既に途中まで進んでおるのじゃぞ」



(は? 彼らは何の話をしているんだ?)


一人は老人のような低くしわがれた声。

そしてもう一人は若い女性の声のように思えた。



「因みに『器が失われた』とは、どういう意味じゃ?」


「正確には失われたというより、既に『埋まってしまった』ようで……」


「要領の得ん奴じゃな。どうして器が埋まってしまったかを聞いておるのじゃ」


「実は……、先ほど主神にお渡しした魂魄ですが、もしかすると間違っていたかも知れません」


「なんと! 既に加護を与えなおした上で送り出してしまったではないかっ!」


「はい、なので余った魂魄の器が『埋まってしまった』のです」



(ん? 何を話している。彼らは何かを取り違えてしまったのか?)



「では其方は魂魄を間違えて私に渡したと? そう言うことなのか?」


「あの時は確かに正しいように見えたんです! いえ……、今でも間違っていなかったと思います」


「ではここに存在する、送るべき器のない魂魄はどう説明するのじゃ!」


「その……、こちらもまた、先ほどの器に入るべき魂魄かと……」



(うわっ! これってもしかして魂魄を取り違えたと言うことだろうか? そうなると間違えた上に訳の分からない言い訳をしているのは、差し当たって駄女神って奴か?)



「極稀にではあるが、何らかの原因で魂魄が二つに引き裂かれてしまうことはある。だがしかし……」


「はい、二つとも同じ魂魄なんて通常ならあり得ません」


「念のために聞くが……、魂魄は事前に定められた手順で確認しておったのだな?」


「はい、確かに魂魄はルセル・ブルグ・ガーディアと名乗っておりまた」



(あーあ、取り違えられた人も可哀そうに……、って、ちょっと待てぇっ! それって俺のことかよ!)



「なるほど……、其方は魂魄の根源情報までは確認していなかったのだな?」


「一応本人(?)の魂魄もそう言っていましたし、持つ輝きも正しく思えましたので……」


「つまりだ、根源情報は確認しておらんのだな?」


「それは……、はい。で、でも……、私は間違っていないと思います」


「器のない魂魄が余っている以上、取り違えた可能性が高いのではないのか?」


「でも……、確かに本人の魂魄に見えましたし……、いえ、確かに本人でした!」



(そんな言い訳が通じる訳ないでしょうが! この駄女神……、駄女神を通り越してただのポンコツやんか!

主神さん、きっちり彼女を追い込んでやってください!)



「仮にそうなら、ここにある魂魄の器はどこにある?」


「……、ありません。きっと何かの事情で魂魄が二つに引き裂かれたんじゃないかと?」



(この駄女神! さっき『通常ならあり得ません』って言っていただろう! お前ががそれを言うなっ!

ってか、さっさと俺の器を返せ! 本人はここに居るんだから)



「そうか……、無いものは無いことじゃし、致し方ないか」


「はい……、致し方ありません」



(待てっ! まさかとは思うけど……。これは『間違いでした』で済む話でも『致し方ない』で終わらす話でもないぞ!)



「では……、どこかに代わりとなる『適当』な空きはないのか?」


「そうですね……、『適当』でよければ、同じ日に死産となる子供が……」


「おおっ、ちょうど良いではないか! ではその『適当』な器に入れ込むとするか?」


「ただひとつ問題が……」


「どういうことじゃ?」


「その『適当』な器ですが……、本来のものと比べ生れ落ちる環境は最悪に近い過酷なものでして……」



(そんなもん『テキトー』で済む訳がねぇーだろっ! 『ちょうど良い』訳がないだろうが!

しかも駄女神! 『最悪に近い過酷なもの』ってどういうことだよ! 頼むからそんなの勘弁してくれ!)



「皆まで申すな、分かっておるわ」


「よろしいのでしょうか?」


「もし『適当』な器に送り出す魂魄は本物であれば、これまでの苦難を糧として乗り越えてゆくことじゃろう」


「無事に成長できれば……、ですけどね」


「これまで二度も魂の浄化にあがらい、世界を渡る力を秘めた魂魄じゃ。新たな世界を紡ぎだすため、本人の持つ力とえにしに期待するしかなかろう」


「期待ですか……、当人にとっては迷惑な話かもしれませんが」



(ってか駄女神! お前が言うなっ!)



「我とて定められた範囲のことだけを行い、見守ることしかできんのだからな……」


「仰る通りですね」



(くそっ、神様らしく偉そうなこと言ってる割に見守ることしかできんとか……。この主神と呼ばれたジジイもアカン奴やないかいっ!)



「あと……、言いにくいのですが、加護として与えるべきだった五芒星ペンタグラムの魔法はどうしますか?」


「それは……、先ほどの魂魄に与え、既に予定されていた器に送り出してしまったからな……、無い!」


「無いのなら仕方ありませんね」


「そうじゃ、無いものはない、そういうことじゃ」



(キリっと胸張って『無い!』じゃ済まねぇんだよ。俺の器と加護を今すぐ返せ! 俺は声を大にしてやり直しを要求するぞ! 声は出ないけど……)



「正しき器は終焉に向かう世界を正し、歪みによって失われる世界を救うという大役を背負っておる。

だからたこそ我らが時の流れに干渉し、正しき器に加護を与え直して時を遡らせるのじゃ」


「では『適当』に入れる器と魂魄の方はどうしますか?」


「余った加護を『適当』に与えるしかないのう。他に良案でもあるかの?」


「ありません! 主神の仰る通り『適当』がよろしいかと」



(くそっ、黙って聞いてりゃ何度も何度も『適当』って言いやがって……、泣くぞ!)



「話もまとまったことじゃし、残った再生も一気に片付けるとするかの?」


「あの……、一気にですか?」


「もちろんじゃ。さっさと送り出すに限るわ」


「他にも行先のない魂魄がありますが?」


「それもどこかに『適当』なものがあるじゃろう? この際は多少のことは目を瞑るしかないでの」


「確かに『適当』に見繕えば幾つかは……」


「それで構わぬ。器さえあればこの際は何でもよかろう」


「そうですね、余ってしまっても問題ですし」



(くそっ、お前ら! なんか面倒ごとを一気に片付けたい流れになっていないか? お前らは神だろう?

本当にそんないい加減でいいのかよ! 俺はもう絶対に神なんて信じないぞ!)



「では運命さだめ半ばにして斃れた魂魄たちよ。新たなる加護のもと再び始まりより生を受け、滅びに瀕した世界を救うため奮闘せよ。

願わくば……、此度は生を全うできることを!」


「あっ主神、一気に送るとイレギュラーの魂魄も記……、が……」



(いや……、ちょっと! 俺は何も同意してない……、のです……、けどぉぉぉぉぉっー)



適当主神(俺が命名)が大きく手を振るい、駄女神が何かを言いかけた途中で、俺の身体は何かに引っ張られるように一気に加速すると、光の河に投げ込まれた。


そしてひときわ小さく弱々しい光を放つ何かに吸い込まれていった。



こうして俺は二度目に生きた、本来なら今回も自分が生まれるべき転生先の人物ではなく、三度目は『適当』に選ばれた全く違う人物として生まれ変わり、かつ、余りものの中から『適当』に選ばれた加護を受け、彼らの言っていた世界の『やり直し』を強要させられることになった。


「ふん! 絶対に奴らの思惑通りに『やり直し』なんかしてやるもんか!

お前らの思惑なんて無視して、それこそ『適当』に生きてやる!」


薄れゆく意識の中で、それはそう心に誓っていた。

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