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ep15 予想外の出会い そして……

それは俺が八歳のある日の出来事であった。

いつも通り採集に出ていた俺は、クルトが卒業してから一年間、ひたすら川で砂金を掘り、その後は別の作業に没頭していた。


ここに至り、砂金が採集しやく、魔の森から距離があって比較的安全に作業できるエリアは、ほぼ取り尽くすまでにに至っていたからだ。


そして今日は、いつもより少し上流で休息を取る傍ら、俺は他の孤児たちに悟られないようにある物を探し求め、浅い川の中をジャブジャブと歩いていた。


既にこの辺りは俺とクルトで、一度全ての砂金を回収した場所だ。

だがその時点で俺は、肝心なあることを失念していたからだ。


それは二度目のルセル然り。

今回の俺も砂金が取れることに喜び、その可能性を忘れて探索を怠っていたからだ。

なので俺は下流域からここまで、今までの取りこぼしを集めることに専念していた。


俺の行動を見て、魚を探しているとでも思ったのか他の子供たちも何人かが川に入っていた。

そのときだった。


「お前たち! 誰の許可を得て川に入っている?

直ちに川から出るんだっ!」


いきなりそんな怒鳴り声がすると、数人の兵士たちが血相を変えて川に入ってきた。


いや……、誰の許可も何も……、川なんだし必要ないだろうが。

コイツらは一体何を言っている?


思わず俺は掴み掛かろうとした兵士の手をすり抜けると、一応指示に従い川から上がろうとした。


「このクソガキがっ!」


そんな言葉と共に、俺は後ろから蹴り飛ばされて盛大に流れの中に吹っ飛んでしまった。


「リームっ!」


少し離れた所からアリスの上げた悲鳴が聞こえたが、不意を突かれた俺は浅い水面にも関わらず、水中に突っ伏して夢中でももがいていた。


「いいか、川に入っていたガキ共は全員拘束しろっ! 抵抗するなら実力行使も構わん」


俺を蹴飛ばした隊長らしき男の声が響くと、俺を含め川で魚を探していた五人の少年たちは、次々と捕縛されて縄に繋がれていった。


「兵士の方にお伺いしたいことがあります! 何故俺たちが縛られなくてはならないのですか?

俺たちはただ、川に入って魚を獲っていただけです!」


突然の蛮行で恐怖に震え口も聞けない子供達になり変わり、俺は毅然と抗議の声を上げた。


「だからだよ。今日からこの川はガーディア辺境伯のご子息で、新しく赴任されたトゥーレのご領主、ルセル様の命により立ち入り禁止となった。

お前らには気の毒な話だけどな」


「!!!」

(そう言うことかよ!)


俺を蹴り飛ばした隊長は俺の抗議を無視していたが、縄を縛った兵士の一人が小声で教えてくれた言葉に、俺は戦慄した。


とうとう奴が出て来たのか?

実際(本来の歴史)より二年も早く!


本来は俺の器である位置に居座ったもう一人の俺、奴も俺と同じく二度目の記憶を持っていたということに他ならない。


となると駄女神が言い訳していた通り、本当に俺の魂は引き裂かれて二つに分かれてしまったのか?


そして受け継いだ二度目の記憶から我慢しきれず、何らかの口実を付けてトゥーレに赴任し、早々に砂金を独り占めするため手を打って来た。

そういうことなのか?


「ご苦労なことだな」


小さくそう呟くと、俺は心の中で思いっきり舌を出してやった。


川を封鎖するなんて強引な手段まで取るとは思ってもみなかったが、現実問題として既に俺とクルトがこの辺りの流域は、ほぼ全ての砂金を取り尽くしているからね。


一時は歴史チートで先回りして申し訳ないと思っていた時もあった。

だけど器と加護と家柄、言ってみれば俺は人生の幸を全部奪われており、俺たちが生き残るためにはこれしかないのだと、自分に言い聞かせていた。


でも、今その気持ちがちょっと変わった。

ザマーみろっ! と。


「二名は禁を破ったガキ共を本隊まで連行し、残った者は予定通り杭を打ち込み禁止区域を設営しろ」


隊長らしき男の言葉に俺は納得がいかなかった。


「あの……、川への立ち入りを禁じる布告はいつ出されたのですか? 僕たちは今朝、城門を出る前にその様な布告がないことを確認して来たのですが……」


そう、城門脇にはそういった布告や連絡事項を掲げる掲示板があった。


特に俺たちは、閉門時間の変更や魔物の出現情報を確認するため、その掲示板は毎回必ず確認してから町を出る。

なのでそんな布告が有れば見落とすはずがない。


「いちいち煩わしいガキだな。布告はこのあと掲載される予定と聞いている。このオーロ川流域で設定された禁止区域には、許可なき者の立ち入りを一切禁ずる旨を記したものがな」


いやアンタ……、それは無茶苦茶な話でしょう。

俺は思わず苦笑せずにはいられなかった。


これまで何の制限もなかった川に、いきなりそんな禁止命令を出すのも可笑しな話だけど、布告の発行前に川に入ったからと言って、禁を犯したと咎めるのは些か無理があるでしょう?


言った本人もそう自覚しているのか、隊長らしき男はその後そっぽを向いて何処かに行ってしまった。


『あの野郎! 顔は覚えたからな』


「すまんな。我々も上から厳しく言われているので、誰もがみな過剰に反応せざるを得ないんだ。

本隊に着いたら、お前たちが設営前から知らずに川に入っていたことは俺が伝えてやるからな」


俺たちを見兼ねたのか、先程緩めに縄を掛けてくれた兵士がそっと耳元で囁いてくれた。


「ありがとうございます。お手数をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いいたします」


(貴方の顔も覚えました。いずれ何らかのお礼をさせてくださいね)


「リーム!」


一連のやり取りを遠巻きに見ていたアリスたちは、青ざめた表情で連行されていく俺たちに駆け寄って来た。

それを見た俺は小さく首を横に張った。


アリュシェス(・・・・・・・)、俺たちは大丈夫だから皆を頼む。そして刻限になったら皆を率いて先に戻ってくれ」


衆目の中、俺は敢えてアリスと言わずに彼女の本名を叫んだ。

それには理由がある。


俺とアリス、互いに本名(と言っても俺のは自分で付けたものだが)で呼ぶときは、大きな目的を持った同志として意思を告げる時、そのように符丁として決めていたからだ。


アリスはそれでも何か言いたげだったが、俺の意図を理解したのがその後黙って頷いた。



◇◇◇ 少し下流のオーロ川流域



俺は兵士に引き立てられて、川沿いをしばらく下流に進むと、そこには既に川の囲いが完了し、内側には天幕が張られた一角があった。


兵士の一人が小走りに進むと天幕の前で跪き、何か報告を行っているように見えた。

その間に俺たちも、天幕のすぐ脇まで到着した。


「それってどういうこと?」


ひと際大きな、少し甲高い少年の声が響き渡ると、さっと入り口の幕が開いた。


「!!!」


俺は驚きの余り我を忘れて呆然となった。


目の前に現れた見慣れた顔をした少年は、本来のあるべき自分、二度目の自分と寸分違わぬ姿だったからだ。

まさかここまで……、僅か八歳の本人が出てきているのか?

そして……、俺ではない俺は、にこやかな笑みを浮かべて俺たちにの前にいる。


「無礼者っ! ルセル様の前では跪かんかっ!」


もう一人天幕から出てきた偉丈夫が、ただ突っ立っていた俺たちに向けて怒号のような声を発した。


「だからダメだって。こんな幼い子供たちに向かって……。震えているじゃないか」


そう……、一斉に跪いた周りの孤児たちは、恐怖で震えていたのかも知れない。

だが俺は違う。

本来自分が転生すべき器を目の前にして、やり場のない怒りで震えていただけだ。


俺を名乗り、俺から全てを奪った魂魄、それが今、俺の目の前に居るのだ!

何故だ! お前は一体何者で、何の理由があって俺の器に潜り込んだ!


俺は煮えたぎる怒りの眼差しで奴を睨み付けていた。


「子供が川で遊ぶのはどこでも普通のことだよ。それも柵を設ける前の話だっていうじゃないか。

彼らには何の罪もないと言うのに……」


そう言って本来は俺であった少年(ルセル)は、大きくため息を吐きながら首を左右に振ると、引率してきた兵士たちに向き直った。


「君たちの無慈悲な行いは僕の責任でもあるんだよ。隊長にもそれを伝えてくれるかい?

立ち入り禁止を指示したのは、無用のいさかいを避けるためだったというのに……」


その言葉に周囲の兵たち感心したかのように頭を下げると、いつの間にか懐中から取り出した短剣で、等間隔に並んでひざまずかされていた俺たちの拘束を解き始めた。


「当面の間、この一帯の河原は危ないから近づいちゃダメだよ。これは皆を守るためでもあるから我慢してくれるかい? もっと上流に行けば柵を張ってないから、遊ぶならそちらで遊ぶといいからね」


ん? それはおかしいだろう!

この川は上流に行けば行くほど急峻な流れになり、魔の森にも近くなる。

決して安全な場所ではなくなると言うのに……。


そもそも水場となる河原を長期間封鎖すること自体、無体な話ではないのか?


彼は一人一人優しく声を掛けながら自らの手で縄目を解くと、最後に俺の背に回った。

そして小さな声で呟いた。


「君の眼だけは気に入らないな。僕の対処にまだ不満でもあるとでも言うのかい?

僕には下賤の君たちが想像すらできない崇高な使命があるんだ。どうかそれを邪魔しないでくれよ」


そう言ったルセルの声は氷のように冷たく、俺を嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。

俺はただ無言で頭を下げたが、心の中は激しい怒りが渦巻いていた。


そして更に……、奴は続けた。


「君だけは別だな。次に布告を無視して川に入ったら、その生意気な目にこの短剣を突き立てるからね。

十分に覚悟しておくんだね」


誰にも分らぬようそう告げると、奴は元の笑顔に戻って周りに聞こえるよう、最後に付け加えた。


「さぁ、皆には怖い思いをさせて申し訳なかったね。これで君たちは自由だ! 良かったね」


「!!!」


最後の一言とともに、奴は俺の肩に手をかけて強く力を込めてきた。

周囲に気取られぬよう、ただ俺を威圧するかの如く……。


『くっくっく』


ああ、確かに良かったよ。

お前が俺の想像していた以上にクズだと分かったからな。


俺も遠慮する必要が無くなって良かったし、想像もできなかったお土産(・・・・・・)までいただいたことだしな。

ホント……、俺も涙が出るほど嬉しいよ。


この日俺は、三度目の人生で最も最悪な気持ちに包まれていたのと同時に、最上の喜びを噛みしめていた。

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