ep11 ゴミスキルの真価①
共犯者となった俺とクルトは、その日から互いに協力して動き大きな成果を上げていた。
もっとも……、あまり大き過ぎても送り出した孤児院側から訝しがられるので、持ち帰る成果は毎回一割から二割増しとなるように抑え、売り捌く物も足がつかないように慎重に量を調整した。
俺とアリスが採集に参加してからというもの、以前に増して採集効率が良くなったことで、孤児院側の思惑も徐々に変化していった。
今後は無条件で採集に参加できる方向へと。
ただこういった変化は、実は初めてのことではないらしい。
「最初は僕もリームと同じく、魔法士と認定された際に教会に掛け合ったんだ。
将来は薬草を取り扱う立場になるんだから、採集にも行かせてほしいってね」
「それでクルトは貴重な魔法士にも関わらず採集に?」
「僕もリームと同じく、あそこにあった本に書かれていた内容を全て覚えていたので、以前より採集の効率が上がった。そして火魔法を使えば、引率していた先生たちより確実に強かったからね。
それで大人たちには面倒だった引率も、徐々に廃止された訳さ」
まぁそうだろう。大人たちも日の出から日没までの重労働など、誰だってしたくない。彼らは管理して搾取する側なんだから……。
クルトがいれば安心、結局そういう話に落ち着いたらしい。
同志となったあの日から、クルトは俺も対等に話すように言ってきた。
『なんとなくそちの方がしっくりくるから』
と言う訳の分からない理由で。
仕方なく俺は、他に子供たちがいない時だけそうすることにしていた。
ただそんな俺たちにも、残された時間には限りがある。
十三歳のクルトは、あと二年で卒業し教会に進むことが、大人たちの既定路線となっている。
二人で自由にできる時間は二年しかなかった。
その後クルトと共に数回目の採集に出たとき、俺は自身の認識が過っていたことに気付いた。
使いようがないと思っていた転写魔法もそうだったが、実はあまり役に立たないと思っていた劣化版鑑定魔法が、あまりにも有用なチートだと気付いたからだ。
もちろん最初は、だた鑑定するだけに魔法を使っていたが、これが探索にも使えると気付いてしまった!
劣化版は視界のなかでひとつの種類のものしか鑑定できない。
言い換えると、余計な物は鑑定表示されない。
手法を変えれば、予めある植物(物体)を手に持って指定すれば、視界の中にそれが他に存在すれば、自ずと鑑定結果として表示される。
鑑定スキルがまるで、近距離限定のレーダーのような役割を果たしてくれると気付いたのだ。
これにより、俺たちの採集効率は一気に加速した。
これまで採集に充てていた時間の半分以下で、一日の規定量を集めることができた。
「じゃあみんな、今日はここまでにして、いつも通り河原まで戻って休憩とする。
僕たちが戻らなくても、時間になったら町を目指すように」
クルトの指示で、採集班は一斉に森から後退する。
当初は各グループに分かれていたが、固まって行動し俺の指示した場所で採集するほうが効率が良くなったので、今は全員が団体行動だ。
そして採集前の食事休憩は、今は最終後に行われる。
その方が俺たち二人にとって効率がいいからだ。
「じゃあリーム、行くよ。アリスは残った皆と一緒に河原で待ってって」
「ぶー、ずるいクルトお兄ちゃん、いつもリームとばっかり……」
「俺もクルト兄さんも、アリスお姉ちゃんが作ったご飯をいつも楽しみにしているんだよ」
「うん、お姉ちゃんだもんね。頑張るー」
そんな定番のやり取りをしつつ、俺たちは森の奥へと足を運んでいた。
そもそも比較的安全な場所に生えるエンゲル草は限られていた。
継続的に収集するには二度目のルセルが知っていた群生地、より魔の森に近い危険地帯まで足を延ばす必要があったからだ。
「リーム、ここは……、どうかな?」
「ああ、やられている。本物に見えて全部イビル草だ」
森で採集を行うのは、何も俺たちだけではない。
他にも高値で売れるエンゲル草を求め、トゥーレから森にやって来る者は後を絶たない。
そのうち悪意ある者たちが行うのが『剪定』という作業だ。
野に生えている状態でエンゲル草とイビル草を見分ける方法は、俗に一番下の枝分かれを見ろと言われている。エンゲル草なら枝分かれせず真っすぐ伸びるが、イビル草は根本で枝分かれしていることが多い。
もっとも、その見分け方でも確率は七割程度なのだが……。
悪意ある者は同じ採集者を欺くため、敢えてイビル草の枝分かれを切りエンゲル草のように見せる。
これが誤使用の事故を引き起こす最大の理由だ。
偽物が多く持ち帰られれば、それだけ本物の価値が上がるとでも思っているのだろう。
それが疫病のたび、どれだけの犠牲者を出しているかを知りながら……。
実はルセル・フォン・ガーディアが行った『十二の偉業』の中に、エンゲル草の採集を公営事業にし、大量に確保することで疫病時には無償で提供する仕組みを作っていた。
そのため、予め届け出を行った採集人以外の採集を禁じ、買取る側も指定商会以外は不可とした。
そうでもしなければ、誤用による事故は防げなかったからだ。
それと同時に、この悪辣な『剪定』を公表し、行った者には死罪を適用するとまで布告を出していた。
これらのお陰で最初はトゥーレ近郊、後に辺境伯領でも誤用による事故は一掃され、疫病で命を落とす者の数は激減した。
だからこそ今リームとしての俺も、この植物には並々ならぬ知見を有している訳だ。
「そもそもエンゲル草の周りにイビル草は生い茂ることが多いから、多分……、ここにもあったと思う」
「ちっ、根こそぎか……、剪定に加えてタチが悪い奴が狩場にしているということか……」
誰もが暗黙の了解として、全ての株を採取することはない。次に世代を残し、また収穫できるように。
だが、ここ最近は根こそぎ持っていく輩も後を絶たなかった。
そのため、日を追うごとにエンゲル草の採集は厳しくなり、余剰を得ることは難しくなっていった。
俺たちは五歳から六歳になるまでの一年間で、それなりの資金とエンゲル草の備蓄を進めたが、そろそろ頭打ちとなる様相を見せ始めていた。
だがそこで、予想だにしなかった奇手があったことに気付く。
もう一つのゴミ認定スキルが真価を発揮したからだ。




