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ep107 抱え込んだ火種

貧民街焼き討ちの翌日、俺は朝からフォーレを立つと急ぎモズまで移動していた。

予めそこでトゥーレに居残っていた商会長と落ち合う約束をしていたからだけど、理由はそれだけではない。


やむを得ず助けたゴロツキたちだったが、招かれざる客たちには早々にお引き取り願うためだ。


結局奴らは総勢で百六十名になったが、一晩過ごしただけで十分に本性が窺い知れた。

女子供については希望する者だけ居残りできるように配慮した結果、そのうち四十名ほどが残ることになったが残りの百二十名にはお帰り願う。


「商会長、唐突で申し訳ないですが荷馬車を十台程度、早急にトンネルまで回してもらえませんか?

偽装ルートで送り返す『招かざる客』が居るので……」


息を切らせながらモズの拠点に駆け込んだ俺は、開口一番にそう告げていた。


「承知しました。ただちに手配します。

準備が整った者から向かわせ、夕刻の閉門までにはモズにて解放できると思います」


俺の様子に何か尋常でないものを感じたのだろう。

商会長は直ぐに手配の指示を出してくれた。


「他に優先すべきことは有りますか?

特になければ、私の方から報告すべき内容がありますが……」


「いや、すぐに報告を聞かせてほしい」


淡々と依頼に応じてくれた商会長だったが、いつもと違う彼の深刻な様子に俺は何かを覚悟した。


「ザガートがやられました。彼の部下も何人か……」


「!!!」


あまりの凶報に俺は言葉を失った。


くそっ……、でも何故だ?

俺は警告していたのに……。


「実は貧民街が炎に包まれたあと、三百人近くの兵が裏町を襲いました。『盗賊の残党が貧民街から裏町に逃げ込んだ』と言い掛かりを付けて……」


「……」


俺は自身の読みの甘さに言葉が出なかった。

奴は同じタイミングで裏町も更地にする気だったのか?

危険を警告しておきながら、そこまで配慮できなかった俺のせいだ。


「気に病まないでください。ザガートはリーム殿の情報に感謝し、身の回りに気を付けながら準備を進めていましたので」


「じゃあなんで……、ザガートだってそれなりの腕だ。簡単にやられるはずが……」


そう言った俺に対し、商会長は鎮痛な表情のまま静かに首を振った。


「やられたのは、逃げ遅れた者たちを庇い時間を稼ぐため、敢えて打って出たところを魔法士にやられたそうです」


ちっ! 狂気とケダモノの二人か?

もうあの二人だけはもう許しておけない。戦場で出会えは必ず奴らを始末してやる! 

これ以上、奴らによる犠牲者が出る前に……。


「それで、他の皆は?」


「元々我々と関係のある者たちはフォーレに移住するか、表通り(通常の町中)に店を移転させております。そうでない者たちもリーム殿の警告に従い事前に財貨を隠しておりましたので……」


確かに……、裏町でも見込みのある者たちはガモラやゴモラのに伝手で引き抜くか、フォーレの恩恵で商いを大きくし、今や表通りに店を構え直してした。


「ここ数年で裏町も大きく変わりましたからね。

元の住民は多くが住む場所を変え、今は新たな流れ者たちが多く住み着いておりました。そんな流れ者たちも一部は新しい開拓地で人足とすべく、男爵ルセルによって強制的に追い出されていましたが……」


ここ数年の動きで、既に裏町は過去の裏町ではなく、住む者の半数以上が金山開発などの好景気に釣られて新たに流れて来た者たちだ。


「結果としてリーム殿が発した事前の警告と、ザガートたちが時間を稼いでくれたお陰で残っていた住民たちもほぼ避難できた、そう考えてよろしいかと」


結局ザガートは……、

前回は義賊として仲間の助命を願いルセルに討たれ、

今回も裏町の住民を助けてルセルに討たれた。

そう言うことか……。


少しやるせない感じだな。

ザガートは彼なりに『愛』を示して散っていったのだな。


「トゥーレではまだ多少の混乱は続いておりますが、町の人々は『賊』の討伐を断行した男爵ルセルに感謝し、大きな混乱はありません」


「ではアスラール商会も?」


「はい、我らは既に『優先枠』の商会ですからね。

早速朝一番で町の再開発に関する調達依頼がありましたよ。私もそのためにモズに来た、と言うのが表向きの理由ですね」


なるほどね、奴は従順な相手には飴を、そうでない者には鞭を、これらを明確に使い分け始めたということだな。


「ところでリーム殿、フォーレで、いや、救出した獣人たちに何かありましたか?

それに応じ、モズで解散後の『来客』対応を考えようかと……」


ここでやっと、商会長は冒頭で俺の発した言葉の真意を尋ねて来た。

だよな……、商会長はいきがかり上で助けたゴロツキたちの話を知らないからな。


俺は商会長に彼らを助けた経緯を説明した。

だが問題はその後だ。


「先ず奴らは、移送するために待機したトンネルで身勝手な行動に出て暴れ、それによって先に並んで居た女子供の何人かが怪我をした」


このトンネルは万が一に備えて俺が事前に作っていた貧民街の抜け穴だった。

元々は貧民街の外に抜けるための隠し通路だけど、内部を拡張してシェルターのような感じになっていた。


そこで彼らは順番に待機し、俺がゲートを開くのを待っていたのだが、最後に乱入あんないしたゴロツキ共が我先に逃げようとして、前に並ぶ者たちを押し倒して暴れた。


まあ結局はウルスたちに制圧されたけど、狭いトンネル内だったので周りでとばっちりを食って負傷した者も出てしまった。


「次に奴らは、フォーレの街でやりたい放題だった。一応は街から離れた休耕地に簡易テントの避難所と炊き出しを用意してたんだけどね……」


そこに案内するまでに、わざと時間を掛けて外が見えないように幌を掛けた荷馬車で輸送したが、途中で『降ろせ!』と騒ぎ立てる者や、そのうち何人かは勝手に馬車から飛び降りて警護の獣人たちに取り押さえられる始末だった。


「とどめは奴ら……、アリスやマリーたちに襲い掛かろうとしやがった! もちろん、フェリスが彼女たちを守り、駆け付けたカールやレパルたちに袋叩きにされたけどね」


思い出しても腹が立つ!

本来なら彼女たちを『その場』に行かせない予定だったんだ。


ただ、それなりに負傷者も大勢いたためフェリスの光魔法で治療することになったが、狩りならまだしも街中でフェリスを連れ歩いて治療の差配ができるのは、今のところ俺以外でアリスとマリーだけだった。


ところが奴らは傷が癒えた途端、二人を邪な目で見て襲い掛かろうとしやがった!


結果的に事なきを得たが、フェリスによって治癒された奴らは再びボコボコにされてしまった。

もちろん今度は一切手当てを受けさせていない。


「俺は言葉の通じない輩を、治安を乱すケダモノをフォーレに住まわせたくない」


「なるほど、でしたら我らも『それなり』の対応で臨みましょう。アスラール商会もまた無関係を徹底させ、迎えに出た者たちも足が付かないように配慮します」


「ごめん、手間を掛けて申し訳ない」


俺の謝罪に手を振って、商会長は新たな指示を出すべく走って行った。





この日の夕刻、モズの郊外にある山のトンネルから新たに編成された七台の荷馬車が出てくると、街道に抜ける脇道を通り、閉門直前だった町の前に戻って来た。


そして……、幌が外されると人相の悪そうな男たちが荷馬車から降ろされた。


「おいっ! ここで解散ってどういうことだよ!」

「俺は奴らにお礼参りするまで、あの街を出る気はなかったんだぞ!」

「勝手に連れまわしやがって、せめてトゥーレまで送って行けや!」


出るわ出るわ、罵詈雑言の数々で感謝の言葉すらないのかよ?


「お前たちにいっておく。このままトゥーレに戻ればまず生きていられないだろうよ。なんせお前たちは『盗賊の残党』として、既に討伐されたことになっているからな」


「何で殺されなきゃならねぇんだ」

「俺たちは盗賊じゃねぇぞ!」

「そうだ、トゥーレではまだ何もやっちゃいねぇ」


ははは、『まだ』ね。語るに落ちたな。

俺の前に彼らの護衛かんしに付いて来たアーガス率いる兵たちが一斉に進み出た。


「ど、どうする気だよ!」


何もしねぇよ!

アーガスらの圧力にひるんだのか、奴らは俺に向かって半分上げかけていた手を下ろした。


「俺の知ったことじゃ無い。あの時は見捨てると寝覚めが悪いのでお前たちの命を助けた。ただそれだけだ。これから先はお前たち自身の力で生きてゆけばいい」


俺は淡々とそう言った。

これ以上こんな奴らと関わりになりたくないしね。


「ここで無一文で放り出されても、生きて行けないだろうが!」

「今晩どこで寝ろって言うんだ!」

「アタシらは今日食う飯すら無いんだよ!」


ホント言いたい放題だな。

俺が知らないとでも思っているのか?


「出発の前に、数日なら雨露をしのげるための宿代、飢えないための食事代、その程度の銀貨は渡してあるだろう?」


「「「「……」」」」


それすら忘れていた訳ではなく、ただタカろうとい魂胆が見え見えじゃないか。

それに感謝されこそすれ、何で俺たちが文句言われなきゃならないんだよ!

お前らはどこまで俺を不愉快にさせる気だ?


「モズには流れ者でも泊まれる安宿もたくさんあるし、その気になれば幾らでも仕事もある。逆に開発景気で今は人手が足らないぐらいだからな」


そう俺が話す間にも、荷馬車はさっさと引き返して偽装用のトンネルへと戻っていった。


「俺たちもこのまま引き返すが、町では面倒を起こすなよ。予め町の人たちには迷惑を掛けないように、特に衛兵にはお前たちのことは話してあるからな。

滅多なことはできないと思えよ」


そう告げると俺も馬に乗り、輸送隊と共にモズを後にした。


モズの町の人間に迷惑を掛ける訳にもいかない。

だから彼らには当座の生活費として銀貨も渡したし、町の衛兵には警戒レベルを上げるよう注意喚起するだけでなく心付けと差し入れまで渡してある。



こうして俺たちは『招かれざる客』と決別した。

不本意ながら抱え込んでしまった火種、俺もこのままで済むとは思っていないし、それすら罠とする策も打ってある。

もし奴らが、俺の最悪想定レベルのクズならばきっと……。

いつも応援ありがとうございます。

次回は10/19に『密告者』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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