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ep93 餓狼の里での戦い① 奇襲

俺は少しルセルのことを甘く見ていたかもしれない。

今回の騒動もそうだが奴は俺が知っていた、二番目の兄への動きのほかに、三番目と四番目の兄に対しても、何らかの手を打っていたに他ならないからだ。


本来とは異なる非業の死を遂げた長兄に関しては、俺自身も色々と思うところもあったので、胸は痛まないものの憐憫の情は禁じ得ない。



俺の考えを裏付けるがごとく、商会長が放っていたトゥーレからの使者が更なる凶報を告げた。


「くそっ、どう言うことだっ!」


「その報告に間違いはないんだな?」


俺と商会長は、思わず動揺の声を上げずにはいられなかった。


「は……、はいっ。トゥーレから歩兵を中心とした部隊が本日出立しました。どうやらノイスに駐屯する部隊と合流し、魔の森に入ると……」


「いつもの『狩り』ではなく?」


「公にはこれまでと同様と称してありますが、ノイスからはこれまでと比べ物にならない物資を満載した輜重隊が出たとの報告も受けております」


「で、人数は? 可能な限り詳細をリーム殿にお伝えしろ」


「おそらくですが騎兵が百、歩兵は七百程度。不思議なのは残った騎兵も臨戦体制を整え、逆に前線からトゥーレに集結しております。その数およそ五百と思われます」


「それで領主は?」


「はい、トゥーレを出た百騎の騎兵の中に、領主の姿もあったと報告を受けております」


やられたな……。


奴は俺たちの存在には気付いていないだろうが、トゥーレにはまだ僅かばかり獣人が住んでいる。

彼らがノイス開発を隠れ蓑に、大部分が何処かへと去ったことには気付いていたかもしれない。

そうなれば彼らが消えた先を、魔の森に点在する里だと奴が考えても不思議ではない。


故に僅かにトゥーレに残る獣人も、間諜として里に繋がっていると考えたのではないか?


これまでの魔石狩りは、本来の討伐を欺く目的も兼ねていたとしたら?


「商会長、これは本格的な侵攻であると思います。

ひとつは、これまで偽装した本来の目的を果たすため。

ひとつは、領都の三人を焦らすため。

ひとつは、後顧の憂いを断つためだと思います」


「なるほど! 兄弟から援軍を要請されたとしても、当の本人は間が悪く征討で不在のため動けない。

これは立派な大義名分ですな。そして騎兵の五百は、いつでも領都に向けて出立できる準備を整えていると」


「はい、逆にそれこそが暴発を誘う罠なのかもしれません。事が起こっても奴一人なら、餓狼の里から半日も掛からずにトゥーレに戻って来ることができるでしょうし」


そう、俺と同様に五芒星ペンタグラムの力を借りれば、ね。

なので奴は、領都にも兵を出せる体制を整えている。


そして奴は、里を放置していたのではない!

欺くために時を窺っていたのだ。


「くそっ、俺の方が甘かった……。奴もまた獣人たちに監視されている前提で動いていたんだ」


俺は直ちにゲートを開いた。

そして商会長に頭を下げた。


「申し訳ありません。直ちに誰か使いをフォーレに送り、事情の説明をお願いします。

定期便はしばらく停止し、俺はこのまま餓狼の里に飛びます!」


「私が参りましょう! お前は直ちにトゥーレに戻り、残った騎兵の動きを監視し情報はモズに集約するよう努めろ」


「はっ!」


そう言い残すと、商会長はゲートの向こう側へと消えていった。

そして俺は、一気に駆け出した。



◇◇◇ 



俺が最大速度で駆ければ、奴の軍より早く到着できる。

餓狼の里に駐留部隊として残っている百名に危急を告げなければ……。


「!!!」


逸る気持ちのなか、夢中で里の近くまで辿り着くと、俺は目の前に広がる光景に自分の目を疑った。


そこには既に百名近い奴の歩兵が展開し、唯一の(・・・・・・・)出入り口である岩山への登り口を封鎖していたからだ。


それだけではない、入り口を防衛するために設けられた櫓は業火に包まれて盛大に炎と煙を上げて炎上していた。


「奴め、更にもう一段奸計を巡らせていたのか!」


俺は忌々しさに思わず頬が引き攣って、毒づかずにはいられなかった。


八百名もの軍が動けば必ず目についてしまう。

そのため奴は、事前にあの二人(・・・・)と一部の部隊を密かに先行させていたのだろう。

不意を衝いて奇襲し里を袋の鼠にするために……。


「皆は無事だといいんだが……」


俺は湧き上がる不安に駆られながら有事に備えて密かに作った、里へと抜けるトンネルに身を滑り込ませた。



◇◇◇ 餓狼の里



万が一に備えて俺が掘ったトンネルは、山城に近い構造をした餓狼の里の外側から本丸付近に直接通じている。


そこを出ると、おそらく皆が待機しているであろう二の丸の櫓を目指して俺は走った。


「おおっ! リームさまだ!」

「神獣の守護者さまだ!」

「援軍だ、リーム様がお越しになったぞ!」


俺の姿を認めると、彼らは歓声を上げて走り寄って来た。

くそ……、少し人数が減っているな。


「他の者は? 無事か?」


俺の問いに彼らは、口々に答え始めた。


「はいっ! 入り口の櫓に居た者たち十五名は炎により火傷を負い、雷撃によって倒れた天井や梁の下敷きになって負傷しました」


「全員が傷付いておりますが命は取り留めております。今は安全な後方で手当てを受けています!」


「奴らは最初、交渉の使者と称して訪問して来たにも関わらず、いきなり魔法攻撃を放って来ました! 卑怯な奴らを絶対に許せませんっ」


ちっ、獄炎きょうき雷獣ケダモノなら何も意に介さず、そんな卑怯なことも平然とやってくるだろうな……。


「取り敢えず状況は大体理解した。三の丸には誰かいるのか?」


「いえ、魔法による攻撃には我らもなす術がありません。兼ねてからリームさまのお言い付けに従い、一旦は全員を二の丸に引かせております」


「ありがとう、よく堪えてくれた。

これより兼ねてからの打ち合わせ通り『空城の計』を発動する! 先ずはフォーレとの道を繋ぐので、負傷者を彼方に搬送し援軍を迎え入れる!」


「「「「応っ!」」」」


負傷者を搬送するため、守備隊が建物の中に走ると同時に、俺はフォーレとの間にゲートを開いた。



◇◇◇



ゲートを開いた瞬間、白い光の塊が飛び込んで来たかと思うと、そのまま俺に飛び掛かってきたため思わず後ろに倒れそうになった。


「フェリスちゃん、ダメだって……」


そして遅れてアリスが顔を出した。

どうやら商会長の知らせを受け、彼女たちは向こう側の出口に待機していたようだった。


「うん、ちょうど良いかもしれないな。

早速だけどアリスはフェリスを連れてあの建物に、先ずは負傷者の傷を癒し、その後はフォーレに送って施療院にお願い」


アリスが頷いてフェリスと共に建物に入ると同時に、今度はフォーレからヴァーリー、ガルフ、アーガス、カール、レパル、ウルスら指揮官たちが移動して来た。


「先ずは負傷者を後送したのち、作戦『空城の計』を行う。そのために今回は予備役を含む稼動全軍で対処し、奴らの度肝を抜いてやる!」


ヴァーリー 「はっ! 我が主君の仰せのままにっ! 重装騎兵二百名、既に待機しております」


ガルフ 「たまたま俺が後方に居るときを狙って攻撃してきやがるとは。卑怯者には目にものを見せてやりますよっ!」


アーガス 「旦那、いよいよですねっ! 軽装騎兵二百名、同じく出撃準備整っております!」


カール 「弓箭兵二百名も全員準備はできています。なお全部隊にアレの配備もできております!」


レパル 「フォーレの守りは団長と副団長が守備隊として百名を率い、残った自警団三百名は出撃準備が整っております!」


ウルス 「獣人からの志願兵二百、いつでも戦いに参加できるよう待機しておりますっ」


ははは、完璧だな。

まさかルセルも、ここに屈強な一千二百人もの兵が立てこもっているとは思わないだろう。


かつてはこの里を巡って戦ったガルフや里の者たちと、今度は仲間として共に戦うことになるとはな……、巡り合わせとは面白いものだ。


「負傷者の搬送が終わり次第、各隊は順次こちらに移動して配置に着け! 配備が完了すれば『空城の計』を発動する!」


「「「「応っ!」」」」


今回はルセルに出し抜かれたが、俺たちだって何もしていなかった訳じゃない。

奴にはきっちりと『お礼』しなくてはならない。もちろん何倍もの利子をつけて、ね。



ここに至り俺たちとルセルは、初めて全面対決に突入することになる。

ただしそれは、俺らしいやり方で……。

いつも応援ありがとうございます。

次回は9/7に『餓狼の里での戦い②』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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