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間話5 フォーレ視察(その⑥)

やっとフォーレ視察も最後の一か所を残すのみとなった。

朝から回り始めて既に日が傾きかけていたが、ここまででもそれなりの成果はあったと思う。

アリスやマリーに挙げてもらう課題の量が膨大になりそうだけど……。



◇◇◇ 自衛軍及び自警団詰所



最後はフォーレ防衛の要となる、自衛軍及び自警団の駐留地だ。

ここはもっともフォーレの外壁に近い場所で、三日月型になった岩場の出口を封じるために作った防壁のすぐ傍にある。


「我が主君、お待ちしておりました」


「「「「「お待ちしておりましたっ!」」」」」


代表してヴァーリーがそう言うと、そこには自衛軍の幹部と自警団の幹部が勢揃いしていた。


◇自衛軍(常備軍)

・重装騎兵隊 指揮官ヴァーリー 200騎

・軽装騎兵隊 指揮官アーガス  200騎

・弓箭兵部隊 指揮官カール   100名

・餓狼駐留隊 指揮官ガルフ   100名


◇自警団(非常任)       400名

・自警団長  ガモラ

・副団長   ゴモラ

・常任指揮官 レパル

・副指揮官  ウルス


幹部でこの場に居ないのは、餓狼の里に常駐しているガルフのみで、あとは全員が揃っていた。

ルセルが怪しい動きを始めて以降は補充や増員を進めた結果、常備軍六百名と兼任の自警団が四百名、合計で一千名の組織になっている。


なお自警団のなかでレパルだけは専任の常備兵とし、他の兼任者が不在時は指揮を執ることになっている。


「みんな、それぞれ忙しいなか集まってもらって申し訳ない。

今日は改めて現地で状況を視察し、課題や要望があれば拾っていきたいので遠慮なく話してほしい」


そう言うと、先ずはカールが手を挙げた。


「この場にガルフ殿が居ないので変わって申し上げます。

アスラール商会から聞いた話では昨今、トゥーレやノイスから魔の森に入る部隊が増えたと話を聞いております。餓狼の里の駐留部隊を今少し増援し、長期戦に備えて定期的に一部をフォーレに戻して休養させ、人員を回転させるのはいかがでしょうか?」


「具体的に人数と回転方法は?」


「百名を増援したうえで、五十名単位で定期的に部隊をフォーレに戻し、入れかえることができれば理想的です」


確かにな……。俺の気付かなかった良いところを突いてくる。


カールの指摘で思い出したことがあった。

第二次世界大戦時に米軍は、必ずパイロットを定期的に後方に下げ、休暇を与えていたという話だ。


餓狼の里はいつルセルが攻めてくるか分からない緊張状態にある。そんな状態が長く続けば精神をすり減らすか、または緊張状態が緩み『なぁなぁ』となってしまう。


「うん、それは直ちに採用したい。常備軍で話し合って派遣人員を決めてくれるかな?

決まり次第実行に移すよ。他には?」


今度はガモラが手を挙げた。


「旦那、今は常備軍に優先配備されている連弩クロスボウですが、自警団の全員にまで回ってくるのでしょうか?」


「うん、今日武器工房を回った際、なるべく早く全軍に配備できるようにと依頼しておいた。

装填には難があるけど、そこは協力して対応できる運用を考えておいてほしい」


長篠の戦いでの織田信長みたいに、三段打ちとかも研究してもらおうかな?

それならヒト種が装填できないという課題も解決するし……。


今度はヴァーリーが手を挙げた。


「我が主君、ある程度人員は厳選する前提ですが、訓練で防壁の外に出て魔物と戦うご許可をいただけないでしょうか?」


「うーん……、先ずは経験者を前提に安全と退路の確保は絶対、それであればヴァーリーの判断を信じるよ。ただし誰も失いたくはないので、条件を付けたいと思う」


そういって俺は、三つの条件を説明した。


ひとつ、深淵種と思われる魔物と出会ったら、ここに引き込んでも構わないから必ず撤退すること。

ひとつ、砂地と水辺は避けて通り、訓練といえど絶対近づかないこと。

ひとつ、変異種で擬態するキラーマンティスには常に警戒し注意すること。


「変異種のキラーマンティスは特に気を付けてほしい。かく言う俺も一度、危うく死にかけて……」


「コホンっ!」


あ……、しまった。またやってしまった。

マリーの咳払いに気付いた時は既に遅かった。


「……」


アリスが涙目になって無言で睨んでいるし。

でもさ、あれはまだ初期のころだったし、擬態するキラーマンティスがいるなんて知らなかったんだよ。


「あ、その……、条件は承知いたしました。それに当たってお願いなのですが、フェリスさまを我らと共に同行いただくことは可能……、でしょうか?」


「あ、ああ、大丈夫だと思うけど、フェリスはいいかい?」


俺は敢えて神獣であるフェリスに聞いてみた。

なんとなくだけど、俺たちの言っている言葉をフェリスは理解している気がするんだよね。


もちろん返答はなかったが、俺の足元とヴァーリーの足元を交互に行き来してから、彼の足元に座ったので問題ないと思う。


フェリスは光魔法の回復も使えるし、見えない敵がいても事前に察知してくれる。

俺自身も一度ならずそれで救われているしね。


なのでフェリスが同行すれば、魔の森深部でも生存確率は格段に跳ね上がるだろう。


「他には何かあるかな?」


「旦那、よろしいでしょうか?」


そう言っておずおずと手を挙げたのはアーガスだった。


「今すぐという訳ではありませんが、今後は我らの軽騎兵部隊も増員を考えております。

対象はアモールのゴロツキ共ですが、勿論最初は性根を含めて一から全部叩き直してやりますので……」


うん? それってあの『あろあろ君』たちも含まれているのかな?

大丈夫かなぁ……。少し心配だけどね。


「アーガスが見込みがあると思ったら構わないよ。だけど完全に信用できる者以外は、此方との行き来は必ずトンネルを使用し、その者たちには当面の間このフォーレがどこにあるかを秘匿すること、これが条件かな」


「はい、勿論です! 先ずは徹底的に性根から鍛え直し、カール殿指揮下の弓箭兵と双方に配属しようと思います」


「その……、話に割り込んで申し訳ありません。リームさま、予算面の精査は大丈夫でしょうか?」


確かに統治機構に所属するマリーからすれば、その点は気になる話だろう。


より多くの兵を常備軍として抱え込めば、それだけ毎年自動的に消えていく予算が跳ね上がる。

本来ならフォーレの規模では、常備軍は二百名が関の山だ。

魔の森の最前線とされたトゥーレ一帯ですら、人口比で10%の枠を長年にわたって守り続けていたし。


それに日中の視察では散々収益を上げる努力や相談を行っていたにも関わらず、ここでバンバン経費を使うのも矛盾していると感じたのだろう。


「マリー、心配してくれたこと、勇気を持って進言してくれたことに感謝しているよ。

ただ予算面については、多少非常識な話だけど常備軍の定員は八百名まで行けることをバイデルと精査している。まぁその分、余裕を持つため稼ぐ算段は整えていかなきゃならないけどね」


「その……、常備軍ではなく自警団なら構わないでしょうか?

戦時となった場合、少しでも兵とできる戦力は準備しておきたく思いますが」


「ん? ウルスには何か当てがあるのかい?」


「現在出稼ぎ要員(アスラール商会の派遣要員)としてトゥーレやモズなどに出て、定期便で戻ってくる者たちには、自警団に参加を希望している者もおります。

ただフォーレで訓練に参加させると、定期便の運用にも差し障りが出てしまい、リームさまにもご迷惑が……」


ははは、そんなことか。

ウルスは俺に気を遣っているのか。


「その点は大丈夫だ。先ずは危機に備えた戦力の充実、それを優先して考えてくれればいいよ。

どこの人員からどれぐらい希望者がいるか、定期便の運用をどう工夫すれば良いか、それを調査して報告してほしい。

基本的にウルスの案は採用として、訓練時間の足らないものでも装填の支援とかならできると思うよ」


「それでは彼らは自警団の候補者として、ウルスと私で相談しながら対応させていただきます」


最後にレパルが発言したところで、今回の視察は締めくくった。



ここでのやり取りは全て回答も示しているので、別途課題の検討は必要ないだろうな。


あとは……、戻ってここ以外の課題の振り返りと対応策の検討か……。

まだまだ俺たちの長い一日は終わりそうにないな。

いつも応援ありがとうございます。

次の投稿は8/31に『フォーレ視察まとめ』を前編と後編でお届けします。

投稿時間は以下の通りです。

前編:8/29 8時台

後編:8/29 12時台

どうぞよろしくお願いいたします。

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