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間話5 フォーレ視察(その⑤)

本日はあと一話投稿いたします(19時台)

俺たちは飲食店や宿屋が立ち並ぶエリアを抜け、ひと際大きな建物が立ち並ぶ一角に出た。

それもそのはず、この辺りにあるのは施療院、孤児院、学校(託児所)などの施設が並んでいるからだ。



◇◇◇ 施療院



そもそも施療院は無料で病気や怪我の手当てを行う施設で、似たような役割はトゥーレの教会が担っていたが、あちらは全て『世の中金次第』という世知辛せちがらいものだった。


二度目の人生で教会を根本的に壊した俺は、クルトと共に教会の一部機能を分離して作ったのが施療院だ。


当初フォーレでは、対応できる人材も単なる人手もなく暗礁に乗りかけていた事業だが、クルトの機転によって無事開業できた。

ここで働く者のうち三名はクルトが確保した、元々教会で働いていた治療処置の経験がある専門職の修道女で、今は孤児院の卒業生たちが四名が彼女らに師事して見習いとして働き、ノウハウを学んでいる。

それに加え獣人からも五名、アスラール商会が引っ張ってきた医者も二名勤務しており、総勢十四名と更に特別に配属している二人が働いている。


この二人は……、俺が商会長に依頼をして囲い込んでもらっている、過去の未来でシェリエの配下だった光魔法士たちで、治癒の魔法が使える(予定の)者たちだ。


「孤児院の子供たちも、自分たちが集めた薬草が治療に使われて人助けになるから、ここでも頑張っているみたいね」


「そうね、マリーの言う通り採集も今は、教会や孤児院に『脅されて』集めている訳ではないものね。

それだけでも全然違うわ」


そんな話をしていると、いつの間にか孤児院の前まで到着していた。



◇◇◇ 孤児院



フォーレの孤児院は、当初は急遽前倒しで子供たちを受け入れたため仮設だったが、今はそれなりにしっかりとした建物が建設されており、外観も中身もそれなりのものになっている。


「さて、レノアはいるかな?」


そんな呟きと共に、入口から中で元気に遊ぶ子供たちをしばらく見ていたが、いつの間にかレノアがやってきていた。


どうやらアリスやマリーを知っている子供が、レノアに告げにいったらしい。


今やレノアは、孤児院から救い出した修道女三名と、現在も孤児院に在籍する子供たち、フォーレで卒業した元孤児たちを取りまとめ、孤児院を代表する立場になっていた。


ただ俺は、敢えて院長と代表者は別に設定していた。

院長は三人の修道女たちが交代で務め、孤児たちの方だけを見て世話に専念する。

代表者は孤児たちの代表者であり、政治面で彼らを取りまとめる役割を担っている。


「リームさん、マリーさん、アリスさん、言ってくださればお迎えしたのに……」


「レノアも毎日忙しいでしょう? 今や二百名を越える子供たち、百名近いの卒業生を取りまとめる代表ですもの」


因みに既に店を構えたり自立している卒業生はこれに含まれていない。

卒業生でもまだ見習いの者や、移住して間もない者たちをレノアが取りまとめている。


今や彼女たちが孤児院を抜けてはや二年、マリーたちの次とその次の世代も既に卒業している。

もちろんレノア自身もその中の一人だ。


「今はみな強制されて進路を進むのではなく、自分で進路を決めているのでしょう?

その相談や年長者の職業訓練アルバイトの斡旋、子供たちの採集や清掃活動なんかも含めて、全部レノアが仕切らなくてはならないもの、大変だよね?」


「そうだけど……、でもアリスたちの方がもっと大変だと思うわ。会議に参加させてもらうようになって、政治の話とか街全体の運営とか、私にはそんなこと絶対に無理だもん」


「そんなことはないよ。今のレノアの使命は、次のレノアを見つけて育てることかな?

いずれ孤児たちの数は減っていくし、レノアには相応しい仕事に就いてもらいたいし」


「えっ……、リームさん、そんな話は聞いて……」


「うん、だから今言った」


「レノア、貴方もすぐに私たちの仲間よ。ようこそ!」


「ふふふ、私もマリーと一緒に待っているからね。できる限り早く、ね」


「……」


どうやらマリーもアリスも、俺の無茶振りには完全に馴染んでしまったようで、当惑するレノアを更に追い込んでいるようだった。


もっとも、二人は俺以上にレノアの優秀さを理解しており、何を隠そうずっと以前から彼女を統治機構の中枢に推薦していたのはこの二人なんだけどね。


「それで、今の孤児院で何か課題とかあるかな? あれば遠慮なく教えてほしいのだけど」


「そ、そうですね……、どうしても以前の孤児院と比べると、今は何もかもが恵まれて少し贅沢に思えてしまいます。強いて言えば、年長者はそれなりの仕事に就いたり、将来の道を決める一環で見習いとして職に就いていますが、その下の子供達でもできる仕事があってもいいかと思います」


「え? 今でも農作業の支援や清掃活動などに従事してくれていると思うのだけど?」


「それらはあくまでも奉仕活動です。ですがちょっとした買い物やお小遣いが稼げたりすると……、やっぱり難しいですよね?」


「どのぐらいの子供たちが対象だい?」


「八歳から十二歳程度の子供たちです」


なるほどな……。

子供たちもそれぐらいの年になると各々がお買い物もしたくなるだろう。

トゥーレの孤児院ならそんな贅沢は許されなかったが、今は全く環境が違う。


「本人の希望が大前提で、学業と遊ぶことを優先すること、働くことが主にならないこと、あくまでもお小遣い稼ぎ程度の仕事であること、この三点が前提になるけど構わないかな?」


「はいもちろんです」


「じゃあアリスとマリーに検討してもらうよ」


そう言って当の二人を見ると……、それぞれ周囲に群がった子供たちの相手をしていた。

ホント、二人が子供たちに懐かれているのがよくわかるな。

ひとしきり二人が子供たちの相手を終えるまで、俺はそれを微笑ましく見ていた。



◇◇◇ 学校(託児所)



さて、では次はアンジェに会いに行くか。

先ほど孤児院に孤児たちがいたということは、今日は既に学校の授業も終わっていることだろう。


基本的にフォーレの学校は、学年制ではなく実力でクラスを振り分けている。

実力というと少し語弊ごへいがあるが、ようは一定レベルに達すれば次のクラス(学年)に進める方式を取っている。

なので理解の早い子はどんどん上級クラスへと進み、十五歳になる前に学校を卒業して見習いとして各職業の実習に入る者、更に上の専門教育を受ける者に分かれる。


「アンジェ校長、学校の状況、子供たちの状況はどうですか?」


「あ! リームさま。いつもありがとうございます。

学校も預かり所も順調です。学校と預かり所にはクルトさまが手配された五名の修道女が配属されています。それに加え孤児院や学校の卒業生も手伝ってくれるため、人手は確保できています」


当初こそ学校は孤児院の年長者の手を借りて運営されていたが、今は職員も増えて十分に回せるようになっていた。教える側には優秀な成績を残して学校を卒業した者も加わっている。


今や学業に秀でて卒業した者は、有償である程度の上級教育が受けれるようにまでなったが、授業料代わりに学校を手伝ってもらっている。

そう言う意味でも教師役は十分に足りているのが現状だ。


「強いて贅沢を言えば、フォーレには専門教育を教えられる者が少ないのが難点です。

今はバイデル様が連れてきていただいた政務官の方が教師役を務めていただいておりますが……」


「そうだね……、そこをフォーレで賄うのは少し時間が必要かもしれないな。

ただ、将来的には高いレベルの教育が学べる手段は用意しようと思うので、その候補者が居れば報告してほしい」


俺にもちょっと思いついたことがあったので、これも検討事項に加えることにした。

商会長と相談の話になるけど、多分行けるかな?



◇◇◇ 農業関連(農地、放牧地)



次に俺たちは、フォーレの農場兼牧草地に向かった。

フォーレの防壁に守られた内側の広さは凡そだが5km2で、そのうち街は1km2、農地は2km2なので200ヘクタールほどの広さが確保されている。


そのうち二分の一を穀物の栽培に、四分の一を野菜や根菜、四分の一は休耕地として牧草地にして、欠点はあるものの基本的には天水農業の輪栽式を採用している。


「リーム、改めて見ると農地も……、凄く広くなったよね? 初めて来た頃と比べると嘘みたい」


「ほんとねアリス、広くはなったけど、開墾や耕耘こううんは全部リーム頼りなのが申し訳ないけどね」


「ははは、マリーが言うほど俺の手間は掛かってないけどね。まぁ人が耕すと膨大な労力が必要だから、適材適所ということで割り切っているし」


そう、人手だと重労働の天地返しや畝づくりも、地属性魔法を行使すれば一気に解決できてしまう。

日照り続きの際の水やりも、用水路から俺が水魔法で散布しているので問題ない。

雑草の駆除や脱穀などは孤児院の子供たちが手伝っているし、一気に収穫したりする時は自衛軍も協力しているからね。


「でもさ、これ以上人が増えたら、農地も増やさなきゃならないんでしょ?」


「アリスの心配ももっとな話だけど、灌漑水路は既に引いてあるし、この先はそれも利用して収穫量を増やすこともできると思う。それにさ、ここなら肉類も確保できるから、今の計算上ならも三千人程度は大丈夫だと思うよ」


まぁ実際、俺も思うとしか言えないのが残念だけど。


俺がラノベ書いていた時の計算式を頭の隅に残っていて、中世ヨーロッパの目安として10アールで3人の食い扶持を賄う穀物を生産できと誰かが書いていた資料を見たことがあった。

それを基に100ヘクタールなら3,000人と概算しているだけだからね。


ただその指標自体が正しい概念なのかどうかなんて、今となっては確認しようもないし……。

今は行き当たりばったり……、いや、様子を見つつバイデルが引き抜いて来た農業専門の政務官に任せている。


「まぁ……、足らなくなれば買えばいいさ、それで凌いでいる間に耕作地を増やせばいい」


今のところ手を付けていない残り2km2は、カリュドーンの群れを放し飼いにしている隔離エリアと、エンゲル草の群生地、そして自衛軍や自警団が使用している土地だからね。

今後もそこには手を付ける予定はない。


計画上の話だけど今の防壁を本丸にして、そこから先を二の丸、三の丸と拡大するプランもある。

色々と手間の掛かる話だけど、魔法士がある程度の数まで揃えば……。


なんか色んな問題がそこに帰結しているような気もするけどさ……。


そのあと俺たちは、現地で農業担当の政務官(二度目でも俺と共にトゥーレに来てくれていた)に現状を確認し、俺の想定に対する過ちなども指摘されつつ、課題の洗い出しを行った。


そしてやっと、最後の視察場所へと歩みを進めていった。

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