表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/125

間話5 フォーレ視察(その②)

本日はあと一話投稿いたします。(19時台)

素材や毛皮を扱う工房を巡ったあと、次に俺たちはその先にある工程、素材を活用し武具や防具を生産する工房群が立ち並ぶ一角へと足を進めた。


今回の視察で一番の目的、最も進捗が気になっていたのがこの一角だ。



◇◇◇ 生産関連工房①(武器及び防具)



以前はアスラール商会を介して手に入れて来た武器類も、徐々にフォーレで生産し調達できるようになっていたが、これには元孤児たちの貢献も大きかった。


ここで働く者たちは、身売りされた親方の下で奴隷のような暮らしていた者だけでなく、既に独り立ちしていた元孤児、腕を見込んでアスラール商会がスカウトしてくれた職人など、出自も多岐に渡る。

彼らが本格的に活動を始めて以降、フォーレの生産力と生産品の品質が一気に向上していた。


そこで俺は、最も気になっていた武器類の製造にも着手するようになっていた。


「ごめん、邪魔するよ。先日依頼した連弩クロスボウ弩砲バリスタの製造状況が聞きたくて……、どうかな?」


「あっ、領主さま。いつもありがとうございます。

お話いただいた案に従い、魔物の腱や複数の素材を張り合わせて作ったもの、異なる金属板を重ねた板バネという物で作成したものなど、色々と改良を進めています。ただ……」


「ただ?」


「今のところ完成した武器は威力こそ凄いのですが……、普通の人間が引き絞ることは不可能に近いものがほとんどで……」


「ははは、普通の人間じゃなければどう? 例えばガモラやゴモラ、獣人たちなら?」


獣人たちの膂力りょりょくはヒト種と比較にならないし、あの二人も筋骨隆々の巨漢だ。

彼らはヒト種の中では抜きん出ているからね。


「いけます! 今も完成した一部を自衛軍と自警団に渡して試しに使ってもらっていますが、手応えは十分にあります」


「だよね、さっきガモラにも会って来たけど、凄く良い武器だって喜んでいたよ」


「ありがとうございます。ヒト種はガモラさんやゴモラさんのように特別な(ばかじからの)方しか扱えませんが、獣人の方々なら問題なく使えそうです」


うん、今はそれでいい。


一般には強弓と呼ばれトンデモない代物でも、扱うことさえできれば問題ない。

この世界の弓と対峙した際、彼らの射程外から一方的にかつ強力な矢勢で攻撃できるからだ。


守りが硬すぎて討伐不可能とされた上位種の魔物でも、この強弓と魔物素材から作った特別なやじりであれば、上位種の固い皮膚すら貫くことができる!


まずはフォーレ周囲に棲息する魔物に対抗できること、次にルセル率いる弓箭兵を圧倒できること。

この二つを実現すれば問題ない。


幸い自衛軍も自警団も構成員の大半は、ヒト種に膂力で大きく勝る獣人たちが占めている。


「あと、もうひとつのご提案、巻き機(ギア)を使った固定砲ならヒト種でも装填できます。

こちらはご指示通り、フォーレの外壁に備えられるよう試作を進めています」


「ありがとう、取り敢えず今の路線で急ぎ数を揃えることを優先してほしい。自衛軍と自警団全てに配備が整うように。それができたら次の段階として、ギアを使った武器の小型化に取り組んで貰えると助かるかな。素材はこちらから提供するからさ」


「はい、頑張ります!」


俺たちの強みは通常ならば希少とされる素材でも、ふんだん用意できることだ。

王都では目の飛び出るような値段の素材も、俺自身が用意できるため対価はゼロだ。

なのであとは活用を職人プロに任せるだけだしね。


先ずは自衛軍と自警団の全てに装備を行き渡らせること、それができれば非力なヒト種でも装填だけを獣人に頼れば事足りる。

主に肉弾戦や刀、槍などがが得意で近接戦闘特化の獣人たちにも、連弩クロスボウを活用した新しい戦術を導入させ、鋭意訓練を進めてもらっている。


何故なら、まだ多くの者には上位種と近接戦闘はリスクが高すぎるし、魔法士の支援もないからだ。

弓のように繊細な照準と地道な訓練が必要とされる武器は彼らに向いていない。でもクロスボウなら別だ。

取り扱いも習熟も簡単で、彼らにも馴染みやすい利点があった。



次に俺たちは、防具中心にを製作する工房群を回った。

既に話が伝わっていたのか、彼らは工房前で俺たちを待ち構えていてくれた。


「「「お疲れ様です」」」


「いや……、気を遣わせてしまってごめん」


「いえいえ、トゥーレに居ても、いや、王都でも絶対に携われないような素材を使った防具作りができるんです。これは職人冥利に尽きるってもんでさぁ」


ここを代表する親方は元からトゥーレに住んでいた者でもなく、王都から珍しい素材を求めて流れて来た者で、裏町に住み着いていたところをゴモラの誘いを受けて移住してきた男だった。


「そんなものかな?」


「もちろん素材は領主様から頂いているので、俺たちが入手できるようなものじゃありませんが、一度は王都で自分たちの作った物を売ってみたい、そんな夢まで膨らみますよ」


「なるほど、王都での販売か……、俺の方でも検討してみるよ」


ここで再びアリスとマリーに目配せした。

彼女たちも後で意見を聞かれると分かっているようで、真剣な表情で頷いていた。



◇◇◇ 生産関連工房②(鍛冶・木工関連)



次に回ったのは武器や防具、そして農耕器具などの製造にも欠かせない鍛冶工房と木工工房が点在するエリアだった。

正直言って今のフォーレの規模では、先に回った素材関係、武具製造関係、そしてこれから回る工房群もオーバースペックと言われるほど充実しており、その数と規模はトゥーレを凌ぐ勢いで増え続けている。


その理由のひとつとして、そもそもこれらの業種に所属していた孤児院の卒業生が多かったこと、そしてトゥーレにはこの業種に対し『手に職を持った人物』たちが多く移り住んでいたからだ。


だが少なくない者たちが、好景気の評判を聞いて移住して来たにも関わらず、受け入れる側のトゥーレも一杯一杯となっていたため腕を振るうことなく裏町でくすぶっていた。

そういった者たちをガモラやゴモラのネットワークや、『アモール』を通じて拾い上げてきたからだ。


だけど課題もある。


一つめは、街に用意していた規模に見合うだけの働き手が、それでもまだ足りないこと。

二つめは、全てが稼働すれば、オーバースペックであるフォーレの規模では供給過多になってしまうこと。

三つめは、そもそもフォーレが抱える立地上の潜在的課題だ。


「「「お疲れ様ですっ!」」」


ここでも既に情報が回っていたのか、各工房の主要者たちが立ち並び、俺たちを待ち受けていた。


「うん……、皆の作業を止めてしまって申し訳ない。特に鍛冶は手を止めさせてしまうと申し訳ないからさ、その辺は気遣いなしでいいからね」


そう、特に鍛冶は一度作業に入ってしまうと、そうそう手を止めることはできないものだ。

なので逆に気が引けてしまった。


「なーに、弟子たちが優秀なので安心して任せておけますよ」


「ええ、それよりも重要なお願いもありますしね」


重要なことって何だ? 

逆に俺は手ぐすね引いた彼らに待ち受けられていたのか?


「もしかして……、資材の件かな?」


「「「「それですっ! 是非お願いしますっ」」」」


やはり俺の危惧は当たっていたようだった……。

彼らは一様に笑顔でそう答えてきた。


鍛冶屋も木工工房も、共に素材となる鉱物や木材が欠かせない。

だが今のフォーレではそれらが自給自足できていない課題があった。


木材については、全ての需要は満たせないにしろ周辺で伐採することも可能だが、十分な乾燥を経てからでないと使用できないし、そもそも周辺に素材となる木々は豊富にあっても、伐採して運び込むことに課題があった。


今のところ防壁の外側で活動できるのは俺とヴァーリーのような一部の限られた戦闘力の高い獣人だけ、それ以外の者にとってはまだ危険過ぎるからだ。


しかも俺の四畳半は、以前より広くなったとはいえ一定以上の長さのある木材を収容できないし、俺自身がその伐採に専念することもできない。


今や防壁の内側にあった資材用途の木々はあらかた伐採済で、それなりの量の材木を他の町からの輸入に頼っている。


鉱物については更に状況は切迫している。

そもそも近隣に鉱山があるかの調査はまだできていないし、この点については俺にも事前知識チートはなかった。


そのため都度、アスラール商会が輸送してくる粗鉄や一次加工された鉱物に頼っているのが現状だ。

だけど……、鉱物は重いし荷馬車での輸送も少しずつで時間が掛かる。


「フォーレで使用する武器や防具を生産するだけなら、今でもなんとかギリギリ間に合っています。

ですがせめて今の二割増しほど資材があると助かるのですが……」


鍛治工房の親方が話すと、それに木工工房の親方が続いた。


「我々もフォーレ近隣からも活躍可能な木材を調査しており、現地調達を模索しており成果も上がっています。

ですが……、今はまだ需要を満たしていません。

納入いただける材木の数をもう少し増やしていただけると助かります。それに……、納入されてもすぐには使えませんし、今から半年後、一年後を考えると不安になります」


「わかった。確実に……、とは言えないけど、今回はそういった声を聞くことも目的だからね。

なにかしらの手は打ちたいと思う」


そう言ってアリスとマリーを見つめると、二人は大きく頷いていた。



やっぱり……、ある程度落ち着いたら俺自身が各地に飛び、それぞれの産地とフォーレを繋ぐ必要もあるかな?

ノイスの開発も落ち着けば、それらを隠れ蓑にすることもできなくなるし……。

ちょっと商会長にも相談する必要があるか?


街を回って声を聞くこと、俺はこの重要性を改めて感じ始めていた。

そして……、まだ俺たちの巡回は続く。

余談ですが、この投稿で100投稿となりました。

ここまで至れたこと、改めて応援いただいた皆様には感謝いたします。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
100話投稿お疲れ様&おめでとうございます。これからも楽しみにしております!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ