「第90話」妖宴
週末の金曜日、美雪の実家は朝から大忙しだ。
最後の収穫となったイチゴを使い、3人でケーキを作る。
さよ「あっ!上に乗せる板チョコがない!買ってくるわ。」
彩菜の祖母「あなたは綺麗過ぎるから危ないわ。私が行くよ。」
長老「板チョコなら冷蔵庫に前に買ったやつあるぞ。」
さよ「そうなの?あっ。あるじゃない。あれ?長老。ストロベリーチョコもあるじゃない。」
長老「いや、それは酒のためのやつだから。。違うほうにしてくれないかな。。」
彩菜の祖母「まあ。また買えばいいから。」
さよ「両方使うわ。」
さよはストロベリーチョコをバラバラにして散りばめると板チョコを真ん中に刺した。
長老「完成じゃな。」
彩菜の祖母「夜まで冷蔵庫で冷やすのよ。」
さよ「分かりました。」
彩菜の祖母「ねえ。昼はインスタントラーメンでいいかい?」
さよ「嬉しい。おばあちゃんのラーメン美味しいから。ねえ。私、ごはん食べたら診察して、そのまま先生としゃぶしゃぶの肉買いに行くわ。」
3人で軽い昼食を食べると、長老と彩菜の祖母はしゃぶしゃぶ用の野菜を切る。
長老「なあ。久美子。さよはどうしたものかのう。。あのままだと人間と結婚してしまう。」
彩菜の祖母「女は一番愛される相手がいいと思う。歳の取り方は違うが。。幸せな道は自分で選ぶだろう。あの子は頭がいい。私達より考えているよ。」
長老「さよにとっては、もはや妖怪村では持て余すだろうな。あの子は両親もいない。火炎小僧くらいしか相手にしなかった。妖怪村で足が不自由なのは人間界より苦しい。」
彩菜の祖母「でもお酒の席では人気だったんだろう?」
長老「まあ。それはそうだが。。あそこでは、自分に負担になるやつは嫁にはいけない。女は選ぶほどいるからな。」
彩菜の祖母「自分で答え言ってるようなものね。人間に愛されて幸せになる。あなたの孫だって。」
長老「人間界の技術がなかったら、さよは足が治ることはなかった。」
彩菜の祖母「違うでしょう?人間界の技術と妖怪の妖力の両方でしょう?片方だけでは決して治らなかった。人間と結婚することは不幸とは限らない。見送るのは女の役割。それは人間の世界も同じよ。いいじゃない。いつまでも若くてかわいい奥さんなら幸せになれるわよ。」
長老「お前の家系は考え方が明るいよな。」
彩菜の祖母「それは。。たぶん。お母さんのせいだと思う。小学校の時に両親が事故で亡くなったから、世話したの。明るい家庭にする。辛い想いは消してやりたかった。」
長老「彩菜のお母さんは、さよに似た境遇じゃな。」
彩菜の祖母「まあ。私達すら経験のない辛い経験しているからね。」
長老「兄と妹がくっついた心境は?」
彩菜の祖母「あれは。。参ったわね。。裸で2人で寝てたのは。。絶句よ。けど、一番幸せな道だったと今は思う。おばあちゃんにまた会えたのも、そこからでしょう?不思議よね。まるで妖怪と人間の付き合いの範囲を決められているみたいな感じ。」
長老「さよも大人だ。私が心配することはないか。わしはさよに何もしていない。言う資格がない。」
彩菜の祖母「あら。さよさん、食べ物ない時におばあちゃんに何度も助けてもらったって言ってたわよ。」
長老「まあ。。不憫でな。。雪がいなくなってからは特にな。久美子と違って、引き取らなかったしな。。情けないな。」
彩菜の祖母「今の幸せに力になった。それでいいじゃない。そういえばごはん炊かないと。」
長老「それなんじゃが。。炊飯器だけでは足りない。あのちらし寿司というものを作ってみたいんだが。」
彩菜の祖母「材料ないわよ。今からじゃあ無理よ。息子の得意な炒飯なら出来るわ。玉子も余ってるからちょうどいい。」
長老「それがいいな。まず1回めいいっぱい炊くか。」
彩菜の祖母「炒飯用は固めにね。」
2人で大量の炒飯を作ると、ごはんの予約をセットした。
夕方に先生とさよが帰ってきた。
医師「なんと!炒飯まで。。まあ、炊飯器だけでは足りないかもな。長老。酒な。」
長老「これは。。またいい酒じゃな。」
医師「忙しかったから久しぶりの酒盛りだからな。」
さよ「何言ってるかな?1週間しか経ってないじゃない。ああ、長老。ストロベリーチョコ買ってきたわよ。」
彩菜の祖母「先生。足はどうでしたか?」
医師「もう大丈夫だな。治った。もう村に帰って良しだ。帰るとは思えないけどな。」
さよ「村長には報告しないといけないかな。。」
長老「わしが病状やこちらの生活は伝えておる。こちらに住むのも認めたよ。ただ、村人にこちらの話をするのは禁じられている。もちろん、言う気もないがな。」
医師「ウナギや酒を取られたら困るからな。」
さよ「先生。長老はそんな方では。。」
長老「その通りじゃ。あんなもの知られて、妖力使って暴れられたら騒ぎになるし、ウナギは本当はさよにも知られたくなかった。」
さよ「村で一番尊敬してたのに。。」
医師「いい肉仕入れるために遠くまで行ったが、さよさんはすごいな。外人に英語で話しかけられて、ペラペラだったよ。」
彩菜の祖母「へー。何を話したんだい?」
さよ「今まで見た中で一番美しいから結婚してくれないかって。一緒にニューヨークに行こうって。ニューヨークには憧れたけど。。男としては魅力なかったな。」
医師「そんな話だったの!。。なんかアピールしてるとは思ったけど。」
夜になり続々と集まる。美雪と彩菜は両親の車でやってきた。弁護士さんが到着して宴は始まった。
高い肉を使っただけあり、しゃぶしゃぶは大好評だった。炒飯は彩菜の祖母の味だと美味しさが一段上のようで、食材はキレイになくなった。
ゆったり過ごしながら、各自報告する。
美雪「私、ゴールデンウィークに彩菜のお父さんと死者の村に行ってくるわ。」
さよ「それなら、私も行く!彩菜のお母さん。一緒に行こうよ。」
彩菜の母「いいわよ。何か持っていかないとね。お酒かな。」
弁護士「一番無難でしょうな。」
大輝「えー。来週のゴールデンウィーク前に会社の売却が完了します。私は来週で退職です。ゴールデンウィーク明けには、温泉施設の建設の契約を結びます。再来年の4月オープンを目指します。」
彩菜の父「いよいよか。私は来年の末に退職するつもりです。3ヶ月は準備にあてますよ。」
佳代「ねえ、こちらの家はどうするの?誰が住むの?おばあちゃん1人はダメよ。」
彩菜の母「建てるのが1年早かったわね。」
彩菜「いいわよ。美雪と私で住もうか?」
美雪「みんなで交替で住めば?両方の畑やるから忙しいわよ。」
さよ「私も頑張らないと!でないと住む資格ないからね。」
弁護士「ああ。そういえば、さよさん。3月の給料。」
さよ「ありがとう。。えっ。30万円も。。」
弁護士「今年の確定申告は本当に楽したからな。人間なら50万円渡したけど、税金あるから30万円になった。あと。プレゼント。」
さよ「何?。。。うわー。スマホ。すごい。」
弁護士「私の仕事で必要な方ですから当たり前。自由に使っていいけど、仕事の電話もしますからね。」
美雪「ねえ、これ。最新の高いやつじゃない。税金分の金額じゃない?経費か。。」
弁護士「こうしたら税金分も還元出来ますからね。」
彩菜「寝る時に設定してあげるわ。」
さよ「あっ。そうだ!私達でケーキ作りました。食べましょう。」
彩菜の母「私が切るわ。。。あら、かなり美味しそうね。これは時間かけたねー。」
小皿に小分けされて皆でケーキを食べる。
大輝「何?。。クリスマスケーキより美味いじゃないか。。店より美味いなんて。。」
彩菜の父「うわっ。これはすごいね。」
佳代「ちょっと。ヤバいわよ。これ、店を始められるわよ。温泉施設に喫茶店作らないと。すごいわね。」
弁護士「なんか。。近くにいた、さよさんが遠い存在に。。」
さよ「ずっと近くにいるよ。」
さよは弁護士さんの腕につかまり、スマホのお礼で胸を押し当てる。
弁護士「うわ。なんか。。胸がデカくなったんじゃないかな。。」
さよ「先生にも言われたよ。私のおっぱい。いい?」
美雪「ちょっと。いろんな人に胸くっつけたらダメよ。」
さよ「2人だけは特別よ。身体治してくれて、勉強教えてくれたから。誰にでもする訳じゃないわ。」
突然、背後から彩菜がさよの胸を揉む。
さよ「ち、ちょっと。」
彩菜「男に触らせて、女だと驚くかな?ねえ、お母さん。これ。。ブラつけないとマズいんじゃないかな?」
彩菜の母「どれ?。。。あら、想像以上に育ったわね。さよさん。ブラつけないと形崩れるわよ。」
さよ「えっ。窮屈だし。。パンツだって最近履くようになったけど違和感まだあるから。。」
彩菜の父「えっ。おんぶした時って。。パンツ無し。。めくれてたよね。僕、直接。。」
さよ「は、はい。あの。。恥ずかしくて言えなかった。けど、悪意じゃないから大丈夫です。」
彩菜の母「あなた!大事なところ触ったってこと?」
彩菜の父「まあ。。結果的には。今知ったけどね。」
佳代「なんか、ナチュラルに魔性の女になっていくわね。」
先生「そういえば。さよさんな。今日、街で外人に結婚申し込まれてたよ。」
美雪「えっ。何かスケール違うなー。」
彩菜「英語で話したの?」
さよ「そうよ。断ったわ。全く愛を感じなかったの。身体が目的の人は分かるようになったわ。目が違うの。ねえ、そろそろ飲みましょうか!」
彩菜「ダメ!みんなまず、お風呂。」
全員入浴した後、久しぶりの宴が開始され、さよをつまみに大いに盛り上がったようだ。




