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妖女 美雪  作者: ぴい
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「第8話」秋月

 秋の気配が近づき、ずいぶん涼しくなった。


 夜になると満月が顔を出した。純一はウイスキーを手に持ち、満月を見つめる。


純一「月がきれいだな。」


雪「本当に。」


 純一に頭をもたげながら、雪は思う。妖怪村にいた頃は何も感じなかったのに。。

 こちらに来てから、気持ちに自然に生きられる。私は何故、妖怪より人間の世界のほうが気持ちが安らぐのだろう。


純一「雪。1個お願い。」


雪「はい。どうぞ。」


 雪はグラスの中に、作った氷を落とす。


純一「甘い味になったな。。美味しいな。」



 雪は思った。ああ、純一の身体に私が入っていく。。幸せ。


純一「昔、会社で働いていた頃は、毎日毎日夜中まで働かされて。月がきれいなんて思わなかった。あの頃は本当に辛かった。辞めて良かった。最初にこの村に来た時は生きていけるか不安だったんだ。たまたまネットで野菜を販売したら人気になって、何とか生活出来るようになった。今は雪のおかげで、稼ぎもかなり増えた。」


雪「何故、山に来たの?」


純一「新しく栽培できる物がないか探しに行ったんだ。薬草とかを探してたんだ。夢中になりすぎて道を外れてしまった。夕暮れが近づき、戻ろうとしたら、全く分からない。何日も歩いて力尽きた。」


雪「あの時は驚いたわ。人間が普通に歩いて来れる場所じゃないの。あそこまで村に近づいた人間は純一が初めてだと思う。」


純一「妖怪は人間と接したことはないの?」


雪「お婆様に聞いたけど、遥か昔はあったみたい。火をつけたり、氷も貴重だったらしい。人間は妖怪を利用した。平等じゃなかった。だから、妖怪は人間を憎んでいた。」


純一「人間は情けない生き物だからな。。」


雪「純一は違ったわ。それに私は、倒れている純一を放置出来なかった。不思議な気持ちが。。今は分かる。愛してしまったからよ。」


純一「意識が戻った時は、死んだのかと思ったよ。良くは見えてなかったけど、目の前にこんなに美しい女性が膝枕してたんだ。しかし、今の世の中では妖怪の妖力は人間には重要じゃないだろうな。。でも悪い奴はいるからな。。利用されるかも知れないな。人間と関わらないのが幸せかも知れないね。」


雪「でも、私は妖怪村にいた時より幸せよ。」


純一「それは、愛があるからだよ。雪が愛して助けてくれた。僕も雪を愛した。人間は愛があれば幸せになれる。でも悲しい世の中だ。憎しみや欲が支配している。そういう世界が嫌だから村に来たんだ。」


雪「私は愛を知らなかった。純一が教えてくれた。知ることなく消えていくはずだったの。だから。。」


純一「泣いてるのか。。雪。涙は悲しいから出るんじゃない。幸せでも出る。雪がそれを知ることが出来たなら、僕も役に立ったということだな。」


雪「純一。愛してる。」



 純一は雪の頭を撫でながら月を眺める。こんな幸せが来るなんて不思議だな。


純一「雪。野菜の収穫が終わったら、冬の準備だ。街に買い出しに行こうか。」


雪「怖いな。」


純一「大丈夫だよ。僕が守るよ。いつもそばにいるから。」


雪「うん。」


※※※


 長老は考えていた。雪がいなくなって10年近い。あの時以来人間が近づいた形跡はない。

 じゃが、いつやって来るか分からない。地下の村を完成させないと。それが終わったら、わしは長老の役目は終わりにしたい。まだ50年かかりそうじゃ。大変な仕事だ。妖怪は協力するということを知らなさすぎる。困ったものだ。

 じゃが、長年悩んで作られた距離感じゃ。一番いいのかも知れないな。



 雪。。。元気でやっているのかのう。。


 おばあちゃんは、今となっては妖怪村で唯一思いやりの心が分かる妖怪だった。雪が心配になり、幾度となく、死者の世界を訪れていた。

 そこに雪はいなかった。生きていることは把握出来たが、両親に雪がいなくなったことを伝えることは出来なかった。


 今となっては、おばあちゃんしか知らないことだが、雪の母は人間と結婚した初めての妖怪だった。

 しかし、妖怪村最強の妖力を持っていたのだ。未来の妖怪村を作るために必要不可欠な存在だったため、極秘に許可したのだった。父は母に妖力を与えられたため気づかれることはなかった。


 雪を授かった時はたいそう驚いた。妖怪と人間の間に子供を授かることはあり得ないことだった。父に妖力を与えたことが作用したとおばあちゃんは思った。


 おばあちゃんは村の支配するほどのカリスマと知識があったが、強い愛があったから子供を授かったということは知ることが出来なかったのだ。



長老「あの子が救った。いや、あの2人がじゃ。あれがなかったら妖怪村は滅んでいた。生きる妖怪がいなくなると死者との調和する崩れ、死者の世界も消滅してしまう。。何としても村を守らなければ。。」


 雪。。幸せならいいんじゃ。親にどうやって報告したら良いのじゃ。


 どこで何をしている。雪。。満月を見ながら、雪を考えると長老の目から涙が。。


長老「涙。。不思議な感じじゃな!。。まだまだ学ぶことがあるのじゃな。。雪は妖力は弱かったが、他の者にはないものがあった。今の妖怪村では価値のないものじゃが、わしには価値あるものだった。雪。。」


 明日も地下の村のことに努めなければならない。


 長老は雪を心の中にしまい。眠るのだった。


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