「第4話」騒ぎ
雪が突然行方不明になり、妖怪村は騒ぎとなった。
長老は、行方不明になった午後、1人で空を飛びながら、かすかに残る妖力を頼りに雪の痕跡をたどる。
川にいたようじゃな。。ん?これは。。。な、なんと!人間がここに。。こんな奥地にか。。いよいよ警戒せねばならんな。計画も急がねば。。ん?雪は一緒に歩いたようじゃな。。あの子は。。あの子は、人間を助けたということか!雪。。お前はあまりにも優し過ぎる。。どうやら真っ直ぐに降りているな。この感じなら昨日の夜中じゃな。真っ暗だから、恐らく村はバレていないはずじゃ。。そこはしっかりしているな。
どうやら山の駐車場に来たようだ。だが、そこで雪の痕跡は消えていた。
長老「雪。。。お前は、他の者とはと違うから、人間界でも生きられるかも知れない。。じゃがな。お前さんは、歳をとるのが人間とは違って遅いのじゃ。経験したわしには分かる。お前には。。つらいぞ。とはいえ、このまま妖怪村にいても幸せになれたかどうか。。雪が妖怪村の場所を言うことはないだろう。獣に襲われ死んでいたと村の者には伝えよう。雪。。幸せになるんじゃぞ。母さんみたいにはなるな。だが、今も村があるのは、雪の両親のおかげだ。わしは、何も言わない。お前の幸せのためじゃ。」
長老は村で、雪が獣にくわれて死んだようだと伝えた。みなが、あの子の弱さでは仕方ないと納得した。
妖怪にとっては、死というものはたいした意味はなかった。数日で皆、雪を忘れ、普通に戻っていった。
それは真実を知る長老を除いてだが。
※※※
雪は人間界での生活が始まった。愛されることを初めて知り、純一と幸せな生活をしている。
雪は純一を愛した。雪にとって、初めての幸せだった。
純一は雪の育った山が、かすかに見える場所で1人暮らしをしていた。比較的早く両親を無くし、都会生活に区切りをつけて、田舎で農業を営んでいた。
昨今の健康思考で、ニーズが高まり、ネット直販で十分な生活が出来るようになっていた。
雪も加わって一緒に農作業をやり、雪の考えた健康食品も売り出した結果、2人は経済的に相当豊かになっていった。雪は頭が良く、センスは際立っていた。
雪は、テレビや電子レンジなど見たことも聞いたこともなかったものも使えるようになり、スマホもすっかり使えるようになった。
雪の学習能力は高く、1年も経つ頃には文字はもちろんのこと、普通の人間として違和感がないレベルになった。
純一は知り合いの弁護士に相談したが、戸籍を作るのは容易ではないことが分かった。国の補助などは一切受けられないが、雪がこの先も何百年も生きることを考えると、弁護士は社会的には存在していないことにすることが得策と判断した。
幸い、隣の弁護士と医者は、村で出会った都会を離脱した仲間だった。2人は専門分野については、かなりの技量を持っていたため、かなり裕福だった。
2人は純一の人柄に惚れ込んでいた。
2人だけには真実を打ち明けたが、仲間の結束は強く、雪のことは秘密にすることが出来た。
純一「雪。友人に相談したが、今から人間として国に登録すると厄介なことになる。だから、それは避けることにした。医者にかかると高いけど、今の収入なら何とかなるさ。お金がかかっても死ぬよりはマシだ。一緒に幸せになろう。」
雪「うん。あのね。。純一、妖怪って死との境界線があまり重要じゃないの。死んだら、こちらには来てはいけない掟があるの。だけど、向こうに行くのは許可をもらえばいけないことはない。けっこう簡単に行けるから両親には会えるんだけど。。まあ、死んだら会えるから行ったことはないの。だだね。。あなたは、私と身体が繋がってしまった。だから、あなたもそこに行くことは出来る。でも、来てしまったら。。それは人間界の死んだ人と会えなくなる可能性があるということになるかも知れないのよ。それは私にも分からない。」
純一「そうなんだ!僕は雪と永遠に過ごせるなら、迷わず妖怪の死後の世界を選ぶよ。最愛の人だから。」
雪「純一。愛してる。」
雪は、持ち前の優しさのおかげで近所の人ともすっかり仲良くなり、更に幸せになっていった。
友人の医師からは難しいだろうと言われたが、雪は出会って5年目に純一との子を身籠り、女の子を出産した。純一と相談し『美雪』と名付け、2人は愛情を注ぐのだった。