「第128話」訪村
長老は先生と妖怪村の自宅に帰ってきた。すぐさま家庭を回る。
以前から問題を抱えていた妖怪を中心に治療をした。今回は治癒妖力のスペシャリストがいなかったが、長老は治癒妖力を研究し、ある程度の技量を持ったため診察では困ることはなかった。
村の集会所に役員たちに呼ばれ、おもてなしを受ける。時々新たな患者の治療をしながら宴会に変わっていった。
ほろ酔い気分で長老の家に戻る。
長老「なあ。先生。ずっとくっついていた妖怪どうじゃ。」
医師「綺麗だったな。妖怪村ではゲストに女の方を付ける決まりなのか?さよはそういう役割か。。そういえば、あの方は温泉では見ない方だったな。」
長老「あのな。妖怪村にゲストなど来ない。キャバクラのシステムなどないんじゃ。彼女は旦那を亡くして長く塞ぎ込んでたんじゃ。」
医師「長老は結構横文字使えるんだな。しかし、何年もか。。それは辛かっただろうな。でも、元気になったみたいじゃないか。」
長老「違うぞ!あんなに落ち込み生きる気力も無くしていた女があんな風に。。あれは、あんたに惚れたからに決まっているじゃろ。考えてやってるくれんか。」
医師「いや、俺60歳だぞ?」
長老「彼女は397歳。年上だ。」
医師「言葉の操だ。39歳ってことじゃないか。」
長老「言ったが女は余っている。あの年齢では相手を見つけるのは苦しい。もう子供は温泉で働いている。考えてやってくれんか?」
医師「この歳でそんなことは予想してなかった。たまに妖怪村に来る通い妻?いくらなんでも失礼だろう。」
長老「彼女は手が妖怪ではずば抜けて器用じゃ。あと他にも。。だから、先生の助手にしたら良かろう。」
医師「しかし。。まあ、考えてみるが。。。また、先に死ぬのを見送る確率が高いぞ。彼女が幸せになるなら。。まあ、考えるよ。嫌いじゃない。けど、いいのかな?」
長老「いいだろう。2人も幸せな者が増えるんだ。なあ、弁護士さんは誰がいいかのう。」
医師「長老。女を紹介するのが目的だったの?」
長老「いや、そうではない。さっきの彼女のあの積極的な姿は十年も見なかった。あそこまでさせて責任取らないのは男じゃない。」
医師「むちゃくちゃな理屈だなー。悪い気はしないけどな。弁護士さんは選ぶのではなく、呼んでぐいぐい来る妖怪でいいんじゃないかな?人間みたいにお金目的で近づく者はいなさそうだし。ただ、人間界に来るならば、良識がないとマズい。彼女もそうなった場合は妖怪エリア外に出ることになる。」
長老「そういう面は彼女は心配ない。考えてみてくれ。そうじゃ!美雪に500歳くらい若くしてもらって弁護士さん狙うか!いや、わしは真面目じゃ。じいさん一筋じゃからな。」
医師「そんなことしたら死者の村にどんな顔して行く。。いや。待てよ。彼女の旦那さんにはどうしたらいいんだ。」
長老「それは心配ない。幸せなら許すさ。妖怪はそういうのはあっさりしてる。」
医師「さよさんは嫉妬深いぞ?」
長老「あれは驚いたよ。不自由な生活のせいなのか。。妖怪には珍しいんじゃぞ。」
医師「しかし、ずいぶん穏やかな村になったものだなあまりの変わりように驚いた。」
長老「皆さんが何百年の問題を解決してくれたからだ。美雪は偉大じゃ。彩菜も久美子もな。」
医師「きっかけは雪さんだ。弱くて幸せに生きられなかったとはいえ幸せになったし人間の世界へ適応した。微妙だが掟が間違っていたんだよ。死者の村の掟とは意味合いが違う。」
長老「そうじゃろうな。今更世の中に妖怪の存在を知らしめることは出来ないが、上手く付き合う場所が与えられた今は変わってもいいのかもしれないな。。そういえばな。雪は人間界に行く頃には妖力は弱くはなかったのじゃ。かなり力をつけていたんじゃよ。わしが、争いに巻き込まれないように隠させた。美雪のような圧倒的な力はないが、普通の妖怪よりは力をつけていたんだよ。だが、人間界に行ったのは正確じゃ。でなければウナギと出会うことはなかった。」
医師「全く。。何で最後に台無しな言葉を吐くかな?」
長老「本当のことじゃろう。」
医師「あなたの食へのこだわりは妖怪一なのは分かったよ。」
長老「褒められた気分じゃわい。」
医師「長老。残念ながら褒めてはいない。」
長老「なかなか楽しかったな。妖怪村がこんなになるとはな。。寝るか。」
医師「そうだな。」
翌朝、彼女が訪ねてくる。
長老「おはよう。熱心じゃな。そんなに気にいったか。」
医師「病院で働いてみるか?」
女「でも。掟が。。」
長老「そんなものは許可取るさ。お前の気持ちじゃよ。」
女「はい。是非。」
長老「今日は帰るから無理じゃが。また後日相談だが良いか。」
女「はい。」
医師「じゃあ。朝食一緒に食べるか。」
長老「すまんのう。」
女「えっ!男に作らせるなんて。。私が。」
長老「あの方の味に勝てるかな?」
医師「お待たせ。雑煮だ。あとベーコン入り玉子焼き。」
長老「組み合わせ変じゃな。まあいいか。いただきます。ほら、食べな。」
女「凄い!。。」
医師「言うほどじゃないんだが。玉子は家のニワトリの産みたてだから、間違いなく美味いがな。」
長老「雑煮美味いな。かなりの味だ。彩菜のお母さんに負けないんじゃないか?」
医師「雑煮は誰が作っても同じだろう。」
女「白いのは何?」
長老「米を潰して固めた餅というやつだ。妖怪村では栄養あり過ぎだな。勝てないだろ。精進して先生を追い越すことだ。」
女「はい!」
長老「実は、彼女のもう1つの理由がな。治癒妖力を持っているからじゃ。彩菜より力は弱いが治癒妖力の使い手は妖怪村では2人だけじゃ。塞ぎ込んでいたからやってなかったがな。けど役には立つさ。佳代さんは温泉忙しくて手伝い出来なかったしな。温泉のせいで患者も増えたようだし。手薄な病院には力になると思うぞ。」
女「私はすごく妖力が弱いから、長老みたいには出来ないのですが。」
医師「それは大丈夫だ。サプリで溢れさせたらいい。」
長老「あのな。勉強して知ったが治癒妖力というのは、ものすごく妖力使うんだ。わしでもサプリ使わないと空になるからな。彩菜のは特別じゃな。どうも本当に愛情入りのような気がする。わしが出すのとは違う。謎じゃな。ちょっと村長のところに行ってくるよ。あとは若い2人でな。」
女は必死でアピールする。あまりの健気さが信じられないが、さすがに悪い気はしない医師は村の許可と死者の村で亡くなった旦那さんの許可を得ることを条件に付き合いを始めることを了解する提案をした。
長老が戻る。
長老「ほう。村長は許可出たぞ。むしろ喜んでいた。死者の村か。明日行くか。先生はどうする。」
医師「私は、付き合うことになったら改めて伺うよ。まずは人間界の勉強と看護師の勉強。それからだしな。料理は女とか考えるのはやめよう。」
長老「そういえば、お金払って食べる店は、圧倒的に男じゃな。今日は夕方まで診察じゃ。一旦帰るが、明日また来るから昼前に死者の村に行こう。」
女「はい。ありがとうございます。あの。診察のお手伝いさせて下さい。」
医師「そういえば確かに料理屋は男だな。。それは働く場所が男社会だからじゃないかな?そろそろ診察始めるか。」
医師は手先の器用さと、学習能力に驚いた。人間界の病院では基本的に使わないが治癒妖力もサプリを使えば満足出来るレベルだった。かなり予定より早く診察が終わり、少しの時間だけ村でデートする2人を眺める長老は幸せそうだった。