「第121話」離職
日曜に温泉の仕事を見学した武。凄まじい効率化と行き届いたサービスに驚いた。
これは会社組織として考えたらとんでもないレベルだ。働くみなも満足している。すごいな。。プロ集団だ。
武「さよさんは、何を担当していらっしゃいますか?」
さよ「私は経理とかお金に絡むものね。あとは空いた時間はいろんなところを手伝うの。妖怪は力持ちだからね。武さんは何の仕事してたの?」
武「人事と総務ですね。悩み相談とかばかりで心が病んでしまったんです。」
さよ「あら。その分野の専門はいないから、いいかもしれないわ。」
武「いや〜。私が出なくても、既に会社としてはかなり立派ですよ。アンラーンとかOne On Oneとかファシリテーションとか。。いろいろテクニックはあるけど、ここは自然にやれているんだ。」
さよ「彩菜のお父さんが大企業の役員だったし。。元は技術者でプログラムは一流らしい。経営も。物理学は得意らしいわ。美雪のお父さんは社長だったから、人を束ねるのと能力を引き出すのは優秀だと思う。電気や建築は得意分野だから、2人が揃うと何でも作れる。美雪も彩菜も優秀さは更にその上だよ。」
武「僕は何が役に立つのかな。。」
さよ「あら。。長老。何をしてるの?」
長老「人手不足だから、土産屋の応援じゃ。最近、よく売れるな。夕方は宿泊客が酒いっぱい買うよ。いい酒揃ってるからな。」
さよ「飲んだらダメよ。」
長老「バカモノ。帰りに買う時はあるが、そんなことはしない。」
美雪と彩菜がお店を開いている。
さよ「あれ?ちょっと何をしてるの!」
彩菜「役場に借りたの。お好み焼き、たこ焼き。かき氷。ジュースとか。土日はむちゃくちゃ売れるわ。」
美雪「忙し過ぎる〜。けどむちゃくちゃ儲かるわ。村も機器のレンタル料で大喜び。目指せ50万円よ。」
さよ「売り上げ?」
美雪「利益に決まってるじゃない。お好み焼きとたこ焼きが利幅デカい。」
武「焼きそばは?一番儲かるって聞いたけど。」
彩菜「そうね!麺安いし。確かに!来週始めようか。」
美雪「そうね。ちょっと妖怪に手伝ってもらわないとマズいな。」
さよ「武さん。私達手伝う?」
武「はい。是非。」
美雪「それなら交代で昼食食べてくるわ。午後3時には閉めるから、あと3時間ね。彩菜。先に休憩してくるわ。」
彩菜「あのね、おばあちゃんのカレーがあるはず。私の家に行って。」
美雪「分かった。1時間で戻るから。」
武は教わりながらお客さんの相手をする。こんなに楽しい労働は初めてだ。
3時まで手伝うと、美雪は既に妖怪達と会話しながら妖怪の仕事を手伝って回っている。
美雪さん。労働者のケアまで。。すごいな。
美雪「あら。火炎小僧。ずいぶん立派になったわね。」
火炎小僧「はい、社長。ありがとうございます。みんなで成し遂げるというのは初めてだから戸惑いましたが、ようやく自分の役割が分かってきました。社長。。あのー。みんながスマホ欲しいらしくて。買い物とかに。。」
美雪「村には持っていけないわよ。電波が届かないから使えないし。。そうね、こちらで使うなら。。利益も順調だからボーナスで考えるか。。役員会で話し合うわ。でも許可出るか分からないからまだ内緒ね。」
武「美雪さん。スマホは会社で買えば安く契約出来ますよ。」
美雪「いや、問題は妖怪は戸籍ないからね。会社の携帯で渡すことになるけど。。各個人のお金を入れたり出来るかな?」
武「電子マネーなら、電話番号あれば各個人の区別可能です。」
美雪「詳しいですね。」
さよ「あのね、武さんは総務、人事のプロなんだって。」
美雪「それは力強いわね。6時に調理終わったら、夜までは火炎小僧が温泉責任者だからみんな帰るわ。今は夜は妖怪に任せてる。前は交代で私達が1人泊まってたけど、雄太と亮太が対応してくれるようになったから助かりました。」
夜、雄太と亮太以外が美雪の家に集まった。
弁護士「おかえりー。社長、お店はどうでした?」
美雪「大成功じゃないかな?えー。。45万円の利益かな?目標の50万円には届かなかった。」
彩菜「武さんがね、焼きそば利幅デカいって。簡単だし、来週から始めるわ。」
医師「1日でそんなに利益出たら十分だろう。医者より儲かってるぞ。」
佳代「みんな食べるわよ。美雪、後で雄太さんと亮太さんに持って行ってね。」
彩菜「いただきます。」
美雪「ちょっと弁護士さん。社長はやめようよ。しかし、お店が儲かるのは土日だけよ。平日はやらないほうがいいわ。」
大輝「お前達がやらないと代わりはいないし、学校があるからな。それにルックスにつられてるから、他の人では売り上げ落ちるよ。」
武「電子マネーも入れたほうがいいと思います。やがては現金使わなくなる可能性もあります。今、その境目にきています。」
彩菜の父「旅館はクレジットカードだけ導入しているが、セキュリティーと手数料がな。上乗せ出来ないからな。。」
武「確かにそうですが。前に計算したら、完全にキャッシュレスになった場合は、経理とかの手間が無くなり人件費分は浮くのです。ここの場合は経費面より、人手のかかる作業の削減の効果のほうがメリットありますね。」
さよ「人事と総務のプロらしいから。」
弁護士「うちの弱い部分だから、いいかもしれないな。」
美雪「そういえばさー。妖怪がスマホ欲しがってるって。武さんが電子マネーなら個人のお金を入れられるって。」
弁護士「なるほど。確かに買い物しやすいな。毎月給料日にさよが注文まとめて大変だったからな。」
彩菜の父「セキュリティーの甘さを利用するのか。電話番号だけあれば何とかなるしな。」
さよ「第一四半期はみんなの給料払ってギリギリだったけど、夏休みからは黒字額がすごいわよ。夏休み終わると下がるかもしれないけど、従業員用携帯なら経費で落ちる。」
彩菜の母「個別に連絡出来るし、いいかも。」
さよ「妖怪に現金で渡しても手間だったし、銀行口座も作れないからね。電子マネーで給料振り込むのはいいわね。」
弁護士「月末に現金数えるの大変だったからな。さよは更に注文で大変だったよな。」
武「労働管理はどのように?」
美雪「一応タイムカード。けど、妖怪ってサボらないの。遅刻とか子どもが病気で早退とかは大目に見て減給はしてない。」
彩菜「それは美雪が社長だからよ。毎日みんなに声かけて。みんな尊敬してるから。」
彩菜の祖母「妖怪村では美雪は絶対的な頭だよ。村長だって尊敬してるくらいだから。長老のひ孫だしね。」
長老「まあ、美雪に逆らうと火炎小僧みたいになるからな。」
武「どうなるのですか?」
長老「彩菜がいなかったら既に2回死んでるな。」
武「そうなんですか!」
長老「美雪に勝てる妖怪はいないんじゃ。」
さよ「前ね、最悪の妖怪が暴れたの。誰も勝てない相手。美雪さんが村に来て。あっという間に倒した。あれ見たら。。絶対服従よね。」
長老「そういえば。さよ。これ見せたのか?」
さよ「いや、いや!やめて〜。」
武「長老。これ持ってますよ。写真集なんて買わないんですけど、彼女のあまりの魅力に思わず買いましたから。最高ですよね。」
佳代「あら。本気なの?」
彩菜の母「ねえ、大丈夫かしら?」
武「えっ。。なんかいけないこと言いました?」
医師「お前。。本気なのか?」
武「全く分からないです。教えて頂けませんか!」
長老「んー。。さよ。伸びてきたから、わしが切ろうか?」
さよ「えっ?そうね。まあ、暑いからいいけど。」
美雪「じゃあ。私が吸い込むわ。おばあちゃん。いいよ。」
美雪から習った黒の妖力を駆使して、美容院並のカットをする。
彩菜「上手い!美容院行かなくていいじゃない。パーマは?」
長老「出来るわけないだろう。」
武「えーっ。。。えーっ。。。えっ。えっ。僕の憧れの人。。」
彩菜の父「まさか、前から知ってて気づかないとはな。」
医師「布が無くなるとさらにすごいからな。酔うと見れるぞ。」
さよ「もー。。恥ずかしいよ。あっ!武さん。次のぺージは見ないで!」
武「見なくても頭に入ってます。いや〜。ウソみたい。」
美雪「はい。今がタイミングだわ。。例外にならないのは、あなたがさよさんと結婚するしかない。どうする?」
武「どうって。。断るほどバカじゃないです。」
さよ「あの、私はもう少し武さんを知ってから決めたい。」
彩菜「そこら中に手出すわりに慎重ね。」
佳代「言い方悪いわね。武さん。彼女焼きもちやきだから大変よ〜。」
武「会社辞めます。ここで役に立てるように努力します。ただブラック企業で辞めるのが。。」
弁護士「ブラックなら任せな。明日、私がやるよ。あの会社なら弱味握ってるからな。」
医師「弁護士としては超一流だからな。今は表向きやらないがな。」
弁護士「医学界の重鎮が良く言うなー。わしらは都会生活に嫌気さしてリタイアして田舎暮らしだからな。」
武「よろしくお願いします。明日から全力で働きます。」
弁護士「先生。しばらくの間、先生の家に住ませてやってくれないか?」
医師「ああ、いいぞ。畑でもこき使うからな。」
武「よろしくお願いします。」
佳代「じゃあ、派手にやりますか!」
長老「ああ、温泉のやつ買ってきたぞ。」
弁護士「これは高いの買ってきたな。」
佳代「武さん。派手に飲むのは日曜だけだからね。月曜だけ昼から営業。午前は休みで全力で掃除なの。最近はほとんど妖怪がやってくれる。」
武には楽しい宴会だった。ずいぶん慎重なさよのわりに、知らないうちに武にくっついていた。