「第119話」兄貴
美雪と雄太が付き合い始め、1週間が経った。
その間に、雄太と亮太は温泉の仕事を学んだ。
亮太は、彩菜の父と料理を担当した。ここ最近の宿泊客の増加で、人手が足りなくなっていた。亮太は面倒見が良く、妖怪達に料理を教え、全体の底上げに活躍している。
一方の雄太は体力自慢の男。布団の準備や掃除で高い能力を発揮した。
大輝「これは、かなりの拾い物だな。強力な戦力になる。」
布団を1階に落とせば、怪力の妖怪がいる。どうしても客室に入るとなると、見た目の問題で入れる妖怪は制限され、力のある者が不足していた。
美雪は宿直室2つを2人に提供することにして、夜の食事が一段落すると電車で亮太達のアパートに向かった。
彩菜の父とテレビ電話で確認しながら、荷物全てを異空間で囲むと、一気に瞬間移動させた。
雄太「うわっ!消えた。。」
彩菜の父「おお、大丈夫だ。全てきれいに部屋に入った。こっちに来たら、2部屋に荷物を分けなさい。」
美雪「はーい。もう終電ないから一気に移動するよ。乗って。いくよ!」
亮太「うわーーっ。」
雄太「すげー!」
ひとっ飛びで美雪の自宅に着いた。
亮太「むちゃくちゃ速かった。。すごいな。」
美雪「部屋に移動した荷物の片付けをして、今日からあちらに寝泊まりして。いつまでも病院は迷惑かけるから。」
雄太「ありがとう。なかなか楽しかったよ。明日学校行く時に声かけるよ。」
美雪「う、うん。。おやすみ。」
2人の荷物を別の部屋に分け、どうにか片付けは日付けが変わる前に終わった。
亮太「なあ、兄さん。あの2人。畑だけでも十分生活出来る利益を出してるみたいだよ。」
雄太「ああ聞いたよ。中学から本格的にやってるらしいな。元々は畑で生きてくつもりで農学部目指したけど、温泉掘り当てたから今こうなったらしいな。彩菜さんの一家が会社辞めて、こちらで生活出来る利益が出るかが微妙だったらしいよ。」
亮太「お父さんに聞いたけど、有名な上場している大企業の役員だったらしいんだ。社長の打診を辞退して、田舎暮らし選んだんだって。でも温泉なくても畑で生活する覚悟なんだってさ。温泉の給料は、経営難の時に返すために全て蓄えてあるそうだ。」
雄太「あそこにいる人達はお金の執着ないな。自然と共存することが最も大事みたいだ。俺達の考え方も変わらないと、ふさわしい人間にはなれない。」
亮太「ずっと貧乏だったからな。けど、あれはあれで良かった。最低限は欲しいけど。。金持ちになる野心はないな。みんなで幸せ目指すなんて、俺達には夢のような話だよ。」
雄太「大切な仲間と一緒に生きるっていいな。あの力があるから出来るんだな。あれは、誰にも言えなくて当たり前だよ。」
亮太「お父さんに言われた。世界トップの研究者すら知らない技術や理論の証明が出来たそうだ。量子コンピューターより上の技術すら美雪さんは作ったって。」
雄太「東京大学に入る必要が無いのは当然だな。しかし、空飛ぶスピード速かったな。新幹線より速いだろう。」
亮太「夜だからいいけど、昼だと怖いだろうな。男として、女に食わせてもらうわけにはいかない。幸せにすると決めたからには、温泉も畑も貢献しないとな。」
雄太「その通りだ。もう4年の就職活動は不要だな。まず温泉で働きを認めてもらわないとな。部活も3年で実質引退だし、いいタイミングだった。あとは兄さんだな。世話になったお返しがしたいな。」
亮太「大丈夫さ。あんな童顔でナイスボディーで頭いいんだぞ。イチコロじゃないかな。」
雄太「確かに。。街で声かけられたら、ついていくだろうな。でも、みんな綺麗だ。。まあ、僕は美雪がいたら文句ないな。」
翌日から4人で大学に通うようになった。帰ると亮太と雄太は温泉の勉強をした。
土曜日になり、2人は駅に兄を迎えに来て待つ。
ようやく到着した兄。久しぶりに見た兄はずいぶん痩せて疲労が隠せない。
雄太「おいおい。。兄さん。とても大丈夫には見えない。もう無理はダメだ。」
亮太「そこまで頑張る必要はないでしょう。僕達は経済的負担をかけていない。」
兄「ダメだとは分かってるんだが、ズルズルと。。正直、もう限界なんだ。」
美雪の家を訪ねると、彩菜と美雪の両親は温泉業務で不在だが、他の仲間は全員集合していた。
医師「おお、来たか。」
兄「はあ。。はじめまして。」
医師「おや?。。ずいぶん弱ってるな。」
兄「はい。。仕事がキツくてもう限界でして。」
美雪「彩菜!」
彩菜「いや。。で、でも。。まだ今は。。」
美雪「兄弟なんだから!どうせ、もう引くことは許されないんだからいいわよ。こんなの放置出来ない!お兄さん。話す前に治す。もう引くことは出来ない。覚悟はいい?」
兄「もう今の仕事を続けるのは無理だから。私は、これに賭けます。弟達に仕事内容はだいたい聞きました。自然に囲まれて働けるなら理想です。ここで頑張る覚悟はしています。ここなら、あんな思いもしないはず。」
弁護士「俺達と同じだな。都会生活に嫌気がさして来たんだよ。心配するな気持ちは分かる。」
彩菜「じゃあ。。美雪、お願い!」
美雪「入れるわよ。」
医師「ん?待て。美雪、これは。。ちょっとじゃ済まないぞ。サプリだ。」
美雪「そうね。ああ、ありがとう。」
サプリは、どんどん無くなる。とても足りない。
美雪「全然ダメね。みんな消える。。こんなの初めて。苦しかったでしょう?ああ、そうだ!おばあちゃん。この間のお母さん達を囲んだやつ持ってきて。」
長老「分かった。」
妖怪村の10倍の妖力を使うと、使い切る前にようやく入らなくなった。
美雪「はあ。。治ったはず。。」
亮太「兄さん。大丈夫か!」
兄「何故だ。何故、身体も心も軽くなったんだ?何か入ってきたが。。」
医師「ほう。。非常に興味深いな。メンタルも治るのか。」
弁護士「メンタルはよほどじゃないと治してはいけないと思うぞ。自身が反省して成長するのには必要な要素だ。だが、今の彼は治さないとマズかっただろうな。」
兄は、いつ自殺してもおかしくないような気力が全くない状態から、ギリギリ脱したようだ。