「第117話」絶望
美雪達も大学2年になった。
ほぼ同時に温泉も開業し、最初は日帰り客が多かったが夏休みあたりから宿泊も次第に増えていった。
そんな夏休みの終わったある日、大学で彩菜は亮太と腕を組みながら話をする。
彩菜「亮太。美雪、絶対に雄太さんのこと好きよ。何とかならないかな?」
亮太「恋人の頼みなら、何とかしないとな。」
彩菜「私の家とか遊びに来たいなら、美雪と雄太をくっつけるの。それが条件よ。」
亮太「それは難しい条件だな。。だけど兄さんも美雪さんが好きなはずさ。聞いてみるか。」
美雪「あ。。。彩菜。。雄太さんと。。そう。。。良かったね。」
美雪は涙をこぼしながら、背を向けて去っていく。
彩菜「美雪、違うの!。。美雪ーっ!。。あっ!」
亮太「えっ?消えた。。消えたよな。」
彩菜「あーっ。もーーー。。。どうしよう、どうしよう。。んー、仕方ない。亮太、私と結婚する覚悟は?」
亮太「結婚!。。そうだな。。まだ日が浅いからな。。出来るならしたいさ。」
彩菜「じゃあ、婚約よ。いいわね!」
亮太「は?」
彩菜「もしもし、事情は後で話すから。あのね、今から婚約者を連れていくからね。。。えっ?じゃないの!一大事なのよ!。。とりあえず、後でね。」
彩菜「もしもし、おばあちゃん。美雪帰ってきたよね。。いるよね?。。誤解してるから説明する。すくに行くから見張っててね。頼んだよ。」
彩菜「はあ。。ちょっと亮太。大至急雄太さん呼んで。美雪の家に行くわ。すぐよ。」
亮太「わ、分かった。もしもし。兄貴、大至急正門に来てくれ。」
状況を全く知るはずもない雄太がやってきた。
雄太「ああ、彩菜さん。相変わらず仲いいね。で用事は?」
彩菜「急ぐわよ。」
雄太「ちょっと。どこ行くんだ?」
彩菜「いいから黙ってついてきなさい!」
3人は電車に乗り、美雪の家に着いた。
雄太「温泉?。。温泉に急いで来ないといけなかったの?」
亮太「温泉?なんで?」
彩菜「あのね、美雪はこの温泉の経営者よ。私は役員。もー。。何とかしないと大変なのよ。」
雄太、亮太「そうなの!すごいな!」
彩菜「さすがというか。。。完全に同調したわね。」
佳代「あら?彩菜さん。どうしたの。ずいぶん焦ってるわね。。」
彩菜「ああ、婚約者の亮太さん。」
佳代「えーっ!ずいぶんいきなりね。あら、2人とも、いい男じゃないの。」
彩菜「さっき決めたから。それより美雪よ。入るね。」
長老「おお、彩菜。慌てて。。どうしたんじゃ。」
彩菜は長老に事情を話す。
長老「全く。。困ったやつだな。畑にいな。連れていくよ。」
程なくして美雪が来た。
美雪「えっ。雄太さんが2人。彩菜。妖力使ったの?どうやったの。」
彩菜「何をバカなこと言ってるのよ!全く。。話は聞かないし。。約束破って妖力使うし。。本当にもう!私の彼、いや。あなたのせいで婚約したわよ。婚約者の亮太さん。そして、こちらがあなたの愛してる雄太さん!全く。何やってるのよ!」
美雪「えっ!。」
美雪はポロポロ涙を流す。
彩菜「雄太さん。誤解解いて恋人になりなさい。しっかりしなかったら許さないからね。もう結婚するしかないからね。」
雄太「えっ!よく分からないな。。」
彩菜「それは後で伝える。まずは、2人で話しなさい。」
雄太は川のほとりに座り、美雪に気持ちを伝える。
美雪「私、出会った時からずっと好きだった。初恋だった。。けど、彩菜を選んだなら仕方ないって。。双子なんて知らなかった。。自分の気持ちを消さなくていいんだ。。良かった。」
美雪は雄太に頭をくっつけると雄太は優しく抱きしめる。
雄太「柔道ばかりで、彼女もいなかったから。。勇気がなくて。ごめん。僕も好きだったんだ。彩菜さんは、亮太を僕と勘違いして、美雪さんを勧めたらしい。それがきっかけで恋人になったみたい。」
亮太「兄貴やるな。」
彩菜「はあ。。もう大丈夫ね。でもまだまだ難関があるわ。」
大輝「へー。いい男じゃないか。」
佳代「あら、戻ったの。美雪があんなに夢中になるんだからね。」
大輝「長老がすぐ戻れって。」
すっかり落ち着きを取り戻した美雪は家に入ると両家が集まる。
彩菜「こうなった以上は、亮太さんも雄太さんも結婚するしかない!」
雄太「えっ!今日付き合い始めたばかり。。でも結婚するなら理想の女性だとは思ってる。美雪さんの気持ちがな。」
彩菜「事情があって、今決める必要があるの。私達はその事情があるから安易に男と付き合わない。ガードは固いの。」
亮太「僕はお許し頂けるなら、彩菜さんと結婚するつもりです。」
彩菜の父「2人が決めるなら反対はしない。反対しないといけない相手でも無さそうだしな。」
彩菜の母「まあ。。確かに結婚しないと話せないわね。話したら。。」
長老「そうじゃな。。」
亮太「あの〜。さっき妖力とか。。美雪さん消えたけど。。瞬間移動ってこと?」
雄太「えっ!」
大輝「美雪。何てことをしたんだ。。全く。」
佳代「まあまあ。それくらい好きだったのよ。」
彩菜「じゃあ、今から話すわよ。いい?聞いたら最後だからね。やめるなら今。」
雄太「美雪さんを幸せにしたい。だからやめません。」
亮太「僕もやめません。」
彩菜や大輝に佳代は美雪の産まれた時から今までを話す。美雪が妖怪の血を受け継いでいること、辛い過去も伝わった。
長老「かわいいひ孫とその友人だ。悲しい思いさせたら、お前ら封印するからな。」
亮太「それはたぶん心配ないですよ。なあ。兄さん。」
雄太「はい。私、工学部で学んではいますが、興味あるのは柔道と。。実は妖怪なんですよ。ずっと研究してたんです。いや〜。夢みたいだ。いると思ってたんだよ。何年か前に双眼鏡で空飛んでるの見たから。あの時に確信したんだ。小さい頃から研究してたんだ。妖怪は憧れなんです。」
彩菜「うわー。まあまあ変な趣味ね。逆に大丈夫かな?ああ。ちなみに、その空を飛んでたの私達よ。」
雄太「そういうことか!おばあさま。つまりホンモノの妖怪ってことですよね。いや〜。すごい!握手して下さい。」
長老「いや〜。そうか?まさか、妖怪でモテるとは思ってなかったわい。。」
彩菜の母「ちょっと、おばあちゃん。主役じゃないでしょう!」
雄太「ねえ。あのー。妖力って?瞬間移動だけ?空も飛べるの?」
もはや、妖力に興味津々の雄太。
長老「ん?ほら、氷じゃ。火も出せる。彩菜は身体を治す妖力しか持ってない。だがその能力は圧倒的だ。全ての妖力が最強なのは美雪じゃ。全ての妖力を操る妖怪界で今まで最高の天才じゃ。見せてみろ。」
美雪は10円玉を取り出すと、中に浮かせて瞬間移動する。
美雪「なんか手品みたいで、つまらないわね。全員30センチ浮かすね。」
雄太「うわー。すごいすごい!」
大輝「このことは私達とお隣の弁護士さんと医師しか知らない。あなた達の親にも話せない。守れるか?」
佳代「結果的には養子になるということになるのよ。」
亮太「僕らは、もう兄がいるだけだから、全く問題ないし、別に継ぐものないから大丈夫ですよ。むしろ嬉しいです。早く両親を亡くしたので。」
美雪「えっ。どういうこと?」
雄太「久しぶりにちょっと思い出したけど。。いや、記憶にはないんだ。両親は小さい頃に死んだ。。何と言うか。。美雪さんのお母さん達と同じだ。両親が買い物に行って。。」
大輝「えっ!あそこにいたのか。。」
佳代「それは。。辛いわね。」
亮太「3人兄弟は祖母に育てられたんです。高校の時に祖母が亡くなり。。兄が面倒みてくれました。大学は奨学金で通っているんです。」
亮太「しかし。。あの火災から助かった人がいるなんて初めて聞きました。」
大輝「そうだな。。思い出したくもない悲惨な状況だったし、命を懸けて娘の美雪を守ったお母さん。妖怪だということを隠す必要があったから、事情を知る弁護士さんと医師だけに相談した。目立つことは出来なかった。」
美雪「ねえ、奨学金なんて温泉で働きながら、さっさと返済するほうがいいわね。力あるから畑も手伝う?私は建て替えれるけど。。雄太さんがいいと言わないでしょうから。。自分で稼ぐ場は提供出来るわ。」
彩菜「あとね、勉強なら。。私のお父さんは京都大学の工学部首席で卒業したから、かなりのものだからね。」
彩菜の父「いや〜。昔のことだしな。それに美雪さんは東京大学の入試で一番だからな。大学入学前から卒業出来る知識あったし。。」
雄太「東京大学の工学部を蹴って大学に入ったんですか!」
美雪「私は農業学んで畑で生計立てたかったの。東京大学は高校が合格実績欲しいからって受けただけ。あのね。彩菜は京都大学の経済学部に合格してるからね。」
雄太「いや〜。すごい。一流大学合格もすごいけど。。そこまで農業を極める決意はすごい。決めました。美雪さんが気が変わると困るから、私なんかで良ければ、すぐに結婚します。」
亮太「だったら僕も。。しかし、何故温泉?」
彩菜の父「ああ、地下探査装置を作って、試運転してたら偶然発見してな。。そういえば、あの装置。使ってないな。」
美雪「あれ、お父さんが楽しそうだったから作っただけだから。。けど、あの応用で先生の胃カメラが作れた。」
亮太「胃カメラ?」
彩菜の父「通過するから、胃カメラじゃない。どこからでも身体の中が見れるんだ。苦しくもないし、すごいところも見れる。私達だけは定期的に隅々まで調べてもらうんだ。ただ、私達以外には使いにくいんだ。」
雄太「何故?」
彩菜の父「今の世の中が実現出来ていない理論を使っている。バレたら美雪の命が狙われる。それは美雪が小さい頃から両親や先生が危惧してたことなんだ。私達でさえ、高校でとある問題が起きるまで聞かされていなかった。」
大輝「いや〜。しかし。。妖怪が憧れとか。。こんな特殊条件もいい人なんてなかなかいないし、いい男だ。文句はない。けど、結婚は今じゃないな。。雄太さん。憧れだけではダメだ。男は女を幸せにしないといけない。今結婚するのは得策じゃない。自分をもっと磨きなさい。」
彩菜の父「確かに。それは正しい。今のままではマスオさんだ。しかし、彩菜いいセンスしてるな。」
彩菜「きっかけは、雄太さんが美雪を助けて、美雪が惚れたからよ。見てたら分かるのに全く行動しないし。。悔しかったけど、仕方ないから、私は遠慮して応援しようとした。話しかけたら、亮太さんが弟だと分かって好きになったの。」
彩菜の母「予想以上に温泉が繁盛してきたから、人間の信頼出来る人は大歓迎よ。」
最大の難関と思われた問題は難なくクリアーされたようだ。