「第11話」美雪
大惨事から一夜明けた。
大輝は経営者として成功し、かなり裕福だったが子供に恵まれず、おかしな方向に進んでしまった。
大輝「佳代。美雪を与えられて、考えると。。僕達はおかしくなってたことが分かるな。従業員の生活も放棄しようとしていたんだな。。今は、僕達の子息を残す以上に美雪を育てるほうが価値を感じるし、重大な責任がある。命をなげうってでも僕らを助けてくれた偉大な雪さんと純一さんの大切な子だからな。」
佳代「そうね。あんなに素晴らしい人格と覚悟。私には絶対に真似出来ない。確かに、私達の子供より大切にしないといけない気持ちは同じよ。」
大輝「しかし、雪さんはものすごい美人だったな。その子供となると。。怖いな。」
佳代「あんなに綺麗な人は見たことないわ。もちろん心も。美雪は、すごい女になるのでしょうね。あなた。オムツの替え方教えるわ。」
大輝「おお、どうやるんだ。」
2人でオムツを替える。生きていることを実感した。子供を育てる実感も湧いた。
こんなことは1日前には想像すら出来なかったことだった。
大輝「なあ佳代。会社は1週間休むから、純一さんの知り合いのところに行こうと思うんだが。」
佳代「そうね。養子の手続きもしないといけないし。行きましょう。」
大輝「住所調べると、ずいぶん山奥だな。。1時間以上かかりそうだな。」
大輝は、雪のスマホの電話番号を見て、弁護士に電話して事情を説明すると明日の午前11時に純一の家に行くことになった。
大輝「佳代、明日11時に会うことになった。美雪が生きていることを聞いて、すごく驚いてたよ。純一さんが亡くなったのはニュースで見たから、全員死んだと思ってたらしい。弁護士さん。泣いてたよ。」
佳代「雪さんが亡くなったことは伝えたの?」
大輝「聞かれたから。。はい。と答えた。印鑑とか持っていかないと。あと、着替えも。。そういえばオムツ買わないといけないな。だけど大型スーパーは二度と行きたくないな。」
佳代「そうね。火を扱う店は金輪際ごめんだわ。あんなものは2度と見たくない。赤ちゃん用品専門店に行きましょう。」
2人で赤ちゃん用品専門店で美雪を連れて服を選ぶ。数日前には想像出来なかった自分たちの今。2人の目から自然に涙が溢れ落ちる。
大輝「なあ佳代。。こんな幸せ。。いいのかな。」
佳代「雪さんが望んだこと。素直に感謝して前だけ向いて生きていきましょう。私達は責任を果たさないといけない。」
帰宅すると、大輝は美雪をお風呂に入れる。
美雪はすっかりニコニコだ。きれいに洗うと、ヨチヨチと佳代のところに行き、抱きついた。
佳代「美雪。風邪ひいちゃうから服着ようね。」
大輝「お母さんいなくても不安がらないね。」
佳代「不安にならないように、いっぱい。いっぱい。愛情注ぎましょう。」
大輝「ベッドは危ないから、床に布団敷いて3人で寝ようか。」
佳代「そうね。それなら和室を使いましょう。美雪は押しつぶしたりしたらいけないから、少し離しましょう。」
※※※
翌日、3人は美雪の家に向かい、母子手帳の住所に到着した。想像以上の田舎だが悪くない場所だと大輝は思った。
弁護士「ああ。来たか。今開けるよ。」
大輝「鍵あるんですか?」
医師「遠くからわざわざありがとう。私達はな。都会のリタイア組みで意気投合してな。お互いの鍵は持ってるよ。運命共同体ってやつだ。3人とも使い切れないくらいお金はあるからな。欲はないんだよ。ここは私達の理想郷なんだよ。」
美雪の家に入ると、居間で事故の状況を話す。
医師「純一は最後まで雪を守ったんだな。しかし、雪さんが妖怪とは聞いていたが、氷を出せるのは初めて聞いたよ。まあ、目立つとロクなことはないから、正解かもしれないな。」
弁護士「養子の手続きは私がするよ。費用は要らない。」
大輝「あの。。私達もお金には不自由しておりませんので、この家はお二人が。。」
弁護士「相続権は美雪にある。生きていることが分かった以上は美雪に相続させよう。大切な思い出の場所だ。出来ればこのまま残したい。我々で定期的に掃除したり、水道の水流したり、手入れはしておくよ。出来たら時々、美雪を見せに来てほしいな。」
佳代「こちらは冬は難しいでしょうから、春にまた来ますし、必要な時は呼んで頂けたら来ます。これからもお付き合いして頂けたらありがたいです。」
医師「是非、お願いしたい。ただの挨拶の言葉じゃないことを願うよ。」
大輝「もちろんです。私は、あんなに人に優しい方を見たことがない。雪さんがどのような方か、もっと知りたい。私達は、やがて美雪に伝えないといけません。雪さんは人間の世界は7年だけだったと言ってた。その7年の出来事を知りたいんです。」
弁護士「どうやら美雪は理想的の方にもらわれたみたいだな。これも雪さんの人柄なんだろうな。」
医師「まあ人じゃないらしいけどな。」
佳代「あの。ここに来る前の雪さんは。。」
弁護士「んー。それが。。知らないんだよ。多分言えないことなんだろうな。」
医師「あの山をよく見てたんだ。だから、多分。。あの山のどこかに住んでいたんだろうな。。そこは探ってはいけないんだと思ったよ。」
弁護士「あの人は優しい方だ。知ることは命の危険があるということだと思う。」
佳代「そうですか。。」
弁護士「純一が言ってた。雪さんの両親は早く亡くなって、雪さんも親のことは良く知らないらしい。教えてもらってないそうだ。あの方は、初めて純一に幸せを与えられたんだ。会う前はかなり辛い思いをしたようだ。」
大輝「あのー。医師なんですよね。遺伝子調べたら何か分かるのでは?」
医師「それは自分で調べられない。専門機関に依頼しなければならない。利権の渦巻く世界だ。もし国が知ったらヤバいことになるかも知れない。美雪に危険が及ぶ可能性があるんだ。いいか、美雪だけは安易に医者に連れて行ってはいけない。病気の時は私に見せにきなさい。インフルエンザの検査とかは大丈夫だ。血液検査とかは絶対に避けなさい。保育園に入る前にアレルギーの検査は私がするよ。」
佳代「血液型はAB型なのね。。」
医者「たぶんだが、妖怪はAA型みたいだ。お婆様と同じと言ってた。だから変な血液型ではない。人間と変わらない。」
純一と雪の話をいっぱいして3日滞在し、大輝達は帰って行った。
弁護士「本当に良い人にもらわれたな。」
医者「しかし、咄嗟の判断力を聞くと、雪さんの頭の良さは恐らく相当のものだな。人間と歳をとるスピードが同じだったら。。」
弁護士「医師としても未知な部分もあるんだろ。まずは、美雪は私達が死ぬまでは注意深く見守ろう。それが我々の出来る2人への恩返しだ。」
医師「そうだな。。我々より若いのにな。。やり切れない気持ちだよ。」
弁護士「なあ、たまには飲むか。純一の残したウイスキー。捨てるくらいならさ。」
医師「へー。。あいつ。洒落たもの飲むなー。ビール以外なんて久しぶりだな。純一。頂くよ。気に入らない時は化けて出ろ。」
しみじみとウイスキーを味わい。純一と雪の死を自身に納得させる2人だった。