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妖女 美雪  作者: ぴい
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「第10話」永遠

 家族でフードコーナーに入って行った。休日のため多くの人がいる。

 純一と雪は何を食べようか相談していた。



 突然、激しい爆発が起こると炎が上がった。


 あっという間にフードコーナーを炎が覆う。人々が火に包まれ、目を覆いたくなる悲惨な状況だった。

 幸か不幸か、雪達のいる場所は上部に通気口があるため、空気の流れがそこでせき止められ、川のよどみのようになっているようで、かろうじて生き延びている。


 出入口2箇所が両方とも炎で塞がれている。出入口はガス管から炎が激しく出続け遮られている。もはや、自分達のいる場所も時間の問題のようだった。


純一「あの中央の非常口に行けたら、何とかなるんだが。。もう無理だな。」


 純一達の家族と偶然居合わせた似たような年齢の夫婦2人だけが、かろうじて生き延びている。最初の爆風でかなりの人が命を落としたと思われ、今はもはや、自分達以外に生きているものはいないようだ。



突然、純一が「雪!しゃがめ!」と大声で叫びながら大きなテーブルを立ててガードすると大きな音の後で、激しい爆風が熱風となり襲い、純一が吹き飛ぶ。


雪「純一!」



 雪は純一がもう助からないと悟った。純一に近づく。


雪「純一。。」



純一「ごめんな。。。あれが僕の。。精一杯。。最後まで。。雪のために。。頑張れた。。。後悔ない。。美雪を頼む。。。別れじゃないんだろ。。。ずっと愛すから待ってる。」



 純一は息を引き取った。雪は純一ありがとう。と心の中で呟いた。



 絶望的な状況だった。雪はいろいろ考えたが、どう考えても残りの4人が助かる方法はなかった。

 それに自分と美雪が助かったとしても純一がいない状態で、人間社会で美雪を育てるのは無理なことも分かっていた。雪は死を覚悟した。



 雪は茫然としている見知らぬ夫婦に声をかける。


雪「あなた達。大丈夫?」


男「もういいんだ。。」

女「このまま死んだほうがいいのよ。今日死ぬつもりだったから。」



 雪に怒りがこみ上げる。


雪「私は雪。あなた達は?」


男「大輝だ。」

女「佳代。」


雪「大輝、佳代。何故?」


大輝「何年も子供が出来なくて、不妊治療も。。」

佳代「昨日でやめた。もう疲れたの。。だから。」


雪「あなた達は愛し合ってないの?」


佳代「愛してるわよ!だから、彼の赤ちゃん作ろうと何年も頑張ったわ!もうボロボロなの。疲れた。大輝が一緒に死のうって。。」

大輝「子供のいる、あなたには滑稽に見えるかも知れない。けど、愛してるからこそ、考えた末なんだ。。。」



 雪の心は決まった。


雪「ありがとう。勉強になったわ。それも愛の形なのね。。あのね。信じなくていい。私は妖怪なの。純一は人間。だから、赤ちゃん無理って言われた。。でも美雪がいる。自然に任せるのよ。人間の医療は確かにすごい。だけど自然のほうが偉大よ。あなた達を私が助けるわ。その代わり美雪をあなた達の子供として育てて。美雪を幸せにすると誓うなら、私はあなた達を助けるわ。」


大輝「えっ?」

佳代「何故?」


雪「あのね。妖怪は人間より10倍歳をとるのが遅いの。私200歳。でも、美雪は純一の血筋みたいで人間の成長と同じなの。私は人間の世界に来てたったの7年。7歳の子供みたいなものなの。私が生き延びても純一無しで、人間の世界で美雪を育てるのは無理なのはバカな私でも分かるわ。この場は私と美雪だけなら助かるわ。でも美雪の人生が助かるにはあなた達しかいない。だから美雪をあなた達に託します。」



 夫婦に再び生きる気力が宿った。


大輝「分かった。必ず幸せにする。命を懸けても美雪は守る。」

佳代「約束するわ。雪さん。私達より辛い思いしてきたのね。なのに。こんなに優しい。。」


雪「美雪は念の為、妖力を封印してある。けど、生理が始まり身体が大人に変化する頃に封印が壊れてしまう。美雪に妖力が使えるかは、大きくならないと分からない。全く普通の健康な赤ちゃんよ。あと、これ。」


 雪はお婆様から渡された秘伝書を佳代に手渡す。


佳代「これは?」


雪「お婆様がくれた。妖術の秘伝が書かれているけど、私には力が足りないし、内容が分からなかった。いつか役に立つかも知れないから、もし美雪に話す時が来たら渡して下さい。多分人間には無理だけど、もし悪用されたらとんでもないことになる。この書はあなた達だけの秘密でお願い。」


大輝「大人になる時に渡すんだな。分かった約束する。」


雪「母子手帳とか保険証とかいろいろ入ってる。あと私のスマホ。写真入ってるからいつか見せてあげて。電話番号は弁護士と医師しか入ってないけど、この2人だけ真実を知っているから、困ったら相談して。」


佳代「ねえ、母親の欄が。。」


雪「私は存在ごと消えたほうがいいわ。妖怪には戸籍ないからね。人間の世界ではいないことになっているの。私は純一と永遠に愛し合える。だから平気よ。美雪は形式上、捨て子を純一が拾ったことになってるわ。だから、私の話は弁護士と医師以外に一切話さないで。私は存在ごと消えるほうがいい。でもいいの。2人の仲間とあなた達の心に私は残る。。それだけでいい。すごく幸せな人生だった。でも、あなた達はまだ幸せはこれから。さあ立って!美雪を守ってね。そうだ!中に入ったら、この塩を氷に振りまいて。温度が下がるはず。」



 佳代が美雪を服の中に隠し、守るように抱きかかえると、雪は2人を分厚い透き通った氷のシールドで覆う。


雪「出口まで氷を押して。早く!時間がない。」


 大輝が氷のシールドを押しながら進む。溶けるため滑りが良く、意外と重くない。佳代が時々塩を振りまく。後ろから妖力の全てを使い氷を供給して妖力を使い切る頃には、雪は炎に包まれ倒れた。


 最後の雪の姿を佳代は見届ける。


佳代「雪さん。ありがとう。。あなた。絶対に美雪は守るわよ!もう一度やり直しましょう。」


大輝「もちろんだ。」


 佳代も美雪を抱きかかえたまま、懸命に身体を使って氷を押す。

 あとわずかで出口というところで背後の氷が溶け、熱風が入ってくる。


大輝「まずい。。佳代、僕の前に。。いいか全力で飛び出すぞ!」


 全速力で出口に向かい、非常口から階段を降りる。



 建物から脱出して数分も経つと、鉄筋が融点に達し、建物は一気に崩れ落ちた。



 炎が激しくなってから、2階から脱出出来たのは3人だけだった。大輝は足に軽い火傷を負ったが、生きて脱出出来ることが奇跡という状況だった。



 病院で治療して、メディカルチェックを受けるが大輝の火傷以外は3人とも問題なしと診断され、その日のうちに帰宅した。



 警察に現場状況を聞かれたが、気づいたら火の海で、何も分からないと伝え、調査には一切協力しなかった。

 大輝には原因など、どうでも良かった。それが分かったところで、亡くなった人達は戻ってこない。次の対策になる教訓が得られるとも思わなかった。

 それよりも、美雪のことが公になることを避けたかったのだ。とにかく、この事故で目立つことはどうしても避けたかった。


 

 後に、調理の炎が漏れたガスに引火し大惨事になったようであることをわずかに残された防犯カメラの記録で分かった。ガス漏れもガス管から炎が上がったのも、手抜き工事と点検を怠ったことが原因だったことは後々証拠が見つかった。


 死者の確認は困難を極めた。あまりの高温で何もかも燃え、残っている遺留品が無かった。純一だけは、大輝達の証言と残された車により死亡の判断がされた。雪の存在は無かったかのように消えたのが悔しかったが、これは本人も望んでいたことと納得するしかなかった。


大輝「あの中で一番生きる気力が無かった僕達だけか。。やりきれないな。」


佳代「でも、雪さんが、生きる気力を与えてくれた。私達は脱出する時は一番生きる気力があったと思う。あなた。美雪のためにも命は大切にしましょう。命懸けは最後の手段だからね。残りの人生は美雪の幸せのために使いましょう。」


大輝「そうだな。。雪さんと出会えた思い出だけ残して、あの悪夢は忘れよう。難しいことだろうがな。」



 歴史に残る大惨事から生還した3人は幸せになるために力強く生きていくのだった。


最初に記載した通り、次話からは、投稿ペースが落ちます。あらかじめ予定していたのは週1回でしたが、週2回投稿とすることに致しました。

よろしくお願い致します。

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